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57号

情報:農と環境と医療57号

2010/9/1
第7回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムの内容‐動物と人が共存する健康な社会‐(4)動物介在教育‐ヒューメイン?エデュケーションから動物介在教育へ‐
平成22年3月4日に開催された第7回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムのうち、演題「動物介在教育」を紹介する。なお、「開催にあたって」「人と動物とスピリチュアリティ」「人と動物の望ましい関係」については、「情報:農と環境と医療 55号」に掲載した。

動物介在教育‐ヒューメイン?エデュケーションから動物介在教育へ‐
 
特定非営利活動法人ひとと動物のかかわり研究会副理事長
日本獣医生命科学大学大学院特別研究生
的場美芳子

はじめに

1980年頃から「子どもとペットとのかかわり」に注目した研究が行われるようになり、動物を飼うことが子どもの発達に良い影響をもたらし、特にペットとのかかわりは、情操教育という面だけでなく、社会的?情緒的?認知的な発達に良い影響を及ぼすとして報告されている。

例えば、「ペットを飼っている子どもは、飼っていない子どもよりも共感性が高い」1)2)「非行や情緒障害のある子どもたちにとって、ペットが愛の対象としての情緒的役割を果たす」3)「非言語コミュニケーションの発達において、ペットを飼っている子どもの方が長けている」4)「親とともにペットの世話をする過程において年齢相応の作業を任され成し遂げることが、子ども自身能力があることを自覚する」5)「ペットを飼うことで、他者とのかかわりあい、社会的なサポートの重要性、他の人や他の生物に対する気配りの重要性などを学ぶことができ、相互依存という点で他の動物よりも有益である」4)などの報告がある。

一方で、ヒューメイン?エデュケーション(Humane Education)の実践的研究では、全ての教科の中で動物を学習の題材として扱ったpeople & animalsというヒューメイン?エデュケーション?プログラムを受けた子どもは、プログラムを受けていない子どもと比較して、プログラム直後、1年後、2年後においても動物観や共感性が高いという結果を報告6)している。同様に、学校の教室で9ヶ月間ペットを飼育させてみたところ、子ども達の自尊心の評価点数に有意な上昇が見られたことを報告7)している。

近年、日本においても、ヒューメイン?エデュケーションが学校教育の中で行われている。的場8)の取組みでは、理科的手法を用いて犬を観察し、犬にどのように接したらよいかを体感、体得することを目標とした「動物愛護教育」を実施している。高芝ら9)は、国語や算数の教科に犬を介在させたAnimal-assisted Education(以下、動物介在教育)を展開している。

ヒューメイン?エデュケーションについて

欧米では、3R(reading, writing, reckoning)の教育よりも最も大切なことは、「人間中心主義の考え方から、全ての生命に対する敬意と共感を含む道徳上の考え方へと人々を導くこと」であると考え、1900年代より「動物愛護の精神」を根底に据えたヒューメイン?エデュケーション(Humane Education)が人間教育の一環として展開されてきた。

ヒューメイン?エデュケーションのプログラムは、生きものへの親しみを持ち、自分を含めてのすべての生きものを大切にする道徳的態度の養成を目指し、子どもたちの多くが親しみや愛着を持つ動物を教育の素材として取り入れている。このプログラムの多くは、動物虐待防止協会(Society for the Prevention of Cruelty to Animals、以下SPCA)や動物愛護協会(Humane Society)などが提供してきた。

また、米国の教育法の中で、「ペットに優しく接し、命ある生きものを慈悲深くあつかうことを教えるのは教師の義務である」と、25もの州で公式に規定されている(筆者調べ)。この様な土壌が、欧米での動物介在療法や動物介在活動、動物介在教育の発展に寄与しているのではないかと思う。

(資料)
§44806. Duty concerning instruction of pupils concerning morals, manners, and citizenship
 Each teacher shall endeavor to impress upon the minds of the pupils the principles of morality, truth, justice, patriotism, and a true comprehension of the rights, duties, and dignity of American citizenship, and the meaning of equality and human dignity, including the promotion of harmonious relations, kindness toward domestic pets and the humane treatment of living creatures, to teach them to avoid idleness, profanity, and falsehood, and to instruct then in manners and morals and the principles of a free government.(カリフォルニア州の教育法(2000年)より抜粋)

我が国の動物を介在させた教育

日本には「万物には命が宿る」というアニミズムの精神や仏教的な殺生を忌み嫌う風潮があり、動物とともに生きる精神文化が存在してきた。初等教育においては、100年以上前から学校でさまざまな遊具とともに、池や樹木、花壇を配置し、ヤギ、ウサギ、アヒル、ニワトリ、コイ、金魚などの生きものが飼われていた学校園があった。これは、教育環境の要素としてだけではなく、児童、生徒を自然に親しませ、自然科学の学習に活用するためでもあった。

現在、学校園は少なくなったが、平成元年の学習指導要領の改訂において生活科が導入され「自分と身近な動植物を通して自然とのかかわりに関心を持ち、自然を大切にして自分たちの生活や遊びを工夫できるようにする」という目標の下に、小学校で盛んに動物が飼育されるようになった。学校外部から動物を持ち込み、動物とのふれ合いを中心として動物の適正飼育の指導を行うAnimal-assisted Activity(以下、動物介在活動)という新たな取り組みも始まっている。

動物介在教育の定義について

動物とのふれ合いをさらに専門の領域に活用したAnimal-assisted Therapy(以下、動物介在療法)は、リハビリテーションやペインコントロール、心理療法などの医療行為の中で、医療従事者(有資格者)が治療計画を立て、治療過程に動物を導入し、その過程を記録し、結果を評価するものである。これと同様の試みで、フィールドを教育の現場に移し、対象を子どもに置き換えたものが動物介在教育である。つまり、教育従事者(有資格者)が教育目的や学習目標を設定し、授業計画を立て、学習課程に動物を導入し、その過程を評価するものである。

 言うなれば、日本の教育現場に定着している動物をめぐる活動(例えば、学校飼育動物の世話、動物園への遠足、農場などへの社会科見学、外部講師を迎えての動物愛護教育、犬とのふれあい方教室など)とは、質も目的も異なるものである。

動物介在教育の取組み

例えば、介在動物が犬の場合、学習の過程や生活態度に現在どの様な問題があるのかを明らかにして、その問題を解決する為に犬が持つ行動特性を効果的に取り入れた動物介在プログラム(学習目標、学習計画、評価)を担当教師と策定する。それから犬が入れる場所と時間枠を決め、それに参加する犬&ハンドラーを選定して授業を実施する。工夫次第で犬を導入できる科目はいくらでもある。音楽では、犬が吠えるタイミングをコントロールして、歌やリズムの勉強ができる。算数では、犬の配置を時計に見立て時間の読み方を学ぶこともできる。読書の時間では、犬を聞き手に音読の練習をする。まじめに集中して勉強ができたら、ご褒美として犬と遊べる時間も組み込むことで学習意欲も高まる。

また、動物介在教育を実施するに当たり、初回には必ず犬とのふれあいの時間を作り、そこで犬との授業をするために守るべきルールを作る。ただし「犬はこういう動物だからこうやって接しましょう」ということをこちらから言うことはない。みんなで一斉に走ったり、急に静かにしたり、大声を出したりして、犬の反応を児童が観察する。すると、児童は犬の行動パターンを自分の目で読み取り考え、犬と授業をするためにみんなで守るべきことを自主的に決めていく。「犬は走ると追ってくるから走らないようにしよう」とか、「大きな音にびっくりするから静かにしよう」など、自らの気づきに従ってルールを作る。自分で作ったルールだからこそ子どもは納得する。近年増えている多動性障害の児童も犬と授業をする中で、いろんなルールを守れるようになったという報告9)もある。

「教室に犬がいる」という日常とは異なる環境が、子どもの緊張感や集中力を高め、授業が活性化されるのかもしれないが、犬ならではのインタラクティブ性やエンタテイメント性など、犬が教室にもたらす副産物は計り知れない。犬との授業を通して、非言語コミュニケーションを学び、他者に対するやさしい心遣いが育つなどプラスの波及効果は枚挙に遑がない。

