23号
情報:農と環境と医療23号
2007/2/1
第2回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムの内容:(5)環境保全型畜産物の生産から病棟まで
第2回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムの開催主旨、講演プログラム、挨拶、「代替医療と代替農業の連携を考える」、「代替医療-その目標と標榜名の落差について-」および「代替医療と東洋医学-科学的解明によるevidenceを求めて-」については、「情報20:農と環境と医療」および「情報21:農と環境と医療」で紹介した。今回は、「環境保全型畜産物の生産から病棟まで」および「総合討論とアンケート結果」を紹介する。
1.穀物を過剰摂取すると草食動物は死に至る
牛の管理が不十分な時代、柵から離れた牛が穀物を盗食し、突然死亡するという事故がよく発生したので、牛には穀物をたくさん与えてはいけないことは酪農家の誰もが知っている。しかし、輸入穀物飼料は安く手に入る。穀物飼料を給与すると搾乳牛の乳量は増え、肥育牛は霜降り肉となり、収入も増える。牛の第一胃(ルーメン)研究で得られた数々の知見のおかげで穀物を多給する技術が開発された。
昭和59年から63年まで筆者は、日本有数の酪農地帯、北海道十勝に位置する国立試験場に在職していた。往時は、規模拡大が奨励され、酪農家は頭数を増やし、個体乳量を高めることに努力していた。しかし、飼料給与技術が未熟であったこともあり、穀物飼料の多給を原因とする牛の死廃事故が多発し、共済組合の獣医師は治療のため多忙を極めた。このような経験から牛のルーメン発酵の恒常性を維持することの大切さに気づき、正常なルーメン発酵の制御に基づいた飼料給与技術が紹介され、生産者はこの技術を取り入れた。
このような努力のおかげで、日本酪農は世界でもトップ水準の個体乳量を達成した。また、肉牛でも国産和牛の黒毛和種は穀物飼料を多給し、最近ではビタミンAをコントロールする給与技術も開発され、世界一美味しいといわれる霜降り肉を生産している。この様に、乳肉の高位生産技術は、牛の栄養学とルーメン科学の新しい知見によってもたらされたものである。
これに加えて、遺伝子レベルや育種理論に基づいた家畜改良技術の進歩により、家畜の遺伝的能力は飛躍的に向上している。また、省力化のための施設の自動化、IT利用による家畜管理の技術革新に支えられ、大頭数飼養規模のメガファームが各地に出現し、企業的専業経営が家族経営を凌駕しつつある。
日本畜産のアキレス腱は先進諸外国に比べて並はずれて低い飼料の自給率にあることは周知のとおりであるが、輸入穀物であれ、粗飼料であれ、どのような種類の飼料給与においても、ルーメン科学は家畜栄養学の基本となっている。この原理をよく理解し、日常の飼養管理で応用することにより、健康な牛の飼養が可能であり、結果として安全?安心な生産物を消費者に供給することが可能となる。
しかし、草食動物の基本に立ち返れば、穀物ではなく「ウシは繊維質の多い草で飼う」ことにこそ意義がある。牛など反芻家畜のルミノロジーの立場からみれば、この点を生かさなければ、反芻動物を家畜として飼う意味がない。今や、日本畜産は飼料の自給率向上が至上命題となっている。「ウシは繊維質の多い草で飼う」、このあたり前の言葉を反芻しておく必要がある。
2.草食動物は地球を救う「家畜無くして農業なし」
牛の飼養頭数の増加や個体能力の向上は、必然的にエネルギー濃度の高い穀物飼料の需要量を増大する。このため、穀物輸出国では大量の化学肥料や農薬使用による耕種農業の集約化と森林などの耕地化が推し進められ、環境破壊や生物多様性等に大きな影響を及ぼしている。この問題は農産物が国際市場で広域的に取り引きされているため、消費者や国民にとっては身近な問題として意識する機会は少なかった。
また、草食家畜の消化管をはじめ、ふん尿から発生するメタンや亜酸化窒素は地球温暖化の原因として問題になっている。しかし、草食家畜が発生するメタンガスは環境にマイナスの影響を及ぼす一方、土地面積と調和のとれた草食家畜の飼育は環境に対して調和的効果を及ぼすことも知られている。
例えば、短草型の半自然草地の放牧は生物多様性を向上させることや、地球温暖化ガスであるメタンの重要なシンクとして機能していることも認められている。また、耕種と畜産の複合農業システムは堆肥など有機質肥料の供給を介して土壌の物理性や肥沃性を改善する効果があることも古くから知られている。
この様に家畜の最大の貢献は、複合農業システムにおける持続的生産と土地生産力を向上させることである。これまで、こうした家畜による資源利用および資源節約効果の評価は見過ごしがちであったが、今後、このような自然環境保全効果を発揮させる草食家畜の生産システムをどのようなプロセスで我が国の風土に構築し、発展させていくかが重要課題となっている。
特に草地面積の過半数が集中する北海道では放牧は省力?低コスト技術としての期待が大きく、舎飼?多頭数飼養から集約放牧技術に転換を図ることにより、所得率の向上、高額の負債の大幅縮小、省力化を達成した酪農家も見られるようになった。
一方、梅雨から夏期にかけて、高温?多雨?多湿の気象条件下にある西南日本では、旺盛に繁茂する野草資源や短草型草地を活用した周年放牧システムと、水田や林業などとの結合による有畜複合農林業システムなど、新たな農法の取り組みが始まっている。
このような事例は国土保全、水源保全、生物多様性等の自然資源基盤保全の面からも重要である。今後は小規模農業及び家族経営の複合農業でも、養分とエネルギーの経営内あるいは地域内フローをさらに向上させ、持続的生産を達成するための取り組みが期待される。特に地形が複雑で高齢化がすすむ中山間地域では、こういった有畜複合農林業システムの構築が、国土保全や地域社会の存続にとって大切であるばかりでなく、国民への安全?安心な食料供給面からも重要となっている。
3.飼料自給率向上と畜産物の高品質化
平成17年3月に策定された「食料?農業?農村基本計画」(以下「基本計画」という)では、供給熱量総合食糧自給率を平成15年度の40%から平成27年度には45%に高めるという目標数値が示された。この目標を達成するためには、畜産の飼料自給率の向上が極めて重要な課題として位置づけられており、日本畜産にはこの課題の解決を図ることが強く求められている。この「基本計画」には、食の安全と消費者の信頼を確保すること、環境保全を重視すること、担い手の育成および担い手への農地の利用集積を促進することなどがあげられており、これらの課題の解決のための施策が推進されている。
他方、飽食の時代背景を受けて、畜産物は量の生産拡大から高品質化?差別化など質の生産へ移行しており、加えて地産地消の推進、スローフード運動などの高まりなどから、国産畜産物と輸入畜産物の販売?流通?消費ルートについても多様化がさらに進展するものと思われる。
また、最近では食べものと健康との関係について関心が高まっているが、食品化学?分析化学の進展と相まって畜産物には、新規の機能性成分が次々と見いだされ、その効能に期待した特定保健用食品なども商品化されるようになった。この分野の実用的研究は今後、医療領域との連携強化により大いに進展するに違いない。
平成17年6月には望ましい食生活の実現に向けた食育の推進のため、食育基本法が成立した。「基本計画」には食育の他、地域の農業者と消費者を結びつける地産地消を推進することも盛り込まれている。また、食品中の残留する農薬等の基準に係るポジティブリスト制度も施行された。このような背景から自然循環的畜産により産出された畜産物の機能性成分の検出?表示による新しいマーケッティング手法などの開発も国民の食に対する要請に応えるとともに、畜産経営の安定化にとっても大切な課題となっている。
4.食料自給率向上の要請に応えるには
自給という言葉から畜産関係者であれば真っ先に頭に浮かぶのは自給飼料である。しかし、経済効率一辺倒の世相を反映し、畜産関係者さえ、この言葉は軽視されてきた。一般の年輩者には自給から連想するものは、戦中戦後を通して余儀なくされた耐乏生活である。また、国際競争の最前線にいるビジネスマンや、豊かな物質文化を享受している若い世代には、自給という言葉からは時代遅れ、閉鎖的、封建的、頑固などが連想され、かならずしも良い印象はもたれていない。
しかし、昨今は国民の間で自給という言葉が話題に上るようになった。そのひとつはライフスタイルの見直しを通してである。テレビや雑誌などを介して、田舎に移り住んだ芸能人や有名人の自然を楽しむ農的生活が紹介され、手作りや自然の食材等、農的自給生活に多くの人々が関心を示すようになっている。
もうひとつの理由として、食料自給という国の政策に直結する国民的課題が浮上してきたことがある。この背景としては、食料自給率が年々低下し、国民の多くが海外に大きく依存する我が国の食料の供給のあり方に不安を抱くようになったことがあげられる。このように自給という言葉は高度経済成長時代は軽視されがちであったが、団塊世代の大量退職時代を迎え、その意味の大切さが理解され始めている。
一方では農業技術研究者にとっては自給率向上という極めて重い命題が突きつけられていることになる。そこで、ここでは食料自給率の向上に畜産分野として、どのように対処したらよいのかを探るため、食料の消費構造と農地利用の関係から考えてみたい。
近年では家計における食料消費構成は、畜産物のウエイトが高くなっているが、国内の農業生産及び農地利用は、米作偏重の構成となっている。このため、畜産物消費を支える家畜飼養のため、約450万ha以上におよぶ外国の農地で生産された大量の飼料が輸入されている。こうした食料消費と農用地利用構造の不調和が、海外農地の収奪、国内の畜産環境問題、米の過剰生産、農用地利用の低下?荒廃等を引き起こしていることになる。つまり、食卓に並ぶ料理の素材の種類と、土地利用が一致していないことである。
この不調和を解消し、新たな循環型農業を形成するためには、畜産が土地利用型農業の中核を担うことが大切である。具体的には海や河川も視野にいれた林地、耕地(水田)、畜産の有機的結合による調和のとれた複合農業生産システムの構築が課題である。
5.「ハレ」の日は霜降り肉
暮れから新年にかけての「ハレ」の日のテレビ番組は、老舗温泉旅館や高級レストランで高級和牛肉に舌鼓をうつ芸能人やタレントの映像が放映されるのが恒例となっている。ついぞ安い輸入牛肉が登場したことはない。牛丼や焼き肉の外食産業は輸入牛肉、「ハレ」の日は高級和牛肉といった図式がすっかり定着した。輸入牛肉は手軽で安さが売り物のファーストフード、高級和牛肉はお金持ちのスローフード、それもブランド牛、さしづめ地産地消の代表格といえる。牛肉輸入自由化以降、生き残りをかけて国産和牛は高品質牛肉生産で差別化を図り、世界でも例のない霜降り肉生産を実現した。当分の間は、輸入肉が霜降り肉に取って代わることはないであろう。
BSEの発生の影響を受けて、一時低迷した和子牛の市場価格と牛肉価格は、現在、和牛バブルとも称されるくらい、高値で推移している。牛肉輸入の再開にもかかわらず、この勢いはしばらく続きそうである。しかし、全国どこでも「霜降り肉」という単一化(一品目生産)に危うさを感じる人々もいる。
6.環境と調和した畜産物生産から病棟まで
安全?安心な食べものに対する国民的関心は非常に高く、これに昨今の健康志向が拍車をかけている。これまで述べてきたことを背景に、北海道の道南に位置する博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@八雲牧場は94年から輸入穀物飼料の使用を中止し、牧場産自給飼料100%(夏放牧?冬貯蔵飼料)のみで、牛肉生産に取り組んでいる。
