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農医連携教育研究センター 研究ブランディング事業

2号

情報:農と環境と医療 2号

2005/6/1
農学系学部改組?改革の推進:「平成17年度北里学園事業計画並びに収支予算」から
北里学園報 第393号(平成17年4月20日)の「平成17年度北里学園事業計画並びに収支予算」の事業計画に、農学系学部改組の概略が報告されている。その部分を原文に準じて以下に掲載する。

農学系学部改組?改革の推進
  1. 計画の具体的内容
    これまでの経過:本学では農学系学部の再編について長らく検討を重ねてきた。これには学園将来計画委員会(1990年)を始め、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@近未来企画委員会(1998年)、獣医?資源環境系学部改革懇談会(2000年)、学部改革農学系委員会(2003年)などが関わり、時々の委員会から、社会的背景や大学を取り巻く状況を踏まえた建設的な提言や報告がなされてきた。

    獣医畜産学部からの2学部構想提案と、水産学部の改組に関わる前期答申を受けて、2004年7月、生命科学系大学としての特色を生かし、「農医連携」をモットーとする農学系新学部、すなわち獣医畜産学部?水産学部の再編を通じた一学部二キャンパス形態による新たな農学系学部構想を策定する、生物応用生命科学部(仮称)設立検討委員会(神谷久男委員長)が発足した。

    生命農学部構想答申:委員会は、検討結果をとりまとめ、1)農学系生命科学の領域から"食料?先端医療?環境?エネルギー"などの課題解決を図るため、これまで培ってきた獣医畜産学と水産学の教育?研究を基盤とし、微生物資源科学分野を新たに加えた生命農学部(又は農学生命科学部)(仮称)を開設する、2)農医連携のモットーのもとに、「食料資源の確保」「環境の保全」「生命倫理観の涵養」「人と動物の健康?福祉の増進」に寄与することを教育理念とする、6学科からなる新学部構想を12月に答申した。

    この答申は、農医連携の基本的考え方や、生命農学の人材育成に必要な共通授業科目を提案するなど、注目すべき成果をあげつつも、他方で一学部二キャンパス制による学部運営の困難性を、実行上の解決すべき課題であると指摘した。またこれに対しては、獣医畜産学部?水産学部、所轄庁、学外の学識経験者から懸念する意見が出された。

    最適と考えられる農学系新2学部の設立に向けて:これら学内外の意見を熟慮した上で、農学系学部再編の必要性を満たし、運営上の支障を払拭し経営上も成立しうる新学部設立計画の策定を前進させるために、「農学系新学部設立準備委員会」(委員長?柴忠義学長、2005年2月設置)を新たに組織し、次の方針のもとに鋭意具体化を進めている。
    1)十和田?相模原それぞれのキャンパスに各々学部を構成する。
    2)農医連携の具体化に努める。
    3)各キャンパスの学部?学科名、学科構成等は、答申書を踏まえつつ、改めて学部長会に提案する。
    4)「2006年4月以降」とした開設時期については諸条件を勘案する。
    5)計画を前進させるために、経営も含めて「実現できる条件」を検討し、提案する。
     
  2. 計画年度:2007年度(予定)
  3. 推進体制:農学系新学部設立準備委員会、農学系新学部開設準備室(設置予定)、学長室
  4. 今後のスケジュール:農学系新学部設立準備委員会で策定する。
第1回十和田新学部開設準備室会議が開催された
上記の農学系学部改組?改革の推進にしたがって、第1回の十和田新学部開設準備室会議が開催された。目的や出席者などは以下の通りである。

目 的:農学系新学部設立準備委員会から報告された平成19年4月開設を目途とする「十和田新学部構想の概要」(平成17年3月18日)に基づき、開設準備室は十和田新学部設置計画を具体化し、新学部開設業務を推進することを目的とする。

日 時:平成17年5月16日(月)午前10時~午後3時35分
場 所:北里本館役員会議室(白金)
出 席 者:伊藤伸彦、天間恭介、甫立孝一、田中勝千、井上松久、陽 捷行、古矢鉄矢

学長挨拶:大学を取り巻く環境と、大学に対する社会の見方が厳しさを増している。そのような中での新学部設立である。ここでは、動物の科学を中心に農医連携を目指した教育を目標とする、付加価値の高い十全の大学教育を行う学部を形成することにある。そのためには教育体制と教育課程を刷新し、各学科が連携協力して人材育成にあたり、理念の実現に努めて欲しい。「新学部」にはそうした意味が込められている。

議 題:
  1. 十和田新学部構想の概要について
  2. 生命農学部構想答申における獣医畜産学部の現状と課題及び十和田4学科構想について
  3. 学部等の設置申請手続きについて
  4. 十和田新学部開設スケジュール(案)について

第 2 回:6月1日(火)、獣医畜産学部会議室(予定)
農?環?医にかかわる国際情報:2.地球圏-生物圏国際協同研究計画(IGBP)-地球環境変動と人間の健康-
International Geosphere-Biosphere Program((IGBP))は、国際科学会議(International Council for Science)が、1986年に実施を決定し、1990年から開始した複合?学際的な国際協同研究である。この研究は、全地球システムを解明し、百年後の地球を予測するという壮大な研究目的を持つ。大気圏、水圏、地圏及び生物圏に関係する科学者が、分野と国境をまたがってネットワークを作り、地球規模のスケールで協同して研究に取り組んでいるものである。なおIGBPについての詳細は大島康行?吉野正敏の「IGBPについて」、地球環境、Vol 1、No.1を参照されたい。

このIGBPの組織のなかに、ESSP(Earth System Science Partnership:地球システム科学パートナーシップ)がある。ESSPの活動の一つに共同プロジェクトがある。そのプロジェクトの一つに、GECAHH(Global Environmental Change and Human Health)「地球環境変動と人間の健康」がある。それを以下に紹介する。なお訳については不明確な箇所もあるので、詳しくは原文を参照されたい。

グローバルな環境変化と人間の健康
使命:
 人類の活動は、ますます生態系の構造と機能に影響を及ぼしている。言い換えれば、これらの変動は、病原菌、病原菌媒介生物、貯水池、人間集団などの伝染病サイクルにかかわる全体の連鎖要因に影響を及ぼしうる。その結果、見かけ上は関係ないと思われる人間の活動は、伝染性であろうがなかろうが、人間の病気に重大な影響をもたらしうる。

 科学者集団は、地球規模の変動(気候変動、土地?海洋利用変動、生物多様性の消失と変動、地球的規模の社会経済的な変動)と人間の健康の間にある多様で複雑な連鎖を、よく理解しなければならない点については認識している。しかし、この話題がきわめて重要であるという視点からの体系的な研究は、まだ試みられていない。また、国際的な研究共同体を構築しようとする持続的な試みもなかった。

地球システム科学パートナーシップ(ESSP)の対応
 地球環境変動(GEC)にかかわる科学者たちの広いネットワークがあるので、この使命を取り上げるのに、ESSPはよい立場にある。次の二つの重要な、そしてきわめて密接な目標が定められている。一つは、地球規模の環境変動が引き起こす健康へのリスクを確認し、その影響を少なくすること。他は、それらの影響をいかに最小限に、あるいは回避するかについて政策的な議論をよりよく伝えるために、健康リスクの証拠を体系的に収集することである。もっと明確に言えば、ESSPの共同プロジェクトは、次のようなものである。
  •  地球環境変動による過去?現在?未来の健康影響を評価し、地球環境変動と健康との関係とメカニズムを調査する。この研究の成果は、健康への初期の警告システムのような適応(影響源)測定法として使われるであろう。
  •  削減(危険の減少または排除)を促進し、地域住民が適応できる能力を増加させるため、上記の研究結果を戦略と政策の発展に向けて適用する。
  •  経済発展および地球環境変動と人類の健康の間のトレードオフをより良く理解するため必要なデータを満足させる統合的な方法を作成し、新しいモデリング手法を開発する。

連絡
Prof. Ulisses Confalonieri, National School of Public Health, Brazil
Prof. Tony McMichael, Australian National University, Australia
Co-Chairs, Global Change and Human Health Scientific Committee
農?環?医にかかわる国内情報:2.千葉大学環境健康フィールドセンター(2)
環境健康フィールド科学センターの概略は、「情報:農業と環境と医療 1号」に紹介した。環境と人間との関係を東洋医学の観点と共生の概念から見直して、「総合性の重視」、「cure(治療)よりcare(支援?介護)」、「心身一如」の思想にもとづいて、平成15年4月に千葉大学に開設されたセンターである。

今回は具体的な内容について紹介する。なおこれは、千葉大学の古在豊樹教授(前:環境健康フィールドセンター長、現:千葉大学学長)の講演された資料を整理し、新たに作成しなおしたものである。記して感謝の意を表する。

現代都市におけるストレスの諸側面

現代都市には?少子高齢化、競争原理強化、社会規範崩壊、廃棄物の増大、自然喪失、資源枯渇、医療費上昇、ふれあい喪失、犯罪増加、環境汚染、食の不安、生きがい喪失などさまざまな側面が顕在する。

21世紀は

21世紀には、物質的、経済的側面だけではなく、真の意味での豊かさが求められている。21世紀は、「環境の世紀」であり、「心の時代」である。環境と心を大切にする社会は、先端的技術の発展だけでは実現しない。

現代都市に地方?田舎の良さと東洋の伝統文化技術を取り入れて、新しいタイプの環境健康都市に変えよう。

人間は自然の一部である。そのためには、環境健康都市の創設が必要である。1)東洋の思想と知恵で、2)地方?田舎?里山?自然?みどり?ゆとり?園芸生産?農業?祭り?伝統?共同体?共生?食料生産などの要素を導入し、3)産業、行政、科学を活用して環境健康都市を創る。