動物介在教育の現状と課題

現代の、特に都市部の子ども達は自然の中で遊ぶ経験が少なく、昆虫採集やペット飼育、植物栽培などの経験を持っていないといわれるが、それは教師にも当てはまることである。文部科学省国立教育政策研究所:科研費研究「初等中等教育における生命尊重の心を育む実験観察や飼育の在り方に関する調査研究」結果を見ると、昆虫採集を取り上げない学校は4割以上、昆虫標本作製はほとんどの学校が取り上げていないことが分かる。教師になって初めて昆虫や小動物の飼育を体験したという人が多いという現実がある。

動物介在教育を導入した若い教師たちは、「私が小学生だった頃に、この授業を受けられたらよかった」と言う。実際に体験してみればその効果は歴然なのだが、まだまだ学校の側から要請が来ることはあまりない。先生本人が犬を飼った経験がなく、犬とはどんな動物かを理解してから自分の授業に取り入れるのではハードルが高すぎる。先生方の多くは仕事に忙殺されて、新しい教育法を取り入れるための情報収集の時間すら割けないというのが現状である。そこで願うのは、既に欧米の大学や大学付属機関においてこの分野のクレジット?コースが導入されているように、日本の高等教育の教養課程や教育学部や教職課程のカリキュラムに「動物介在療法」「動物介在活動」「動物介在教育」を組み入れてもらうことである。学生時代に、動物介在療法や動物介在活動、動物介在教育について学び、ボランティアとしてその活動に参加することは、学生の人間形成にも役立ち社会貢献にも繋がる。そして、何よりも「動物介在教育」で培った動物愛護とボランティアの精神は、この分野の発展における大きな礎になると思う。


  1. 1) Bryant, B. K. The neighbourhood walk. A study of sources of support in middle childhood from the child's perspective. Monographs of the Society for Research in Child Development. 50 (serial no.210). 1985
  2. 2) Poresky, R.H. The young children's empathy measure: reliability, validity and effects of companion animal bonding. Psychological Reports.66. 1990.pp.931-936.
    (コンパニオン?アニマル研究会訳:「子供時代のペットと青年期における心理社会的発達」、『コンパニオン?アニマル』、誠信書房、1994、pp.158-168.
  3. 3) Robin. M.. & ten Bensel, R. W., Quingly, J. S & Anderson, R. K: Pets and the socialization of children. Pets and the family. M. B. Sussman, ed. Haworth Press: New York; 1983.pp. 63-78
  4. 4) Guttmann, G. Predovic, M. Zemanek, M.. The influence of pet ownership on non-verbal communication and social competence in children. Proceedings of the International Symposium on the Human-Pet Relationship. IEMT, Vinna.1985.pp.58-63.
  5. 5) Haggerty Davis, J., Gerace, L., & Summers, J: Pet-care management in child-rearing families. Anthrozoos 1989; 2(3): 189-193.
  6. 6) Ascione, F. R: Children's attitudes toward the treatment of animals. Children's attitude about the humane treatment and empathy: One-year follow up a school-based intervention: AnthrozoOs 1996; vol.6, no.4.
  7. 7) Bergesen, F. J.: The effects of pet facilitated therapy on the self-esteem and socialization of primary school children. Paper presented at the 5th International conference on the relationship between human and Animals; Monaco: 1989.
  8. 8) Miyoko Matoba, Debbie Coultis:Fostering Cooperation Between the United States and Japan: Japanese Elementary School Program Teachers Reverence for All Life.
    的場美芳子「ヒューメイン?エデュケーションのプログラムの立案と実践」『教育新世界』53. 2005 pp.24-31
  9. 9) 高芝三香、的場美芳子、西村昌美、中山由里子「動物介在教育 動物介在を通した望ましい学級作りと教科学習まで」『2007年度WEF国際教育フォーラム抄録集』pp.16-17, 2007.

第7回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムの内容‐動物と人が共存する健康な社会‐(5)子どもの学習における動物の役割を考える
子どもの学習における動物の役割を考える
 
日本獣医生命科学大学教授 柿沼 美紀

はじめに
動物愛護に関する世論調査では、「ペット飼育がよい理由」として、4割が「子どもたちが心豊かに育つ」と回答しており、実際に飼育している人の2割はその理由を「子どもの情操教育のため」としている(内閣府大臣官房政府広報室)。保育園における動物飼育に関する意識調査では、多くの担当者が動物の存在が子どもの遊びや活動、あるいは相互関係の幅を広げると報告している(高橋他)。こういった動物飼育は子どもにとって良いという考え方の根拠はどこにあるのだろうか。

動物の果たす重要性に関する知識の多くは、自身の経験や、子どもの様子から得られたものではないだろうか。ウサギと関わる園児の発話の分析では、共感性、養護性など子どもが習得することが望ましい内容が発現している(濱野他)。また、ウサギが情緒的なサポートを果たしている様子も明らかになっている(柿沼他など)。

このように動物の効果は報告されているものの、保育現場では動物飼育は必ずしも容易ではないようだ。1993年から50以上の公立保育園を対象に行ってきた動物飼育実態調査の結果では、鳥、ウサギの飼育率が大きく減少している(桜井他)(図1)。子どもの発達にとって動物との触れ合いは好ましいという一方で、なぜ共感性、情緒の育みに影響すると考えられるウサギの飼育が減少するのだろうか。ここでは、子どもの発達に動物がどう関わっているかを検証し、今後の動物と子どもの関係のあり方について考える。

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図1 江戸川区立保育園全園における動物飼育率の推移
動物との出会い
年齢によって子どもの動物との関わり方や、動物に対する評価が異なることが報告されている。ここでは乳幼児期の子どもと動物の関わりについて簡単に分析する。

NTTコミュニケーション科学基礎研究所の天野らによると、幼児が初めて話す言葉の第1位は「まんま(ごはん)」で、以下「おっぱい」、「いないいないばぁ」、「ママ」、「はーい(返事)」、そして6位に「ワンワン」、8位に「パパ」、14位に「ニャンニャン」の順で続く。これらのイヌやネコは家族の一員ではなく、近所のイヌやネコ、あるいは絵本やおもちゃを指している場合が多く、食べ物に関する名詞と並んで高順位で出現している。これは、E. O. Wilsonのバイオフィリア仮説でも説明できるものである。つまり、子どもの世界観の中で動物は重要な位置を占め、周囲の環境の中から選択的に動物に関する情報をピックアップしていることを示唆しているようだ。実際のイヌやネコに触れたことがない子どもも、ワンワンやニャンニャンに反応する。

幼児期における動物との関わり
保育園での調査から、3歳児、4歳児の子どもは特に昆虫に興味を示す傾向がある。しかし、5歳児になると、ウサギ、亀に対する興味が高くなる。3歳、4歳は昆虫にも挨拶をするが、5歳児はしない、4歳、5歳児は昆虫の特徴について言及するなど、昆虫との関係性も変化している(高橋他)。ウサギ飼育を行っている保育園の場合、3、4歳児はウサギに対する肯定感情の表出が多かったのに対し、世話も行う5歳児になると、肯定感情だけでなく、否定感情も出現している(濱野他)。このように、発達や経験とともに子どもの興味の対象が広がり、また動物を多面的に捉えることが可能になっているようだ。

まとめ
発達心理学者のGail Melsonは、子どもにとって身近な動物とはペットだけでなく、絵本、ぬいぐるみ、おもちゃに始まり、空想の中の友だち、さらには自分の分身としての動物を含むと指摘している。また、夢の中、あるいは、子どもが描く近所の地図には動物が登場するなど、さまざまな形で動物が子どもの生活に密着し、大きな影響を及ぼしていることを示した。Melsonの指摘や、赤ちゃんの発話データが示すように、子どもにとって動物が重要な社会の構成要素であればこそ、保育現場は生きた動物との触れ合いの機会を提供する場に適しているのではないだろうか。しかし、アレルギーの問題や休日の管理の難しさなどからほ乳類や鳥類の飼育が困難になってきているようだ。また、それを補うべく昆虫飼育が盛んになってきている。子どもたちにとっては、昆虫も魚もそしてほ乳類もいるといった多様な環境が望ましいのではないだろうか。そして、経験豊富な保育士や動物の専門家のバックアップのもと、発達に応じた形で健康な動物に出会うことが望ましい。また、絵本や空想の世界の動物から、身近な野生動物も含めた多様な関わりを保育の現場で導入することが好ましいと考える。

参考文献
  1. 1) Melson, G. Why the Wild Things Are, Harvard U. Press, 2001. (横山章光?加藤謙介監訳「動物と子どもの関係学」ビイングネットプレス 2007)
  2. 2) 天野成昭?近藤公久 縦断的録音に基づくNTT乳幼児音声データベースの構築 日本心理学会第72回大会発表要旨 2008.
  3. 3) 柿沼美紀?出雲千秋「動物飼育実態調査」から見た、子どもの心の発達 「人と動物の関係」の学び方 インターズー 60-65、2003.
  4. 4) 桜井富士朗?柿沼美紀他 未発表データ
  5. 5) 高橋桃子他 保育所における動物飼育調査どうぶつと人 9-15、2005.
  6. 6) 内閣府大臣官房政府広報室 動物愛護に関する世論調査 2003..
  7. 7) 濱野佐代子?関根和生 幼児と園内飼育動物の関わり どうぶつと人 46-53、2005.
  8. 8) Wilson, E.O. Biophilia, Harvard University Press 1986.