その目標とする理念は「自然?食?人の健康を保全する循環型地域社会の構築」である。ここでは和牛の純粋種にこだわらず、寒地山岳丘陵地の厳しい風土でも健康に発育する交雑種を作出し、安全?安心な牛肉生産に取り組んでいる。当然、牛の肉は霜降り肉ではなく、脂肪交雑(サシ)の少ない赤肉となり、低価格で買い取られる。慣行の流通ルートではとても経営は維持できない。幸いにも首都圏生協がこの牛肉の購入に踏み切った。
この取り組みは次第に理解されるようになり、最近では学校給食の食材、地元の老舗温泉旅館の料理、レストランへの提供など、多方面にわたっている。博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@病院の栄養科長が直接、牧場を視察された。有機物肥料が施用された牧場の土壌から、農薬を散布しない健全な牧草が生育する。これを牛がはみ、草食動物の大切な消化器官である第一胃の微生物の働きを介して安全で美味しい赤肉に転換される。この水、土、草、空気など地域資源を活用した無理のない生産方式および牛肉の安全性?健全性が確認され、患者さんの食事としての提供が昨秋から始まった。患者さんからは美味しいと評判もよい。
別の表現をすれば「農と環境と医療」の連携をここに見ることが出来る。そのうえ、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@の公開講座の受講生を受け入れ、大学の顧客としての市民にこのシステムを理解して貰っている。このような実践例はまだ少ないが、草食家畜の生理特性を十分に発揮させ、自然資源の持続的利用を可能にし、畜産本来の理念に基づいた畜産物生産の取り組みは消費者の期待を反映したものであると考えている。
この八雲牧場の生産方式は平成18年度から始まった国の委託研究課題として採択され、地元八雲町への試験普及を開始することになる。北の風土で開発された北里八雲牛の生産から食卓までの取り組みは「農と環境と医療」の実践版として、大学牧場から地域への展開が始まる。
環境保全型畜産物の生産から病棟まで
博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@獣医畜産学部教授
萬田 富治
萬田 富治
1.穀物を過剰摂取すると草食動物は死に至る
牛の管理が不十分な時代、柵から離れた牛が穀物を盗食し、突然死亡するという事故がよく発生したので、牛には穀物をたくさん与えてはいけないことは酪農家の誰もが知っている。しかし、輸入穀物飼料は安く手に入る。穀物飼料を給与すると搾乳牛の乳量は増え、肥育牛は霜降り肉となり、収入も増える。牛の第一胃(ルーメン)研究で得られた数々の知見のおかげで穀物を多給する技術が開発された。
昭和59年から63年まで筆者は、日本有数の酪農地帯、北海道十勝に位置する国立試験場に在職していた。往時は、規模拡大が奨励され、酪農家は頭数を増やし、個体乳量を高めることに努力していた。しかし、飼料給与技術が未熟であったこともあり、穀物飼料の多給を原因とする牛の死廃事故が多発し、共済組合の獣医師は治療のため多忙を極めた。このような経験から牛のルーメン発酵の恒常性を維持することの大切さに気づき、正常なルーメン発酵の制御に基づいた飼料給与技術が紹介され、生産者はこの技術を取り入れた。
このような努力のおかげで、日本酪農は世界でもトップ水準の個体乳量を達成した。また、肉牛でも国産和牛の黒毛和種は穀物飼料を多給し、最近ではビタミンAをコントロールする給与技術も開発され、世界一美味しいといわれる霜降り肉を生産している。この様に、乳肉の高位生産技術は、牛の栄養学とルーメン科学の新しい知見によってもたらされたものである。
これに加えて、遺伝子レベルや育種理論に基づいた家畜改良技術の進歩により、家畜の遺伝的能力は飛躍的に向上している。また、省力化のための施設の自動化、IT利用による家畜管理の技術革新に支えられ、大頭数飼養規模のメガファームが各地に出現し、企業的専業経営が家族経営を凌駕しつつある。
日本畜産のアキレス腱は先進諸外国に比べて並はずれて低い飼料の自給率にあることは周知のとおりであるが、輸入穀物であれ、粗飼料であれ、どのような種類の飼料給与においても、ルーメン科学は家畜栄養学の基本となっている。この原理をよく理解し、日常の飼養管理で応用することにより、健康な牛の飼養が可能であり、結果として安全?安心な生産物を消費者に供給することが可能となる。
しかし、草食動物の基本に立ち返れば、穀物ではなく「ウシは繊維質の多い草で飼う」ことにこそ意義がある。牛など反芻家畜のルミノロジーの立場からみれば、この点を生かさなければ、反芻動物を家畜として飼う意味がない。今や、日本畜産は飼料の自給率向上が至上命題となっている。「ウシは繊維質の多い草で飼う」、このあたり前の言葉を反芻しておく必要がある。
2.草食動物は地球を救う「家畜無くして農業なし」
牛の飼養頭数の増加や個体能力の向上は、必然的にエネルギー濃度の高い穀物飼料の需要量を増大する。このため、穀物輸出国では大量の化学肥料や農薬使用による耕種農業の集約化と森林などの耕地化が推し進められ、環境破壊や生物多様性等に大きな影響を及ぼしている。この問題は農産物が国際市場で広域的に取り引きされているため、消費者や国民にとっては身近な問題として意識する機会は少なかった。
また、草食家畜の消化管をはじめ、ふん尿から発生するメタンや亜酸化窒素は地球温暖化の原因として問題になっている。しかし、草食家畜が発生するメタンガスは環境にマイナスの影響を及ぼす一方、土地面積と調和のとれた草食家畜の飼育は環境に対して調和的効果を及ぼすことも知られている。
例えば、短草型の半自然草地の放牧は生物多様性を向上させることや、地球温暖化ガスであるメタンの重要なシンクとして機能していることも認められている。また、耕種と畜産の複合農業システムは堆肥など有機質肥料の供給を介して土壌の物理性や肥沃性を改善する効果があることも古くから知られている。
この様に家畜の最大の貢献は、複合農業システムにおける持続的生産と土地生産力を向上させることである。これまで、こうした家畜による資源利用および資源節約効果の評価は見過ごしがちであったが、今後、このような自然環境保全効果を発揮させる草食家畜の生産システムをどのようなプロセスで我が国の風土に構築し、発展させていくかが重要課題となっている。
特に草地面積の過半数が集中する北海道では放牧は省力?低コスト技術としての期待が大きく、舎飼?多頭数飼養から集約放牧技術に転換を図ることにより、所得率の向上、高額の負債の大幅縮小、省力化を達成した酪農家も見られるようになった。
一方、梅雨から夏期にかけて、高温?多雨?多湿の気象条件下にある西南日本では、旺盛に繁茂する野草資源や短草型草地を活用した周年放牧システムと、水田や林業などとの結合による有畜複合農林業システムなど、新たな農法の取り組みが始まっている。
このような事例は国土保全、水源保全、生物多様性等の自然資源基盤保全の面からも重要である。今後は小規模農業及び家族経営の複合農業でも、養分とエネルギーの経営内あるいは地域内フローをさらに向上させ、持続的生産を達成するための取り組みが期待される。特に地形が複雑で高齢化がすすむ中山間地域では、こういった有畜複合農林業システムの構築が、国土保全や地域社会の存続にとって大切であるばかりでなく、国民への安全?安心な食料供給面からも重要となっている。
3.飼料自給率向上と畜産物の高品質化
平成17年3月に策定された「食料?農業?農村基本計画」(以下「基本計画」という)では、供給熱量総合食糧自給率を平成15年度の40%から平成27年度には45%に高めるという目標数値が示された。この目標を達成するためには、畜産の飼料自給率の向上が極めて重要な課題として位置づけられており、日本畜産にはこの課題の解決を図ることが強く求められている。この「基本計画」には、食の安全と消費者の信頼を確保すること、環境保全を重視すること、担い手の育成および担い手への農地の利用集積を促進することなどがあげられており、これらの課題の解決のための施策が推進されている。
他方、飽食の時代背景を受けて、畜産物は量の生産拡大から高品質化?差別化など質の生産へ移行しており、加えて地産地消の推進、スローフード運動などの高まりなどから、国産畜産物と輸入畜産物の販売?流通?消費ルートについても多様化がさらに進展するものと思われる。
また、最近では食べものと健康との関係について関心が高まっているが、食品化学?分析化学の進展と相まって畜産物には、新規の機能性成分が次々と見いだされ、その効能に期待した特定保健用食品なども商品化されるようになった。この分野の実用的研究は今後、医療領域との連携強化により大いに進展するに違いない。
平成17年6月には望ましい食生活の実現に向けた食育の推進のため、食育基本法が成立した。「基本計画」には食育の他、地域の農業者と消費者を結びつける地産地消を推進することも盛り込まれている。また、食品中の残留する農薬等の基準に係るポジティブリスト制度も施行された。このような背景から自然循環的畜産により産出された畜産物の機能性成分の検出?表示による新しいマーケッティング手法などの開発も国民の食に対する要請に応えるとともに、畜産経営の安定化にとっても大切な課題となっている。
4.食料自給率向上の要請に応えるには
自給という言葉から畜産関係者であれば真っ先に頭に浮かぶのは自給飼料である。しかし、経済効率一辺倒の世相を反映し、畜産関係者さえ、この言葉は軽視されてきた。一般の年輩者には自給から連想するものは、戦中戦後を通して余儀なくされた耐乏生活である。また、国際競争の最前線にいるビジネスマンや、豊かな物質文化を享受している若い世代には、自給という言葉からは時代遅れ、閉鎖的、封建的、頑固などが連想され、かならずしも良い印象はもたれていない。
しかし、昨今は国民の間で自給という言葉が話題に上るようになった。そのひとつはライフスタイルの見直しを通してである。テレビや雑誌などを介して、田舎に移り住んだ芸能人や有名人の自然を楽しむ農的生活が紹介され、手作りや自然の食材等、農的自給生活に多くの人々が関心を示すようになっている。
もうひとつの理由として、食料自給という国の政策に直結する国民的課題が浮上してきたことがある。この背景としては、食料自給率が年々低下し、国民の多くが海外に大きく依存する我が国の食料の供給のあり方に不安を抱くようになったことがあげられる。このように自給という言葉は高度経済成長時代は軽視されがちであったが、団塊世代の大量退職時代を迎え、その意味の大切さが理解され始めている。
一方では農業技術研究者にとっては自給率向上という極めて重い命題が突きつけられていることになる。そこで、ここでは食料自給率の向上に畜産分野として、どのように対処したらよいのかを探るため、食料の消費構造と農地利用の関係から考えてみたい。
近年では家計における食料消費構成は、畜産物のウエイトが高くなっているが、国内の農業生産及び農地利用は、米作偏重の構成となっている。このため、畜産物消費を支える家畜飼養のため、約450万ha以上におよぶ外国の農地で生産された大量の飼料が輸入されている。こうした食料消費と農用地利用構造の不調和が、海外農地の収奪、国内の畜産環境問題、米の過剰生産、農用地利用の低下?荒廃等を引き起こしていることになる。つまり、食卓に並ぶ料理の素材の種類と、土地利用が一致していないことである。
この不調和を解消し、新たな循環型農業を形成するためには、畜産が土地利用型農業の中核を担うことが大切である。具体的には海や河川も視野にいれた林地、耕地(水田)、畜産の有機的結合による調和のとれた複合農業生産システムの構築が課題である。
5.「ハレ」の日は霜降り肉
