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農医連携教育研究センター 研究ブランディング事業

45号

情報:農と環境と医療45号

2008/12/1
第6回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムの内容:(3)食生活の現状と課題-健康維持?おいしさ?安全性の連携-
平成20年10月24日に開催された第6回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムのうち、演題「食生活の現状と課題‐健康維持?おいしさ?安全性の連携‐」を紹介する。残りの演題と総合討論については、次号以降に順次紹介する。なお、「開催にあたって」と「食品安全委員会の5年間の取組と今後の課題」については、情報44号に掲載した。

食生活の現状と課題‐健康維持?おいしさ?安全性の連携‐

博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@保健衛生専門学院講師 多賀昌樹 旭久美子 大村正史

1.食生活における管理栄養士の役割(多賀昌樹)

食物は、ヒトの生命維持に欠かせないものである。我々は古来より、食材を調理し、みんなで食事をするという食習慣を持つ。健全な食習慣を営み、健康な生活をしたいと願っている。すなわち食物は健康の維持、QOL(Quality of Life)の向上、疾病の予防?治療など、生活の基礎や医学的にも重要な役目を担っているのであるが、一方で、現在、食品の安全性?機能性をめぐる様々な問題が発生しており、食材?食糧についての関心が非常に高くなっている。

食生活には、1)肉体的な健康の維持の機能 2)精神的な健康の維持の機能 3)社会的な健康の維持の機能 4)食文化伝承の機能 5)教育的機能があるとされており、食事をすることにより我々は、これらの機能により生命を維持してきた。

しかしながら戦後日本の食生活は、科学技術の発展、経済成長により、グルメ化?インスタント化?ヘルシー化へと変遷してきた。これにより、糖尿病やメタボリックシンドロームをはじめとする生活習慣病や、超高齢社会となった日本の食生活において、健康の維持?おいしさ?食の安全性の連携が非常に重要項目となっている。

生活習慣病の予防またメタボリックシンドローム?糖尿病になってもできる限り薬を使わず食事や運動で自己管理を行い治療?予防をしていこうという考え方が広がっている。このような現在の食生活の中で、食材と疾病予防?治療を行う職としての管理栄養士の専門性に期待がもたれるようになった。管理栄養士は、1962年栄養士法の一部改正により誕生し、栄養士にはできない複雑、困難な栄養指導を行う者として定義され、その後2000年に栄養士法の改正が行われ、管理栄養士は「厚生労働大臣の免許を受けて、管理栄養士の名称を用いて、傷病者に対する療養のため必要な栄養の指導、個人の身体の状況、栄養状態等に応じた高度の専門知識及び技術を要する健康の保持増進のための栄養の指導並びに特定多数人に対して継続的に食事を供給する施設における利用者の身体の状況、栄養状態、利用の状況等に応じた特別の配慮を必要とする給食管理及びこれらの施設に対する栄養改善上必要な指導等を行うことを業とする者。」と定義づけられた。

管理栄養士の専門的?学問的基盤となる「栄養学」は人の身体や健康、食べ物、栄養成分、食にかかわる行動や、社会環境の3つの要素から成り立っている。すなわち、学問体系からみると「栄養学」の分野は、医学?農学?家政学の分野をカバーした学問体系となっており、管理栄養士がかかわる教育研究領域は、食品に含まれる様々な成分の機能性に関する研究教育、食生活の改善による一次予防(食育)、二次予防(メタボリックシンドロームに対する特定検診?特定保健指導など)、三次予防としての福祉(高齢者施設)、また、疾患治療におけるベッドサイドでの栄養管理(チーム医療における栄養サポートチームのメンバー)としての知識技術が教育されている。

今回、食生活の現状と課題「健康維持?おいしさ?安全性の連携」の中で、農と医を結ぶわれわれの取り組みについて2例紹介する。

引用文献
  1. 食生活論[第3版]、福田靖子ら編、朝倉出版、2007
  2. 改訂食生活論、川端晶子ら、建帛社、2008
  3. からだの科学「これからの管理栄養士」、吉池信男ら編、日本評論社、2008

2.北里八雲牛との取り組み(旭 久美子)

国民の栄養状態―国民健康?栄養調査の結果―

近年、生活習慣病や肥満などの増加から、栄養問題が注目されている。さらに4月より40歳以上の全国民を対象とした、特定検診や特定保健指導が開始され、健康増進のための栄養が重要視されている。平成18年国民健康?栄養調査結果では、生活習慣病有病者(糖尿病)は4年前に比べ500万人増加し、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の状況は40歳から74歳でみると強く疑われるもの又は予備群と考えられる者は男性の2人に1人、女性の5人に1人である。また、肥満者は男性ではいずれの年齢階級においても20年前、10年前に比べ増加しており、特に30~60歳の男性の3割が肥満である。
栄養素摂取状況から推察すると、エネルギー摂取量は漸減傾向であるが、炭水化物摂取量が減少し、脂肪エネルギー比率が30%以上の者の割合は、20歳以上の男性で約2割、女性で3割と漸増していた。さらに食生活状況は、朝食の欠食率が高くなり、夕食の開始時間の遅延化傾向が見られ食生活改善が必要と思われる。

八雲牛の栄養的特性
北里八雲牛は、化学肥料を一切使用していない100%牧草の牧場自給飼料で飼育されている、安全安心なヘルシアビーフである。その栄養学的特徴は、慣行肥育牛に比べ抗がん作用や動脈硬化予防など第三次機能をもつ成分に優れている。特に、脂肪酸組成は霜降り牛に比べn-6系/n-3が適正値の4程度と低い。特に共役リノール酸は、抗肥満、脂質代謝改善作用、インスリン抵抗性の改善などさまざまな生理機能が報告されており、その濃度も約2倍と高値である。さらに欠乏すると貧血を引き起こす鉄、味覚障害や免疫力低下を引き起こす亜鉛、エネルギー代謝に重要な役割を演じているマグネシウムも多く含まれている。よって栄養学的にも生活習慣病予防として適した食材といえる。

保健衛生専門学院管理栄養科の取り組み
本年度より本学院ではヘルシアビーフの北里八雲牛を使用した加工食品や病院食レシピ開発プロジェクトを立ち上げた。肉の栄養特性や食味を生かした料理の開発を教育の一環として取り組んだ。学生を対象とした官能検査では、オージービーフと比較すると硬さ?臭いは劣るが、見た目(色)や味は優れているものが多いという結果が得られた。また、本学院PPA総会昼食会で保護者へ提供したカレーでは、硬いと答えたものは17%と低値であった。よって歯ごたえがあり味が良い特徴を生かした調理法を考え、美味しい料理にしていく授業が実践されている。
今後は、これらの肉の栄養的?官能的特性を生かして生活習慣病予防の観点から、八雲牛を使用した加工食品や病院食の開発を教育の場で実践していきたいと考えている。

引用文献
  1. 健康?栄養情報研究会編:厚生労働省平成18年国民健康?栄養調査報告、第一出版2008
  2. Tsuneishi,E.,M.Matsuzaki,N.Shiba,S.Hara:Conjugated Linoleic Acid Concentrations in Adipose Tissues of Japanese Black Fattening Steers, Animal Science Journal, 70, 547-550, 1999
  3. 山内 清?河原 聡?竹之内 慎一:食肉の共役リノール酸(CLA)とCLAの生理作用、食 肉の科学、40(1)、49-56、1999
  4. 厚生労働省策定:日本人の食事摂取基準[2005年版]、第一出版、2005

3.食物繊維の食品応用と予防医学(大村正史)

はじめに
食物繊維はかつて栄養の面からは価値のないものとされていたが、現在では大腸癌をはじめ生活習慣病の予防に役に立つ栄養素として、蛋白質?脂質?糖質?ビタミン?ミネラルとならんで「第6の栄養素」として注目されている。<br> 食物繊維は存在の歴史自体は古いものの、研究の歴史はまだ浅く解明されていない部分の多い分野でもあるが、食物繊維の持つ直接あるいは間接的な生理活性が予防医学に対して大きな期待がもたれている。<br> 今回、食物繊維の定義と分類、および食物繊維の持つ生理活性と健康とのかかわりについて、最近の知見を報告するとともに、食物繊維の中でも特にユニークな働きを示すレジスタントスターチ(難消化性でんぷん)に関して、その可能性と食品応用について報告する。