第7回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムの内容‐動物と人が共存する健康な社会‐(6)動物福祉と動物介在教育?療法のこれから
動物福祉と動物介在教育?療法のこれから

博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@教授 樋口 誠一

はじめに
動物の福祉は、その動物の身体と精神の状態によって定義され、健康で心地よくあるべきである。しかし、動物自身がどのような感性を有し、どのように感じているかという研究は、今まであまり関心が払われてこなかった。今後は動物の適切な身体と精神の状態を理解する為の科学、動物の適切な尊重のための倫理福祉学、専門的トレーニングを踏まえた正しい行動に変換するためのプログラム等の包括的シラバスが必要とされる。

Coultis(People, Animals, Nature, Inc 理事長)のAnimal Assisted Intervention(AAI)の概念は動物介在療法、動物介在教育、動物介在活動を包含している。動物介在療法及び動物介在教育はヒトの治療及び教育のある部分に動物を参加させ、治療及び教育上の目標、計画の設定、実施、そして評価を、ヒトに対して行う一連の医療及び教育行為である。したがって、その行為の責任はそれを実施可能な資格を有する医療及び教育側の専門職が負わなければならない。

一方、動物介在活動は基本的に動物と人々が触れ合う活動であり、各種訪問活動に代表される。この活動にかかわる人間は、必ずしも医療上の専門的知識を必要とはせず、動物介在活動は、多くの場合、ボランティアが重要な役割を果たしている。

ここでは動物介在療法、動物介在活動及び動物介在教育の実施者について、また、それらの人々との関係を形成するサポーターに関して、加えてそれらの資格基準として求められる教育内容について述べる。

1.動物介在療法?活動?教育の実施者および支援者
1)動物介在療法の実施者及び支援者
動物介在療法には医療側の専門職(医師や看護師、ソーシャルワーカー、作業療法士、理学療法士、臨床心理士、介護支援専門員など)がボランティアの協力をもとに個々の患者の治療上のどこの部分で動物を介在させるかを決定し、治療上の明確な目的とその明確な到達点が存在しなければならない。動物介在療法においては、その為の詳細な記録をとることが必要であり、結果と評価が重要となってくる。

動物介在療法は、医師をはじめとする医療従事者の他に、当然その動物の所有者や管理者が必要とされる。さらに、それぞれの療法対象患者に適した動物を作出するためのブリーダー、動物健康管理者として獣医師、医療上の目的にかなう動物とするためのトレーナー、医療側の専門職と動物側のスタッフとの調整や導入援助を行うファシリテーター(参加者や状況を見ながら、実際にプログラムを推し進めていく促進者)に加えて、多くのボランティアが動物介在療法では必要とされている。

2)動物介在活動の実施者及び支援者
動物介在活動は基本的に動物と人々が触れ合う活動であり、多くの場合、ボランティアが重要な役割を果たす。訪問先が障害者や高齢者または子どもなどである場合が多く、基本的には対人マナーに留意し、軽率な行動は極力避けなければならない。参加するスタッフと受け入れ側との一定のルールが必要とされる。動物を介在させた訪問活動は、それに参加する動物の日常のケア(飼育、健康管理、しつけ)の担当者や、実際に動物と一緒に訪問するハンドラーなど多くのボランティアに支えられて可能となる。

動物介在活動を始めるにあたり、ボランティアに参加する人々は、動物好きであり、何らかの社会に役立ちたいなど、動機は様々に考えられる。活動の主体者がボランティアである以上、永続的活動が望めない場合も出てくるが、こうした活動によって、社会へ動物介在の有用性を広めつつ実績を積み重ね、裾野を広げていくことは動物介在活動の有効性、動物への理解、及び社会への浸透性を考え、将来的に動物介在教育、及び動物介在療法へ発展させていくうえで、大変意義のあるものと思われる。

動物介在活動にかかわる最低限必要なメンバーとして、動物側の責任者と施設側の責任者の他に、もう一人、ボランティアの代表として、リーダーのファシリテーターの存在が必要となる。ファシリテーターは、実際にプログラムを推し進めていく促進者の立場から、主として活動プログラムの作成、ボランティアの募集、選考、オリエンテーリング、トレーニング、参加者、施設関係者への連絡、準備など、そして何よりも活動の目的、方針を参加者に明確に伝え、理解させる役割がある。

3)動物介在教育の実施者及び支援者
動物介在教育の目的は、教育に動物を介在させることによって、他者とのかかわりを高めながら自分自身を豊かにする情操教育、動物に対する思いやりを深め生命の大切さを実感させる生命倫理教育、野生動物や自然に対する理解を深めるなかでの動物の尊重、責任感ある心を育てる環境教育などの効果を期待するところにある。

ヒトと動物の関係学に関心を寄せる各国の協会や関連団体でつくる国際組織IAHAIO(International Association of Human-Animal Interaction Organization)は、動物介在教育に関わる人々の基本的ガイドラインを示した。そのなかで動物介在教育にかかわる学校の責任者、教員およびスタッフの役割と責任について、動物が適切な環境にあるか、動物が正常に維持管理されているかに注意をはらい、日常からどのような環境下にあるかを判断し、常に改善努力していく姿勢がなくてはならないと提示されている。また「プログラムにかかわる動物が、安全であること」(適性があると認められ、きちんと訓練されていること)が求められている。このことは、飼育動物の習性、行動などに精通しており、適格な動物の選択管理ができるようなヒトが必要とされていることを示している。その他、「動物は健康であること」(獣医師による健康診断を受けていることも強調されている)。人獣共通感染症をはじめ、飼育動物の維持、管理に関して獣医師の協力が必要とされている。

動物介在教育は子どもを育てるなかで、動物のもつ良さ、特性を生かしながら、人間としてより良い方向へ成長するように「家庭教育」の中に取り入れていくこと、さらには、一般成人や高齢者を対象とした「社会教育」?「生涯教育」への導入も考えられる。しかしながら、現在の段階では動物介在教育の資格基準を明確にする意味でも、動物介在教育の定義として、いわゆる子どもを対象とした学校教育であると限定しておくことが良いように思われる。

動物介在教育は動物介在活動と区別する必要がある。すなわち、動物介在教育では、教育側の専門職(教員)によりファシリテーター、ボランティアなどの協力を得て、教育上のどこで動物を参加させるかが決定され、教育上のゴールが明確にされなければならない。そして、動物介在教育を進めるなかで、記録は必須であり、成果も評価されなければならない。動物介在教育では教育側の専門職(教員)の他に、動物を介在させることから、動物介在療法同様に、動物の所有者や管理者、ブリーダー、獣医師、トレーナー、ファシリテーター、加えて多くのボランティアが必要とされる。

2.専門家制度の資格基準
1)動物介在療法の専門家
動物介在療法の専門家の一例を、ドイツの治療的乗馬にみることができる。この領域は高度な専門性の上に成り立ち、その指導者になるには次のいずれかの専門性が必要とされている。すなわち、その専門性とは医療的な専門家(理学療法士、作業療法士、精神科医など)、心理?教育の専門家(心理士?教諭など)、スポーツの専門家(スポーツマスター?体育の教師など)である。この専門性に加えて、ドイツ乗馬連盟の認定する乗馬技術1級の資格を持っていることが動物介在療法専門家になれる条件とされている。

動物介在療法は、ヒトの健康の維持、回復、促進などに対しての広範な意味を持った医学療法であり、治療効果のあることを前提とした医療行為のひとつである。とくに、業務上の医療行為は医師のみに認められているものであり、実際の活動は医療行為、医療活動などと呼ばれ、それに関する技術などは医療技術などと呼ばれている。