問題解決のキーワード

環境、健康、共生、生きがい創出、心身一如、機能性植物。心身一如とは、心と身体の同時ケアである。例えば、機能性植物、健康植物(薬用植物、野菜、果物、ハーブ)および環境植物(景観植物、花、環境浄化植物)がある。

環境健康フィールド科学センターの理念
  1. 高齢者?子供?弱者?次世代が健康になる環境の創造
  2. 心身一如の健康、福祉、介護、教育、生産を実現する共生社会の創造
  3. 自然の治癒力?生命力を活かした健康、物質循環、省資源、環境保全、文化創造、 生物生産ならびにそれらを体験する喜びの実現
  4. 地域?産業交流にもとづく実践的研究教育および人材養成

組織?場所?施設の概要

組織:教員70人(専任15人)、技官10人、他8人(兼務教員55人:医学部、附属病院、薬学部、教育学部、看護学部、園芸学部、工学部、自然科学研究科)、法経学部、理学部、文学部
場所:柏の葉地区 (17 ha)柏の葉キャンパス駅前
柏の葉地区施設;研究棟、管理棟、診療所、ケアセンター、温室、各種研究施設、生産物即売所、園芸作業所など

センターの研究課題
  1. 東洋医学的治療?介護への植物?自然とのふれあい効果の導入ならびに健康予防医学、環境教育、園芸療法の実践
  2. 健康機能植物の増殖?生産?育成?活用
  3. 介護?リハビリ、植物生産などの施設?設備のユニバーサル?デザインとその利用
  4. 作業者の生きがい創出と健康増進を重視した植物生産システムの開発
  5. 植物生産?資源循環を取り入れた環境園芸都市における省資源と環境保全
  6. 先端的技術も取り入れた省資源?環境保全的都市型環境園芸システムと植物品種の開発
  7. 環境政策、福祉?介護政策、環境会計

エコ心療健康科学プロジェクト

「東洋医学診療所」において「感覚反応パターンから心理特性を簡便に診断するシステム」を開発し、「園芸フィールド健康資源」において「自然の色?香り?形の心理効果を検証するためのモデル植物」を開発し、併せて「エコ心療健康科学産業」を創出する。

その内容は、
  1. 個人の心理特性に応じて、心と身体に効果的に働きかける心療健康植物の生産
  2. 心療健康植物を取り入れた園芸療法による質の高い介護福祉サービスの提供
  3. ストレスを和らげるエコ生活商品の心理効果を科学的に評価する事業の展開

二回にわたって千葉大学環境健康フィールドセンターについて紹介した。千葉大学の内容を概括してみて、当大学で農業と環境と医療の連携を思考していくために、今後まず次の項目の検討が開始されなければならないであろう。
  1. 準備委員会の設立
  2. 外部団体との交流
  3. 研究会の設置
  4. 定期的な講演会の設置
  5. その他
研究室訪問 C: 薬学部附属薬用植物園 
農業と環境と医療を連携できる研究の素材や人を求めて、さまざまな職場を探索することにした。第3回目は薬学部の薬用植物園の川口基一郎助教授と渡邊高志助手を訪問して、お話を伺った。また、両先生は学長室にも訪問され、いま開発中のクリスマスローズ(キンポウゲ科ヘレボルス属)をご持参いただいた。

薬用植物園の担当教員は、次の通りである。〔園長〕吉川孝文、〔助教授〕川口基一郎、〔助手〕渡邊高志

研究の概要は以下の通りである。全地球的な環境破壊による植物資源の消失から貴重な遺伝子資源を守るために、ヒマラヤやアマゾン産などの薬用資源のフィールド調査および栽培条件を検討し、植物組織培養技術による植物遺伝子資源の保存育成法を確立している。各保存植物の評価は、植物形態学的、化学的、免疫薬理学的評価に加えて遺伝子解析法により行っている。

主な研究課題は、次のように整理されている。

C-1. ヒマラヤ地域とその周辺諸国における天然薬用資源の探索と栽培に関する研究
ネパール国内とパキスタン国内の薬用植物について、未知の成分の組成?含有量並びに、種々の生理活性のスクリーニングを行い、新規薬用資源の開発を行う。チベット生薬の基原植物の栽培研究を実施し、栽培方法を確立して現地への技術移転を行い、栽培品の利用を促進させる事で乱獲を防止し、自然環境に配慮した研究を行う。
C-2. 免疫薬理作用を有する天然素材の探索とその作用機序に関する研究(理学部、医療衛生学部との共同研究)
生活習慣病、リウマチやアレルギ-などの慢性炎症疾患に有効なフラボノイドや天然素材の検索を行い、その作用機序を解析する。
C-3. サテライト型モデル実験園の開設と薬用植物の普及事業(相模原市との共同研究)
C-4. 中央?西ヒマラヤ地域社会において薬用植物資源を持続的に利用するための産業化プロジェクト(トヨタ自動車?トヨタ財団からの助成事業)
C-5. 植物バイオテクノロジーを用いたユリ科Lilium 属の増殖法と遺伝子解析に関する共同研究
C-6. 免疫薬理作用を有する天然素材の探索とその作用機序に関する研究
C-7. 柑橘類及びバラ属に含まれる精油成分とその機能に関する共同研究
C-8. 有用生理活性成分含有希少植物種の保存育成
C-9. 防虫?防菌作用を有するショウガ科及びミカン科植物を中心に植物由来の天然無毒農薬の研究

現在までの研究成果

1972年、薬用植物園は、大学附属施設として相模原キャンパス内に新設された。設置予定地は、建設資材や廃材置き場であり、植物を植栽できる土壌状態ではなかったため、約10年間継続して、隣接する相模原ゴルフクラブの落ち葉を大量に譲り受け、堆肥を作って土壌に鋤込む土壌改良作業を施した(栽培環境の構築)。その当時の基礎的研究として、トリカブトやヨロイグサを用いた「薬用植物種子の発芽に関する研究」、「薬用資源としてのシソ科の研究」、「Curcuma属植物のケモタキソノミーに関する研究」がある。

前園長の古谷 力教授および現園長の吉川孝文教授(薬学部生薬学教室)は、栽培が難しく、収穫までに長期間を要し、生薬の王様と呼ばれる高価な朝鮮人参(薬用ニンジン)を組織培養により、栽培品と同じ組成のサポニン(ginsenoside Rb1-3,c,d, Rge,f,1等)を生産することに成功した。

現在、日東電工で事業化し、20トンタンクで培養した抽出エキス(バイオニンジンエキス)は、健康飲料として市販されている。薬用植物園において、組織培養による強心配糖体(強心剤)の生産に関する研究の応用として薬用ニンジン組織培養の配糖化能を利用して新規強心配糖体を生産する研究(川口)、ヒマラヤ産Ephedra、Panaxの組織培養に関する研究(渡邊)へと展開した。

1993年から1995年に、渡邊は国際協力事業団JICA(現、国際協力機構)の専門家としてブラジル?アマゾン国立湿潤熱帯農牧研究センターに赴任後、アマゾン各地の植物遺伝資源発掘調査を実施し、南米大陸特にアマゾン地域における薬用植物の分類方法と栽培技術の移転のためブラジル政府の研究者に直接指導した。そこでの成果として、ブラジル政府が栽培を推奨する貴重な薬用植物の苗を持ち帰り、当園のドーム温室内に系統保存し、栽培共同研究を遂行してきた。さらに、当園管理棟2Fの標本庫には数多くの生薬サンプルや数千点に及ぶさく葉標本のコレクションが収蔵されデーターベース化され、生植物と共に研究用材料としていつでも提供できるよう整理されている。

1995年からは、川口がブラジル?アマゾン国立湿潤熱帯農牧研究センターに赴任し、ブラジル?ベレンより導入したアマゾン産生薬の免疫薬理作用を明らかにする研究を理学部生物科学科生体防御学研究室?熊沢義雄教授(現生物科学科長、薬学部より移籍)の全面的な協力(実験動物施設と生体防御学研究室の利用)でスタートさせた。アマゾン産生薬のべロニカ(マメ科)から単離?構造決定したイソフラボン配糖体にコロニー刺激因子 (CSF) 誘発活性のあることを発見し、さらに柑橘系フラバノン類(ヘスペリジンやナリンジン)にもCSF誘発活性のあることを明らかにした。

また、ナリンジンは、グラム陰性菌のリポ多糖(LPS)で誘発される腫瘍壊死因子(TNF)産生を抑制し、D-ガラクトサミン/LPS致死毒性を軽減したことから、生活習慣病や慢性炎症性疾患の予防や治療効果を有することが示唆された。実際に、ナリンジンとヘスペリジンは、マウスにおいてSalmonella弱毒株の大量感染によって引き起こされるエンドトキンショックを抑制した。リウマチは、TNFによって病態が悪化することから、TNF産生を抑制するフラボノイドに注目した。リウマチの動物モデルであるII型コラーゲン誘導関節炎(CIA)に対して、ナリンジンとヘスペリジンは、経口投与で予防効果と治療効果を示した。

さらに、配糖化により溶解性を高めたグルコシルヘスペリジン(江崎グリコとの共同研究)を用いて、リウマチ患者への有効性も証明された(久留米大学医学部、江崎グリコとの共同研究)。現在、フラボノイドの作用メカニズムを明らかにするために、Toll-like receptor (TLR) シグナルの制御に関する研究を進めている。平行して、産業廃棄物(発酵ブドウ果皮、大豆胚芽、小豆煮汁、ソバ殻等)からのフラボノイドの資源化についても調査している。サプリメント、健康食品、機能性食品の有効性を科学的に証明することにより、予防医学、代替医療に役立つことが期待されている。