食物繊維の分類と定義
食物繊維の分類は、水溶性、不溶性、植物由来、動物由来、微生物由来、天然物、人工合成物、化学修飾物、等に分類されている。また、日本における食物繊維の定義としては、「ヒトの消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分の総称」とされている。

日本食物繊維学会では食物繊維を含め、難消化性、難吸収性で、消化管で何らかの生理作用を持つ物質の包括的用語として「ルミコナイド」という言葉を提唱しており、その定義は「ヒトの小腸内では消化、吸収されにくく、消化管を介して健康の維持に役立つ生理作用を発現する食物成分」としている。

食物繊維の持つ生理活性
現在までの実験的、臨床的、および疫学的な検証結果から、食物繊維は消化管内を通過する過程で多彩な生理作用を発現することが知られている。代表的な生理作用としては、腸内環境を整え便通を促進し大腸癌の予防に有効であるということや、糖尿病?高脂血症?高血圧?肥満などの生活習慣病の予防にも効果を発揮していることがあげられる。

また、食物繊維は全般的に低エネルギーであると同時に 大腸で腸内細菌により発酵され短鎖脂肪酸が生成され、大腸上皮細胞の増殖を促進させるだけでなく、これらがコレステロールの合成を抑制することも明らかにされており、今まで知られていなかった新しい効果も期待されている。

レジスタントスターチ(難消化性でんぷんRS)の食品応用
レジスタントスターチは「健常人の小腸管腔内において消化吸収されることの無いでんぷんおよびでんぷんの部分水解物の総称」と定義されておりRS1~RS4までの4種類に分類されている。 RSの特徴としては水溶性、不溶性食物繊維の両方の性質をかねそろえ、便通改善、大腸疾患の改善、血中コレステロールの低下、血糖値の改善、ミネラル利用性の向上、腸内細菌による発酵作用を受けての短鎖脂肪酸の産生など、さまざまな効果をもたらすことが知られている。
また、RSは食品の加工性に優れ、たとえば、パンや麺類、ピザ等の主食であるでんぷん製食品への添加が可能であり、特に食感、味覚、香りを損なわず量的に多く添加できるという利点を持っている。従って、継続的に毎日の食事から自然と摂取することが可能であり、RSを効果的に用いることにより、普段の食事から腸内環境の改善や生活習慣病の予防が可能になると考えられる。

引用文献
  1. Starchng for the Definition, Terminology and Classification of Dietary Fiber and the New proposal from japan, 日本食物繊維学会誌, Vol.10, No1, 11-24, 2006
  2. Rediscovering Natural Resistant Starch - An Old Fiber with Modern Health Benefit s,Nutrition Today, Vol42, No3, 123-128, 2007
  3. Carbohydrate Digestibility and Metabolic Effects, J of Nutrition, 138, 2539-2546
  4. Resistant Starch Consumption Promotes Lipid Oxidation, Nutrition & Metabolism, 2004, 1:8, doi:10. 1186/1743-7075-1-8.
第6回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムの内容:(4)水産物の機能と安全性
平成20年10月24日に開催された第6回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムのうち、演題「水産物の機能と安全性」を紹介する。残りの演題と総合討論については、次号以降に順次紹介する。なお「開催にあたって」「食品安全委員会の5年間の取組と今後の課題」については情報44号に、「食生活の現状と課題‐健康維持?おいしさ?安全性の連携‐」については、情報45号に掲載した。

水産物の機能と安全性
博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@名誉教授 神谷久男

1.水産業の対象
海洋をはじめとする水圏にはプランクトンから鯨類まで50万種とも500万種ともいわれる多種多様な生物が生息している。このうち、水産業がその対象としているものはおそらく数%にも満たない生物種に過ぎず、海洋生物のほとんどは利用されていない。
水産業の主な生産形態は自然環境下に生息する野生生物の略奪である。海面や内水面における増養殖でも野生生物を対象としていることには変わりない。この点、長い時間をかけて品種改良した生物を人の管理下において陸上で育成しようする農業や畜産業などの生産様式とは異なる。また、水産業の対象となる魚貝類には一部の組織に強烈な毒性をもつ種類があったり、自然現象である生育環境変化によって毒化する種類があったりすることは陸上における食料生産の対象種にはみられない現象である。

2.水産物の機能
米食と水産物を多食する地域では各種疾病の罹患率が低く、長寿者も多いという疫学調査結果があり、水産物は「健康によい」という評価が定着している。実際、魚貝類には高い良質なタンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルなどが豊富に含まれ、栄養素の補給源として申し分ない。また、イワシ、サバなど青魚に多いイコサペンタエン酸IPAなどn-3系高度不飽和脂肪酸には血液中のコレステロールや中性脂肪量を下げるなどの作用があることが知られている。このほか、魚貝類の成分には根拠となる科学的評価の方法やレベルはまちまちであるが、抗菌、血圧低下、抗酸化、免疫賦活、抗腫瘍など様々な生理活性があると報告されている。
水産物が示す機能性の活性本体が明らかにされ医薬品にまで開発されたものはIPA以外にないが、より高い付加価値を求めて機能性食品の開発などが盛んに進められてきた。その結果、厚生労働大臣によって許可される特定保健用食品の成分として利用されているものや、とくに許可申請などを必要としないいわゆる「健康食品」の原材料として用いられている水産物由来の成分も多い。
中高年の多くが生活習慣病の予備軍といわれる現状の改善を目指す「特定検診?特定保健指導」が今年から始まり、広告媒体には日々「メタボ」、?健康?、「健康食品?、?サプリメント?、「自然食品」などの言葉が踊っている。エネルギー過多の食事習慣を改善し、「バランスの取れた食事」を摂ることの重要性は理解されているが、価格、手軽さ、嗜好などの理由から肉類中心の食事を簡単に変えられない。"ならば健康食品やサプリメントで代替を"と、"健康"を苦労せず手に入れようとする現代人の欲求が生んだ時代の産物かも知れない。
健康食品および関連商品は8000億ともいわれる市場を形成しているが、その有効性に対する過剰な期待や過剰摂取の問題も懸念されるようになっている。また、成分や表示が違法なもの、有効性が疑われるもの、健康被害や金銭被害を引き起こしたものもあり、健康食品に"安心"を求めようとする消費者を混乱させている。食の三次機能とされる「生体調節機能」に食品の付加価値を求めるのはきわめて魅力的な方向だが、機能性について信頼できるレベルで医学的、栄養学的根拠を示すという高い壁を越えなければならない。