しかしながら、医療活動には、ただ患者の病気を治療するだけではなく、その病気の予防やリハビリテーションも含まれている。また、看護師などによる看護活動(看護過程)、薬剤師の服薬指導、医師及び歯科医師の指導の下での管理栄養士による疾病者への栄養指導なども、当然医療活動と呼べるものであろう。

ゆえに、新たな医療活動に関わる専門家として、動物介在療法専門家の必要性を提言したい。そして、その専門家はいずれも国家資格を有する専門家制度として位置づけることを推奨する。ひとつは医療の専門家である医師が動物介在療法専門家教育プログラムを習得し、認定された後、動物介在療法専門医とする。もうひとつは動物介在療法士で、動物介在療法士の教育プログラムを習得後、国家試験に合格し動物介在療法士としての資格を有する専門職とする。動物介在療法士は、動物介在療法専門医の指示の下、動物を介在させる療法において医学的リハビリテーションを行う。

2)動物介在教育の専門家
動物介在教育では、動物の持つ良さを活用しながら、子どもが学習を通してより良い方向へ発達するように指導?援助することが目的といえる。動物介在教育専門家としていずれも国家資格を有する専門家制度として位置づけることを推奨する。すなわち、教諭が動物介在教育専門家教育プログラムを習得して認定された動物介在教育専門教諭と、動物介在教育士の教育プログラムを習得し、国家試験に合格し動物介在教育士としての資格を有する専門職とする。動物介在教育士は動物介在教育専門教諭が動物を介在させる教育を実施するにあたりその補助を行う。

3)動物介在活動
動物介在活動は前述したように、基本的に、動物と人々が表面的に触れ合う活動であり、特別なプログラムが存在するわけではない。したがって、動物介在教育、動物介在療法とは区別して考えるべきであり、その意味においては動物介在活動の専門家、資格基準は必ずしも必要でないと考えられる。また、参加する人々も、特別な義務を負うこともなく、活動それ自体はボランティアの自発性に任されている。しかし、ボランティア参加者の選考、活動理念、目的の明確化、介在動物側と受け入れ施設側の調整、活動スケジュールの作成、準備、ミーティングなどを担うファシリテーターは不可欠である。ファシリテーターはボランティア活動の根幹をなす重要な人であり、知識、経験においても豊富な人が望ましく、ある意味ではその人の魅力や人柄に活動が左右される。活動の永続性などの問題はあるにせよ、種々のケースで活動が活発化することは社会への「動物介在」の有用性を認知させるという点では重要な意義を持つことを認識する必要がある。

4)今後の方向性
動物介在療法、動物介在活動及び動物介在教育における動物介在の有効性の立証と社会の認知が必要とされる。さらに、動物介在療法専門家と動物介在教育専門家に加えて、ファシリテーター、ブリーダー、トレーナーなどの養成プログラムの確立も急務であろう。動物介在教育?療法の専門家、もしくはその資格レベルとしては動物介在教育?療法を学習した教師、医師、理学療法士、その他に心理学を学び精神疾患などの治療に携わることが可能な心理学の専門家、動物の行動や人間の身体的機能も学んだ獣医師、社会福祉関係の専門的知識を持った、社会、介護福祉士等が考えられる。今後、教育学、医学、看護学、獣医学、動物行動学、福祉学、社会学等の専門家が各々の専門性を生かしつつ相互の連携を密にしながら融合しつつ、動物介在教育?療法の場を構築し、社会的に認知される職業として定着させていく必要がある。

参考文献
  1. 1) 樋口誠一(分担執筆):動物介在教育?活動?療法に関する提言. 私立獣医科大学協会、動物介在療法教育委員会(2007)
  2. 2) 樋口誠一:動物福祉と動物介在教育?療法(教育講演).第2回日本動物介在教育?療法学会学術大会要旨集(2009、東京大学.東京)

第7回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムの内容‐動物と人が共存する健康な社会‐(7)ヒポセラピー(馬介在療法)の効果
ヒポセラピー(馬介在療法)の効果
 
東京大学大学院農学生命科学研究科教授 局 博一

ヒポセラピー(Hippotherapy)とは
馬を介在させることで患者あるいは健常者の心身の健康増進やリハビリテーションの促進を行う福祉活動であり、明確に医療的な効果を得ることを目的としている、補助医療あるいはパラメディカル分野の一つである。ヒポセラピーにかわってEquine-assisted therapyあるいはTherapeutic ridingといった呼称も用いられているが、作業療法学や理学療法学などの分野の学術雑誌に発表されている最近の研究報告ではHippotherapyの用語を使用している例が多くなっている。乗馬および乗馬中の作業タスクは騎乗者に対して様々な運動負荷と感覚刺激を同時に賦与するものであり、医療分野の中では作業療法や理学療法にもっとも近い分野と思われる。また一面では、スポーツ科学としての側面も有している。

ヒポセラピーの歴史(概要)
古代ギリシャのヒポクラテス(BC460-377)の時代の記録(Chapter"Natural Exercise")の中で、乗馬によるリズムが負傷兵の身体機能の回復を早めることが記載されているといわれる。時代が進んでルネッサンス期のイタリア人フロニムス?マーキュリアリス(Huronymus Merkurialis)は1569年に"The Art of Gymnastics"を著し、乗馬を論議するとともに、健康の回復と維持に対する乗馬の効果を考察している。

時代がさらに進み、フランスのパリ大学で医学を研究していたシシャーニュ(Chassaine)は1870年に出版した論文の中で、神経疾患を持つ患者に対する治療方法の一つとしての馬の利用に関する知見を述べている。その後1970年代になるまで一般通念での科学的な研究論文は見出されないようである。

しかし、この間にヒポセラピーは医療分野の専門家の関心と普及活動によって世界的にその意義が認められ、とくに第二次世界大戦後は急速な発展を示した。1900年代の前半に、第一世界大戦での体験をもとに医師アグネス?ハント(D.A. Hunt、オズウェストリー整形外科病院)と理学療法士のオリーブ?サンズがオックスフォード病院で患者の乗馬治療を開始、1948年には英国のウィンフォード整形外科病院(S.セイウェル)が障害者乗馬治療施設として公認された。戦後はベルギー、デンマークや英国を中心に医師や理学療法士の間で乗馬による近代的な医療活動が普及し始めていたが、ブレークスルーとなったのは有名なリズ?ハーテル(Liz Hartel, デンマーク)の活躍である。彼女は若い時(1940年)にポリオに罹患したことが原因で下肢が完全に不随となったものの、愛馬とともに人馬一体の生活を送るようになり、馬術に魅せられてついにはオリンピックヘルシンキ大会(1952)およびメルボルン大会(1956)の馬場馬術競技(ドレッサージュ)で銀メダルを獲得したというものだった。男女が同一条件のもとで競技が実施され、また今日のようにパラリンピックもない時代での快挙であり世界的な賞讃を浴びた。このような出来事とハーテル女史自身による熱心な普及活動によって障害者乗馬に対する関心が飛躍的に高まり、1969年には英国アン王女が総裁を務める障害者乗馬協会RDA(Riding for the Disabled Association)が、同年に北米障害者乗馬協会NARHA(The North American Riding for the Handicapped Association)が設立された。

現在、両団体ともその傘下に600程度の活動組織や施設を有す大きなグループである。次いで、1970年にドイツ乗馬療法協会が設立、1972年にはベルギー乗馬療法協会が設立された。上記のRDAやNARHAは、障害者の身体機能回復を高めるための活動を行っているが、一方では乗馬や馬車(Driving)によるスポーツやレクレーションとしての活動も大きな比重を占めている。

わが国では1973年に(財)ハーモニィセンターがポニークラブを開設し、児童、青少年の情操教育への取り組みが始まるとともに、1990年にポニースクールかつしかで障害者乗馬が開始された。1989年頃から国立特別支援教育総合研究所の滝坂信一博士らによって乗馬医療に関する研究が行われるようになった。1991年には医師である村井正直氏が重度障害者施設を擁している社会福祉法人わらしべ会において、英国RDAとも連携して乗馬療育を浦河わらしべ園などで開始した。また、村井氏は北海道日高に乗馬療育インストラクター養成学校を1998年に創設して、乗馬療育に必要な指導者の育成に当たっている。1995年から1999年にかけて、日本障害者乗馬協会(JRAD, 1995)、日本乗馬療法協会(NRT, 1996)、RDA横浜(1996)、RDA Japan(1998)、全日本障害者乗馬協議会(1999)など次々とこの分野の組織が設立されるとともに、全国各地で意欲的な活動が展開されている。