1995年にブラジルでのプロジェクトを終えた渡邊に、「ヒマラヤ地域の天然有用植物資源の探索?保存に関する基礎研究」と題したトヨタ財団の研究助成が通過したとの吉報が届いた。その後数年間連続して各財団の助成を受けながらヒマラヤ地域の天然有用植物資源に関する基礎調査インベントリー研究を遂行した。そして、2000年に薬用植物園スタッフ3名は社会に対して今まで構築してきた研究成果を還元することを目的に、ネパールの首都カトマンドゥにおいて国内外の製薬?化粧品メーカを含め300名以上の参加者を迎え第1回国際天然薬物資源シンポジウムをネパール森林土壌保全省植物資源局と共催した。

そこでの評価を受けた研究代表者の渡邊は、国連環境計画トヨタ?グローバル500賞による「中央?西ヒマラヤの地域社会における薬用植物資源の産業化プロジェクト」をスタートさせた。ネパールとパキスタンにそれぞれ高地薬用植物栽培試験農園を開設し、昨年2004年ネパール北西部ムスタン王国ローマンタン(標高4000m)に伝統僧医らとローマンタン伝統薬草博物館を建設し、昨年8月に完成させた。さらにパキスタンの首都イスラマバードにおいて、WWF-パキスタンと第2回国際天然薬物資源シンポジウムを共催し、政情不安という状況にも拘わらず第1回国際シンポジウムと同様に国内外から多くの参加者が集まった。1993年からは始まったアマゾンの熱帯雨林やヒマラヤ高山地域での薬用植物プロジェクトでは、食品医薬品企業、化粧品?香料企業、環境重視型建設関連企業などと連携し共同研究を押し進めた結果、特許獲得等による成果をもたらし、技術移転による産業化に貢献するに至っている。

代表的な成果
  1. 20トンタンクで培養した抽出エキス(バイオニンジンエキス)→日東電工で事業化。
  2. リウマチの症状改善用飲食品および医薬→江崎グリコ株式会社、田辺製薬株式会社との共同事業。
  3. スギの葉茶によるIgE抗体産生抑制剤、およびIgE抗体産生抑制方法の開発→株式会社金子園との共同事業。
  4. ヒマラヤやアマゾン産植物資源を対象にした抗酸化剤、DNA損傷抑制剤、皮膚外用剤の開発、有害重金属固定植物の開発→株式会社資生堂研究所及び環境開発企業との商品化事業。
  5. アマゾンやヒマラヤ産生薬の成分研究と生理活性成分の探索(植物資源を対象にした抗癌剤の開発)→株式会社ヤクルト中央研究所との共同事業。
  6. 日本において緊急に資源確保を要する生薬の基原植物の種子保存法確立等研究基盤整備→独立行政法人厚生労働省医薬基盤研究所との共同事業。
  7. 薬用植物資源を持続的に利用するための産業化事業(「環境技術の事業化」と「環境学習を通じた次世代の人材育成」)→ 国連環境計画?グローバル500賞?によるトヨタ自動車との環境素材開発事業。
  8. 植物組織培養法を利用した再生生産技術の確立と馴化再生苗の遺伝子解析による品質評価(アグリバイオ花卉事業による地域産業の活性化)→青森県黒石市及びバイオ関連企業との商品化事業。
  9. 「ベンチャー型農業経営体育成モデル実験事業」に係る薬用植物の賦存調査→十和田市役所農林課からの委託事業、1995年-1998年、商品開発(ムラサキ:健康食品、床ずれ用医療用具サポーター、ガーゼに塗布、青森トウキ:湯浴剤)。

● 薬用植物園の沿革と特徴

博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@附属薬用植物園の歴史は、福島県二本松市の大学実習所のなかに開設記念として紅白のハナミズキを植樹した1965年に始まる。それから40年の歳月が経過したことになる。当時、薬学部生薬学教室の古谷教授の構想と計画と指導により、キハダの苗の植栽やダイオウの定植がスタッフの協力のもとに行われた。その後、良好に育成したキハダの樹皮は毎年採取され、黄柏として生薬学実習の材料に供された。

1972年の薬学部大学院博士課程の設置にともなって、薬用植物園は相模原キャンパスにおいて新たなスタートを切った。「柴胡の原の昔より...」と相模原市民の歌にあるように、かつてセリ科のサイコ(柴胡:Bupleurum falcatum L.)が自生していたこの地は、首都圏の都市化に伴い大きく様変わりした。しかし近郊緑地保全区域に指定されたため、開発に歯止めがかかり、さらには整備された県立相模原公園、相模原麻溝公園、道保川公園、神奈川県内水面種苗生産施設などの公共施設があるため、今なお重要な薬用植物のひとつであるサイコの生育にも好ましい環境が保たれている。

薬用植物園は、1992年9月に装いを新たにした。その名もバイオガーデン(BIO-GARDEN)と改め、ドーム温室、樹木区、万葉植物区、ロックガーデン、伝統薬原料植物区、薬用果樹区、有毒植物区、落葉樹木区、育苗区、水性植物区、貴重植物区、有用植物区から構成される薬用植物園の新たな第一歩がスタートした。

バイオガーデンの中心は、なんといっても特徴的な構造の半休形のドーム型温室(愛称:相模原ドーム)である。ドームは360°に展開しているので、太陽光が十分取り入れられる。さらに、早苗照明灯により光の調節ができる。また温度や灌水が制御できるので、熱帯や亜熱帯の薬用植物を効率的に植栽できる。このことによって、薬用植物の展示効果も高まる。

樹木区は、芝生との対比を強調した展示を行っている。伝統薬原料植物区は、日本薬局方収載生薬の基原植物を中心に栽培している。野外種苗実験場として育苗区を設置するなどして、園全体の景観にも気を配っている。また、季節に合わせて薬用植物の色、形、香りを体験できるような配置にも工夫を施している。

バイオガーデンから約200m離れた総合駐車場西側の試験栽培圃場にも、これまで導入し保全してきた薬用植物資源を系統的に展示し、研究材料や見学に供している。

● 薬用植物園の施設概要

総面積:7,07m2(バイオガーデン4,912m2、試験圃場2,160m2)
植物の種類:約2,000種類(うちドーム温室内300種)
バイオガーデン内/ドーム温室:m2、管理棟(延床面積:m2)[化学?生物学実験室:122.6m2、植物組織培養実験室:85.9m2、(調整室、無菌室、培養室)、さく葉(おしば)?生薬標本室:85.9m2、会議室:30.0m2、ボイラー室:19.4m2]資材倉庫:28.3m2、堆肥枠:54.0m2

● 薬用植物園-その機能と役割-、と題した吉川孝文園長の説明を、以下にそのまま引用する。

「薬学における薬用植物園の役割は、大きく二つある。一つは薬学教育への寄与、もう一つは研究面での寄与である。前者は、薬学の歴史の原点としての薬用植物、生薬の基原植物、さらには現在における重要医薬品の原料としての薬用植物などの実物教育の材料の提供である。純粋な意味での植物観察とは別に、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@では一年生が学部と離れた相模原での生活の中で、ややもすると薬学生としての意識が希薄になる時期、少しでも薬学生を自覚させ、目的意識を持たせる上での役割は大きい。

もう一面の研究への寄与という面では、以前の研究材料の提供という面はかなり薄れてきている。現在は、全地球的な環境破壊による植物資源の消失から、貴重な遺伝子資源を守るための施設という認識が非常に大きくなっている。博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@薬用植物園の存在は、これまでの職員の努力の結果、収集標本植物数、あるいは収集植物の重要性という点からも、全国有数の植物園として認められている。しかしながら、今後一つの植物園で管理できる植物数には限界があり、また園の立地条件、即ち主にその気候条件から、植栽可能な植物も限られてくる。全国あるいは世界の各園の特色を生かす形での、分担保存管理が不可欠となる。こうした面から他の園との連携がますます重要になってくる。

薬用植物園の職員は上の二つの役割を果たしつつ、将来的には独立した一研究施設として機能をもつ努力をしている。すでに植物組織培養技術による植物遺伝子資源の保存育成法は確立し、アマゾン産やヒマラヤ産の貴重な植物で機能している。各保存植物の品質評価法としては従来の植物形態学的、あるいは化学的な方法から、薬理学的な評価、さらに最新の遺伝子解析法なども導入する努力が実を結びつつある。

見学者にはぜひ当園をこのような観点からも観察して欲しい。」

● プラットホームとしての薬用植物園

このように観てくると、この薬用植物園は次のような重要なプラットホーム的な役割がある。この役割は、農業と環境と医療を考える上でもっと深く検討する必要がある。
  1. 市民のための医療関係団体との交流
  2. 薬草を含む「農業と市民農園」の創設
  3. 入院患者と薬草園の活用
  4. 薬草資源のインベントリー

● インベントリーとは?