3.水産物の安全性
フグの肝臓や卵巣を食べる人はいないように、われわれは沿岸で獲れる魚貝類で食べられるもの、美味いもの、不味いもの、毒のあるものやその部分、あるいは海藻の湯通しのように水産物の種類と食べ方にはかなり精通している。また、水産物を放っておくと傷みやすく食中毒を起こすこともあるが、近海でとれる魚貝類は食べても安全という一種の信頼感があった。
戦後、タンパク質源を確保するため、遠洋漁業や深海トロールなど新規漁場の開拓が強力に推進された結果、これまでみたこともない種類が日本風の名前とともに次々と食卓に登場してきた。また、海外で漁獲されたり輸入されたりする外国産の魚の中には、安全性が確認できない成分を大量にもつ魚や筋肉が猛毒な日本産フグに良く似た種類などがみつかっている。エボダイに似た南米産の魚やナゴヤフグに似たベトナム沖のドクサバフグで食中毒を起すなど、日本人が近海産魚類での経験を通して得た「常識」が外国産のものでは通用しないという事実に直面している。
最近、料亭で食べたイシガキダイでシガテラになった被害者がPL法でいう「製造物責任」を調理師に求める裁判をおこした。裁判所は、当該魚種によるシガテラが沖縄で発生しており、被告が毒性を予知することは不可能であったと言う主張を退け「毒魚を加工し提供した製造者の責任」を回避できないとして原告の損害賠償請求を認めた。この判決は有毒魚貝類を調理し提供した料理店には「製造物責任」があるという判例になると思われる。今後、水産物の流通、消費に携わる者には水産物の特性ばかりでなく、毒魚など安全性に関する専門的な知識が要求されることになろう。
水産物に起因する自然毒中毒でとくに問題となるのは貝毒中毒とシガテラである。いずれも自然現象である有毒渦鞭毛藻の増殖によって魚貝類が毒化して起こる食中毒である。有毒渦鞭毛藻の増殖がない海域では同じ魚貝類が安全に食べられるので、知識や経験のない輸入業者や遊漁者にとってはきわめて危険なことになる。これまで特定の海域(地域)に限られていた有毒魚貝類の存在が水産物流通のグローバル化により世界中の人々の健康を脅かす直接的な危害となっていることを認識する必要がある。とくに世界各国で愛好される貝類には麻痺性貝毒中毒のように致死的な食中毒もあり、自国産ばかりでなく輸入水産物の毒性監視を欠かすことができない。
魚貝類は海辺に住む人々にとって比較的採捕しやすい貴重な食料であった。一方、日本各地の貝塚から出土する魚の骨の中にマフグ科魚類の骨がみられるように、有毒種もまた身近な存在であったろう。魚貝類を美味しくかつ安全に食べるためには犠牲をも伴う試行錯誤が繰り返されたにちがいない。こうして築きあげられた健康によい「魚食文化」に、最新科学によって得られた安全性や機能性に関する新しい知識を組み入れて次の世代に正しく伝えるのがわれわれの責任であろう。

4.水産物の確保と海洋生命科学
海洋生態系は海洋という特殊な環境に依存する生物種間の微妙なバランスの上に成り立っている。海洋生物に有機物を提供して海洋生態系を維持するのは植物プランクトンや微生物などの独立栄養生物、第一次生産者である。食物連鎖系はこれらを捕食する動物プランクトンなど第一次消費者(同時に第二次生産者)、さらに肉食種など高位の捕食者(同時に生産者)から形成されている。水産業はこの食物連鎖系の上位に位置する魚貝類を対象としている。したがって漁業対象種の乱獲ばかりでなく、食物連鎖低位のプランクトン類や低位の魚貝類の量や分布を撹乱するような海洋環境汚染もこのバランスを崩す可能性がある。特定生物種の過剰な保護も食物連鎖系への影響を否定できない。かなり早くから水産業には資源量に見合った漁獲量を目指す資源保護型、環境保全型漁業の構築が求められてきた。水産物の持続的な確保とは再生産可能な資源量を残しながら余裕部分を漁獲するということである。対象魚貝類の成長から産卵までの生命過程、多種生物や海洋環境との関係など海洋生態系の理解なくして資源保護と両立する水産業の構築は考えにくい。
海洋生態系の解析は個体群生態学、群集生態学、環境科学などの各分野で進められてきた。最近は化学的、生化学的手法が積極的に導入され、この分野の研究は飛躍的に発展している。ここではとくに同種、異種の生物間交渉を分子レベルで解明する上で貴重な情報となっている生理活性物質に注目したい。海洋生物毒による食中毒の治療や予防、あるいは検知方法に関する研究が新規な医薬品や生化学研究試薬の開発に結びついた例も多く、水産物の確保と安全な消費にもつながる海洋生命科学研究には基礎、応用面ともに無限の可能性が秘められている。本学においても海洋生物研究の現状、研究遂行上の課題や障害、新たな研究アイディアなどを各分野の研究者と自由、活発に検討して、海洋生態系解明を目的とする特色ある研究を設定、推進することが重要である。
「農医連携論」の概略:7.鳥インフルエンザ-感染と対策-
本年度から開始した「農医連携論」の講義内容(情報:40号の1~3p参照)のうち、「1.農医連携入門、2.医学からみた農医連携、3.農学からみた農医連携」の概略は、情報:40号の3~11pに、「4.東洋医学および代替医療からみた農医連携」の概略は、情報:42号の5~11pに、「5.代替農業論」の概略は、情報:43号の8~14pに、「6.環境保全型畜産」の概略は、情報:44号の10~14pに紹介した。今回は「7.鳥インフルエンザ‐感染と対策‐」について、講師のパワーポイントからその概略を紹介する。
  • 十和田湖で白鳥の死骸から鳥インフルエンザ検出:東奥日報(2008年4月29日朝刊)
    秋田県は28日、十和田湖畔で回収した死んだ白鳥3羽と衰弱した白鳥1羽から、H5亜型の鳥インフルエンザウイルスが検出されたと発表した。発見場所から半径10キロ以内に養鶏農家はないが、農水省は秋田、青森、岩手各県に対し養鶏場への緊急指導を要請した。本県は同日、県内養鶏場に異常がなかったことを確認。鶏への感染防止のため警戒を強めている。発見されたのは秋田県小坂町の十和田湖畔。今月21日に白鳥の死体と衰弱した白鳥が2, 3キロにわたって点在しているのが見つかった。
  • 本県側白鳥から強毒性鳥インフル:東奥日報(2008年5月22日朝刊)
    環境省と県は22日、4月18日と5月8日に本県側の十和田湖畔で見つかったオオハクチョウ二羽の死骸(しがい)から強毒性のH5N1型鳥インフルエンザウイルスが検出された、と発表した。一羽については当初、収容から日数が経過し県が検査が難しいと判断。もう一羽は、県の簡易検査で陰性だった。この問題では野鳥からウイルスが発見された場合の県の連絡体制の不備が指摘されていたが、簡易検査の信頼性にも疑問を残す結果となった。
    現時点で県内の野鳥や飼育されているニワトリなどの家禽(かきん)に異常は確認されていないが、本県側から検出されたH5N1型は4月21日に秋田県側で見つかったオオハクチョウと同じウイルス。同ウイルスは韓国で猛威を振るう鳥インフルエンザウイルスと遺伝子レベルで近いことが分かっており、環境省は6月半ばまでに遺伝子分析の結果をまとめる方針だ。
    また、県は22日、新たに佐井村でハクチョウの死骸が見つかったことを明らかにした。簡易検査では陰性だったが、今回の結果を受け、鳥取大学にウイルス検査を依頼する。会見した県環境生活部の名古屋淳次長は「ニワトリや人への感染の危険性が高まってきていると重く受け止め、国や専門家と協議しながら万全の対策を講じたい」と話した。
    県は同日、県庁で関係各課による情報連絡会議を開き、養鶏?野鳥対策や相談窓口を継続する方針を確認。今後はハクチョウの捕獲にかかわった職員について、簡易検査の結果を問わず健康調査を実施する方針。今回の二羽にかかわった職員には異常がないことが確認されている。二羽の死骸は、北海道のハクチョウなどからもウイルスが見つかったことから、環境省と県が協議のうえ、鳥取大学にウイルス検査を依頼していた。
  • サロマ湖畔のオオハクチョウからも「H5N1型」検出(2008年5月10日 読売新聞)
    北海道は10日、佐呂間町のサロマ湖畔で死んでいたオオハクチョウから、強毒性の鳥インフルエンザウイルス「H5N1型」が検出されたと発表した。
    野鳥からの同型検出は、国内では5件目、渡り鳥では秋田県の十和田湖畔と北海道の野付半島に次いで3件目。鶏や野鳥の大量死、死骸を回収した職員への健康被害などは確認されていない。道は10日午後、家畜伝染病予防法に基づき、発見現場から半径30キロ以内の養鶏場3戸(約18万羽)への立ち入り検査を行う。
    環境省や道は、3件の関連性を調べるため、北海道大人獣共通感染症リサーチセンターにウイルスの遺伝子分析を依頼している。サロマ湖は渡り鳥が本州からシベリアに帰る中継点の一つ。野付半島から北西に約130キロ離れている。
  • 鳥インフル拡大止まらず 韓国、1カ月で全土に【ソウル2008年5月9日共同】
    韓国で鳥インフルエンザの感染拡大が止まらず、9日までに全国26地域の農場など35カ所で鶏やアヒルへの感染が確認された。4月に今年最初の感染が確認されてわずか1カ月余りで済州島を除くほぼ全土に広がった状況で、韓国農林水産食品省によると、件数としては過去最悪。李明博大統領は関係閣僚による対策会議を10日に開くことを決めた。軍も動員し、これまでに650万羽以上を殺処分したが沈静化の見通しは立っていない。政府などの初動対応の遅れが拡大に拍車をかけたとの見方が強く「官災」との批判が高まっている。
    日本でも強毒性のウイルスが各地で検出されているが、環境省などは韓国の大流行との関連を調べるため比較分析を急いでいる。韓国では発症を伴う人への感染は報告されていないが、6日には首都ソウルで初めて強毒性のH5N1型ウイルスの感染を確認。風邪を鳥インフルエンザ感染と疑い相談するケースが相次ぐなど国民の間で不安が急速に広がっている。 
  • 兵庫県で送信機を装着した渡り鳥の移動状況、宮崎県で送信機を装着した渡り鳥の移動状況、長崎県で送信機を装着した渡り鳥の移動状況。 
  • 鳥インフルエンザH5N1の分離:
    十和田湖(斃死した白鳥)/サロマ湖(斃死した白鳥)/野付半島(斃死した白鳥)/朝鮮半島(鶏やアヒルの農場における大流行)/渡り鳥が本州からシベリアに帰る中継点/今回の分離株は韓国の分離株と極めて類似/飛翔経路を解析すると??全てのウイルスは渡り鳥から? 
  • 何故、鳥インフルエンザに怯えるのか?
    鳥インフルエンザは鳥の病気!/しかし、ヒトへの感染例がアジアを中心に増え続けている現実/ヒトに対する新型インフルエンザ出現のシナリオとは?/パンデミックインフルエンザで世の中はどうなるのか? 
  • その前に
    ウイルスとは?/インフルエンザウイルスとは?/HA血清型、NA血清型?/増殖部位を決めるHAのアミノ酸配列?/種の壁?/RNAポリメラーゼには酵素活性の至適温度が存在:鳥型42℃、ヒト型36-37℃/連続変異と非連続変異?/最悪のシナリオとは? 
  • 新型インフルエンザの被害
    直接的被害:感染者数は総人口の50~60%、発症者は総人口の25~30%、死者は発症者の0.5~2.0%/間接的被害:医療機関の麻痺、社会機能の麻痺、経済的損失 
  • 過去のインフルエンザの全世界の死亡者数の推計
    スペインインフルエンザ:1918~1919、H1N1型、4,000~5,000万人死亡
    アジアインフルエンザ :1957~1958、H2N2型、200万人死亡
    香港インフルエンザ :1968~1969、H3N2型、100万人死亡
    通常のインフルエンザ :25~50万人死亡
  • 日本における新型インフルエンザの患者発生予測(新型インフルエンザ対策行動計画:平成17年12月)
    患者数(全人口の25%と想定):約3,200万人
    医療機関受診者 :1,300~2,500万人
    入院患者 :中程度53万人、重度200万人
    一日当たり最大入院者数 :中程度10万1千人
    死亡者:中程度17万人、重度64万人
  • 人口10万人当たり500人が死亡する。博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@学生数に当てはめると50人位が死亡