現在、馬とのふれあい活動も含めると(祭りを除き)、活動団体は全国でおそらく150は下らないと思われる。しかしながら、理学療法士、作業療法士、医師、障害者乗馬インストラクター、言語聴覚士などの有資格者と連携して医療活動を実践している団体はそれほど多くないのが実情である。その最大の理由は、わが国ではこの分野における全国基盤での資格制度が整備されていない点が挙げられる。一方、ドイツでは指導者および施設が認定を受けたヒポセラピーは医療手段の一部として正式に位置付けられており、障害者医療における重要な手段になっている。

ヒポセラピーの実施方法
ヒポセラピーの実施にあたって必要な条件は、1.信頼できる馬、2.インストラクター(有資格者)、リーダー(プログラム内容やクライアントの状況に応じて馬の歩様、静止などを自在にコントロールできる人、サイドウォーカー(通常は2名、教育を受けたボランティアで可)、クライアント(騎乗者)、3.適切な空間(馬の頭数、参加人数によるが、概ね20m×20m以上の面積で可、円形に仕切ると実施しやすい)である。乗馬は引き馬で行うのが普通であり、馬の歩様は常歩(なみあし)または速歩(はやあし)で行う。また、乗馬ではないが馬車操作(ドライビング)を行う場合もある。乗馬中には会話による視聴覚?言語刺激、馬上体操や身体動作(手を延ばす、挙げる、道具をつかむ、馬を撫でるなどのスキル)を同時に行い、総合的な効果を生むように心がける。また、乗馬以外にも馬装準備や馬具の手入れ、馬への接近、挨拶、乗馬前のバランスボール、馬へのブラッシング、裏ぼり、玩具などの補助用具の使用も活動メニューに組み入れている場合が多い。

ヒポセラピーの身体的効果
ヒポセラピーは脳性麻痺、脊髄疾患、脳卒中、自閉症、アスペルガー、多動症、筋硬直症などの様々な疾患に適用される。また、ヒポセラピーは非常に大きな精神的効果があることが知られている。しかし、医療分野での科学論文としては肉体的な変化に関するものが多くみられる。これはヒポセラピーの精神的、心理的効果が身体的効果よりも小さいという意味ではなく、物理的な測定が比較的容易な身体的効果の方が結果の判定をしやすく、論文になりやすいといった面も一因かと思われる。

物理的な測定指標としては、関節可動域(ROM)、握力、歩行?起立?姿勢変換?ジャンプなどの粗大運動(GMF)、筋活動(筋電図)の協調性、左右対称性、筋収縮?弛緩の大きさ、モーションキャプチャー観察による上肢?下肢の運動機能、頭部?体幹の安定性、歩行運動(移動時間、移動軌跡、加速度など)など様々である。最近では、近赤外線スペクトロスコピー(fNIRS)を利用して脳性麻痺疾患や自閉症における脳血流の変化を簡便にリアルタイムに測定する試みもなされている。一方、精神的、心理的変化の測定では、VAS試験、クレッペリン試験などの指標が知られている。ヒポセラピーでは、発語能力の向上も経験的に知られている。また、慶野らは独自に開発した目視による身体的観察指標(HEIPスコア)と精神的観察指標(HEIMスコア)を用いて、セラピーの効果を判定している。

ヒポセラピーの身体的効果に関して、あまり効果がないのではないかといった見解を耳にすることもあるが、最近、科学的評価に十分耐えうる研究論文が増えてきていることも事実で、それらの多くはヒポセラピーの陽性効果を認めている。効果が見られなかった研究は論文にしにくいといった事情も考えられるが、条件設定を厳密にして適切な指標で観察した場合には、それなりに効果があることが示されている。

このような研究成果としては、脳性麻痺患者における関節可動域の増大、頭頸部の安定性の増大、上肢の運動機能の向上、体幹部の左右対称性の改善、歩行能力の改善、運動エネルギー(酸素消費量)の効率化などが挙げられる。このような身体的変化の一部は、乗馬直後だけでなく乗馬中止後の少なくとも12週間にわたって持続することも認められている。乗馬は三次元の揺れをベースにして、視覚、固有感覚、前庭覚、皮膚感覚などの様々な感覚をクライアントに同時にもたらすものであり、作業療法学などの分野で重要な概念になっている「感覚統合」機能を促進する上で効果があるものと思われる。

今回は、ヒポセラピーの身体効果に関する国内外の科学的研究成果の一端を紹介する。(本講演内容の一部は日本獣医内科学アカデミー2010で発表した。)

参考文献例
  1.  1) Shurtleff TL, Standeven JW, Engsberg JR.(2009): Changes in dynamic trunk/head stability and functional reach after hippotherapy. Archphys Med Rehabil. 90(7):1185-1195.
  2.  2) McGibbon NH, Benda W, Duncan BR, Silkwood-Sherer D.(2009): Immediate and long-term effects of hippotherapy on symmetry of adductor muscle activity and functional ability in children with spastic cerebral palsy. Archphys Med Rehabil. 90(6):966-974.
  3.  3) Nareklishvili TM.(2008): Dynamics of hip joint biomechanics in patients with coxarthrosis at the time of hippotherapy. Georgian Med News. (155):26-31.(Abstract)
  4.  4) Sterba JA.(2007): Does horseback riding therapy or therapist-directed hippotherapy rehabilitate children with cerebral palsy? Dev Med Child Neurol. 49(1):68-73
  5.  5) Snider L, Korner-Bitensky N, Kammann C, Warner S, Saleh M.(2007): Horseback riding as therapy for children withcerebral palsy: is there evidence of its effectiv eness? Phys Occup Ther Pediatr. 27(2):5-23.
  6.  6) Lechner HE, Kakebeeke TH, Hegemann D, Baumberger M.(2007): The effect of hippotherapy on spasticity and on mental well-being of persons with spinal cordinjury. Archphys Med Rehabil. 88(10):1241-1248.
  7.  7) Benda W, McGibbon NH, Grant KL.(2003):Improvements in muscle symmetry in children with cerebral palsy after equine-assisted therapy (hippotherapy). J Altern Complement Med. 9(6):817-825.
  8.  8) Winchester P, Kendall K, Peters H, Sears N, Winkley T.(2002): The effect of therapeutic horseback riding on gross motor function and gait speed in children who are developmentally delayed. Phys Occup Ther Pediatr. 22(3-4):37-50.
  9.  9) Sterba JA, Rogers BT, France AP, Vokes DA.(2002): Horseback riding in children with cerebral palsy: effect on gross motor function. Dev Med Child Neurol. 2002 May; 44(5):301-308.
  10. 10) img_tmoji1.gif(2001): The utilization of hippotherapy as auxiliary treatment in the rehabilitation of children with cerebral palsy. Ortop Traumatol Rehabil. 3(4):538-540.(Abstract)
  11. 11) McGibbon NH, Andrade CK, Widener G, Cintas HL.(1998): Effect of an equine-movement therapy program on gait,energy expenditure, and motor functionin children with spastic cerebral palsy: a pilot study. Dev Med Child Neurol. 40(11):754-762.
  12. 12) Bertoti DB.(1988): Effect of therapeutic horseback riding on posture in children with cerebral palsy. Phys Ther. 68(10):1505-1512.
  13. 13) Rieger C.(1978): Scientific fundamentals of hippo - and riding therapy - a compilation of study results. Rehabilitation (Stuttg). 17(1):15-19. (Abstract).