暮れから新年にかけての「ハレ」の日のテレビ番組は、老舗温泉旅館や高級レストランで高級和牛肉に舌鼓をうつ芸能人やタレントの映像が放映されるのが恒例となっている。ついぞ安い輸入牛肉が登場したことはない。牛丼や焼き肉の外食産業は輸入牛肉、「ハレ」の日は高級和牛肉といった図式がすっかり定着した。輸入牛肉は手軽で安さが売り物のファーストフード、高級和牛肉はお金持ちのスローフード、それもブランド牛、さしづめ地産地消の代表格といえる。牛肉輸入自由化以降、生き残りをかけて国産和牛は高品質牛肉生産で差別化を図り、世界でも例のない霜降り肉生産を実現した。当分の間は、輸入肉が霜降り肉に取って代わることはないであろう。
BSEの発生の影響を受けて、一時低迷した和子牛の市場価格と牛肉価格は、現在、和牛バブルとも称されるくらい、高値で推移している。牛肉輸入の再開にもかかわらず、この勢いはしばらく続きそうである。しかし、全国どこでも「霜降り肉」という単一化(一品目生産)に危うさを感じる人々もいる。
6.環境と調和した畜産物生産から病棟まで
安全?安心な食べものに対する国民的関心は非常に高く、これに昨今の健康志向が拍車をかけている。これまで述べてきたことを背景に、北海道の道南に位置する博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@八雲牧場は94年から輸入穀物飼料の使用を中止し、牧場産自給飼料100%(夏放牧?冬貯蔵飼料)のみで、牛肉生産に取り組んでいる。
その目標とする理念は「自然?食?人の健康を保全する循環型地域社会の構築」である。ここでは和牛の純粋種にこだわらず、寒地山岳丘陵地の厳しい風土でも健康に発育する交雑種を作出し、安全?安心な牛肉生産に取り組んでいる。当然、牛の肉は霜降り肉ではなく、脂肪交雑(サシ)の少ない赤肉となり、低価格で買い取られる。慣行の流通ルートではとても経営は維持できない。幸いにも首都圏生協がこの牛肉の購入に踏み切った。
この取り組みは次第に理解されるようになり、最近では学校給食の食材、地元の老舗温泉旅館の料理、レストランへの提供など、多方面にわたっている。博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@病院の栄養科長が直接、牧場を視察された。有機物肥料が施用された牧場の土壌から、農薬を散布しない健全な牧草が生育する。これを牛がはみ、草食動物の大切な消化器官である第一胃の微生物の働きを介して安全で美味しい赤肉に転換される。この水、土、草、空気など地域資源を活用した無理のない生産方式および牛肉の安全性?健全性が確認され、患者さんの食事としての提供が昨秋から始まった。患者さんからは美味しいと評判もよい。
別の表現をすれば「農と環境と医療」の連携をここに見ることが出来る。そのうえ、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@の公開講座の受講生を受け入れ、大学の顧客としての市民にこのシステムを理解して貰っている。このような実践例はまだ少ないが、草食家畜の生理特性を十分に発揮させ、自然資源の持続的利用を可能にし、畜産本来の理念に基づいた畜産物生産の取り組みは消費者の期待を反映したものであると考えている。
この八雲牧場の生産方式は平成18年度から始まった国の委託研究課題として採択され、地元八雲町への試験普及を開始することになる。北の風土で開発された北里八雲牛の生産から食卓までの取り組みは「農と環境と医療」の実践版として、大学牧場から地域への展開が始まる。
第2回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムの内容:(6)総合討論とアンケート結果
シンポジウムの開催にあたり、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@の柴忠義学長の挨拶があった。そこでは、現代医学や現代農学のみでは収まりきれない問題を、伝統医学?代替医療あるいは代替農業の面から再び見直し、改めて医と農についての相互理解を深め、人の生命に関する総合化を目ざすための連携の糸口を見出すことの必要性が語られた(参照:「情報20:農と環境と医療」)。これを受けて、まず「代替医療と代替農業の連携を考える」と題した基調講演が行われた(参照:「情報20:農と環境と医療」)。
その後、医学の立場から「代替医療-その目標と標榜の落差について-」と題して、代替医療の必要性が語られた。ここでは、最後に次のことが強調された。欧米で根付いた経験の浅い東洋医学よりも、発祥の地の東洋で西洋医学のセンスで磨かれた代替医療を世界的スタンダードとすることが望まれている。今回のようなセミナーを通して、近隣諸国や世界に強くアピールして、日本が東洋医学の宗主国たる立場を確立する必要がある(参照:「情報21:農と環境と医療」)。
続いて農学の側から、「代替農業-その由来とねらい-」と題して、代替農業前史、代替農業の由来とねらい、代替農業の評価と可能性が語られた。この代替農業がその発足から20年を経て、いまアメリカやヨーロッパで着実に進展しつつあることが解説された(参照:「情報22:農と環境と医療」)。
代替医療と代替農業の紹介に続いて、具体的な内容に話が進んだ。初めに、医学の立場から「代替医療と東洋医学-"科学的解明によるevidenceを求めて-"」と題して、次のことが強調された。
代替医療は医療の選択肢を広げるものであり、すでに伝統医学が古来より用いられてきた日本は、代替医療について常に情報を発信できる先導的な役割を国際的に果たしていくことができる。農医連携は、すでに獣医東洋医学として、経済活動やペットなど動物に対する漢方、鍼灸治療が行われている。農医連携はこのように食や動物、植物資材などとの関連の中ですでに始まっている(参照:「情報21:農と環境と医療」)。
代替農業の具体的な例として「環境保全型農業を巡って」と題して、環境保全型農業と持続型農業、環境保全型農業における環境、農業による環境負荷、循環型社会形成と環境保全型農業、環境保全型農業の発展および環境保全型農業に対する支援策などが解説された(参照:「情報22:農と環境と医療」)。
最後に、農医連携の現場の事例として「環境保全型畜産物の生産から病棟まで」と題した講演が行われた。100%牧場産自給飼料から生産された牛肉を、大学病院などに支給する構造とシステムが紹介された(参照:「情報23:農と環境と医療」)。
これらの講演が終わった後、山田陽城と陽 捷行を座長におき総合討論が行われた。総合討論は42分という比較的短い時間であった。にもかかわらず、会場から積極的な意見が数多く出た。いずれも農医連携の必要性を前提にした貴重な意見であった。延べ10人の発言者と6人の講演者との間の質疑と討論を以下にまとめた。
質疑の内容は、八雲牧場の成り立ちは?、陸稲の栽培研究は?、園芸療法は農医連携に含まれるか?、および環境保全型農業の普及は?の4点であった。これらについては、それぞれ関連する講演者に回答をいただいた。
討論の主要な課題は、代替農業と代替医療の連携を可能にする「ガンの免疫と食生活」であった。その内容は、1)外国からの輸入食料に含まれる害物質と免疫、2)アロマセラピー(芳香性の物質を外用する治療?健康法。心理的作用が大きく、ストレスの緩和などに効果があるとされる。アロマテラピー)と免疫、3)水の機能と水に含まれる有害物質と免疫、に整理することができる。
これらの課題は、以下に示す山田陽城(図1)と陽 捷行(図2)の図を中心に討論が行われた。これらについての個々のやりとりは、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@のホームページで直接ご覧いただけるので、関心のある方はそれを参照していただきたい(/jp/noui/spread/symposium/sympo02.html)。
その後、医学の立場から「代替医療-その目標と標榜の落差について-」と題して、代替医療の必要性が語られた。ここでは、最後に次のことが強調された。欧米で根付いた経験の浅い東洋医学よりも、発祥の地の東洋で西洋医学のセンスで磨かれた代替医療を世界的スタンダードとすることが望まれている。今回のようなセミナーを通して、近隣諸国や世界に強くアピールして、日本が東洋医学の宗主国たる立場を確立する必要がある(参照:「情報21:農と環境と医療」)。
続いて農学の側から、「代替農業-その由来とねらい-」と題して、代替農業前史、代替農業の由来とねらい、代替農業の評価と可能性が語られた。この代替農業がその発足から20年を経て、いまアメリカやヨーロッパで着実に進展しつつあることが解説された(参照:「情報22:農と環境と医療」)。
代替医療と代替農業の紹介に続いて、具体的な内容に話が進んだ。初めに、医学の立場から「代替医療と東洋医学-"科学的解明によるevidenceを求めて-"」と題して、次のことが強調された。
代替医療は医療の選択肢を広げるものであり、すでに伝統医学が古来より用いられてきた日本は、代替医療について常に情報を発信できる先導的な役割を国際的に果たしていくことができる。農医連携は、すでに獣医東洋医学として、経済活動やペットなど動物に対する漢方、鍼灸治療が行われている。農医連携はこのように食や動物、植物資材などとの関連の中ですでに始まっている(参照:「情報21:農と環境と医療」)。
代替農業の具体的な例として「環境保全型農業を巡って」と題して、環境保全型農業と持続型農業、環境保全型農業における環境、農業による環境負荷、循環型社会形成と環境保全型農業、環境保全型農業の発展および環境保全型農業に対する支援策などが解説された(参照:「情報22:農と環境と医療」)。
最後に、農医連携の現場の事例として「環境保全型畜産物の生産から病棟まで」と題した講演が行われた。100%牧場産自給飼料から生産された牛肉を、大学病院などに支給する構造とシステムが紹介された(参照:「情報23:農と環境と医療」)。
総合討論
これらの講演が終わった後、山田陽城と陽 捷行を座長におき総合討論が行われた。総合討論は42分という比較的短い時間であった。にもかかわらず、会場から積極的な意見が数多く出た。いずれも農医連携の必要性を前提にした貴重な意見であった。延べ10人の発言者と6人の講演者との間の質疑と討論を以下にまとめた。
質疑の内容は、八雲牧場の成り立ちは?、陸稲の栽培研究は?、園芸療法は農医連携に含まれるか?、および環境保全型農業の普及は?の4点であった。これらについては、それぞれ関連する講演者に回答をいただいた。
討論の主要な課題は、代替農業と代替医療の連携を可能にする「ガンの免疫と食生活」であった。その内容は、1)外国からの輸入食料に含まれる害物質と免疫、2)アロマセラピー(芳香性の物質を外用する治療?健康法。心理的作用が大きく、ストレスの緩和などに効果があるとされる。アロマテラピー)と免疫、3)水の機能と水に含まれる有害物質と免疫、に整理することができる。
これらの課題は、以下に示す山田陽城(図1)と陽 捷行(図2)の図を中心に討論が行われた。これらについての個々のやりとりは、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@のホームページで直接ご覧いただけるので、関心のある方はそれを参照していただきたい(/jp/noui/spread/symposium/sympo02.html)。
図1.農医の世界(原図:山田陽城)
図2.連鎖と正?負の影響(原図:陽 捷行)
ここで提案された意見などは、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムをはじめ農医連携に関わる研究、教育、普及に今後取り入れていきたいと考えている。
総合討論を終えた後、参加者のうち72名の方からアンケートをいただいた。アンケートの内容は、1)代替医療と代替農業、2)連携、3)運営、4)その他、に大別できた。これらの意見をまとめることに吝かではないが、生の意見を感じていただくためにアンケートを直接紹介する。なお、一部原文の漢字などを修正した。また、類似した内容は重複を避けた。