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  • ウイルスとは?
    生きた細胞の中でのみ増幅/人工培地上では増えることは出来ない/ウイルスは生物か、無生物か?/生物と無生物の間―ウイルスの話 (1956年) (岩波新書) [古書] (新書) 川喜田愛郎 (著) 
  • クラミジア?リケッチャ
    細菌とウイルスの間(1969年)、(岩波新書)[古書](新書)、東 昇(著) 
  • ウイルスの大きさ 
  • ウイルスはDNA型とRNA型の2種類ある
  • DNAウイルスの構造
  • DNA型ウイルスの増殖
  • RNAウイルスの構造 
  • RNAウイルスの増殖:細胞質で始まる
  • インフルエンザウイルスの増殖機構
  • 細胞からの放出の様子:出芽(Budding)
  • ウイルス感染の跡:プラック
  • ウイルスによる細胞損傷の機序:細胞の蛋白質合成の閉止/細胞の核酸合成の閉止/ウイルス蛋白質の細胞変性効果(細胞毒性、原形質膜の透過性、浸透性の変化) 
  • 本の紹介:
    岡田晴恵?田代眞人:新型インフルエンザH5N1/山本太郎:新型インフルエンザ、岩波新書/岡田晴恵:感染症は世界史を動かす、ちくま書房/河岡義裕:インフルエンザ危機、集英社新書/濱田篤郎、疫病は警告する、Yosennsha
  • インフルエンザウイルスの分類
    RNA型‐鎖(分節型-鎖RNAウイルス)
    オルトミクソウイルス科 (Orthomyxoviridae)
    A型インフルエンザウイルス属(Influenzavirus A)
    B型インフルエンザウイルス属(Influenzavirus B)
    C型インフルエンザウイルス属(Influenzavirus C) 
  • インフルエンザウイルスの特徴xxxエンベロープを持つ/マイナス鎖の一本鎖RNAをゲノムとして持つ/ゲノムは分節性である/RNA依存RNAポリメラーゼをウイルス粒子内部に含む/RNAの複製が宿主細胞の核内で行われる(例外的)/A型、B型、C型の違い:M1蛋白とNP蛋白の抗原性の違いに基づく 
  • 8本の文節から機能が解る
  • H5とは?N1とは?
    HはHaemagglutininの頭文字から/赤血球凝集素/ウイルスが発見されたとき、鶏の赤血球を凝集する性質が判明/赤血球の凝集=結合はウイルスのスパイク蛋白を介していた/HAの抗原性は16種類ある(H1からH16) 
  • ノイラミニダーゼ
    N蛋白はノイラミニダーゼという酵素/細胞で合成されたウイルスが出芽(budding)する際に、HAと結合した細胞レセプターのシアル酸を切る働き/N蛋白にも9種類の抗原性がある
  • 抗原性の違いとは?
    抗体が認識する部位(抗原決定基)のアミノ酸配列の相違=特異性/HAに対する抗血清が16種類ある/Nに対する抗血清が9種類ある 
  • HAとNの抗原性の違いからウイルスを分類できる
    ヒト型: H1, H2, H3, N1, N2/ ブタ型: H1, H3, N1, N2/ 鳥型: H1~16, N1~9/ 馬型:H3, H7, N7, N8/ ミンク型: H10, N4/ アザラシ型: H3、H4、H7, N3, N5, N6, N7/ クジラ型: H1、H13, N1、N9 
  • インフルエンザウイルスの分類
    A型:自然宿主(鳥類)/多くの亜型/毎年の人で流行/パンデミック
    B型:宿主はヒトでの流行/毎年のヒトでの流行
    C型:小規模な流行 
  • A型インフルエンザウイルス株の名前
    A型/宿主/分離場所/分離材料番号または株名/分離年:(H亜型、N亜型)と表わす。
    動物の場合:A/swine/Wisconsin/1/84(H1N1)とは、A型/豚/アメリカのウイスコンシン州/分離材料番号または株名/1984年(H1亜型、N1亜型)
    ヒトの場合:A/Hong Kong/156/97(H5N1)とは、A型/香港/分離材料番号または株名/1997年(H5亜型、N1亜型)―これは 鶏のインフルエンザウイルスに感染して、1997年5月に死亡した香港の3歳の男児から分離されたウイルス株名。ヒトの場合宿主名は省略。 
  • インフルエンザは人獣共通感染症
    インフルエンザウイルスの全てのタイプは水禽類が保有/水禽からほ乳類に種の壁を越えて伝播?/ウイルスと細胞レセプターの関係が重要!
  • ヒトにもある鳥型インフルエンザレセプター
    細胞側レセプター(α(2-3)結合):鼻腔?咽頭などの上部気道や気管
    (α(2-6)結合):目の結膜、肺の深部の肺胞上皮など
    鳥型ウイルスに曝露:感染効率は悪いが肺胞領域では感染が起こる。気道が短く肺胞までの距離が成人より短い小児が罹りやすい
  • 鳥インフルエンザとヒトインフルエンザ 
  • インフルエンザの自然宿主
自然界の宿主 HA亜型
水禽1?16
野鳥(カモメ、シギなど)1?15
家禽(ニワトリ、七面鳥など)1?7、9?10
アザラシ3、4、7
クジラ3、4、13
ブタ1、3、4、5、9
ヒト1?3
ウマ3、7
  • 高病原性鳥インフルエンザ
    野鳥のインフルエンザウイルスは、家禽に伝播し増殖を繰り返すことにより、家禽に対して病原性を示すように変異する。H5とH7亜型ウイルスの一部には重篤な症状を引き起こすものがあり、養鶏ならびに関連業界に多大な経済的損失を与えるので、特にこの2つの亜型のウイルスを行政上便宜的に?高病原性鳥インフルエンザウイルス?と呼び、本ウイルス感染症を畜産上重要な疾患として法定家畜伝染病に指定している。この場合の?高病原性?は、家禽にとって?高病原性?という意味である。これ以外の亜型のウイルスは?(低病原性)鳥インフルエンザウイルス?と呼び、届け出伝染病である。家禽ではウイルスは呼吸器と腸の両方で増殖する。 
  • 高病原性鳥インフルエンザ
    1. 原因
      オルソミクソウイルス科(orthomyxoviridae) A型インフルエンザウイルス(influenza A virus)。ゲノムは一本鎖(-)RNAで、8本の分節で構成。血清亜型はHA蛋白では16種、NA蛋白では9種に分けられる。家畜伝染病予防法では、高病原性のみならず弱毒でもH5およびH7亜型のウイルスについては高病原性鳥インフルエンザウイルスと定めている。
    2. 疫学
      日齢や季節に関係なく発生する。ウイルスは糞便等に排泄され、経口または経鼻感染で伝播する。
    3. 臨床症状
      高病原性のウイルスに感染した家きん群では突然の死亡率の上昇があり、高い場合には100%に達する。臨床症状は産卵低下又は停止、神経症状、下痢等であるが、甚急性例ではこれらの症状を示す間もなく死亡する。
    4. 病理学的変化
      肉眼病変は肉冠?肉垂のチアノーゼ、出血、壊死/顔面の浮腫/脚部の皮下出血/消化器粘膜面の出血等であるが、甚急性死亡例ではこれらの病変が認められないことが多い。
    5. 病原学的検査
      死亡あるいは発症例の咽喉頭及び直腸スワブ、気管、直腸、肝臓、脾臓、肺等を材料とし、発育鶏卵尿膜腔内接種によるウイルス分離検査を実施する。A型インフルエンザ抗原検出簡易キットによる抗原検出、RT-PCR法によるウイルス遺伝子検出も補助的診断法として有用。
    6. 抗体検査
      寒天ゲル内沈降反応(A型共通)、赤血球凝集反応抑制試験(HA亜型特異的)、ノイラミノダーゼ反応抑制試験(NA亜型特異的)。
    7. 予防?治療
      摘発淘汰を基本とする。
  • H5N1型鳥インフルエンザの拡大
    1997年香港:H5N1型鳥インフルエンザウイルスのヒトへの直接感染/18名の患者の中で6名が死亡/香港特別行政府は3日間で140万羽の家禽を殺処分/ウイルスの起源:中国南部で維持されている
    2002年香港の自然公園で水鳥の死亡
    2003年現在のH5N1型鳥インフルエンザの流行が始まるxxx2008年5年目を迎える/分布も広範囲に及ぶ/流行ウイルスの遺伝子変異も多様化/鳥の間で流行の拡大に比例してヒトへの偶発的な感染も 
  • 鳥インフルエンザによる死亡者