一般的には、財産や在庫品の目録のことをインベントリーという。一方、自然資源の目録、目録の作成、さらには目録に記された物品の意味もインベントリーという。最近では、「温暖化ガスインベントリー」のように自然科学系の学問でもよく使われるようになった。

例えば、農業環境問題を解決するための研究では、まず農業環境を構成する土壌、水、大気、昆虫、微生物、動物、植物、肥料、農薬など農業生態系の中で相互に作用し合っている要素をよく把握することが重要である。これらの要素の調査?観測?分析?モニタリングなどのデータや手法?分類?特性?機能?動態?予測などの知見、保全?管理などの技術に関する情報と標本は、多年にわたり多大の労力と資金をつぎ込んで蓄積されてきたものであるとともに、農業環境研究を推進する上でも、また、研究成果を社会に役立てていく上でも貴重な財産である。

環境や食料や健康の安全性の問題は、短期に発生する例もあるが、多くは長年かけてじわじわと進行し、あるとき突然問題化することが多い。地球温暖化、ダイオキシン、カドミウム、硝酸性窒素汚染、侵入?導入生物(インベーダー)の生態系影響などの問題が起きた場合、問題の発生に迅速に対応し、これらの安全性を確保するためには、日頃から必要なデータや標本を集積しておき、それを総合的に活用した調査や解析が必要である。

すなわちインベントリーは、分散して保存されている膨大なデータや標本や生身の実物を整理して、データベース化を進めるとともに、それらの情報の検索?利用や新たな情報の蓄積を容易に行うことのできるシステムを開発することにより、分野を越えて情報を流通させ、データや生身の実物を高度に利用し、多面的な利活用を図ることを目指している。

インベントリーは研究者のみならず、行政関係者や技術者や一般市民に対して必要な情報を効果的に提供するシステムである。提供した情報は新たな情報を生む。新たな情報が得られれば、インベントリーに戻してもらう。こうして各種のデータは増殖しつづける。Inventory isalways growing. なのである。公開したインベントリーのデータベースなどを、研究や行政などが活用する。そして付加価値が付く。これを利子とする。元本に加えて利子が積もって、そのインベントリーは充実する。このように、データの持続的な活用にむけた新たなビジネスが誕生する。もう一度書く。Inventory is growing forever. なのである。

かくして、インベントリーは時空を越えた構造になる。あるものの状態を過去、現在、未来にわたって一目で見ることができる。かけがえのない健全な資源を次世代に継承することに貢献することもできる。

薬用植物園は、まさにこのインベントリーとしての役割を果たしている。この園が、農業と環境と医療の連携の重要なプラットホーム(「コンピュータ利用の基盤となるソフトまたはハードの環境」の意を想定して)の一つであることは疑いない。

農業と環境と医療を連携するための研究課題を、これまで、「窒素」、「化学物質」、「重金属」、「安全食品」、「未然予防」、「リスク」、「教育?啓蒙」などに分類してきた。薬用植物園の内容を検討してきた結果、「インベントリー」、「農業?健康実践フィールド」などの新たな課題が追加できる。この薬用植物園の研究は、「窒素」、「化学物質」、「未然予防」、「インベントリー」および「農業?健康実践フィールド」に関連が深いと考えられる。諸氏のご意見を伺いたい。また、これらの研究課題の範疇についてのご意見も伺いたい。

参考資料

1)バイオガーデンガイド:博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@薬学部附属薬用植物園
2)インベントリー、Inventory:No.1, No.2 、農業環境インベントリーセンター、独立行政法人農業環境技術研究所 (2002, 2003)
第7回薬用植物シンポジウム?世界の薬用植物とその利用法?  
目 的:

健康?環境?都市農業の視点での薬用植物の応用を目指し、広く薬用植物に関する普及啓発を図るため、アグリビジネス振興の向上に寄与できるようシンポジウムを開催する。

日 時:平成17年6月4日(土) 午後1時~午後6時
場 所:博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@相模原キャンパス 講義棟(L3号館 4F409)
定 員:300人
参加費:無料~
対 象:一般県民?市民および大学生 内 容:講演と薬用植物園見学会
○講演:午後1時~午後4時
○薬学部附属薬用植物園見学会:午後4時30分~午後6時

その他:本シンポジウムは、漢方薬?生薬薬剤師の認定対象セミナーとなる。

講演会プログラム

総合司会:博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@薬学部 教授(同附属薬用植物園?園長)吉川 孝文
進 行:博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@薬学部附属薬用植物園 助手 渡邊 高志
12:55 開会挨拶 相模原市?市長 小川勇夫
13:15 漢方薬に用いられる薬用植物の考え方
 (社)北里研究所東洋医学総合研究所薬剤部?部長:金成俊
14:00 アマゾンハーブの魅力-アグロフォレストリーとフェアートレード
 アルコイリスプロジェクト実行委員会?代表:大橋則久
14:45 休憩
15:15 世界のオーガニックの現状とライフスタイル
日本オーガニック推進協議会?理事:岡村貴子
16:00 質議?応答
16:15 閉会挨拶 博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@薬学部附属薬用植物園?助教授:川口基一郎

薬用植物園見学会(職員及びボランティアによる案内)

16:30~18:00

申し込み方法:Eメール、電話またはFAXにて住所?氏名?電話番号を明記して下記に申し込んで下さい。

〒229-8611相模原市中央2丁目11番15号 相模原市経済部農政課 新都市農業推進室

電話:042-769-9233、FAX:042-754-1064 担当:荻野隆?鈴木由美子

参 考

以下に、第1回から第6回までの「薬草シンポジウム」の題目などを紹介する。

第1回:「身近な薬用植物とそのルーツ」吉川孝文?渡辺高志?川口基一郎
共催:相模原市、財団法人みどりの協会、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@薬学部(1998.9.26)

第2回:「ハーブとスパイスを知ろう」吉川孝文?渡辺高志?川口基一郎
共催:博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@薬学部、昭和薬科大学、相模原市、財団法人みどりの協会後援?神奈川県、日本生薬学会、社団法人日本植物園協会博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@相模原キャンパス (1999.10.2)

第3回:「心を癒す薬用植物」吉川孝文?渡辺高志?川口基一郎
共催:博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@薬学部、相模原市、財団法人みどりの協会、相模原市立博物館 (2000.6.24)

第4回:「薬用植物と食の関わり」吉川孝文?児嶋 脩?川口基一郎?渡邊高志
主催:博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@薬学部薬用植物園(2002.5.11)

第5回:「薬用植物とエッセンシャルオイル」吉川孝文?児嶋 脩?川口基一郎?渡邊高志
主催:博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@薬学部薬用植物園(2003. 4.26)

第6回:「ヘルスフ?ズとしての薬用植物」吉川孝文?児嶋 脩?川口基一郎?渡邊高志
主催:博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@薬学部薬用植物園(2004. 4. 24)
研究室訪問 D:一般教育部 生物学
「農業と環境と医療」を連携できる研究の素材や人を求めて、さまざまな職場を探索している。第4回目は、一般教養部の生物学の横井洋太教授を訪問してお話を伺った。道家健二郎教授、中越元子助教授はじめ多くの職員にもお会いできた。この部屋の活発な雰囲気を肌で感じることができた。

この教育研究単位の担当教員は次の通りである。〔教授〕横井洋太?道家建二郎、〔助教授〕中越元子、〔講師〕滝川新一郎?小畑秀一、〔助手〕坂田剛?加藤智美?山本貴之 

この教育研究単位では、主に植物生理生態学と昆虫を主とした動物生理および両生類を用いた発生生物学の三つの分野を中心に研究が進められている。植物生理生態学分野では、植物の物質生産再生産過程に関わる光合成、呼吸、葉の諸形質の適応的効果などについて、実験的?理論的解析が行われている。動物生理生化学的分野では、プテリジン系色素に主眼を置き、その生合成経路、それらが関連する体色発現の制御機構および変態、休眠、その他の生物現象の解明を分子生物学的、生化学的手法により研究が進められている。発生生物学分野では、形態形成に重要な原腸胚形成のしくみについて、実験形態学的?細胞生物学的な研究が行われている。また、これら生物学分野の研究と併せて、本学の基礎教育としての生物学教育の方法?内容に関する教育上の研究も進められている。

この教育研究単位の主な研究テーマは次のように整理されている。

D-1.植物の物質生産?再生産過程の諸要素の関係に関する理論的?実験的研究(単位研究):植物の生活資源の獲得と利用に関わる諸要素の特性と相互の関連を明らかにし、それに基づいて、成長、生殖、繁殖などの生態現象と環境との関係を解明する。

D-2.昆虫におけるテトラハイドロビオプテリン(BH4)の生理学的意義の探求(単位研究):体色発現、変態、休眠といった昆虫に特異的な生物現象との関わりにおいて、新たなBH4の生理活性機能の解析を分子生物学手法により多面的に進める。

D-3.イモリを用いた原腸胚形成のしくみの解明(単位研究):動物個体の形態形成において重要であるにもかかわらず未解明の点が多い原腸胚形成について、細胞生物学的?実験形態学的アプローチにより解析を行う。

D-4.大学基礎教育としての自然科学教育の在り方の研究(単位研究):基礎学力的な多様性の増加が著しい大学入学生の実態の把握とその状況下で有効な自然科学教育を進めるための授業の在り方についての調査?研究を進める。

D-5.タンパク動態を介した個葉の高地環境への順化?適応機構の解明(山梨県環境科学研究所):短い生育期間や強光放射環境ストレスなどに適合した高地植物の葉特性の成立機構を、葉内タンパク質の動態を介して明らかにし、高地環境への順化?適応機構の解明を目指す。

D-6.昆虫の体色発現機構とその適応?進化的意義の解明(東京農工大学?獨協医科大学):様々な適応的役割を担っている昆虫の体色の発現機構を明らかにし、配偶行動など、昆虫の適応的現象を支えている物質的基盤の解明と種間の系統?進化の解析を行う。

D-7.異型フェニルケトン尿症とBH4生合成経路に含まれる各種酵素の欠損との関係(日本大学):神経伝達物質モノアミンの生合成系に必須のテトラハイドロビオプテリン(BH4)の生合成経路に含まれる酵素の欠損と異型フェニルケトン尿症との関係を調べる。

D-8.両生類胚の陥入のメカニズム解明(埼玉医科大学、宮崎大学、東京大学):体軸(頭尾軸、背腹軸、左右軸)形成の鍵を握る動的過程である原腸陥入の機構の理解に向けて、実験形態学的?細胞生物学的?分子生物学的?生理学的?生物物理学的実験により多面的に解析を行う。

D-9.カゼインキナーゼ1(CK1)による新しいリン酸化メカニズムの解明(医療衛生学部):sulfatideやcholesterol-3-sulfateの存在下においてのみCK1でリン酸化される各種機能性タンパク質のリン酸化の機構を生化学的?分子生物学的手法により解明する。

「農業と環境と医療」を連携するための研究課題には、「窒素」、「化学物質」、「重金属」、「安全食品」、「未然予防」、「リスク」、「教育?啓蒙」、「インベントリー」、「農業?健康実践フィールド」などがある。この研究教育単位の課題や内容は、「窒素」および「化学物質」に関連が深いと考えられる。諸氏のご意見を伺いたい。また、これらの研究課題の範疇についてのご意見も伺いたい。
文献の紹介 2:地球規模での金属汚染の歴史
A history of global metal pollution
Jerome O. Nriagu, Science, 272, 223-224 (1996)