1.代替医療と代替農業
2.連携
3.運営
4.その他
最後にこの情報誌上を借りて、総合討論に熱心に参加され、アンケートを快くお引き受けいただいた参加者にお礼申し上げる。また、参加者のご希望に即して第3回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムは、「鳥インフルエンザ:農と環境と医療の視点から」と題して開催する。
アンケート
総合討論を終えた後、参加者のうち72名の方からアンケートをいただいた。アンケートの内容は、1)代替医療と代替農業、2)連携、3)運営、4)その他、に大別できた。これらの意見をまとめることに吝かではないが、生の意見を感じていただくためにアンケートを直接紹介する。なお、一部原文の漢字などを修正した。また、類似した内容は重複を避けた。
1.代替医療と代替農業
- 代替農業、代替医療の定義についてよく理解することができました。「代替」という言葉が 米国からの視点?表現だという印象があった(特に医療について)が、演者らの説明でそうではない意識があるのだということがわかりました。農については今後は現在第一線で活躍 されている方も巻き込んで会が更に発展することを願います。〔30代?女〕
- 「代替」の意味、山口先生のお話でよくわかりました。いつまでも宗教やオカルトにしておいてはいけない。そのために科学的なアプローチをねばり強く探し続けて下さい。 〔50代?男〕
- 代替医療?代替農業の意味がよく分かりませんでしたが、講演を聞き、大変意義あるシンポジウムと思いました。特に医と農が連携する事に意味があると思います。私共では低温スチーム技術(40~95℃)により食品加工バイオマスの堆肥化、畜産廃棄物処理、土壌改良、低温スチームによる医療応用等(バクテリアコントロール)による応用技術研究等を進めております。私共では医学、農学部が無く、他の大学、研究機関の連携を必要として おります。是非御仲間に加えて戴きたく思いました。〔60代?男〕
- この分野について初めて知りましたが、私が求めていたものを発見した気持ちで大変興味深く聴かせていただきました。人が生きるためには、食と環境が整っていることが純粋に大切だと思います。長く看護の仕事をしていましたが、人は自然に目を向けることで更に自然治癒力を高められるのではないかと考え、現在農学を学んでいます。研究者の方々の動向が楽しみです。〔40代?女〕
- 内容的には大変興味深く、勉強になりました。言葉の定義や概念についてですが、「代替」という言葉について、本質規定と概念規定ともにもっと厳密に説明できるような視点向けた議論も重要ではないかと思いました。また、「代替農業」という概念を今後使うのか、使わないのか、というような整理もいるのではないかと思いました。〔40代?男〕
- 農医連携関係の基礎研究の支援システム(研究費等)作りが発展に繋がる。〔50代?男〕
- 一般論的な解説であった。現場の報告から農医の発展的な解明を与えるスピーチが必要。健康な環境づくりについて、聞きたかった。〔50代?男〕
- 一般論としての概念については理解できたが、歴史的な話が多く、将来像や具体的方策についての話題提供がもう少し欲しかった。〔40代?男〕
- 熊澤教授の10万人エコファーマーの地域支援を望む。土の小動物と根、堆肥と品質向上も興味深いものでした。〔60代?女〕
- 医療と農業について、それぞれ「代替」という切り口により連携を探ろうとする試みは意義あるものと感じた。大変興味深く拝聴しました。〔40代?女〕
- 近未来に、必須テーマとなると考えられるので、極めて興味深い。初めてまとめて聞くことができて、参考になった。今後も追跡したい。〔60代?男〕
- 何に対する代替かを考えると、近代化(肥料、農薬、機械)に対するとなる。近代化は西洋が開発したもので、代替は東洋の伝統となる。しかし、東洋にとってみれば全く逆になるのではないか?医学は漢方で伝統をわずかでも引継いでいることが分かった。日本の医学は過去を否定して成立しているが、医学が漢方の伝統を引継いだ方策を学ぶべきでは? 〔50代?男〕
- 代替農業についての経済的な裏付けが欲しい。今日本の国を支えているのはITや諸工業等、2次、3次産業です。1次産業の人口より2次、3次産業の人口がずっと多い。 〔30代?男〕
- 私はレストラン会社に勤務していますが、本日のシンポジウムでは外食産業の社会的な役割について新しい視点を持つことができました。「医と食」から「農と食」の関係は同義ですね。〔50代?男〕
- 医療と農業を分けて1つ1つ十分に解説討論して欲しかった。内容が農がもっとよく聞きたいと思った。〔70代?男〕
- 「代替医療と代替農業の連携を考える」と「環境保全型農業を巡って」については、独自にさらに学習をして深めたいと思うが、「代替医療と東洋医学」については知識が乏しく、もう少し詳細に聞きたかった。〔60代?男〕
- 農の部分が環境に偏り、医と少し離れていたかと思います。今後も期待します。 〔30代?男〕
2.連携
- 農と医の連携が不明確である。即ち、各研究発表は優れておりますが、健康な農地から得た食や漢方薬が、ヒトの健康にどのように反映されているか?その評価法は?など。(漢方薬のメカニズムと農の関連性がわからなかった)〔60代?男〕
- 農医連携というタイトルになっているが、1人1人の講演内容が連携について十分に述べられていないと感じた。医療サイドから農業サイドに求めるものと、農業サイドから医療サイドに提案したいものが、もっと明確になると良いと思う。〔30代?女〕
- 代替医療と代替農業の内容は理解できたが、農と医の連携となると、どう具体的に繋がるのかよくわからなかった。まだ探っているというところなのかな。しかし、総合討論で了解できた。〔50代?男〕
- 代替医療、代替農業を取り上げたことは、現在の問題点を整理する上で有効であった。なお、これらのテーマが農医連携にどのように結びつくのかが難しかった。〔未記入〕
- まだ農と医が連携していない気がします。〔30代?男〕
- 昔から医食同源と云われ、これは農と医となる。更に環境も医に農にも関係するこれから特に重大な課題である。萬田先生の八雲農場の畜産の話は良かった。今の畜産は牛のブロイラーであるといつも私は悪口を云っていた。〔70代?男〕
- 都市の環境悪化がどんどん進んでいる状況の下で農業と医学の連携を生かした新しい都市の在り方を考えて頂きたい。〔80代?男〕
- 農の環境を整備することによって医にどのように貢献しているか。新しい企画であるだけに、運営等に難しさはあると思いますが、今後の活動を期待しております。軸足をしっかり定めて下さい。農(土壌)の環境(虫、微生物、有機物...)と漢方薬、いわゆる健食の成分の変化。相模原のモナの丘の研究が面白そう。単なる研究発表の場で終わらないようにお願いいたします。〔60代?男〕
- 縄張り争いをする研究者に期待するよりも、アウトプットを左右するユーザーとしての消費者、市民が仲を取り持ってくれるかも知れません。ディスカッションには是非、市民(特に女性)の参加を考えて下さい。それと、教育、そしてそれを担う教師はターゲットでしょう。〔50代?男〕
- 農業→水質→環境、農業→農薬→環境との関わりで興味がある。特に水質と農業。遺伝子組換え農産物と健康問題。〔70代?男〕
- 農と医が連携してはじめて人の健康が見えてくる。〔50代?男〕
- 人の営みに直結した非常に前向きで今後が楽しみな取り組みだと思いました。〔20代?男〕
- 健康番組に関心が高まり、紹介された食品がすぐに店頭から消えるようなことは異常だと思う。科学的根拠なりをこのような「農医連携」の中からぜひ危険性を明らかにして欲しい(安易なブームを)。化学的肥料や農薬使用に対して不信感、不安感が消費者側ではぬぐえない。しかし、有機農産物は万能ではないと思う。医食同源であれば、もっと有機農産物の有効性が証明されるような取り組みをすべきだと思う。〔40代?男〕
- 薬学、医学、水産、畜産学部などがある博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@の特長を生かして、学生レベルでも"連携教育"を考えられたら良いと思います(チーム医療教育のように)。〔40代?女〕
- 看護師ですが、園芸療法に興味があり、社会人入試で所属大学に入学し、勉強中です。「環境保全型畜産物の生産から病棟まで」というプログラムは面白く、これを野菜や米でもできないものかと感じました。畜産医学の農業分野でも連携して行う価値はあると考えます。病院という、人の健康に関わる場所からの提案は社会的にも大きな関心をもって受け止められると思います。それが農業の在り方を変える可能性は高いのではないでしょうか。 〔30代?女〕
- 食物摂取と健康との関わりについて研究を進めることが重要と思います。また、農業と医療を支える思想、原理、方法の整理が必要と思います。教育についても連携を図るべきと思います。〔40代?男〕
- 農と食と医療をつなぐものとして「水」の視点は非常に興味があると同時に「土」というファクターも必要ではないか(特に山田先生の図)。まだ農医が2つの柱として別々のものに思えた。〔30代?男〕
- 医農はあるが、園芸福祉(農業福祉)等の連携も考えたらどうか?〔60代?男〕
- 専門だけの科では患者は減らないし、病気に対応できない。また、「心」の問題もWHOで取り上げられ、患者自身と環境もみんなで考えなければ食も環境も安全にはならないところに来ていると思います。〔50代?男〕
- このテーマは農、医療、環境それぞれの問題点を連携し、考え方をかえることによって克服していく可能性を持つ大変重要なテーマだと思う。〔60代?男〕
- 実例を示した「代替医療と東洋医学」の演題が非常に良かった。農の側からの提案が弱い。真の連携には何か具体的な例が欲しい。〔未記入〕
- 予防医学との関連も深いかと思います。研究内容に期待しています。〔50代?女〕
- 連携の必要性、思想的なものも含めて理解できる。次の課題として、具体的な研究課題の立ち上げが必要と考えます。〔未記入〕
- 北里大の意気込みがよく伝わってきました。農医連携にリーダーシップを発揮されることを期待します。〔50代?男〕/農と医療を結ぶ研究をさらに進めて下さい。〔40代?男〕
- 非常に重要で興味深いテーマだと思います。〔40代?男〕
- 健全な社会を構築する上で大変重要な取り組みと思います。ぜひ着実な発展をされますよう期待しております。〔70代?男〕
- 三者の連携の上に人間(地球も)の健康が成り立つと思うが、具体的に健康を望む個人に対してどのようにアプローチしていくべきなのか、どうすればこの連携が活かされるのか。その方策を今後ぜひ研究していただきたい。〔40代?女〕
- 共通言語を持つためには、時間がかかると思います。是非、地道な努力を継続して下さい。全体の枠組みやイメージを与える講演も必要ですが、萬田先生のような実例に基づくお話も必要だと思います。未確認ですが、本の他にホームページでシンポジウムの成果公表を考えて下さい。〔50代?男〕
- 農業従事者の担い手の育成、やる気のある者への応援策も考えなければならない。 〔40代?男〕
3.運営
- 第1回も大変内容的に良かったのですが、それ以上に充実した内容に感心しました。今後も期待いたします。〔60代?男〕
- 「実践編」と言われた、萬田先生の肉牛生産の話は面白かった。主催者にとって難しい講師の時間配分がコントロールされていて"歯切れいい"シンポジウムだった。〔60代?男〕
- 盛りだくさんの充実した内容でした。運営も行き届いていました。ありがとうございました。〔50代?女〕/大変興味深く参加させていただきました。〔60代?男〕/今後もこの