第7回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムの内容‐動物と人が共存する健康な社会‐(8)馬介在療法の科学的効果‐内科医の視点から‐
馬介在療法の科学的効果‐内科医の視点から‐
 
関西福祉科学大学健康福祉学部教授
東京大学大学院農学生命科学研究科特任教授
大阪市立大学医学部疲労クリニカルセンター
倉恒 弘彦

慢性的な疲労の治療としては、身体機能の回復とともに、心の癒しが求められており、内科療法、精神神経科療法、理学療法、作業療法、スポーツ療法、音楽療法などのこれまでのスタンダードな治療のほか、最近では自然との触れ合い(自然療法)や園芸を介した心のケア(園芸療法)なども病院での治療として採用され効果をあげている。このような中、動物の癒し効果を利用した治療としてアニマルセラピーも、精神?神経疾患のみならず身体疾患に対しても広く行われてきた。

アニマルセラピーとは、動物を介在して人の治療を行うものの総称で、通常は犬や猫などの愛らしい小動物が使われており、無邪気な小動物が患者さんと接することにより、心のいらだちや不安、人への恐怖などの症状が癒され、何事にも無関心であった人が、再び犬や猫に接したいと欲するようになるなど、物事へ取り組む意欲が増加する効果などが認められている。しかし、このようなアニマルセラピーが実際に心身のどこに、どのような効果を与えているのかについて科学的に検証した報告はあまりない。

我々は、大阪府教育委員会と服部緑地乗馬センターの取り組みにおいて、不登校、引きこもりの子どもたちの中には馬との触れ合いを介して社会復帰できていることを知り、厚生労働科学研究(子ども家庭総合研究事業)の中で馬介在療法を希望した9名の不登校児(高校生;男性4名、女性5名)と引きこもり状態の5名の成人(男3名、女性2名)(計14名;15歳~41歳、20.5±7.6歳)を対象に馬介在療法の科学的な検討を行なったところ、気分の落ち込み、イライラ感、不安感、緊張などの自覚症状の改善とともに臨床心理士の観察においてもホースセラピーの施行に伴い以前に比較して、表情が明るくなる、家庭での会話が増える、日常生活における行動量が増加するなどの改善が認められた。また、アリス?W?ポープ(1992)による自尊心尺度を使用して評価したところ、ホースセラピー前には、全般、家族、社会に対しての自尊心(自分を大切にする気持ち)が健常児と比較し明らかに低下していたが、ホースセラピーの参加後は、全般、家族に対して改善の傾向がみられた。

アクティグラフによる行動量、睡眠?覚醒リズムの評価では、今回検討できた症例数は5名と少なく有意差検定は行うことはできなかったが、騎乗プログラムの実施が始まる前の3日間と、プログラム終了後からの3日間で評価した結果を見てみると、日中の活動量が増えて、中途覚醒が減っている傾向がみられた。また、被験者の睡眠時間を見てみると、平均約9時間の睡眠をとっていたが、ホースセラピー参加後では、睡眠時間の減少、活動時間の増加傾向がみられた。

また、一般に、乗馬は運動しているのは馬であり、騎手は単に馬にまたがってバランスを取っているだけのように思われているが、男女11名(年齢33.0±10.7歳、身長163.6±8.5cm、体重57.4±9.7kg)を対象に、安静時、歩行時ならびに常歩(なみあし)、速歩(はやあし)、駈歩(かけあし)の騎乗時における心拍数、酸素消費量を、ホルター心電計、ポータブルタイプの酸素消費計を用いて計測したところ、安静時の心拍数は83.0±8.3/分、酸素消費量は262±79ml/分であったが、常歩騎乗のみで心拍数は103.1±11.7/分、酸素消費量は603±132ml/分と有意に増加していることが判明した。本人が歩行した場合の心拍数は98.3±13.4/分、酸素消費量は537±84ml/分であり、ただ馬にまたがっているだけの常歩騎乗であっても歩行と同等の有酸素運動になっていた。このことは、特別な技術を必要としない「引き馬乗馬」(被験者は馬にまたがっているだけで、指導者が馬を引っ張って誘導する騎乗)のようなものでも、立派な有酸素運動になることを示唆している。性別や年齢による差も余りみられなかった。

さらに、速歩騎乗では心拍数は145.2±17.7/分、酸素消費量は1279±305ml/分、駈歩騎乗では心拍数は163.1±12.8/分、酸素消費量は1516±385ml/分と自転車エルゴメーター負荷試験の最大運動負荷に匹敵するような有意な増加が認められ、速歩、駈歩騎乗は他のスポーツと同等の激しい無酸素運動であることが確認された。

次に、有酸素運動を行うとストレスの解消や気分が爽快になることが知られていることより、乗馬に伴う上記効果が単に有酸素運動効果によるものであるのか、それとも馬との触れ合いを介した乗馬特有の効果であるのかを調べるため、関西福祉科学大学の学生10名を対象に、クレッペリン試験(30分)と鏡に映った文字を写す作業(30分)を2回ずつ(計2時間)行い、精神作業付加に伴う疲労状態を誘発し、その後20分間乗馬をした場合と、20分間有酸素運度(歩行)をした場合の疲労回復効果を比較検討した。その結果、有酸素運動だけでも被験者の疲労感、活力の程度、緊張の程度、意欲の程度は回復していたが、乗馬では上記効果に加えて、気分の落ち込み、イライラ、不安、体調の悪化などの症状にも有意な改善がみられ、乗馬では有酸素運動の効果に加え、馬との触れ合いを介して疲労に伴ういくつかのネガティブな症状を改善させる効果がみられることが判明した。そこで、本講演ではこれまでに明らかになってきたいくつかの馬介在療法の科学的効果について紹介する。

謝辞
本研究の馬介在療法にご協力頂いたNPO法人ホース?フレンズ事務局および服部緑地乗馬センターの皆様、不登校の子供たちを引率頂いた向陽台高校西隆二先生、成人の引きこもりの方々の引率を頂いたNPO法人京都教育サポートセンター谷圭祐先生に深謝致します。

学長助成金による乳酸菌プロジェクトが開始‐分子基盤理解に基づく乳酸菌の健康増進機能の開発とその食?医療への応用‐
平成22年度「博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@教育?研究プログラム学長助成金」による研究が開始された。題して「分子基盤理解に基づく乳酸菌の健康増進機能の開発とその食?医療への応用」。略して「乳酸菌プロジェクト」。

この乳酸菌プロジェクトには、学内の獣医学部、理学部、医学部、医療衛生学部、薬学部、北里生命科学研究所、それに2008年4月に北里大に加わった海洋バイオテクノロジー釜石研究所などの研究グループが参画しているであった。しかし、近年、医学?医療から乳酸菌に注目が注がれている。医学が腸内細菌に関心を深め始めたからである。

この乳酸菌プロジェクトには、学内の獣医学部、理学部、医学部、医療衛生学部、薬学部、北里生命科学研究所、それに2008年4月に北里大に加わった海洋バイオテクノロジー釜石研究所などの研究グループが参画している。

学部を超えた提携で研究を加速化し、「北里発の乳酸菌研究」を日本をリードする研究に育て上げる。共通の研究プラットフォームで学部横断的に研究をサポートする体制を整えた。研究サポートチームは、2007年4月に発足した感染制御研究機構(白金キャンパス)と、研究支援センター(相模原キャンパス)が担当している。このプロジェクトは、採用の際にも強調されたが、農医連携の研究の姿の一例を示している。農学と医学の連携によって科学のもつ分離の病を克服する一手段でもある。

 将来は、企業や国外の機関などとの共同研究?研究提携を拡大する。さらに産学官プロジェクトにも応募していく。企業との共同研究では「乳酸菌による炎症性疾患、肥満及びアレルギー等の予防?治療に向けた基礎及び応用研究」「乳酸菌による健康機能改善作用の臨床治験とメカニズム研究」「乳酸菌投与による抗肥満作用メカニズムの解明」などに取り組む。

乳酸菌プロジェクトの基盤の1つは、海洋バイオテクノロジー釜石研究所の乳酸菌の菌株ライブラリーである。この研究所では志津里芳一特任教授のグループが、岩手県の2008年度海洋バイオ応用化支援事業の採択を受けて「岩手県産発酵食品由来乳酸菌の収集、分類、有用機能探索」の研究を実施し、「食経験のある乳酸菌」菌株ライブラリーを分離?作製している。2009年度海洋バイオ応用化支援事業「岩手県産イサダの高付加価値化技術の実用化」では、この乳酸菌の中の1株を用いた乳酸発酵により、 GABA(ギャバ)高含有イサダの製造法を確立し、製品化の最終段階にきている。

参照:GABA(ギャバ)とは:正式にはγ-アミノ酪酸(Gamma Amino Butyric Acid)といい、人間の体内に広く存在する天然アミノ酸の一種である。特に脳や脊髄などに存在し、抗ストレスの役割を果たす。ストレスを感じる日常生活で、GABAは気持ちを落ち着かせ脳をリラックスさせる抑制系神経伝達物質としての働きをするといわれている。

具体的には、ドーパミンなど興奮系神経伝達物質の過剰分泌を防ぐといわれている。GABAはストレスが多いほど消費され減少していき、加齢と共に減少する。GABAが体内で不足するとストレスを感じやすくなり、継続的なストレスは胃腸をはじめ様々な臓器や、脳、心臓などに障害をもたらし、生活習慣病を誘発するといわれている。

