第17回　知的障がいのある人と認知症

最近、知的障がいのある人の認知症に関する論文を読む機会がありました。そこにはダウン症候群のある人のアルツハイマー型認知症について記されていました。確かに、ダウン症候群のある人はアルツハイマー型認知症が発症するリスクが高いことを、学生の頃、教科書で読んだ記憶があります。しかし認知症疾患医療センターで仕事をしていても、知的障がいやダウン症候群のある人の認知症について相談を受ける機会はわずかに過ぎません。自治体や地域の人たちとの話し合いの場にも、取り上げられる機会がほとんどありません。このことは、知的障がい、ダウン症候群のある人に認知症が生じたとき、センターに相談するまでもなく必要な支援にアクセスしやすい状況があると解釈して良いのでしょうか。あるいは何らかの理由で、認知症が生じたとしても気づかれにくいために、相談や支援にアクセスしづらい状況があると解釈したほうが良いのでしょうか。

アルツハイマー型認知症の発症は、記憶障害による発言や行動の変化によって気づき、気づかれます。しかしEvenhuisは、ダウン症候群のある人に認知症が生じても、元来の知的障がいのために記憶障害が察知されにくいと指摘しています。そしてダウン症候群のある人の認知症は、引きこもり、活動量の低下、傾眠、歩行障害やてんかん発作で気づかれることが多いと指摘しています。こうした点を考えてみると、ダウン症候群のある人、知的障がいのある人に認知症が生じても、気づかれにくい可能性がありそうです。

Hollandによればダウン症候群のある人は50代でおよそ4割、60代でおよそ7割の頻度で認知症を発症するようです。またMcCarronによれば、ダウン症候群のある人の9割以上がアルツハイマー型認知症を発症するリスクがあり、Hithersayによればダウン症候群のある人の死因の第一位はアルツハイマー型認知症とされています。こうした事実を知ると、やはりダウン症候群のある人への支援を考える上で、アルツハイマー型認知症は見過ごせない存在と言えるのではないでしょうか。

知的障がいやダウン症候群のある人には、認知症が生じる頻度が多い一方、認知症による変化が生じていても、周囲にいる人、支援する人は察知しづらく、認知症が生じている可能性を念頭に置きづらいかもしれません。その結果、回復可能性のある疾患を除外するための診察や検査などを行う医療にアクセスしづらいかもしれません。また認知症が生じていても、気づかれないままでは、介護保険制度、認知症のある人のケアを習熟した支援者にアクセスしづらい状況があるかもしれません。知的障がいのある人への支援と、認知症のある人への支援にはいくつかの違いがあると思います。知的障がいのある人が認知症になっても安心して暮らすことのできる仕組みを考えることは、とても重要なことのように思うのですが、認知症施策推進大綱には特に記載されていません。

木下は知的障がいのある人に認知症が生じた場合のケアの動向と課題について、国内外の文献をレビューし、この領域の調査研究が十分とは言えないこと、ケアの方法、制度などにおける課題の整理が十分とは言えないことを指摘しています。知的障がいのある人も含めて、誰もが認知症になっても安心して暮らすことのできる街づくりのための研究、施策が前進することを願ってやみません。