- ようなシンポジウムを続けて欲しい。〔70代〕/大変スムーズに運営されていたと思います。〔40代?女〕/貴重なお話し、ありがとうございました。興味深く良い内容だったと思います。〔50代?女〕/今後も期待します。〔30代?男〕
- お茶タイム、エネルギーの基ありがとうございました。米≒放牧牛、エネルギーの基ありがとうございました。博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@八雲牧場、叡智と実践、生命科学のフロンティアをめざして。〔60代?女〕
- 大変良い環境で気持ちよく話が聴けました。会場のトイレの数が少ないので他の場所の表示をしていただければよいと思います。〔40代?女〕
- ディスカッションの時間が短すぎる。〔未記入〕/討論の時間がもっとあると良いと思いました。〔20代?女〕
- 具体的なテーマを設定して議論を深めた方がよいと思います。報告書のパワーポイントが配付されているとありがたいです。〔40代?男〕
- 日本の「自給率向上」を一段と高めるにあたって、何が基本課題か...を是非取り上げていって下さい。〔70代?男〕
- 次回からはテーマを明確にして、具体的な事例から、さまざまな先生が意見を言えればと思う。女性の発表を望む。土と食の健康についての分野での発表が欲しい。〔50代?男〕
4.その他
- 内閣府、厚生労働省、農林水産省の協力のもと進められている研究であれば、最近の我が日本国において、老人大国となる一方、出生率の低下による農業環境の中で活動する"高齢化"による農業ばなれ、また、医療事故等の最近の社会環境が非常に対応が難しい状態となり、医療に携わる人の質の低下、専門医療に携わる医者不足、看護師等の不足等の社会環境整備を国の施策的問題として改善していくことが最も重要と考える。〔60代?男〕
- 人が生きていくためには農業が大切である。しかし日本はその農業を見ないでひたすら工業化をすすめてきた。本日のシンポジウムは日本の農業について改めて考えさせてくれるものであった。それとともに萬田先生のお話を聞き、一歩一歩八雲牛が地元密着となり地域を盛りあげる一つとなっている確認もできた。大学は先導をとらなければいけない。経営は後でついてくるという言葉が特に心に残った。〔40代?男〕
- 環境に関する新しい研究分野のありか(所在)、可能性を探るために参加しました。最近、大学でも「持続可能性」を冠する研究科ができています。その背景について大変参考になりました。〔50代?男〕
- 大学の取り組みをアピールするのは必要だが、種々の取り組みが他大学でもされていると思われるが、どの範囲までシンポジウム開催にあたり演者に声をかけているのでしょうか。〔40代?男〕
- 南魚沼の将来にどのように今回の考え方を反映させられるかを考えさせられました。〔60代?男〕
- 民間団体の事例についても注目する必要があると思う。〔40代?男〕
- 漢方薬の原料素材の安全性?品質管理はどのようになっているのか心配しております。 〔60代?男〕
最後にこの情報誌上を借りて、総合討論に熱心に参加され、アンケートを快くお引き受けいただいた参加者にお礼申し上げる。また、参加者のご希望に即して第3回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムは、「鳥インフルエンザ:農と環境と医療の視点から」と題して開催する。
Agromedicineを訪ねる(9):JournalofAgromedicine
以下のことは、「情報:農と環境と医療 10号」ですでに書いた。「農医連携」という言葉は、生命科学全般を思考する博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@で新しく使用しはじめたものだ。それに相当する英語に、例えばAgromedicine がある。1988年に設立された The North American Agromedicine Consortium (NAAC) は、Journal of Agromedecine という雑誌と博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@レターを刊行している。この雑誌の話題には、農業者の保健と安全性、人獣共通伝染病と緊急病気、食料の安全性、衛生教育、公衆衛生などが含まれる。今回は先回に続いて、Journal of Agromedicine の第11巻の目次とアブストラクトの一部を紹介する。
第11巻2号(2006)
第11巻2号(2006)
第11巻2号(2006)
- Several Perspectives Provide Insight into Hispanic Farm Workers' Issues
- Recent Animal Disease Outbreaks and Their Impact on Human Populations Over the past 20 years, headlines have documented an increasing number of emerging diseases; most have an animal source (zoonoses). Recent examples include West Nile virus, severe acute respiratory syndrome (SARS), avian influenza, and monkeypox. While some emerging diseases occur among both humans and animals, others affect only animals or only humans. Nevertheless, all these new or reemerging infections have societal implications, often tied to local and national economies. It is important to understand the implications of emerging animal diseases and encourage stronger collaboration of veterinary and medical practitioners,especially in rural areas. Illnesses in agricultural workers may be the index cases for newly emerging diseases.
Keywords: Emerging diseases, zoonotic diseases, animal and human health - Response Accuracy of Hazard Identification in Migrant Farmworkers
Keywords: Proxy respondents, prevalence, sensitivity, specificity, migrant, farmworker - Educational Needs Assessment for Pediatric Health Care Providers on Pesticide Toxicity Keywords: Pediatricians, nurses, children, pesticides, continuing medical education, continuing education, attitudes, beliefs, practices
- Proportionate Mortality Among Current and Former Members of the United Farm Worke rs of America, AFL-CIO, in California 1973-2000
Keywords: Farm worker, deaths, epidemiology - Personal Dust Exposures at a Food Processing Facility
Keywords: Dust exposure, food processing, food dust - Stakeholder Analysis of Florida Farmworker Housing
Keywords: Farmworkers, housing policy, stakeholder analysis, Florida - An Agromedicine Initiative for First-Year Medical Students, 1998-2004 Biochemistry Seminar Proves Feasible
Keywords: Medical education, curriculum, biochemistry, teaching agromedicine, environmental medicine, preventive medicine
第11巻2号(2006)
- Offering Answers and Insight into Occupational Health Dangers for a Variety of Populations
- Incidence of Hematologic Malignancies in Agriculture
- Pesticides: What Is the Role of Toxicovigilance
- Barriers and Benefits of Protective Eyewear Use by Latino Farm Workers
Keywords: Migrant farm workers, Hispanic workers, immigrant health, eye injuries, safety eyewear, ocular hazards, agricultural eye injuries - Training Methods and Association with Worker Injury on Colorado Dairies: A Survey Keywords: Safety training, task-related training, work-related injury, agricultural safety, dairy worker training
- Treating Skin Disease: Self-Management Behaviors of Latino Farmworkers
Keywords: Farmworkers, dermatology, occupational health, self-care, medical care, health beliefs, health behavior, home remedies, over-the-counter medicine, health care barriers - Spanish-Speaking Dairy Workers in New York, Pennsylvania, and Vermont: Results from a Survey of Farm Owners
Keywords: Dairy employees, Spanish-speaking workers, Hispanic - Ache, Pain, and Discomfort: The Reward for Working with Many Cows and Sows?