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  • A型インフルエンザは人獣共通感染症
    A型インフルエンザの本来の宿主:カモなどの水禽性の渡り鳥/HA抗原(16種)とNA抗原(9種)の組み合わせで144種類の亜型ウイルスが存在/これらの鳥ウイルスが自然界の鳥類の間で維持/様々なA型インフルエンザウイルスがヒト、ブタ、ウマ、クジラ、アザラシなどの動物に適応し、自然宿主として地球上で維持/これらのウイルスは通常は宿主動物の間でのみ伝播流行/しばしば「種の壁」を越えて他の動物にも感染伝播/過去120年間にヒトに流行したA型インフルエンザウイルスはH1, H2, H3の3亜型 
  • 鳥インフルエンザウイルスにおける弱毒型と強毒型
    鳥インフルエンザウイルスは主に渡り鳥(カモ)に感染して維持される/本来の鳥インフルエンザウイルスは全て弱毒型(低病原性)/ウイルス感染は腸管と気道に限られており、感染した鳥は無症状/強毒型(高病原性)ウイルスは鶏などに全身感染をおこし、ほぼ100%の鳥を殺す/長い時間のなかで、宿主と共存できるの弱毒型の鳥インフルエンザウイルスが生き残り、宿主を殺してしまう強毒型ウイルスは自然界では存続できなかった
    北極圏などの営巣地では糞便とともに排泄されたウイルスが湖沼の水を汚染し、これを飲んだひな鳥が感染する/ウイルスに感染した鳥は、秋から冬にかけて南方に渡り、越冬地にウイルスを運ぶ/その結果、土着の野鳥、鶏、ブタなどにも感染を広げる/弱毒型の鳥インフルエンザウイルスはニワトリなど家禽でも腸管と呼吸器の局所感染/感染したニワトリは産卵率の低下以外は無症状(不顕性局所感染)???検出され報告されることは稀
    ところが????/H5亜型とH7亜型のウイルスはニワトリの間で感染伝播を繰り返すうちに半年くらいで弱毒型ウイルスから強毒型(高病原性)に変化する可能性が高い/例:過去20年間でアメリカ、イタリア、メキシコ、チリで発生/従って、H5亜型とH7亜型の鳥インフルエンザウイルスが検出された場合は高病原性鳥インフルエンザと同様な緊急対応が取られる!
  • HAの構造で強毒性が決まる
    ニワトリでは呼吸器と腸管上皮の局所感染にとどまる弱毒型と強毒型の鳥インフルエンザウイルスのHAの構造の比較/弱毒型の開裂部位にはアルギニンという塩基性アミノ酸がひとつだけ存在、一方強毒型ではアルギニンとリジンが6~8アミノ酸が並んだ塩基性構造/弱毒型の開裂部位を加水分解するプロテアーゼは呼吸器と消化管に限って存在/一方、強毒型の開裂部位を加水分解するプロテアーゼは全ての細胞のゴルジ体に普遍的に存在するので、全ての細胞で感染性を獲得した子孫ウイルスが誕生 
  • HAの構造で強毒性が決まる
    局所感染と全身感染の違いはHA開設部位の構造の違い/HAの一カ所の構造の違いが病原性の違いを規定している/弱毒型ウイルスがニワトリの間で流行を続け強毒型に変化=HA開裂部位の構造がアルギニン1個の弱毒型からアルギニンとリジンの6~8個の強毒型への変化/このような遺伝子変異はウイルスの増殖回数に応じて増加/何万羽というニワトリが狭い鶏舎で飼育される現代の養鶏業の実状からはいったんH5亜型の弱毒型ウイルスが侵入した場合には大規模な感染拡大が起こりやすい=自然界に比べて強毒型ウイルス出現の可能性を高めている/現在流行のH5N1型も1996年頃中国南部においてこのような機序で出現? 
  • 強毒型鳥インフルエンザの封じ込め
    強毒型鳥インフルエンザ/腸管から血流中に侵入して全身を巡り(ウイルス血症)血管壁、臓器で全身感染、48時間以内にほぼ100%の致命率/ウイルスは糞便、体液中に存在???感染源となり広範囲に拡大
  • 強毒型鳥インフルエンザの封じ込め:日本での発生状況
    日本における高病原性H5N1型鳥インフルエンザの流行/2004年山口県、京都府の養鶏場、大分県のペットの鳥/2007年宮崎県、岡山県の養鶏場、熊本県のクマタカ/2004年の京都府の養鶏場における大量殺処分の作業者4名が抗体陽性/タミフルを予防投与されていたので発症はなし
  • 強毒型鳥インフルエンザの封じ込め
    日本における高病原性H5N1型鳥インフルエンザの侵入ルート/日本発生の直前に韓国の養鶏場のニワトリとアヒルが大量に死亡/2005年中国?青海湖で見つかったウイルスと同系統
    推測:
    大陸からの感染した野鳥の飛来?/汚染地域からのトラックなどの人為的な持ち込み?/結論は不明 
  • 強毒型鳥インフルエンザの封じ込め
    2004年京都府の事例の教訓/養鶏業者の速やかな報告を怠る/早期対応の遅れが被害の拡大/周囲のカラスなどの野鳥も死亡/ハエなどの昆虫にも鶏糞が付着、鶏糞を食べて腸管にウイルス保有/死んだ野鳥は野生動物に捕食???感染の拡大/ウイルスに汚染された昆虫が野鳥に捕食???遠くに運ぶ/2007年宮崎県と岡山県の事例/京都府の教訓が生かされて早期発見と早期対策による封じ込め成功/感染源となりうる宿主をゼロにする/流行が起こった鶏舎及び周囲のニワトリ全ての殺処分/養鶏場の徹底的な消毒/周辺のニワトリや卵の移動禁止/周辺地域への立ち入り禁止 
  • H5N1型鳥インフルエンザウイルスの宿主域拡大
    従来の強毒型鳥インフルエンザ/ニワトリや七面鳥などの家禽には激烈な症状/カモ、アヒル、ガンなどの水禽類や野鳥には不顕性感染/鳥以外の哺乳動物に対しての感染は稀/ヒト:結膜炎、インフルエンザ症状???重症化?死亡例は無かった/2004年オランダにおけるH7N7型高病原性の流行:獣医師1名死亡、家族も感染 
  • 日本国内での鳥インフルエンザ
確認された時期地区状況
2004年1月12日山口県阿東町養鶏場にてH5N1亜型ウイルス感染を確認
2004年2月17日大分県九重町民家のチャボにH5N1亜型ウイルス感染を確認
2004年2月27日京都府丹波町養鶏場にてH5N1亜型ウイルス感染が発覚
2005年6月26日茨城県水海道市養鶏場にてH5N2亜型ウイルス感染を確認、周辺自治体にも拡大し、後に埼玉県の養鶏場でも抗体陽性反応を確認
2007年1月13日宮崎県清武町養鶏場にてH5亜型ウイルス感染を確認、後にH5N1亜型と判明
2007年1月25日宮崎県日向市養鶏場にてH5亜型ウイルス感染を確認、後にH5N1亜型と判明
2007年1月27日岡山県高梁市養鶏場にてH5N1亜型ウイルス感染を確認