著者の Jerome O. Nriagu は古くから地球規模での金属の動きに興味をもち、数多くの卓越した論文を認めている。地球規模での環境問題が注目を集めて以来、氏の成果は、各分野で貴重なデータとして活用されている。誤解を恐れずに氏の研究を手短に言えば、人類は、文明の進歩とともに地殻から大量の金属を採掘し、地上にそれを拡散させた。とりわけ、産業革命のため金属の必要性は空前の勢いで高まった。その結果、重金属の種類と量は増加し、必然的に金属の土壌や海洋や大気への揮散の度合いを指数関数的に増加させた。このことによって、重金属の生物地球化学的な循環が乱されることになる。

重金属の生物地球化学的な循環が乱されることは、何を意味するのか。これまで順調に循環していた金属が、土壌に海洋に大気に大量に付加されることになる。その結果、土壌に入った過剰な金属は作物に吸収される。それらを食する人間や動物は、通常以上の金属を体内に過剰に蓄積することになる。その結果、その金属は次の世代の人間や動物に引き継がれることになる。食物連鎖と時間連鎖による金属の集積である。金属汚染は、時空を越えた問題なのである。

われわれは、既にこのことを局所的にではあるが経験している。カドミウムのイタイイタイ病や水銀による水俣病がそれである。そのことが地球規模で発生する恐れがある。この問題はまさに「農業と環境と医療」が連携しなければ解決できない課題であろう。本学には金属を研究している研究者が数多くいる。金属に関しては、「農業と環境と医療」が連携できる貴重な課題である。参考資料を活用しながら、以下この論文の概要を示す。最後にこの著者の主要な文献を掲載する。

歴史をふりかえると、人類の発展と重金属の間にはきわめて深いかかわりあいがある。現代文明は、大量の重金属に依存しなければ成立しない。すでに銅は紀元6,000年前に、鉛は紀元 5,000年前に、亜鉛や水銀は紀元500年前に文明の成立のために使われていた。

さまざまな分野の研究から、重金属は環境へ大きなインパクトを与えている。このことは、堆積物や北極の氷床のコアや泥炭に含まれる重金属の分析から明らかにされつつある。ローマ皇帝の時代は、鉛の使用量がきわめて多かった。ローマ帝国の時代、高級な生活をするためには大量の重金属が必要であった。とくに鉛は年間8~10万トン、銅は1万5千トン、亜鉛は1万トン、水銀は2トン以上が使われた。錫なども同様に必要であった。当時、鉱山の経営は小規模であったが、大量の原鉱を制御せずに開放系で精錬していたので、大気中にかなりの量の微量金属を揮散させていた。産業革命の頃になると、金属の必要性は空前の勢いで高まった。その結果、重金属の絶対量と種類の増加は、必然的に金属の大気への揮散の度合いを指数関数的に増加させた。

19世紀の産業革命以後、重金属は近代社会には不可欠なものになった。Nriagu(1979)が推定した地殻から大気へのCd、Cu、Ni、Pb、Znの膨大な放出量は、これまでも、そしてこれからも地球上のあらゆる場所にふりまかれていく。土壌と大気と海洋にふりまかれた金属は、必然的に食物や人間の体に吸収される。

世界人口の増加とそれに伴う重金属の使用量の増大は、必然的に自然界に重金属をふりまく結果となり、様々な生態学上の問題を起こしている。土壌、水、生物などに含まれている重金属は、過剰な濃度になれば生命のシステムに毒性影響を与えるけれども、多くのものは健全な生命を営むためには不可欠なものである。したがって、自然界に生存するそれぞれの生命にとって、また動物や人間が消費する食物にとって、適切な重金属濃度を知ることがきわめて重要なのである。自然界に放出された重金属は、最終的には土壌-植物-動物を通して人間の体内に蓄積されることからも、土壌中での重金属の挙動についての知見を蓄積することはきわめて重要である。まさに、「農業と環境と医療」の連携研究が必要な課題なのである。

具体的な数字を紹介しよう。Hong ら(1994)の研究は、500BCと300ADの間に北西グリーンランドで沈積した氷床コアの鉛含量は、バックグランドの約4倍であったことを示している。このことは、ローマの鉱山と精錬から揮散によって鉛による北半球の汚染が広がったことを意味している。

鉛の含量は、ローマ帝国が没落すると、もとのレベル(0.5pg/g)になって、それからヨーロッパの鉱山ルネッサンスとともに少しずつ上昇しはじめ、1770年代には10pg/gに、1990年代には50pg/gに達した。1970年代から、北極の雪の鉛含量が減少するが、これは北アメリカやヨーロッパで無鉛ガソリンを使用するようになったからであろう。

拡散した大気の鉛汚染は北半球に限らない。Woff and Suttie (1994)は、1920年代に北極の雪に堆積した鉛の平均含量(2.5pg/g)は、バックグランド(0.5pg/g以下)に比べて5倍高いことを報告している。北極に比べて南極の鉛レベルが低いのは、南半球での鉛の発生が少ないためである。

他のタイプの堆積物の研究から、古代の地球規模での鉛の汚染が明らかになった。スウエーデンのさまざまな場所の湖の堆積物の分析によれば、紀元前2千年あたりに鉛の堆積のピークがあり、紀元前千年ころから少しずつ増えはじめ、産業革命の初めにバックグランドの10から30倍に達し、19世紀の間にさらに加速し、1970年代にピークになっている(Renbergら、1994)。

スイスのエタ?デラ?グルイエのombrogenic bogの記録は、紀元前2千年の鉛の堆積が、最大で最近の堆積物と同じ値を示すことを明らかにしている。鉛の堆積のピークで同じような値が、ローマ時代でもヨーロッパの泥炭の沼で報告されている。これは、イングランドの Bristol 近郊の Gordano Valley と Derbyshire の Featherbed Mossである。

このように世界はさまざまな金属で汚染しつつある。次世代に健全な環境を残すという倫理をもつには、現実は実に厳しいのである。

参考資料

1) Nriagu, J.O.: Global inventory of natural and anthropogenic emissions of trace metals to the atmosphere, Nature, 279, 409-411 (1979)
2) Tiller, K.G.: Heavy metals in soils and their environmental significance, Adv. So il Sci., 9, 113-142 (1989)
3) 環境土壌学、松井 健?岡崎正規編著、朝倉書店 (1993)
4) Nriagu, J.O.: A history of global metal pollution, Science, 272, 223-224 (1996)
5) 農業環境技術研究所ホームぺージ、情報:農業と環境、重金属、http://www.niaes.affrc.go.jp/

Jerome O. Nriagu 氏の主要な論文

Nriagu, J. O.: Arsenic poisoning through the ages. In: Environmental Chemistry of Arsenic (W. T. Frankenberger, Editor), New York, Marcel Dekker, pp. 1-26, 2002

Nriagu, J. O.: Automotive lead pollution: Clair Patterson's role in stopping it. In: Clean Hands: Clair Pattersons' Crusade Against Environmental Lead Contaminantion (C. I. Davidson, Editor), Nova Science Publishers, Commack, N.Y., pp. 79-92, 1999

Nriagu, J. O. and M. J. Kim: Trace metals in drinking water: sources and effects. In: Security of Public Water Supplies (R. Deininger, Editor), NATO ARW series, Kluwer Academic Publishers, pp. 115-131, 1999

Nriagu, J. O., Robins, T., Gary, L., Liggans, G., Davila, R., Supuwood, K., Harvey, C., Jinabhai, C. C. and R. Naido: Prevalence of asthma and respiratory symptoms in south-central Durban, South Africa. European J. Epid. 15, 747-755, 1999

Nriagu, J. O.: History, occurrence and uses of vanadium. Adv. Environ. Sci. Technol., 30, 1-24, 1998

Nriagu, J. O.: Global atmospheric metal pollutiion. In: Topics in Atmospheric and Interstellar Physics and Chemistry (C. F. Boutron, Editor), Les Editions de Physique les Ulis, France, Vol. 3, 205-226, 1998

Nriagu, J. O., Jinabhai, C. C., Naidoo, R. and A. Coutsoudis: Lead poisoning of children in Africa, II. Kwazulu/Natal, South Africa. Sci. Total Environ., 197, 1-11, 1997

Nriagu, J. O., Oleru, N. T., Cudjoe, C. And A. Chine: Lead poisoning of children in Africa, III. Kaduna, Nigeria. Sci. Total Environ., 197, 13-19, 1997.

Nriagu, J. O., Lawson, G., Wong, H. K. T. and V. Cheam: Dissolved trace metals in Lakes Superior, Erie and Ontario. Environ. Sci. Technol., 30, 178-187, 1996

Nriagu, J.O., Pfeiffer, W.C., Malm, O., Magalhaes de Souza, C.M., and Mierle, G.: Mercury pollution in Brazil [letter]. Nature 356, 389, 1992

Nriagu, J. O.: Global Metal Pollution. Poisoning the Biosphere, Environment, 32:7-33, 1990

Nriagu, J. O. and D. A. Holdway: Production and release of dimethyl sulfide from the Great Lakes. Tellus, 4lB, 161-169, 1989

Nriagu, J. O. and H. K. T. Wong: Dynamics of particulate trace metals in lakes in the Kejimkujik National Park, Nova Scotia, Canada. Sci. Total Environ., 87: 315-328, 1989

Nriagu, J.O.: A silent epidemic of environmental metal poisoning? Environ. Pollut. 50, 139-161, 1988

Nriagu, J.O., J.M. Pacyna, J.B. Milford, and C.I. Davidson: "Distribution and Characteristic Feastures of Chromium in the Atmosphere," in Chromium in the Environment, J.O. Nriagu and E. Nieboer, editors, J. Wiley and Sons, New York, 1988, Chapter 5, pp. 125-172.