Keywords: Agriculture, animal farming, dairy production, pig production, farmers, farm workers, work environment, musculoskeletal disorders, questionnaire, risk factors - Fatal Work-Related Injuries in the Agriculture Production Sector Among Youth in the United States, 1992-2002
Keywords: Agriculture, occupational accidents, adolescent, child mortality - California Surveillance for Pesticide-Related Illness and Injury: Coverage, Bias,and Limitations
Keywords: California [epidemiology], pesticides [toxicity], poisoning, population surveillance, program evaluation - Effectiveness of Cleaning Practices in Removing Pesticides from Home Environments
Keywords: Pesticides, environment, hygiene, organophosphorus, farmworkers
本の紹介24:感染症-広がりと防ぎ方-、井上 栄著、中公新書1877(2006)
目に見えない病原体が、多くの病気の原因になっている。肉眼で見えないものが自分の生命や動物たちを脅かすとなると、人は不安になる。出血熱、肺炎、脳炎、狂犬病、BSE(牛海綿状脳症)、SARS(重症急性呼吸器症候群)など、マスメディアは世界中の感染症を恐怖を煽りながら取り上げる。風評被害という形でも、旅行、食品業界などに大きな影響が出る。
この冬、ノロウイルスによる感染性胃腸炎が大流行している。国立感染研究所の発表する患者数も、統計が開始された昭和56(1981)年以来の最高値を記録している。30種以上の遺伝子型があるノロウイルスのなかでも、今年のGII4型は、人から人へ感染する特徴があるという。
本書は、この情報過多の現代、われわれがこのような感染症をどう理解し、どのように対処するか、どのような予防対策を取るべきかを提示してくれる。治療よりも予防が重要である感染症という病気が、わかりやすく解説される。
まず本書では、動物と異なる人間に特徴的な伝播様式は何かが明確にされる。そして、産業革命の時代の工業都市で広がった伝染病の伝播経路に人間がどのように介入し、解決してきたかが述べられる。
次に、工業国を離れて地球規模で感染症を眺める。そこには、人にとって新型の病原体が発生していることに気づく。それがどのような条件で生まれるか、グローバル時代に国境を越える病原体とは何かが解説される。
他には、居住環境をいくら整備しても伝播を抑えられない伝染病の解説がある。先進国で将来いちばん重要になる感染症、すなわち、咳でうつる(新型)インフルエンザと性交でうつるエイズについての説明である。これらは、人間の行動と文化の様態で対処できるという。ここでは費用をかけない対処方法が解説される。
著者は、1992年に「文明とアレルギー病(講談社)」を、2000年に一般読者にむけて「感染症の時代(講談社現代新書)」を書いた、国立感染症研究所感染症情報センター初代センター長であった。現在は、大妻女子大学の教授で健康教育に従事している。内容は、はじめに、第1章:病原体の伝播経路を知る、第2章:清潔化の歴史、第3章:清潔社会で起こる感染症、第4章:世界のなかの感染症、第5章:新型インフルエンザ、第6章:エイズ/性感染症、おわりに、からなる。
第1章の「なぜ日本人SARS感染者がゼロであったのか」では、病原体の一般的な伝播経路が解説され、SARSウイルスの伝播経路と香港団地でのSARSの様子が紹介される。そして、日本にSARSが入ってきても、団地やホテルでの感染はなかったであろうことが、香港の高層団地と日本の団地?ホテルのトイレ排水管の構造の比較から説明される。
人間の行動は動物のそれとは異なることから、感染症についての「人間と動物の違い」が解説される。動物はトイレを使わない、人間は服を着て、喋り、手を洗う。これが違い。一方、人間は、自分の遺伝子に変化がなくても、生活?行動様式を変えてきたが、病原体は人間の行動変化に対して自分の遺伝子を変えてきた。病原体は進化するのである。
「人間での伝播経路」では、ウイルス?細菌の人体への侵入と排出、さらには体外へ出た病原体がどんな媒体で運搬されるか詳述される。「清潔な日本人」では、箸や風呂を使う習慣やコンドーム使用率の高さなど日本人の清潔な行動様式が、人から人への伝播を少なくしていると強調する。さらに、有気音の少ない日本語の発音も病原菌の伝播に関係していると説く。
第2章では、産業革命による新しい伝播経路の誕生の歴史と、これに伴う上下水道設備による衛生行政の進歩が解説される。また、水が病原体を運ぶ「水系伝染病」というスノーの発見が語られる。接触?吸入?摂取などのすべての経路で人から人へと病気がうつることを、彼は病気の伝達?伝染とよんだ。このような病気は、のちに伝染病とよばれるようになった。
このことから、疫学調査が発展した。スノーの理論の正しさを医学的に証明する機会が訪れたのは、コレラの流行である。わが北里柴三郎の師のコッホが、コレラ菌を発見するのもこのスノーの論理の延長線上にある。
「塩素消毒の大発見」では、塩素の作用、安全な塩素濃度、A型肝炎の消滅、ノロウイルスの生活環が説明される。「埃が運んだ病原体」では、埃がもたらした天然痘や工場労働者の結核についてページを割いている。
第3章では、「ノロウイルスはなぜひろがるのか」、「施設内伝染病」、「食品は細菌の培地」および「清潔社会でのワクチンの役割」の項が立てられ、清潔な社会のなかで局地的に発生する感染症についてわかりやすい解説がなされる。
そして最後の「疫学調査の体制」では、「迅速な調査」と「研修員の身分と国際協力」の必要性が強調される。危険な病原体は日本国内ではなく外国にあること、とくに社会と環境が激変しつつあるアジアにあることに注目し、これらの諸国と連携協力しあうことが大切と説く。そのことが、世界の安全、そして当然のことだが日本の安全につながるのである。
第4章は、世界全体に視点を広げる。「新型ウイルスの出現」では、活発な人類の活動による動物ウイルスの人間への伝播様式が4つのパターンに類型化される。パターン1は、ユーラシア大陸で腎症候性出血熱を起こす野ネズミが保有しているハンタウイルスなどである。感染者から他の人へは感染しない。
パターン2は、ニパウイルス脳炎などのように野生動物から家畜に広がり、家畜に接触した人が感染するもので、人から人への広がりはない。1997年の香港、2003年のオランダ、2003年以降に東アジアから世界に広がった高病原性鳥インフルエンザによる感染がこの型である。
パターン3は、米国に1999年に定着した西ナイルウイルスの例である。ウイルスを保有した蚊または鳥が、飛行機で中近東から米国へ生きたまま運ばれ、米国で土着の蚊または鳥にウイルスをうつしたと考えられるパターンである。鳥→蚊、蚊→鳥のウイルス増幅サイクルが定着する。人から人へのウイルス伝播はおこらないが、ウイルスを保有する蚊に指された人のなかで、一部の人の中で脳炎がおこる。人から人へのウイルス伝播はおこらない。
動物から人へとウイルスがうつり、さらに人間のあいだで次々に感染が広がるのが、パターン4である。感染拡大に、衛生状態の悪い地域に限定される場合と国境を越え先進国でも広がる場合とがある。前者の例はエボラ出血熱など、後者の例はインフルエンザとエイズである。
「特殊病原体プリオンの伝播経路」では、非生物病原体の牛海綿状脳症(BSE)の解説と予防原則が語られる。「海外旅行者の感染症」では、若い人の感染症が多いこと、下痢症の対応、生水とA型肝炎の関係、狂犬病の話しなどが様々なデータを駆使して紹介される。
第5章は、国連を始め多くの国が現在もっとも危惧している新型インフルエンザである。「鳥インフルエンザVS人インフルエンザ」では、鳥インフルエンザの説明、高病原性化のメカニズム、人インフルエンザの広がり方、インフルエンザウイルスの伝染力?伝播力などが解説される。
「スペイン風邪の再来を防ぐ」では、新型インフルエンザであった「スペイン風邪」が全身感染でなく肺胞での増殖であったことが語られる。そのため、このウイルスは生命機能を脅かすことで「強毒」ウイルスであった。したがって、呼吸筋は侵されずに咳は強く、ウイルスはまき散らされたという。そこで、事前準備計画の在り方や、咳患者にマスクの適用をなどが解説される。
第6章はエイズと性感染症である。これらに対しては、清潔な居住環境をつくるという文明化では対処することはできず、新しい文化や行動様式が必要であると説く。「性感染症が女性に増えた」では、性感染症全体の説明があり、女性の性感染症が増加した現象が解説される。続いて性感染症の種類と特徴が詳しく紹介される。
「エイズの特徴」では、伝播様式、世界の状況、麻薬中毒とエイズ、一次予防、清潔な性接触について解説される。「日本人のコンドーム文化」では、産児制限、10代への性教育、立場の違い、ある審議会などの項目が立てられ、コンドームの重要性が語られる。
この冬、ノロウイルスによる感染性胃腸炎が大流行している。国立感染研究所の発表する患者数も、統計が開始された昭和56(1981)年以来の最高値を記録している。30種以上の遺伝子型があるノロウイルスのなかでも、今年のGII4型は、人から人へ感染する特徴があるという。
本書は、この情報過多の現代、われわれがこのような感染症をどう理解し、どのように対処するか、どのような予防対策を取るべきかを提示してくれる。治療よりも予防が重要である感染症という病気が、わかりやすく解説される。
まず本書では、動物と異なる人間に特徴的な伝播様式は何かが明確にされる。そして、産業革命の時代の工業都市で広がった伝染病の伝播経路に人間がどのように介入し、解決してきたかが述べられる。
次に、工業国を離れて地球規模で感染症を眺める。そこには、人にとって新型の病原体が発生していることに気づく。それがどのような条件で生まれるか、グローバル時代に国境を越える病原体とは何かが解説される。