  • 2003年後半以降/東南アジアからシベリア、中東、ヨーロッパ、アフリカ北部まで/ニワトリなどの家禽のみならず多くの水禽類や野鳥に対しても致死的な全身感染??不顕性感染した野鳥がウイルスを遠くに運んで流行拡大/トラ、ネコ、ネズミ、イヌ、ウサギ、ジャコウネコ、テンなどの多くの哺乳動物にも全身感染
  • 2004年バンコクのトラ動物園:300頭のトラの一部に鳥インフルエンザに感染したニワトリを餌として与え、経口感染し、全身感染で80頭が死亡/トラからトラへの感染も確認家ネコの感染実験:致死的な全身感染/感受性が高いことが判明ブタにも感染:ヒトインフルエンザウイルスと重感染すると新型インフルエンザの誕生!/重大な問題
  • 感染源は鶏だけではない
    ヒトへの感染経路は?/感染した病鳥や死鳥への接触(主たる)経口感染/感染した鳥の糞便/1g当たり1000万個のウイルス/糞便中ではウイルスも安定:37℃で6日間、34℃では36日間生存/タイヤや車の消毒が徹底される理由はこれによる/糞便中のウイルスは乾燥して塵埃となり舞い上がり湖沼?水中に拡散??
    ヒトへの感染源:東南アジアの農村地帯:鶏糞を肥料として田畑にまく。養魚用の餌として水場にまくことが日常的???鳥の間での感染拡大の要因
    アヒルなどの家禽もニワトリ同様に重要な感染源:不顕性感染でより危険
    闘鶏:鳥のヒトの接触も密接。飼い主は闘鶏を持って移動??拡大
    中国?東南アジア:伝統的に小鳥をペットとして飼う趣味。小鳥の飼育禁止を出した国もある。病鳥からの飛沫感染?死んだ鳥を食べて感染したネコやイヌ、ネズミなどヒトと接触の機会の多い動物もヒトへの感染源:(例)韓国では農場のニワトリやアヒルとともに多くのイヌも処分された。やりすぎとの批判もあったが、あらゆる可能性を考慮して鳥における拡大とヒトへの感染を防ぐことは新型インフルエンザ出現のリスクを下げること。 
  • 蛋白源として重要だからこそ
    強毒型インフルエンザウイルスに感染した鳥:血液、内臓、肉、卵に大量のウイルスが存在不十分な加熱(中心温度が75℃)をしない肉や血液で経口感染の事例/生の鶏卵を食べて感染した事例/トルコ?エジプトの調査:鶏肉は冷蔵庫で1ヶ月ぐらいではウイルスの感染性は低下しない/冷蔵庫の無かった時代から東南アジアではニワトリやアヒルは生きたまま場で売買:各家庭で処理して調理する???その際に接触感染?飛沫感染 
  • 世界中のH5N1型対策
    WHO:アジアにおけるH5N1型鳥インフルエンザの封じ込め失敗/鳥インフルエンザから新型インフルエンザの発生は時間の問題/過去の新型インフルエンザをはるかに凌ぐ人的、経済的被害が想定
    H5N1型ウイルスは全身の組織で多段階増殖を起こす/鳥の体内で急速に増殖する/莫大な細胞が感染し破壊?死滅する/臓器?組織は破壊され炎症反応が起こる/血管や組織細胞の損傷:出血傾向、鶏冠はチアノーゼ、足は皮下出血、腹腔での内臓出血、脳炎 
  • 徐々に病原性は高くなる
    H5型、H7型の弱毒型も感染が繰り返されると強毒型に変化/現在のH5N1型は1996年頃に強毒型に変化?/2000年以前に鳥の間で流行したH5N1型はマウスで発症しない/その後に分離されたウイルスは呼吸器、脳、腎臓、肝臓で効率的に増殖/現在流行のウイルスは致死率が100%/サイトカイン誘導/毎年流行するヒトのインフルエンザ:炎症性サイトカインの反応は少ない/強毒型H5N1型:炎症を誘導する細胞反応が年ごとに強まっている 
  • サイトカイン:インフルエンザ症状
    細胞にウイルスが感染:感染細胞からの様々なシグナル/感染から防御しようという生体防御?免疫反応:炎症性サイトカインの産生/インフルエンザ:高熱、頭痛、筋肉痛、疲労感などの特有症状を説明/基本的な応答は他の感染症でも同じ:強い応答=サイトカインストーム 
  • H5N1型鳥インフルエンザウイルスのヒトでの症状
    H5N1型鳥インフルエンザウイルスの感染拡大で100万人以上が感染?/しかし、数百人の感染が確認されているのみ/偶発的なヒトへの感染の繰り返しが「ヒト型」に変化する! 
  • 症状の相違点
ヒトインフルエンザウイルス感染症鳥インフルエンザウイルス感染症
発熱、体幹痛、頭痛、疲労感、食欲減退発熱、体幹痛、頭痛、疲労感
上部気道症状上部気道症状
 乾性発咳、咽頭痛?咽頭の乾き 乾性発咳、咽頭痛、鼻水
 下部呼吸器症状
  重篤な肺炎、ARDS
 下痢、結膜炎、多臓器不全
  • H5N1型鳥インフルエンザウイルスのヒトでの症状
    38℃以上の発熱、出血傾向、サイトカインストームによる多臓器不全/咳、血痰、呼吸難、肺炎が進む急性呼吸器促迫症候群、腹痛、下痢/ベトナムの小児患者:脳炎での死亡例、心筋炎、妊婦では胎盤?胎児感染 
  • H5N1型鳥インフルエンザウイルスのヒトでの症状
    ウイルス分離/咽頭拭い液、肛門拭い液、糞便、尿、血液/ベトナム:血液の58%からウイルス分離/小児や若年成人に患者、重症例、死亡例が非常に多い/サイトカインストームによる影響大/潜伏期4日間 
  • H5N1型鳥インフルエンザウイルスのヒトでの症状
    現段階の鳥型ウイルスの感染/ヒトでは肺の深部などの鳥型レセプターを持つ組織内でH5N1ウイルスが効率よく増殖/しかし、ひとたび新型インフルエンザウイルスとなってヒトの多くの臓器に分布するヒト型レセプターに結合して感染しヒトの体温である36~37℃で効率 よく増殖するウイルスとなった場合:体内での増殖効率は飛躍的に上昇/骨髄やリンパ節を形成する細胞が死滅:血液像としては白血球、リンパ球特にCD8、血小板が減少し、出血傾向/免疫機能が活発な若年者:生体防御応答の過剰反応(サイトカインストーム)による重症化、高致死率/炎症性サイトカイン(TNFα、IL-12, IL-6, IFNα、IL-8)、抗炎症鶏サイトカイン(IL-10)、ケモカイン(IP10, MCP1, MIG, RANTES)などの上昇は自己の臓器、組織障害??多臓器不全 
  • H5N1型ウイルスによるサイトカインストームの治療
    サイトカインストーム??多臓器不全??急性呼吸器促迫症候群(ARDS)/重症な肺炎?副腎ステロイド剤の大量投与/H5N1型ウイルス感染患者ではウイルス増殖や二次的な細菌感染を促進??病態悪化させる(敗血症ショック状態以外には使わない)/ARDSでは肺でのガス交換能力の低下???酸素不足??肺水腫
  • タイでの事例 
  • インドネシアでのヒト?ヒト事例
  • 世界は現在フェーズ3にある:新しい亜型ウイルスによるヒト症例がみられるが、効率よく、持続した伝播はヒトの間にはみられていない。