Nriagu, J.O., and Pacyna, J.M.: Quantitative assessment of worldwide contamination of air, water and soils by trace metals. Nature 333, 134-139, 1988

Nriagu, J. O., Pacyna, J. M., Milford, J. B. and C. I. Davidson: Distribution and characteristic features of chromium in the atmosphere, Adv. Environ. Sci. Technol., 20, 125-172, 1987

Nriagu, J. O., Essien, E. M., Udo, E. and S. Ajayi: Environmental Impact Assessment of the Iron and Steel Industries at Ajaokuta and Aladja. Final Report, University Consultancy Services, Univ. of Ibadan, Nigeria, 180 pp. 1987

Nriagu, J.O.: Lead and Lead Poisoning in Antiquity. New York, 1983

Nriagu, J.O.: "Saturnine Gout among Roman Aristocrats: Did Lead Poisoning Contribute to the Fall of the Empire?", New England Journal of Medicine, 308.11, March 17, 1983: 660-3

Nriagu, J.O. and C.I. Davidson: "Zinc in the Atmosphere," in Zinc in the Environment, J.O. Nriagu, editor, J. Wiley and Sons, New York, 1980, Chapter 4, pp. 113-159.

Nriagu, J.O.: The biogeochemistry of mercury in the environment. In: The biogo- chemistry of mercury in the environment, Editor, eds (New York: Elsevier), 1979
資料の紹介 1:自然?食?人の健康を保全する循環型地域社会を目指して 養老孟司博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@大学院教授講演録、(独)農畜産業振興機構?全国大学附属農場協議会?博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@獣医畜産学部、58pp(2004)
世の中に「唯心論」と「唯物論」と「唯幻論」があることは、かつて「唯脳論」を読む前から知っていた。

「唯心論」は、精神を実体化して認めているもので、観念論の多くは唯心論である。仏教、朱子学、陽明学、プラトン、ライプニッツ、ヘーゲルなどみなこれに属する。

「唯物論」は、事物の本質あるいは原理を物質や物理的な現象であるとし、非物質的な存在や現象を否定するか、非物質的な存在や現象を物質や物理現象に付随させ、それらに規定される非本質的なものであるとする考え方、または立場である。マルクスに代表される。

「唯幻論」は、岸田秀が唱えたものである。ヒトが動物と違っているのは、脳が壊れて、その代用品として"幻想"を本能に代わる規範として意識が捉えるようになったというものである。彼は国家や集団を一つの人格と同じようにとらえ、精神分析し、歴史を検証する。

さて、「唯脳論」である。これは解剖学者である演者の養老孟司氏が考えたことで、ひとの言語や行動とか社会は、どれも脳の中にもともとある同じような過程が表出したものだというものである。詳しくは、先生の「唯脳論:ちくま学芸文庫」と題する奥行きのある本を参照されたい。

今回の演題は「自然?食?人の健康」であるから、「情報:農業と環境と医療」の視点と類似した部分があると考え、ここにその内容を整理してみた。講演内容は、つぎのような範疇で語られている。それは「環境問題」、「循環型社会」、「循環型の破壊」、「経済と環境」、「医療の世界」および「教育と人生」である。

環境問題

環境問題というと、多くの人が「人と自然」というふうに考える。では、自然と対立しているのは何か。それは「意識」または「心の働き」である。となると、対立しているのは「人と自然」ではなく、「意識と自然」となる。ところで、人の体は自然である。体の中で自然でないのは意識的な活動である。学問なぞは典型的な意識の活動であろう。また都市は、頭が考えたことを実行に移した世界である。古代インド人が考えた極楽でもある。どうやら、人のもつ脳みそ(意識)が解らないものが自然で、意識が解っているものが都市である。

ということは、われわれ自身が人工の部分と自然の部分をもつ。だから、「人と自然」を対立させるのではなく、われわれの中に両者が混在することになる。別の表現をすると、人は、意識的なものと無意識的な体の両方からできている。「意識と体」=「心と身体」=「人工と自然」とも表現できる。このあたりの話は、先生の「いちばん大事なこと-養老教授の環境論-:集英社新書」に詳しい。

自然を大きな円とすれば、左端に「自然=原生林」が、右端に「意識=都市」がある。この両者は重なっている。この重なりの部分が「人=田畑」であろう。この重なりについて、次の説明がある。「同じ」と「違う」は重なっている。「出口」と「入口」は重なっている。相反するものではなく、反対のものではなく重なっている。すなわち、人と自然は元々重なっている。重ならない部分があって、それは都市とか原生林という形でくびり出されているという。

しかしこの状態がやっかいだから、人は両者を斬りたがる。心身二元論という。切ることが議論の便宜上は便利だが、これは切れない。切らないと議論が厄介だから、人はこれを嫌う。

以上の話からは、荘子の「無用」と「有用」が思い起こされる。また老子の「美」と「醜」に似ていて、これらのことの理解がなければ、環境問題の解決は難しいことに想いが馳せる。また、デカルトの二元論からは環境問題の解決はありえないと思ったりもする。さらに、神と契約しているキリスト教でもこの問題の解決は難しい。ひょっとしたら、道教か古神道に解決の道があるのかも知れない。どうやら、二元論では「農業と環境と医療」の連携は計れないこと、これらが協約して始めて連携が進展することを肝に銘じておく必要があるようだ。

循環型社会

演者が「循環」なる言葉に最初に出会ったのは、生化学で教わるクレイブスサイクル=クエン酸サイクルである。人間の体は、クエン酸サイクルのようなものがたくさんあり、お互いに協約している。お互いに協約した環が、恐らくものすごい数あって、それが毎日毎日回っている。これが生き物が生きている演者のイメージである。このことを知りながら、この循環を一つとして作れないのが人間なのである。

循環ではいつも違った物が回っている。だから、「本当の私」とか「個性のある本当の私」とか「自分自身」などというものはない。変わらない私があると思ったらまちがいで、循環から言えば、変わらない私はない。だから、循環型社会の一番見事なモデルは生き物そのものである。循環型は必ず完全ではない。老化して上手に回らない部分が出てくる。

鴨長明の「ゆく川の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたるためしなし、世の中にある、人と栖と、又かくのごとし」を引用し、あの時代にすでに彼は、循環について人と川とが同じであると言い切っていると解説する。

そしてわれわれ自身が循環するのだから、われわれの住み着く社会は循環する社会であることが当然望ましいと結論する。

以上の話は、自然界で生化学的な代謝をする窒素(N)を想起させる。「ものみなめぐる」ということの大切さと、「万物流転」の法則をこれほどよく教えてくれる元素は、他にないだろう。人間はプラスチックや放射性物質やクロロフルオロカーボンなど、「めぐる」ことのできないものをたくさん作りだした。それらは、「めぐる」ことのできないままに、使い捨てられ、たまりつづけ、われわれの住む地球生命圏を窮地に追い込む。「めぐらない」から抜け出して、窒素のもつ「めぐる」に帰依しないと、地上はいずれ取り返しのつかない世界となるだろう。

しかしわれわれ人間は、この窒素のもつ「めぐる」にすでに重大な変調をもたらした。その中でも環境にとって最も重要なものは、大気圏における亜酸化窒素(N2O)濃度の上昇と、地下水の硝酸(NO3-)濃度の増大である。前者は、成層圏のオゾン層を破壊し、対流圏の温暖化に大きな影響を及ぼし、地球規模の問題として取り扱われている。後者は、飲料水の水質悪化と富栄養化に代表される生態系への変調に大きく関わっている。窒素循環の変調によって、地下水から成層圏に至る生命圏すべての領域が脅威にさらされているのである。

成層圏のオゾン層の破壊は、人の皮膚ガンを始め多くの生命の健康に大きな影響を及ぼす。温暖化は生態系に変調を来たし、農業生産に多大な負の影響を及ぼしていることがすでに起こっている。

これらは、大気中に無限(空気の78%)に存在する窒素(N2)が、われわれ人間の手によって自然界のそれよりも上回る速度で地上へ固定されるためである。そのうえ、固定された窒素は、生態系のバランス、場所および時間などの要因を考えないままに、地上に還元され循環している。このため、窒素の「めぐる」はすでに変調をきたしているのである。

この問題は、窒素に止まらない。生態系で生化学的な代謝をするほかの元素、炭素(C)、リン(P)および硫黄(S)にもその兆候はあらわれている。循環のぶっちぎり社会は、人間に復讐する。

循環型の破壊

虫好きの先生は語る。ブータンでは殺虫剤を使わない。近代文明は、やたらにややこしい循環の極みのようなシステムをある簡単なやり方で崩してしまう。環境破壊すなわち循環型の破壊は、百円のカッターナイフで人が殺せると言うこと。高級なシステムほど、非常に簡単な道具で潰すことができる。再生は絶対できない。ブツブツ切るな。緑空間もブツブツ切るなと主張する。自然というものを分断しないことが重要である。

もともと人は循環の集まりである。循環によって成立している。あまりにも見事だから循環しているように見えないだけである。

以上の話をよくよく考えてみれば、「農業と環境と医療」の連携を求めているこの「情報」は、循環のぶっちぎりを修繕しようとする行為かも知れない。「人は、人と人の関係においてはじめて人である」ように、「人は、農業と環境と医療の関係においてはじめて人である」と言うこともできる。

経済と環境

演者は、経済と環境は対立する、経済は回っていればいいだけだ、と考えている。そのために、弁当?堆肥?畑?作物?弁当の循環の話、弁当?人の循環しない話、昔の、弁当?人間?うんこ?畑?作物?弁当の循環の話が出る。もっとも盛り上がる箇所(クライマックス)は、八っあんと熊さんの「花見酒の経済」である。これについての話も、先生の「いちばん大事なこと-養老教授の環境論-:集英社新書」に詳しい。

お金は数字であり、紙である。それが実態ではないことは、誰でも知っている。経済活動には、その意味で虚と実がある。経済が虚構だから環境問題がおこる。本当にそこから利益を得ているのは、環境から以外あり得ない。エネルギーや食べ物とリンクしているのが経済の金である。これこそが経済であろう。

以上の話から次のことが思われる。一つはレスターブラウンの言う「プランB-エコ?エコノミーをめざして-」である。これまでは、経済という大きな円の中に小さな環境という円があった。これがこれまでの生き方であった。これからは、環境という大きな円の中に経済という小さな円がなければ地球は成立しない。価値観をこの方向に向けなければ、次世代に健全な地球を提供できない。

この項の筆者は、医者ではない。したがってきわめて単純な疑問点が生じる。医療や医学もこれに似ていないのか? 経済の中に医療がないか? 医療の中に経済がなければ、次世代の人間に健全な肉体と精神を提供できないのではないか?