乳酸菌プロジェクトの初会合が開催された
日時:7月5日(月)13時~14時20分 場所:白金キャンパス211/212講義室
乳酸菌プロジェクトメンバー:石原和彦?市川尊文(医療衛生学部)、五艘行信(医学部)? 小林義典?供田 洋?内田龍児?中村正彦(薬学部)、山本裕司?向井孝夫(獣医学部)、高橋洋子?塩見和朗?砂塚敏明?清原寛章?増間碌朗?松井英則(生命研)、志津里芳一(海洋  バ イオ釜石研)
研究サポート:鈴木賢一(感染制御研究機構)、柴田政俊(事務担当)、中野洋文(生命研)

議事要旨
  1. 副学長の挨拶:「技術知」および「生態知」から「総合知」への進化の現況と、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@全体での「知」の交流を広げて行くことの必要性。
  2. リーダーから学長助成金の配分説明。次年度に向けて支援金を継続して獲得するための努力の要請。
  3. 今後は全体会議を3カ月ごとに開催する予定。個別テーマについては、随時打ち合わせ等を持つことを確約。
  4. 今年度末にはシンポジウム形式の成果報告会の開催も視野に入れる。
  5. プロジェクト提案時の4つの主題を基本にした研究テーマの概要について説明。
  6. サンプルの供給についての扱いが検討された。

企業との提携推進状況
  1. ※ S社:共同研究に向けた情報交流段階(乳酸菌による炎症性腸疾患、肥満およびアレルギー等の予防?治療に向けた分子基盤研究)メカニズム研究については本プロジェクトと共同の可能性検討
  2. ※ K社:健康機能改善作用の臨床治験の実施に向けた検討段階
    メカニズム研究については本プロジェクトと共同の可能性検討
  3. ※ N社:乳酸菌投与に伴う齧歯類(ラット?マウス)小腸粘膜の変化と抗肥満作用との関連性の解明(提案段階)

農?環?医にかかわる国際情報:12.タイ
2010年2月7日から11日にわたって、タイ国における農医連携に関わる病院や職業訓練センターを視察する機会と、タイ国衛生省代替医療局主催「農業?環境?健康(農医連携)」のセミナーで講演する機会を得た。その内容を以下に紹介する。

  1. ワットポ伝統医学?マッサージ学院
  2. ダムナンサドウアック郡立病院(ラーチャンブリ県)、タイは、県?郡(市)?町?村
  3. チャオ?プラヤー?アバイブベ病院(プラチンブリ県)
  4. タイ国衛生省代替医療局主催「農業?環境?健康(農医連携)」セミナー
  5. 文部省特別教育局チョンブリ県職業訓練センター
  6. 滞在中に読んだ新聞「The Nation」の環境問題の記事
参考:タイ国総理府の基本方針
参考:「2007-2011年?第10次タイ国家健康開発計画」概要(抜粋)


1.ワットポ伝統医学?マッサージ学院(WATPO TTM、バンコック市内)
タイ国における最初の医学校で、1)一般タイマッサージ課程、2)足マッサージ課程、3)タイ医学マッサージ?セラピー課程、4)オイルマッサージ?アロマセラピー課程、5)乳幼児課程がある。

2.ダムナンサドゥアック市立病院(Damnoensaduak Hospital ラ?チャンブリ県)
300床を有する地域の中核的な総合病院である。スラート: Surat Lekutai病院長は、タイでも評価の高いマヒドン大学の医学部で近代医学を学んだ医学博士である。氏は農医連携への関心が高く、病棟の間に菜園を設け、自然農法で栽培した作物を患者に提供している。さらに、元気が回復した患者には、その農地で野菜を作ることを勧めている。

院内は代替医療を主体としたシステムが完備されており、ハーブ療法、タイ式指圧、タイ式エクササイズ、祈り、ヨガ、中国式エクササイズなどが行なわれている。食べ物は、大地?水?風?火の産物、環境は平和と緑、社会貢献には仏陀に関わる儀式への参加などをキャッチフレーズにして、患者の治療にあたっている。

3.チャオ?プラヤー?アバイブベ郡立病院(Chao Phya Abaibhubejhr Hospital プラチンブリ県)
タイの地方医療センターとして1941年に設立された。当時は、国内全19病院のひとつであった。当初はプラチンブリ県の病院として、特に病院名はなかったが、1966年に、チャオ?プラヤー?アバイブベ(本名:シュム?アバイフォン閣下)が病棟を設立し、これにちなんで病院名がつけられた。病院の敷地内には、タイの伝統的医療博物館がある。

タイ特有の「文化的?伝統的」医療法であるハーブ治療法が、1983年から推進されている。世界保健機関(WHO)とタイ国衛生省からの支援を受け、一次医療インフラ設備が開発されている。またハーブなどの品質は、化学肥料を使用しない13軒の農家と契約し、タイの有機農業認証機関(ACT)のもとで厳重に管理されている。治療には、漢方薬、マッサージ、ハーブ、オイルなどが活用される。マッサージ技術を習得するための学校が併設されている。

今日では、チャオ?プラヤー?アバイブベ病院(500床)は、最新技術を取り入れた総合医療センターである。利用者は、病院の公共医療、タイの伝統的薬や代替医療を含むさまざまなサービスを選び合わせて、治療を受けることができる。このように伝統的治療法を促進することによって、地域および国全体の健康基準を向上させてきた。

タイの公共保健制度と基本的な医療システムは、主に米国や欧州諸国のものを基本としてきた。チャオ?プラヤー?アバイブベ病院は、タイ特有の "文化的?伝統的"医療法の重要性を認識し、1983年から、ハーブを使用した治療法に力を入れてきた。

上述したように、世界保健機構(WHO)からの支持も受け、タイ国衛生省は2000年までに地域に根付く、一次医療インフラ設備の開発を目標とした。それにより、一般家庭で伝統的とされたハーブ治療法が推進されたのである。国際機関の厳しい審査を乗り越え、ハーブ製品は国際的にも幅広い支持を受けてきた。それにより、医療機関という枠を超えて、ハーブ開発に力を注ぐ活動を円滑にするために、チャオ?プラヤー?アバイブベ病院財団が2001年に設立された。非営利組織である。

財団は、タイの伝統医学(TTM)をタイ人のみでなく国外の人にも使用できる運営を行っている。財団は、現在115人の人員を有している。年間収入は100万バーツで、収入の70%は病院へ、残りは漢方薬の開発と社会発展のためのプログラム資金として活用している。毎日、ハーブのカプセル:500,000、ティバッグ:2000,ボトル飲料:5000, 個人医療製品:3000、ハーブ抽出物:1000リットルを製造している。品質管理は、オーガニック農業運動国際連合(IFOAM)で正式許可された組織であるタイ国有機農業保証(TAT)で保証された安全な過程での農場から始まる。

開発された製品に、Garcidine消毒剤、カプサイチンクリーム、ハーブの目元ジェル、咳止めドロップ、若返り石けん、犬のシャンプー、ハーブ薬(29品目)、栄養補助食品、ハーブ化粧品(31品目)、歯磨き粉、ハーブ飲料(8品目)などがある。筆者はハーブの歯磨き粉を購入して使用している。品質はよいが、茶色なので、白い歯磨きを使用してきた人には違和感があるかも知れない。販売元は、国内の小売り雑貨屋、薬局、政府や私的病院などである。外国では、日本(公式代理店:福岡「moonbow」店、東京「アバイブーベ青山」、ドイツ、アメリカ、ベトナムに輸出している。

療法には次のものがある、タイマッサージ(タイ王室マッサージとタイの伝統マッサージが一体化したスタイル:すべての筋肉痛と筋硬直の痛みを治療する)、熱いハーブの湿布(筋肉痛や痛みの治療にハーブのボールを使う。ハーブのボールは新鮮なハーブの束を清潔な布で包んだ物である。捻挫や筋硬直にもよい)。ハーブのサウナ(血行をよくする。肺と鼻詰まりを治す。ぜんそく、風邪、インフルエンザによい)。足つぼマッサージ(炎症を減少し、マッサージやハーブ製品で足やふくらはぎの痛みやうずきをなくす。打撲、こわばり、腫れの治療にはプレイスオイルとクリーム。パヤヤ香油が抗炎症に効く。ガランガル足スプレーで、抗菌作用、臭気抜き、血行が改善される)。美容治療(顔と頭を一緒にマッサージする。頭痛やストレスのすべての緊張を取り除く。健康で美しくある)