医学部学生の「第2回:八雲牧場体験演習」が終わる
「農医連携」に関わる講義は、平成19年4月に迎えた学生から、医学部の1年生を対象に行われる「医学原論」の一部、獣医学部の1年生を対象に行われる「獣医学入門 I」、「動物資源科学概論1」および「生物環境科学概論 I」の一部で行われている。いずれも夏期休暇前に終了する。このことは、「情報:農と環境と医療 25号」にてお知らせした。

また平成20年の4月から、一般教育部の教養演習Bで新たに「農医連携論」(1単位)が開講された。医学部、獣医学部、薬学部、生命科学研究所などの教授がこの講義を分担する。その内容については、すでに「情報:農と環境と医療 40号」で紹介している。関心のある方はこちらを参照されたい。

さらに医学部では、夏期休暇を利用し「医学原論演習」の一環として、獣医学部附属フィールド?サイエンス?センター(FSC)八雲牧場で行う「八雲牧場訪問及び講義」の参加希望者を募集している。この演習には、昨年6人の学生が参加し、8月20~22日の3日間の日程を終えた。内容は、牧場見学、講義、演習(牛追い?ベーコン作り?投薬?鼻紋取り)、懇親会などであった。この様子は、参加学生の感想と共に「情報:農と環境と医療 32号」で紹介した。

昨年の医学原論演習が終了して、「食は医にとても近い存在であること、人は動物に感謝しなければならないことを実感しました」、「大学生活に対する意識が高まった」、「なるべく手を加えず、本来の生命を最大限に発揮させる八雲牧場の方針はすばらしい」、「後輩にも体験してもらいたい」、「本当に楽しくて興奮しました」などの感想が寄せられている。

さて、本年の「八雲牧場体験演習」が終わり、参加した8人の学生と職員の交流会が平成20年8月27日の午前9時から10時まで、八雲総合実習所の講義室で行われた。八雲牧場からその内容を入手したので、ここに紹介する。

センター長:この交流会は、来年度以降の「医学原論演習?八雲牧場訪問及び講義」の参考にするため開催する。まず、八雲牧場職員より一言ずつ発言して貰い、次に学生の皆さんから2日間の感想を話して貰う。最後に八雲牧場教員及び引率の教職員から、来年度以降の展望などについて発言して貰いたい。

八雲牧場職員
  • 八雲牧場で経験したこと、知ったことを糧に勉学に励んで、農と医を結ぶことの出来る医師になって貰いたい。また八雲牧場のことを、周りの皆さんに教えてあげてほしい。
  • 北里八雲牛の繁殖を担当する者として、生命の大切さを認識して貰いたい。発情‐授精‐子牛生産を6~8回繰り返す繁殖牛も、最後は産業動物として肉となり、食につながる。
  • 医学部の学生さんは医師の卵である前に、ごく普通の学生であることが昨年と今年を通じて感じられた。八雲牧場は国内では貴重な牧場であり、それを博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@が有していることを、ここに来られた学生達の力で学内に広めて貰いたい。また医学部だけでなく、他学部の実習の場としても利用して貰いたい。
  • 安全な牛肉とは、牛が安全なエサを食べていることであると思う。食と医をつなげて考えられる医者になって貰いたい。
  • 一人一人、どのような医者になりたいのか聞かせて貰いたい。
  • 草地担当者として、無農薬、無化学肥料で牧草を栽培し、それを食べることにより牛の病気が減るよう努力している。医者として、病気を治すだけでなく病気をなくすようにしてほしい。
  • 実習所は出来て30年が経過しているが、宿泊者により良い環境を提供するために努力している。牧場の施設も、他大学に比べ見劣りするかもしれないが、お金を掛けて設備を充実させるよりも、牛にとって良い環境であれば最低限のものでよいと思う。

医学部1年次生
  • 生命の大切さのわかる医者になりたい。この実習は短いと思うので、3泊以上にした方が良い。実習所の寝具は、布団のままでよいと思う。
  • 生命(牛)にふれあえたことが良かった。実習期間は3泊以上にした方が良い。牧場の景観を、このまま維持して貰いたい。卒業後は、医師でなく環境系の仕事がしたいと思っている。
  • 医師は精神的につらい時もあると思うが、八雲牧場の自然を思い出して癒したいと思う。今回は、色々な体験ができてとても良かったと思う。景観も素晴らしいし、2泊では短すぎた。
  • 牧場職員のそれぞれの仕事に対する姿勢が、とても良かった。実習所の宿泊室は、タタミのままで良い。患者さんの立場に立てる医者になりたいと思う。
  • 患者さんの病状だけでなく、その背景まで見ることの出来る医師になりたい。八雲の自然をもっと楽しめる余裕のあるスケジュールがとれるよう、3泊4日にした方が良いと思う。
  • 2泊3日だと見るだけで終わってしまうので、もっと長くして色々な体験をしたい。懇親会や二次会、この交流会のように職員の人達ともっと話をする時間があっても良いと思う。病院にいても普段と同じように生活できる環境を作っていきたい。
  • 医師と患者さんとの間のカベを無くし、対等な関係で接することの出来る医者となりたい。牧場職員一人一人が誇りを持っていると思った。施設に対する不満は何もないが、期間を長くしてもっと体験したかった。
  • 患者さんに対し、食事も含めて気を配った医療をしていきたいと思う。実習所を含めて施設に不満はないし、逆にきれいだと思った。もう少し長く体験したかった。