これらの事実や疑問点は、地球を俯瞰的に眺めることができた21世紀になってもまだ経済が優先されていることを示すものである。われわれの脳にもほとほと困って、愛想が尽きる。

これまで、われわれは地球の環境資源が生み出す利子で生きてきた。人口の増加と文明の発展は、このことを一変させた。何と、われわれは利子を食いつぶし、いまや環境資源というものの元金で生きているのである。人類がこれからも現在の生き方を続けるのであれば、元金が無くなるのは必須である。元金が無くなった地球を今までだれも観たことがない。

医療の世界

医療の世界で、生まれて、年を取って、病を得て死ぬと言うことの面倒を見る人は誰かと問いかける。そして自ら回答する。それは、医者ではない。検査の結果という情報であると。

現代の医療は、全部手遅れの医療だと語る。それは、データという情報は必ず過去のものだからである。目の前で何が起こっていても一切それは関係ない。多くの医者が、今では検査の結果がなければ手を打たない構造になっている。このことの欠陥は、構造とシステムができあがった後での脳の欠陥の問題なのかも知れない。

患者が具合が悪いという。しかし、医者は検査の結果に異常ないから、あなたは何でもありませんと言う。まさに、情報という過去のものが医療の番頭を務めているのである。このため、看護婦の地位がだんだん上がっていった。看護婦は情報ではなく、人間そのものを扱ってくれていたからである。

それも過去の話になろうとしている。最近は看護婦さんが偉くなって、論文を書いて大学の先生になって、患者を診る暇が無くなったのである。だから、病院の将来は付き添いさんにあると先生は言う。蓋し、明察であろう。今、世の中はハードウエアとショートウエアはあるがハートウエアは漸減しつつあるのだ。

以上の話は、「情報:農業と環境と医療 1号」の「はじめに」の北里柴三郎の「医道論」を想起する。

「北里柴三郎の「医道論」を繙くと、最初に医道についての信念が述べ
 られている。そのなかで、「夫レ人民ヲ導テ摂生保護ノ道ヲ解セシメ以
テ身ノ貴重ナルヲ知ラシメ而後病ヲ未発ニ防クフウ得セシムルハ是所詮
 医道ノ本ナリ」とある。すなわち、「人民に健康法を説いて身体の大切
さを知らせ、病を未然に防ぐのが医道の基本である」と説く。このこと
 は、健全な環境のもとで生産され、安全な製造過程を経た食品を食し、
 健康を保ち病に陥らないことが必要であると解釈することもできる。」

教育?人生

「自然?食?人」のこの話は、大学が後援する講演であるからか、結局は教育と人生の話であるからなのか分からないが、演者は最後に教育と人生を語る。

世の中は、人は死なないと思うようになった。このため、教育が成り立たなくなった。年寄りが死ななくなった、死んだらおかしいと想うようになった。これが教育を変にした。「本当の私」、「個性のある本当の私」、「自分自身」などというものはない。変わらない私があると思ったら、教育はだめ。「私は変わらない」、「個性ある私」、「世界にたった一つの私」などありえない。この辺りのことは、先生の「死の壁:新潮新書」に詳しい。

大いに賛同できる教育に関する講演での言葉に、「都会の人間が田舎に行けよ」、「参勤交代をすればいい。1年に1ヶ月は絶対に田舎で働かなければいけない」、「手足、感覚から入ってきたものはその人をつくりますから。これは脳みそのことをまじめに考えたらあたりまえなのです」、「虫取りから変えると違う人間になって帰ってくる。それが活性化」などがある。

職安の垂れ幕に、「自分にあった仕事が見つかるかも知れない」とある。そんなものあるわけがない。ふざけるんじゃない。仕事というのは社会的に必要だからある。この辺りのことは、先生の「バカの壁:新潮新書」に詳しく書かれている。などなど、書けばきりがないほど豊富な教育論と人生訓とが語られる。

その他、含蓄のある人生訓があふれている。
  • タバコを吸うと体に悪い。生きているのが一番体に悪い。
  • 理科系の先生は嘘がつけない。ということは生きていないと言うことである。
  • 芝居やゲームがすぎると、自然を侵害することになる。
  • 芸術は人工の極地なので、その中に人間は入っていって、そこに真実を発見するもの。
  • 嘘から出た真。本当のことを言うのは、嘘から出た真しかない。神でしょう。宗教でしょう。
  • 人工の極地は宗教であり、芸術であり、嘘っぱちなのです。
  • 「先生、口では何とでも言えますものね」。「お前はそう思うのか。じゃ、おまえに1ヶ月やるから、300万部売れる本書いて持ってこい」。どこまで本気で考えているのだ、お前は。
  • 首つり自殺を試みた男。木が折れて自殺できなかった。その後の男の言葉。「いや、びっくりした。死ぬかと思った」

以上のことから思ったことは、「私」と「公」である。それも、もっとも強烈な教育者である長州が生んだ吉田松陰の言葉である。

万巻の書を読むにあらざるよりは いずくんぞ千秋の人たるをえん
一己の労を軽んずるにあらざるよりは いずくんぞ兆民の安きをいたすをえん
体は私なり 心は公なり 
 私を役として公に殉う者を 大人と為し
公を役にして私に殉う者を 小人と為す


「農業と環境と医療」の連携を思考するのに、一読、いやいや五読、十読する必要がある資料である。

注)この講演は平成16年9月28日に函館市芸術ホールで行われた。
本の紹介 2:ワイル博士の医食同源、アンドルー?ワイル著、上野圭一訳、角川書店(2000)
紀元前5世紀、医聖?医学の祖といわれるヒポクラテス(B.C. 460-377)は、人びとに「食をして薬となし、薬をして食となせ」と教えた。この考え方は、西洋社会では既にすたれてしまった。アジアでは今なお脈々として生きている。例えばインドや中国を旅すれば、食と薬を同源とする思想体系が発達していることを、生活のさまざまな場面で見ることができる。

インドのアーユルベーダ、中国の中国伝統医学(中医)、ネパールのチベット医学、ジンバブエのハーバリスト(薬草師)などがある。もちろん、日本の漢方も例外ではない。

インドのアーユルベーダの歴史は、極めて古い。心と体の両面から人間を全体的にとらえ、調和をはかりながら健康を保つという考え方で、ハーブを使ったり、ヨーガ体操を取り入れたりする。

中医は、陰陽学説および五行学説を背景に精気学説?臓腑学説?経絡学説?病因学説に基づいて、独自の望診?聞診?問診?切診をし情報を収集する。これに弁証という分析方法を駆使して、人の健康状態や病気の性質を判断する。

日本の漢方は、今なお北里研究所に東洋医学総合研究所があるように、人間に本来備わっている「治る力」を上手に引き出す、「体にやさしい」治療体系である。中国三千年と日本千五百年にわたる歴史をもつ。

さて、表題の「医食同源」という言葉である。病気を治すのも食事をするのも、生命を養い健康を保つためで、その本質は同じという意味であろう。人びとが積み重ねてきた生活から培われた一種の知恵である。この言葉が最初に見られるのは、丹波康頼(永観2年:984)によって著された最古の医書(医心方:いしんぽう)といわれる。また、大辞林によれば、「病気の治療も普段の食事もともに人間の生命を養い健康を維持するためのもので、その源は同じであるとする考え方。中国で古くから言われる。」とあるが、言葉の出典については、どうもそうではなさそうである。

真柳 誠(まやなぎ まこと)は「医食同源」について、「医食同源の思想-成立と展開」と 題して、次のように解析する。

「最近の大型国語辞典の多くに、医食同源は中国の古くからの言葉などと書いてあるが、出典を記すものはない。一方、新宿クッキングアカデミー校長の新居裕久氏は、1972年のNHK『今日の料理』9月号で中国の薬食同源を紹介するとき、薬では化学薬品と誤解されるので、薬を医に変え医食同源を造語したと述懐している。これに興味をおぼえて調べたが、やはり和漢の古文献にはない。朝日新聞の記事見出データベースでみると、なんと初出は91年3月13日だった。『広辞苑』でも91年の第四版から収載されていた。国会図書館の蔵書データベースでは、72年刊の藤井建『医食同源:中国三千年の健康秘法』が最も早く、のち「医食同源」をうたう書が続出してくる。藤井建氏は私も会ったことがある蔡さんという香港人で、さかんに中国式食養生を宣伝していた。すると新居氏と蔡氏の前後は不詳だが、医食同源は72年に日本で出現した言葉に間違いないだろう(2002, 10, 5追記。新居氏から資料をいただき、蔡氏の書は同年12月刊だったこと、同書を出版した東京スポーツ新聞社の編集者?川北氏が「医食同源」の語彙を蔡氏の書に転用したことが分かり、やはり新居氏の造語だったことが了解された)。」:詳細は、次のホームページを参照されたい。

http://mayanagi.hum.ibaraki.ac.jp/paper04/sinica98_10.htm

ところで、この本の原題は「Eating Well for Optimum Health」である。それにもかかわらず「医食同源」と訳されたのは、この本への訳者の理解力はさることながら、著者の「健康な食生活は健康なライフスタイルの礎石である」という信念とも結びついているからであろう。