他には、居住環境をいくら整備しても伝播を抑えられない伝染病の解説がある。先進国で将来いちばん重要になる感染症、すなわち、咳でうつる(新型)インフルエンザと性交でうつるエイズについての説明である。これらは、人間の行動と文化の様態で対処できるという。ここでは費用をかけない対処方法が解説される。
著者は、1992年に「文明とアレルギー病(講談社)」を、2000年に一般読者にむけて「感染症の時代(講談社現代新書)」を書いた、国立感染症研究所感染症情報センター初代センター長であった。現在は、大妻女子大学の教授で健康教育に従事している。内容は、はじめに、第1章:病原体の伝播経路を知る、第2章:清潔化の歴史、第3章:清潔社会で起こる感染症、第4章:世界のなかの感染症、第5章:新型インフルエンザ、第6章:エイズ/性感染症、おわりに、からなる。
第1章の「なぜ日本人SARS感染者がゼロであったのか」では、病原体の一般的な伝播経路が解説され、SARSウイルスの伝播経路と香港団地でのSARSの様子が紹介される。そして、日本にSARSが入ってきても、団地やホテルでの感染はなかったであろうことが、香港の高層団地と日本の団地?ホテルのトイレ排水管の構造の比較から説明される。
人間の行動は動物のそれとは異なることから、感染症についての「人間と動物の違い」が解説される。動物はトイレを使わない、人間は服を着て、喋り、手を洗う。これが違い。一方、人間は、自分の遺伝子に変化がなくても、生活?行動様式を変えてきたが、病原体は人間の行動変化に対して自分の遺伝子を変えてきた。病原体は進化するのである。
「人間での伝播経路」では、ウイルス?細菌の人体への侵入と排出、さらには体外へ出た病原体がどんな媒体で運搬されるか詳述される。「清潔な日本人」では、箸や風呂を使う習慣やコンドーム使用率の高さなど日本人の清潔な行動様式が、人から人への伝播を少なくしていると強調する。さらに、有気音の少ない日本語の発音も病原菌の伝播に関係していると説く。
第2章では、産業革命による新しい伝播経路の誕生の歴史と、これに伴う上下水道設備による衛生行政の進歩が解説される。また、水が病原体を運ぶ「水系伝染病」というスノーの発見が語られる。接触?吸入?摂取などのすべての経路で人から人へと病気がうつることを、彼は病気の伝達?伝染とよんだ。このような病気は、のちに伝染病とよばれるようになった。
このことから、疫学調査が発展した。スノーの理論の正しさを医学的に証明する機会が訪れたのは、コレラの流行である。わが北里柴三郎の師のコッホが、コレラ菌を発見するのもこのスノーの論理の延長線上にある。
「塩素消毒の大発見」では、塩素の作用、安全な塩素濃度、A型肝炎の消滅、ノロウイルスの生活環が説明される。「埃が運んだ病原体」では、埃がもたらした天然痘や工場労働者の結核についてページを割いている。
第3章では、「ノロウイルスはなぜひろがるのか」、「施設内伝染病」、「食品は細菌の培地」および「清潔社会でのワクチンの役割」の項が立てられ、清潔な社会のなかで局地的に発生する感染症についてわかりやすい解説がなされる。
そして最後の「疫学調査の体制」では、「迅速な調査」と「研修員の身分と国際協力」の必要性が強調される。危険な病原体は日本国内ではなく外国にあること、とくに社会と環境が激変しつつあるアジアにあることに注目し、これらの諸国と連携協力しあうことが大切と説く。そのことが、世界の安全、そして当然のことだが日本の安全につながるのである。
第4章は、世界全体に視点を広げる。「新型ウイルスの出現」では、活発な人類の活動による動物ウイルスの人間への伝播様式が4つのパターンに類型化される。パターン1は、ユーラシア大陸で腎症候性出血熱を起こす野ネズミが保有しているハンタウイルスなどである。感染者から他の人へは感染しない。
パターン2は、ニパウイルス脳炎などのように野生動物から家畜に広がり、家畜に接触した人が感染するもので、人から人への広がりはない。1997年の香港、2003年のオランダ、2003年以降に東アジアから世界に広がった高病原性鳥インフルエンザによる感染がこの型である。
パターン3は、米国に1999年に定着した西ナイルウイルスの例である。ウイルスを保有した蚊または鳥が、飛行機で中近東から米国へ生きたまま運ばれ、米国で土着の蚊または鳥にウイルスをうつしたと考えられるパターンである。鳥→蚊、蚊→鳥のウイルス増幅サイクルが定着する。人から人へのウイルス伝播はおこらないが、ウイルスを保有する蚊に指された人のなかで、一部の人の中で脳炎がおこる。人から人へのウイルス伝播はおこらない。
動物から人へとウイルスがうつり、さらに人間のあいだで次々に感染が広がるのが、パターン4である。感染拡大に、衛生状態の悪い地域に限定される場合と国境を越え先進国でも広がる場合とがある。前者の例はエボラ出血熱など、後者の例はインフルエンザとエイズである。
「特殊病原体プリオンの伝播経路」では、非生物病原体の牛海綿状脳症(BSE)の解説と予防原則が語られる。「海外旅行者の感染症」では、若い人の感染症が多いこと、下痢症の対応、生水とA型肝炎の関係、狂犬病の話しなどが様々なデータを駆使して紹介される。
第5章は、国連を始め多くの国が現在もっとも危惧している新型インフルエンザである。「鳥インフルエンザVS人インフルエンザ」では、鳥インフルエンザの説明、高病原性化のメカニズム、人インフルエンザの広がり方、インフルエンザウイルスの伝染力?伝播力などが解説される。
「スペイン風邪の再来を防ぐ」では、新型インフルエンザであった「スペイン風邪」が全身感染でなく肺胞での増殖であったことが語られる。そのため、このウイルスは生命機能を脅かすことで「強毒」ウイルスであった。したがって、呼吸筋は侵されずに咳は強く、ウイルスはまき散らされたという。そこで、事前準備計画の在り方や、咳患者にマスクの適用をなどが解説される。
第6章はエイズと性感染症である。これらに対しては、清潔な居住環境をつくるという文明化では対処することはできず、新しい文化や行動様式が必要であると説く。「性感染症が女性に増えた」では、性感染症全体の説明があり、女性の性感染症が増加した現象が解説される。続いて性感染症の種類と特徴が詳しく紹介される。
「エイズの特徴」では、伝播様式、世界の状況、麻薬中毒とエイズ、一次予防、清潔な性接触について解説される。「日本人のコンドーム文化」では、産児制限、10代への性教育、立場の違い、ある審議会などの項目が立てられ、コンドームの重要性が語られる。
資料の紹介6:特集テーマ「ウイルスと生物-感染症、がん、そして進化?共生へ-」 イリューム、Vol.18,No.2(2006)
「イリューム」は、科学?技術とヒューマニズムの交叉がもたらす人間の多彩な創造活動をとらえ、科学教育の発展と科学ジャーナリズムの振興にわずかでも寄与することを願い、社会的貢献活動の一環として、東京電力が刊行している雑誌である。毎号二万部印刷し、高校の理科の教師にも配布している雑誌と聞いている。
東京電力トップページURLから、「おもしろ情報館」内の「科学情報誌イリューム」(http://www.tepco.co.jp/custom/illume/index-j.html)にアクセスすると、 1989年発行のvol.1のNo.1の第1号からvol.18No.2の第36号までの目次と簡単な内容が見られる。また、請求すれば最新号が贈与される。
今回の特集のタイトルは、「ウイルスと生物-"感染症、がん、そして進化?共生へ」である。内容は、次の通りである。
○ 「人工合成で究めるインフルエンザウイルス」:河岡義裕(東京大学医科学研究所、ウイルス感染分野教授、感染症国際センター長)インフルエンザウイルスは普通の顕微鏡では見えないほど小さい。ほとんどRNAとタンパク質だけからできていて、成り立ちも簡単である。そんなウイルスが、人類の歴史のなかで何度も数多くの人を殺した。ニワトリの大量死も頻繁に起こしている。それが、人での世界的大流行(パンデミック)につながる可能性が危惧されている。
パンデミックは、ウイルスが変化するために起きる。そのメカニズムが近年の研究で解明されてきた。また、ウイルスの合成もワクチン製造に不可欠の技術となるが、近年その成果も上がってきている。
著者はこうしたウイルスの研究について、自身の研究を中心に次の項目を立てて解説する。「ウイルスとの出会い」、「ヒトと鳥のインフルエンザ」、「インフルエンザウイルスにはさまざまな型がある」、「すべてのウイルスの起源は水鳥にあり」、「ウイルスはどんどん変化する」、「新型ウイルス登場のしくみを証明」、「ストリーはほかにもある」、「病原性を決める要因を探れ!」、「ひらめきが立証されるまで六年かかった」、「インフルエンザウイルスの完全人工合成」、「ラッキーが重なった成功」、「ウイルス合成は究極のリバース?ジェネティックス」、「望み通りのワクチンをつくる」、「ウイルス研究の夢」。
最後の「ウイルス研究の夢」で著者は語る。ウイルスがなぜ動物を殺すことができるか。これは大変興味ある課題だ。だが、ウイルスを病原体としてだけ見るのは、人間の勝手であり、公平性を欠いている。カモのインフルエンザは、宿主であるカモに何の症状も引き起こさない。そういうウイルスは他にもたくさんいるはずだが、病気につながらないので見過ごされている。宿主に悪影響を及ぼさないのだから、遺伝子治療のベクターとして使えるかも知れない、と。
○ 「ウイルス感染を受けつづけるヒト。その解決策は共生関係だった。」:五條堀孝(国立遺伝学研究所 生命情報?DDBJ研究センター長?教授)これは、レトロウイルスが他の生物よりもはるかに早く進化すること、つまり「遺伝的に速く変化すること」を発見した五條堀孝氏と、イリュームの編集長の松尾義之氏との対談である。
この発見は、ウイルスのイメージに革命をもたらした。このことから、同じウイルスが異なる生物種にも感染することが、広く認められるようなった。ウイルスはどんどん進化し、生物種を超えて感染するという新しいウイルス観は、現在進められているインフルエンザ対策の前提としても生かされている。
ウイルスの存在は何を意味するのか、ウイルスは生物の進化とどのように関わってきたのか、生命とウイルスの関連と最近の五條堀氏の研究成果が語られる。
○ 「がんウイルスと分子生物学-"ウイルスの面白さは尽きることがない」:吉田光昭(東京大学大学院新領域創成科学研究科 客員教授、東京大学名誉教授)肉腫遺伝子yesの発見、成人T細胞白血球の原因ウイルスHTLV-1の発見、HTLV-1の全塩基配列の決定、HTLV-1の発がん機構の解明など輝かしい研究業績をあげた分子生物学者によって書かれたものである。