八雲牧場教員
  • 八雲牧場の取り組みを理解して貰えたと思う。実習期間を延ばすことにより、内容を充実させ、より詳しい内容を他の人達に伝えてほしい。食の大切さや、安全な食について理解できる医者になって貰いたい。またこの演習も、農医連携の一貫として、継続して貰いたい。

引率教職員
  • 昨年参加した学生から、医学部生全員が八雲に来られれば良いのにといわれたことを思いだした。学生達の声を後押しして、来年以降の実習期間の延長を考えていきたい。八雲に来た学生達の、今後の成長が楽しみである。また、参加学生による同窓会も考えたい。
  • まず感想として、牧場職員のプロフェッショナルさに感銘した。また、カメラで記録するよりも、牛追いやピザ作りなどの体験のほうが楽しく、記憶に残ると思った。学生達が言っいたように、スケジュールが短いと思ったが、参加する学生への負担が軽減できるよう検討していきたい。

センター長:皆さんの発言を聞いていて、友人である医師が学生時代に酪農家へ実習に行き、農学出身である自分と今でも話し合える仲でいれることを思いだした。農と医の結びつきは、これからますます強くなると思う。この試みが、是非継続されていくことを願っている。
Agromedicineを訪ねる(14):Journal of Agromedicine
以下のことは、「情報:農と環境と医療10号」ですでに書いた。「農医連携」という言葉は、生命科学全般を思考する博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@で新しく使用しはじめたものだ。それに相当する英語に、例えばAgromedicineがある。1988年に設立されたThe North American Agromedicine Consortium(NAAC)は、Journal of Agromedecineという雑誌と博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@レターを刊行している。この雑誌の話題には、農業者の保健と安全性、人獣共通伝染病と緊急病気、食料の安全性、衛生教育、公衆衛生などが含まれる。Journal of Agromedecineの目次は、これまでもこの情報で創刊号から紹介している。今回は、第13巻1号の目次を紹介する。

 第13巻1号  
  • National Councils Invigorate Agricultural Safety and Health
  • Journal of Agromedicine"Leader in the Field" 2008
  • Traumatic Injury Rates in Meatpacking Plant Workers
    Keywords: Work, injuries, meat processing
  • Farm Activities Associated with Eye Injuries in the Agricultural Health Study
    Keywords: Eye injury, farmer, agriculture
  • Psychosocial Work Environment Among Employed Swedish Dairy and Pig Farmworkers
    Keywords: Psychosocial work environment, musculoskeletal disorders, mental health, farmworkers, farm owners, livestock, questionnaire, COPSOQ, risk factors
  • Pesticide/Environmental Exposures and Parkinson's Disease in East Texas
    Keywords: Parkinson's disease, pesticides, organic pesticides, rotenone,agriculture, farming, environmental exposures, chlorpyrifos, smoking,fisheries
  • Behavior Change, Environmental Hazards and Respiratory Protection Among a Southern Farm Community
    Keywords: Respiratory health, occupational health, Transtheoretical Model of Change, agriculture
言葉の散策26:肝腎と肝心
語源を訪ねる 語意の真実を知る 語義の変化を認める
そして 言葉の豊かさを感じ これを守る

小学館の「日本国語大辞典」の「かんじん」を引くと、「肝心?肝心:「かんしん」とも。肝臓と心臓、また、肝臓と腎臓は、五臓のうち人体に欠くことのできないものであるところからいう」とある。

意味は、1)肝臓と、心臓または腎臓。転じて、心を比喩的にいう。2)とりわけてたいせつな箇所。なかでも大事な部分や事柄。3)(だいじな所の意から)隠し所。陰部。局所。4)(‐する)心に深く感じること。肝に銘じること。感心。感銘。5)(形動)とりわけたいせつであること。特にだいじであるさま。とある。

三省堂の「大辞林 第二版」では、【肝心/肝腎】(名?形動)[文]ナリ〔肝臓と心臓、あるいは肝臓と腎臓は、人体にとってきわめて重要な部位であることから〕特に大切なこと。非常に重要なこと。また、そのさま。肝要。「何よりも基本が―だ」「―な事を忘れていた」。とある。

いずれの辞典も、肝腎と肝心の両表記をよしとしている。本来は肝腎と書いた。肝心と書く人が多いため、肝心も有りということになり、さらには標準的には肝心に決めたようだ。「肝心」が常用漢字で、「肝腎」は常用漢字表にない。

新聞記事で見かけるのは「肝心」だ。「腎」の字が常用漢字表にないためだろう。「朝日新聞の用語の手引」によると、「肝心」に統一する旨が記されている。しかし、日本新聞協会用語懇談会が、漢字表にないが新聞では使用可能と決めた漢字の中に「腎」の字が入っている。そのため、「肝腎」は新聞記事にも使われている。

となれば、「肝心」でも「肝腎」でもよさそうに思われるが、用語用字の紙面上の統一という観点から「肝心」に統一したものと考えられる。肝臓も腎臓も心臓も、人体にとって重要な機能を持つから、どれ一つでも調子が崩れると困る。しかし、書き易さの点では腎より心のほうが簡単だという理屈もある。今のご時勢は自ら痴呆になるべく、漢字のひらがな化が進んでいる現象に比べればよしとすべきか。しかし、寒心に堪えない思いがする。

ただ、「心」という字を「ジン」と読めとは常用漢字表の音にはない。神や臣には「シン」「ジン」両方の音が示されている。だから、肝心をカンジンと読むのは慣用によるものだろう。外国人が日本語を学ぶときの難しさが、こんなところにもあるだろう。筆者は日本人だから、その辺はよく解らない。

この機会に、「肝」と「腎」と「心」の語源を訪ねてみよう。
「肝」:声符は千(かん)。説文に「木の蔵なり」とあり、肺を金、脾を土のように、五臓を五行にあてる。「肝は幹なり。五行において木に属す。故にその体状に枝幹有るなり」。「肝は罷極の本、魂の居る所なり」とあり、人の活動力の源泉とされた。

「腎」:声符は説文に欧声とするが、腎は堅?賢と声異なり、臣と同声である。説文に「水の蔵(臓)なり」とあり、五行説によって五臓を説く。腎は精の存するところ。腎子は睾丸、腎水は精液、その精の尽きるところを腎虚という。肝と臓とは、人の活動力の源泉であるから、合わせて肝腎という。

「心」:心臓の形に象る。説文に「人の心なり。土の蔵。身の中にあり。博士説に、以て火の蔵と為す」とあり、蔵とは臓の意。五行説によると、今文説では心は火、古文説では土である。金文に「克く厥の心を盟にす」「乃の心を敬明にせよ」のように、すでに心性の意に用いている。

中国古来の哲理で自然現象や社会現象を解釈する五行説は、万物を組成する五つの元になる気である木?火?土?金?水からなる。五行相勝(相剋)は、火?水?土?木?金の順に後者が前者に打ち勝つことで循環する。五行相生は、木?火?土?金?水の順に前者が後者を生み出すことで循環するという。

さて、木(肝臓)?火(心臓)?土(脾臓)?金(肺臓)?水(腎臓)の五行相勝と五行相生は、現代の医学に当てはめたらどうなるのだろうか。

五行相勝の火(心臓)?水(腎臓)?土(脾臓)?木(肝臓)?金(肺臓)は、順に後者が前者に打ちかって循環しているのだろうか。

五行相生の木(肝臓)?火(心臓)?土(脾臓)?金(肺臓)?水(腎臓)は、順に前者が後者を生み出すことで循環しているのだろうか。
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情報:農と環境と医療45号
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発行日 2008年12月1日