また、著者の経歴にもその理由が考えられる。医学博士の著者は、ハーバード大学医学校卒業後、国立精神衛生研究所の研究員、ハーバード大学植物学博物館の民族精神薬理学研究員などをつとめる。また、国際情勢研究所の研究員として北米?南米?アジア?アフリカなどの伝統医学やシャーマニズムを研究する。その実践的研究から、代替医学?薬用植物?変性意識?治癒論の第一人者になる。「タイム誌」の「もっとも影響力を持つ25人の米国人」の一人にも選ばれている。著書に「癒す心、治まる力」、「心身自在」、さまざまな健康?病気に関する問題に答えた「ワイル博士の健康相談1~6」などがある。これらが常に、食と結びついた形で解説されているためでもあろう。

司馬遼太郎は、彼の著書「アメリカ素描」で次のように語る。「(アメリカが)多民族国家であることのつよみは、諸民族の多様な感覚群がアメリカ国内において幾層もの濾過装置を経てゆくことである。そこで認められた価値が、そのまま他民族の地球上に普及することができる」と。

わが国のように、「生命の流れの中」での伝統がないためか、アメリカでは政治、経済、文化、教育をはじめ、社会のあらゆる領域で果敢に新しいものに挑戦し、その時代の判断でよいとされるものがあれば、すぐに導入される。

食文化についても、同時多発的にこのことの壮大な実験が進行している。「訳者あとがき」にも次のことが書かれている。「世界最悪の食事と断罪するファーストフードを蔓延させているかとおもえば、他方では厳密なベジタリアンがふえている。脂肪を諸悪の根源と糾弾するうごきがあるとおもえば、炭水化物こそが諸悪の根源だと主張するうごきもかまびすしい。」

そんなことで、今やアメリカには低炭水化物食、アトキンス食(ロバート?アトキンス博士が唱えた患者中心の補完代替医療、ダイエット指導者)、モンティニャック食(ミッシェル?モンティニャックが唱えた。低インスリンダイエット)、ザ?ゾーン食(ゾーン食を摂取するダイエット法。炭水化物で総カロリー量の40%、タンパク質30%、脂肪30%)などにまつわる理論書とハウツー書がゴマンとある。本書においてワイル博士は、対立するこれらの諸説を子細に検討し、長所?短所をあきらかにしながら、「そもそも人間にとって食とはなんなのか」という原点に立ちもどって、そこから現時点での最終的な解答をひきだそうとしている。

ここで著者は二つの立場で医食同源を眺める。最近の研究成果から俯瞰する医学および栄養学的な視点と、食の快楽やアイデンティティなどを含む文化、精神および霊的な歴史観をもちながらの視点である。すべての対象が、合理的な技術知のみで判断されるようになった現在、生態知にも視点をおいたこの本は、21世紀の「農業と環境と医療の連携」を考えるにふさわしい本の一冊であろう。以下に各章のタイトルと簡単な内容または印象的な文章の断片を記す。

日本の読者へ:

問題は、日本でポピュラーになってしまった西洋型の食事が、じつはもっとも健康によくないもののひとつだったというところにある。

はじめに:

人びとは食生活や栄養に関するおびただしい数の異説?珍説に囲まれている。これらの情報の混乱を整理し、食生活に明快な指針を提供しようとするのがこの本の神髄である。また、健康のための食事と快楽のための食事は、たがいに矛盾しないことを読者に認識させることにある。

第1章 満足な食事の原理:

「満足な食事とは何か」および「混乱する栄養情報」の項目を設定し、たべものや栄養が健康に及ぼす影響の基本となる7つの原則が紹介される。1)人は生きるためにたべる、2)食は快楽の主源である、3)健康食と快楽食は矛盾しない、4)食事は重要な社交の場である、5)たべるものをみれば、その人がわかる、6)食は健康を左右する因子のひとつである、7)食生活の改善は病気対策と健康づくり戦略のひとつである。

第2章 人間の栄養とはなにか

たべものの成分について科学が明らかにしたことがまとめられ、さらにたべものが健康に及ぼす影響を考察しながら、食事と健康に関するさまざまな疑問点が点検される。

まず、低炭水化物と低脂肪食、医学校で教えない栄養学、炭水化物、脂肪、三つの脂肪酸、タンパク質および酵素とレセプターが解説され、「多量栄養素とはなにか」を科学的に解らそうとする。そのうえ、最後にはよく整理された「まとめ」がある。

次に、「炭水化物-生命の素か病気の素か」と題して、いのちの素としての炭水化物、すぐれていた旧石器時代の食生活、食品のグリセミック指数、炭水化物の本質、甘いものはよくない?、農業でなにが変わったのか、精製炭化水素の罪悪、炭水化物感受性、低炭化水素ダイエットのトリック、べに花油ダイエットおよび炭水化物の正しい摂取法が解説される。

続いて、「脂肪-最高の食品か最低の食品か?」と問いかけて、甘味嗜好と脂肪嗜好は進化の産物、脂肪の科学、コレステロールの功罪、動脈硬化をめぐる謎、脂肪の種類が問題だ、必須脂肪酸のバランス、オメガ3とオメガ6の比率、怖い酸化脂肪、主犯級の容疑者?一部水素化油(注:水素添加)、おすすめは単不飽和油、亜麻仁と麻の実をたべよう、やはり魚がいい、とさまざまな解説が進められる。「まとめ」には、ポイントと利用法の目安が整理されている。

さらに、「タンパク質-その必要量は?」と問いかけ、植物性タンパク質は不完全か?、高タンパク質のリスク、動物性タンパク質の問題点、健康にいい肉とは、倫理の問題、乳製品の問題点、魚のタンパク質、植物性タンパク質について詳細な解説がある。最後に、「まとめ」に具体的な対処法が記載さている。

最後は「微量栄養素」で、ビタミン、水溶性ビタミン、脂溶性ビタミン、ミネラル、鉄のとりすぎの危機、カルシウムは牛乳以外から、ナトリウム/カリウム比、セレニウムと亜鉛、繊維、からだにいい植物性化学物質、緑茶のEGCG(エビガロカテキン没食子酸塩)、ポリフェノール群、カロチノイド群、ファイトエストロゲン群、その他の植物性化学物質、植物性化学物質の摂取法、農薬の問題が解説される。文章は、「どんなかたちであれ果物と野菜をたくさんとることは食生活改善のすぐれた方法であり、たべものの治癒作用を活用することになる」で閉められている。

第3章 世界最悪の食事

以下に、著者の文章をそのまま引用する。「わたしは人びとが健康増進のために食習慣を変えることを願うものであり、とくに、こどもたちの食習慣を憂えるものである。こどものころに身についた食習慣は、生涯ひきずりがちだからだ。その一方でわたしは、健康にいい食事もまた、ファーストフードに劣らず美味で、簡便で、ほっとひと安心できるようなものでなければひろく普及しないだろうということにも気づいている。」

第4章 世界最良の食事

旧石器時代の日常食、生食主義、日本の伝統的な日常食、アジア料理、厳格な菜食主義、地中海型日常食について紹介しながら、世界最良の食事を解説する。最後に、世界の優れた日常食から学んだ知識を動員して、一週間のメニューの見本が提示される。最適な健康をめざす食事のサンプルである。

第5章 体重をめぐる問題

北米人を太らせたもの、フランスのパラドックス、遺伝子と肥満、なぜ肥満を嫌悪するのか、やせるライフスタイル、無脂肪?低脂肪のトリック、意識と肥満の関係を説明しながら、体重をめぐる問題の解説がなされる。最後に「まとめ」として、体重に関する知識が整理される。

第6章 買い物と外食-食物の波動について

ラベルの読み方、良質な食品の注意点、よくない食品のラベル、最悪の食品のラベル、ラベル解読の要点、外食で注意すべきこと、食のスピリチュアリティが語られる。最後のスピリチュアリティでは、愛をもってつくられた料理のおいしさが語られる。

第7章 キッチンの錬金術師

「料理は魔術である」、「料理のトレーニング」なる項目をおいて、料理の楽しみを訴える。

第8章 レシピ集

93ページにわたって料理が紹介される。

第9章 日本人の標準となるレシピ集

わが国特有の食材、季節性(春?夏?秋?冬)、嗜好などを考慮した日本人向けのレシピが幕内秀夫氏によって紹介される。これらの内容は、ワイル博士の校閲を受けている。

なお第1章から第7章にわたって、さまざまな人びとの経験を紹介した「治癒の物語」が掲載されている。

付録 A.最適な食事 B.健康状態におうじた食事の注意

訳者あとがき/付録E/原注
補遺:1号の「はじめに」
「情報:農業と環境と医療 1号」の「はじめに」で-北里柴三郎の「医道論」を繙いた。そのなかで-医者を厳しく批判している次の文章を引用した。

いわく「人身ヲ摂生保護シ病ヲ未発ニ防クハ固ヨリ其病ヲ来スノ原因及此レヲ治スルノ方法即チ医術ヲ飽マテモ了解スルニ非サレハ決メ○道ヲ実際ニ施スヲ得ス○ヲ以テ眞ノ医道ヲ施サント欲スルモノハ必ス先ツ医術ヲ充分ニ研究セスンハアル可ラス○術精巧○蘊奥ヲ極メテ始メテ其道行ハル???(注)○筆者不読。乞御教授」とある。

早速-筆者の読めない漢字を北里研究所理事?所長の大村 智先生にご教示いただいた。以下に記してお礼申し上げる。最初の○から順次-「此-此-其-其」という漢字であった。
*本情報誌の無断転用はお断りします。
博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@学長通信
情報:農と環境と医療 2号
編集?発行 博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@学長室
発行日 2005年6月1日