「ガンウイルスとの遭遇」に始まり、「がんウイルスが分子生物学を開く鍵」、「逆転写酵素の発見」、「ウイルスから細胞遺伝子へ」、「ヒトのがん遺伝子」、「がん抑制遺伝子」、「ヒトレトロウイルスの発見」、「ATLの原因論」などが、ウイルスとガンの研究史とともに解説される。
最後の項目「残された問題は古い課題」では、Tax遺伝子が発現していない細胞がなぜ表現型を示すのか、ATLを発症する人としない人がいるのはなぜか、がんの「悪性度」とは増殖性のことか、「ウイルスとの共存」は疾患対策にもつながる、などの課題を解説し、ウイルスの面白さは尽きることがないと結ぶ。
○ 「パンデミックを阻止せよ! 国境を越えたウイルス感染症との戦い」:中村雅美(日本経済新聞社 編集委員) WHO(世界保健機関)のEPR部門(Epidemic and Pandemic Alert and Response:地球規模感染症警戒対策部)のホームページ冒頭に書かれている文章は、「インフルエンザパンデミックは突然起こり、人びとの健康を支える社会体制に過度の要求を課す。(人間が作りあげたあらゆる社会制度)の弱点がさらけ出され、膨大な患者と死者が生じ、経済活動や発展は破壊される可能性が高い」。
病気の流行であるepidemicが、人びと(demic)の間に(epi)、であるのに対して、パンデミック(pandemic)は、すべての(pan)人びとの間に流行することを意味する。国立感染症研究所感染症情報センターでは、パンデミックを「新型インフルエンザウイルス、あるいは過去に流行したがすでに人びとが免疫を持たなくなっているようなインフルエンザウイルスが、人の世界で広範かつ急速に、人から人へ感染して広がり、世界的に大流行している状態」と説明している。
確実に、このパンデミックが忍び寄る兆候はあるという。監視ターゲットのひとつに鳥インフルエンザウイルスH5N1がある。この徴候を、1918年のスペインかぜ、2003年のSARS、さらに2006年の鳥インフルエンザの死亡者数から追う。
東京電力トップページURLから、「おもしろ情報館」内の「科学情報誌イリューム」(http://www.tepco.co.jp/custom/illume/index-j.html)にアクセスすると、 1989年発行のvol.1のNo.1の第1号からvol.18No.2の第36号までの目次と簡単な内容が見られる。また、請求すれば最新号が贈与される。
今回の特集のタイトルは、「ウイルスと生物-"感染症、がん、そして進化?共生へ」である。内容は、次の通りである。
○ 「人工合成で究めるインフルエンザウイルス」:河岡義裕(東京大学医科学研究所、ウイルス感染分野教授、感染症国際センター長)インフルエンザウイルスは普通の顕微鏡では見えないほど小さい。ほとんどRNAとタンパク質だけからできていて、成り立ちも簡単である。そんなウイルスが、人類の歴史のなかで何度も数多くの人を殺した。ニワトリの大量死も頻繁に起こしている。それが、人での世界的大流行(パンデミック)につながる可能性が危惧されている。
パンデミックは、ウイルスが変化するために起きる。そのメカニズムが近年の研究で解明されてきた。また、ウイルスの合成もワクチン製造に不可欠の技術となるが、近年その成果も上がってきている。
著者はこうしたウイルスの研究について、自身の研究を中心に次の項目を立てて解説する。「ウイルスとの出会い」、「ヒトと鳥のインフルエンザ」、「インフルエンザウイルスにはさまざまな型がある」、「すべてのウイルスの起源は水鳥にあり」、「ウイルスはどんどん変化する」、「新型ウイルス登場のしくみを証明」、「ストリーはほかにもある」、「病原性を決める要因を探れ!」、「ひらめきが立証されるまで六年かかった」、「インフルエンザウイルスの完全人工合成」、「ラッキーが重なった成功」、「ウイルス合成は究極のリバース?ジェネティックス」、「望み通りのワクチンをつくる」、「ウイルス研究の夢」。
最後の「ウイルス研究の夢」で著者は語る。ウイルスがなぜ動物を殺すことができるか。これは大変興味ある課題だ。だが、ウイルスを病原体としてだけ見るのは、人間の勝手であり、公平性を欠いている。カモのインフルエンザは、宿主であるカモに何の症状も引き起こさない。そういうウイルスは他にもたくさんいるはずだが、病気につながらないので見過ごされている。宿主に悪影響を及ぼさないのだから、遺伝子治療のベクターとして使えるかも知れない、と。
○ 「ウイルス感染を受けつづけるヒト。その解決策は共生関係だった。」:五條堀孝(国立遺伝学研究所 生命情報?DDBJ研究センター長?教授)これは、レトロウイルスが他の生物よりもはるかに早く進化すること、つまり「遺伝的に速く変化すること」を発見した五條堀孝氏と、イリュームの編集長の松尾義之氏との対談である。
この発見は、ウイルスのイメージに革命をもたらした。このことから、同じウイルスが異なる生物種にも感染することが、広く認められるようなった。ウイルスはどんどん進化し、生物種を超えて感染するという新しいウイルス観は、現在進められているインフルエンザ対策の前提としても生かされている。
ウイルスの存在は何を意味するのか、ウイルスは生物の進化とどのように関わってきたのか、生命とウイルスの関連と最近の五條堀氏の研究成果が語られる。
○ 「がんウイルスと分子生物学-"ウイルスの面白さは尽きることがない」:吉田光昭(東京大学大学院新領域創成科学研究科 客員教授、東京大学名誉教授)肉腫遺伝子yesの発見、成人T細胞白血球の原因ウイルスHTLV-1の発見、HTLV-1の全塩基配列の決定、HTLV-1の発がん機構の解明など輝かしい研究業績をあげた分子生物学者によって書かれたものである。
「ガンウイルスとの遭遇」に始まり、「がんウイルスが分子生物学を開く鍵」、「逆転写酵素の発見」、「ウイルスから細胞遺伝子へ」、「ヒトのがん遺伝子」、「がん抑制遺伝子」、「ヒトレトロウイルスの発見」、「ATLの原因論」などが、ウイルスとガンの研究史とともに解説される。
最後の項目「残された問題は古い課題」では、Tax遺伝子が発現していない細胞がなぜ表現型を示すのか、ATLを発症する人としない人がいるのはなぜか、がんの「悪性度」とは増殖性のことか、「ウイルスとの共存」は疾患対策にもつながる、などの課題を解説し、ウイルスの面白さは尽きることがないと結ぶ。
○ 「パンデミックを阻止せよ! 国境を越えたウイルス感染症との戦い」:中村雅美(日本経済新聞社 編集委員) WHO(世界保健機関)のEPR部門(Epidemic and Pandemic Alert and Response:地球規模感染症警戒対策部)のホームページ冒頭に書かれている文章は、「インフルエンザパンデミックは突然起こり、人びとの健康を支える社会体制に過度の要求を課す。(人間が作りあげたあらゆる社会制度)の弱点がさらけ出され、膨大な患者と死者が生じ、経済活動や発展は破壊される可能性が高い」。
病気の流行であるepidemicが、人びと(demic)の間に(epi)、であるのに対して、パンデミック(pandemic)は、すべての(pan)人びとの間に流行することを意味する。国立感染症研究所感染症情報センターでは、パンデミックを「新型インフルエンザウイルス、あるいは過去に流行したがすでに人びとが免疫を持たなくなっているようなインフルエンザウイルスが、人の世界で広範かつ急速に、人から人へ感染して広がり、世界的に大流行している状態」と説明している。
確実に、このパンデミックが忍び寄る兆候はあるという。監視ターゲットのひとつに鳥インフルエンザウイルスH5N1がある。この徴候を、1918年のスペインかぜ、2003年のSARS、さらに2006年の鳥インフルエンザの死亡者数から追う。
言葉の散策13:獣
語源を訪ねる 語意の真実を知る 語義の変化を認めるそして 言葉の豊かさを感じ これを守る
旧字はと犬とに従う。は「(さん)なり。耳頭足、地を(ふ)むの形に象(かたど)る」と家畜の義に解するが、の上部は長い羽飾のついた楯の形で、狩猟のときに用いるもの。その狩猟の成功を祈って、前に祝の器、(さい)をおく。
即ちは狩猟前の祈りを意味する字である。それに猟犬を加えたものが獣であるから、字はもと狩猟を意味し、猟の本字である。
獣頭刻辞(じゅうとうこくじ)といわれるものは、狩猟で得た重要な獲物に刻辞して、祖霊にささげるものであった。両足を禽、四足を獣といい、また家養を畜、野生のものを獣という。狩猟の対象となるものである。
逐獣者目不見太山(じゅうをおうものは、めにたいざんをみず)は、けものを追う者は太山のような大きな山でも目にはいらない。目の前の利に迷うと対局を忘れるたとえである。
獣聚鳥散(じゅうしゅうちょうさん)は、けもののように集まり、鳥のようにちらばる。非常にすばやいたとえ。
参考資料
字統:白川 静、平凡社(1994)
角川必携漢和辞典:小川環樹?尾崎雄二郎?都留春雄編、角川書店(1996)
旧字はと犬とに従う。は「(さん)なり。耳頭足、地を(ふ)むの形に象(かたど)る」と家畜の義に解するが、の上部は長い羽飾のついた楯の形で、狩猟のときに用いるもの。その狩猟の成功を祈って、前に祝の器、(さい)をおく。
即ちは狩猟前の祈りを意味する字である。それに猟犬を加えたものが獣であるから、字はもと狩猟を意味し、猟の本字である。
獣頭刻辞(じゅうとうこくじ)といわれるものは、狩猟で得た重要な獲物に刻辞して、祖霊にささげるものであった。両足を禽、四足を獣といい、また家養を畜、野生のものを獣という。狩猟の対象となるものである。
逐獣者目不見太山(じゅうをおうものは、めにたいざんをみず)は、けものを追う者は太山のような大きな山でも目にはいらない。目の前の利に迷うと対局を忘れるたとえである。
獣聚鳥散(じゅうしゅうちょうさん)は、けもののように集まり、鳥のようにちらばる。非常にすばやいたとえ。
参考資料
字統:白川 静、平凡社(1994)
角川必携漢和辞典:小川環樹?尾崎雄二郎?都留春雄編、角川書店(1996)
*本情報誌の無断転用はお断りします。
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情報:農と環境と医療23号 -
編集?発行 博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@学長室
発行日 2007年2月1日