アバイブベタイ伝統医療大学がブラハ大学との協力で2006年に開設された。生徒数は130人。最初の2年間はブラハ大学で、後の2年間はチャオ?プラヤー?アバイブベ病院で学ぶ。

「情報:農と環境と医療 55号」に「本の紹介 44:代替医療のトリック」を掲載した。著者のサイモン?シンは科学史の大家、エツァート?エルンストは代替医療に造詣の深い医学者である。この書のなかで、著者はハーブ療法を除く他の療法について、1)代替医療の効果はきわめて微々たるものである、2)確証されないものもある、3)多くのリスクをもつ、4)一見効果があるように見えるものもその大半はプラセボ効果である、と結論している。この意味からも、タイのハーブ療法は広く発展することが期待される。

4.タイ国衛生省代替医療局主催「農業?環境?健康(農医連携)」セミナー
日時:2010年2月10日 場所:衛生省代替医療開発局会議室
参加者:110名(タイ国衛生省職員、タイ国衛生省管轄病院12ヶ所の医師?看護師ほか医療関係者、永続的農業ネットワーク、一般市民)
内容 :

  1. 温暖化と農医連携(陽 捷行)
  2. MOA食農運動の紹介(水野昌司)
  3. 食事法の理論の紹介と料理の実演(謝名元敏夫)

講演会への参加者は、「農医連携」を国の方針として進めていくことを決定した。具体的には、まず「農医連携」を実施している病院と、「有機農法」を実践している農家を調査する。また、現在実際に「農医連携」を実践している病院の職員をはじめ、患者などの健康状況を検査し、これをデータ化する。「農医連携」を国の方針として提案するため、上述したデータを活用し、「国家健康委員会」に提出することが重要な課題であることが明確になった(衛生省代替医療局最高顧問プラポッチ; Prapoj Petrakard医師)。

5.チョンブリ県職業訓練センター(Watyannasangwararam Agricultural Training and Development Center)
タイのプーミポンアドウンラヤデート国王は、東部海岸沿いのチョンブリ県バングラムーン区ハウヤイ町ワットヤンナサンワララームを1982年に訪問した。この地域は日照りが続き農作物の生育が悪かった。そこで国王は、土地の肥沃度を回復する開発事業を進めることを推奨した。1985年、ワットヤンナサンワララーム農業訓練開発センターが設立され、国王陛下主導プロジェクトが開始された。センターの任務は次のように規定された。

  1. 自然農法を実施する。
  2. 若者?農家?関心ある人の訓練をする。
  3. 自然農法ネットワークを広げる。
  4. 自然農法について調査研究する。
  5. 自然農法に適した育種の研究を進める。

自然農法の利点は、農家が満足し、環境(とくに土壌と水)が保全され、生産物が消費者と農家に安全で健康によく、次世代に資源が継承でき、農家の共同体が満足感を得る、などにある。この利点は、環境の保全を通して農と健康を維持しようとする農医連携の考え方に適合するものである。

6.滞在中に読んだ新聞「The Nation」の環境問題に関する記事
 農医連携の研究?教育?普及の実践を遂行するには、環境問題を抜きにできない。南極および北極はもとより、熱帯のタイ国においても温暖化の影響は確実に進展している。地球の温暖化現象は、その地域の環境資源とそこに生活するひとびと、さらにはその社会にも大きな影響を及ぼしている。その姿は、滞在期 間中に読んだタイの英字新聞「The Nation」にも毎日見ることができた。以下にその内容を示す。

◎2月7日(1面) :温暖化で樹木は生長するが、自然のアヒル?カモなどの鶏類が減少
◎2月8日(1面) :降雨と貯水量の問題が稲作を遅滞させ、温暖化がイネの生育に障害
◎2月9日(1/4面) :日本の環境専門家が四日市や水俣の例を提示し、工業に関する環境問題のガイドラインを解説
◎2月10日(1/4面) :電気の代替エネルギーとしてのグリーンエネルギーに関する経済的解説
◎2月11日(1面) :IIPCCの2007年報告書の間違いを指摘。例えば、ヒマラヤの氷河の溶解は2035年と書かれていたが、2350年の誤りであったなど

参考:タイ国総理府の基本方針*
グローバライゼーションと世界資本主義の潮流のなか、これまで約10年間の均衡とルールを失したタイの発展の方向は、タイを重要な社会的危機に直面させることとなった。国の運営は物質的な発展が重視され、資本主義システムが最優先されたことから、経済方面には不平等が広がり競争が蔓延し、他人を押しのける者が幅をきかせ、また社会方面では社会道徳が弱体化し相互扶助の精神が失われた。家族の絆が弱まり子供や老人、機会に恵まれぬ者、障害者や貧民が置き去りにされるとともに、各種各様の矛盾が顕在化した。

環境方面では天然資源が破壊されて各種の汚染が数々の問題を発生させ、社会的な健康ならびに国民の健康と衛生の開発の障害となった。しかし同時にまた健康?タイ伝統医学?タイ土着の健康知識?健康の増進?健康システムの改革?社会の健康の拡大が見直され、重視され、覚醒される風潮が起こってきた。

さらに健康に関する新たな展望?意識?文化が生まれ、健康システムのルールが形成されてきた。それゆえ健康の開発、すなわち第10次国家健康開発計画のスパンに当る現在の開発の展望はここに新たにプロセスの改革を見るに至った。すなわち第10次国家健康開発計画の中において諸要素が完備した均衡のある発展により、人間が開発の中心になること、良き社会より良き健康が生まれること、が目指されることになった。

良き健康?良きサービス?良き社会のための十分な健康システム、十分な幸福に満ちた生活を実現し、充足経済哲学のもとに相互に幸福感を共有する社会の実現につなげることが志向されることになったのである。社会の各層におけるパワーの結集によりよくまとまった社会が形成されなければならない。

上述したように定められた目標に、社会および健康システムを変革し移動させていくためである。すなわち政府?地方?民間?民間公益団体?コミュニティー組織?社会?国民が、国家レベル?地域レベル?世界レベルで、それぞれが連合しつつ堅固かつ真剣に行為において協力し責任を分担して、相互に幸福感を共有する社会の根幹を形成するのである。

参考:「2007-2011年?第10次タイ国家健康開発計画」概要(抜粋)*
第10次タイ国家健康開発計画は、国内企業およびグローバライゼーションによる急激な変化により起こった健康に影響を及ぼす経済?社会面の資本としての環境要因および天然資源と環境の変化に連動したタイの健康システムの問題と傾向に対する分析?合成から生まれたものである。

本計画における開発の方向は過去の計画からの内容を引き継ぐ一方、また意見の総合?新たな健康概念の構築を重視するとともに、より明瞭な目的を持つタイの健康システムを形成するための連合を打ち出している。肉体的?精神的?社会的?霊的などの要素を総合した健康の開発を進めるためである。健康を堅固にするために社会の力を結集すること。充足経済哲学を理論の基盤として、各地方の各層の各次元における健康面の管理と開発、生活の実践に具体化させていくこと。もとよりそれは第10次国家経済社会開発計画の方向とも一致するものである。2007-2011年第10次タイ国家健康開発計画の概要は以下のようなものとなる。

1.タイの健康システム開発の哲学と考え方
タイの健康システム開発の哲学と考え方は、「充足経済哲学を健康開発の指針とする」ものである。また「良き健康は良き社会の結果」という原則を堅持する。そこから2つの基本的な考え方が生まれる。

(1)第1の基本的な考え方:充足経済哲学から充足健康システムの実現へ
これには7つの原則がある。1)中道を行くこと、2)適度な均衡があること、3)足るを知ること、4)正当な理由のあること、5)免疫システムがあること、6)世界に遅れないこと、7)徳義と倫理のあること。この場合、充足健康システムには目指される目的として以下の特性と資格条件を持つ。

  • 家族レベル?コミュニティーレベルでの十分な健康が堅固な根幹になること。
  • 各レベルにおける健康を維持するために正当な理由のある財務金銭面の数量を知り周到に対処すること。たとえば、医療機器または設備の購買に注意深くあること。
  • 現状に対処するに足る適度な技術を使用すること。この場合、タイの土着の智慧と自律を尊重する。
  • 健康の増進?病気の予防?医療?リハビリ?消費者保護を完備させる。
  • 健康を保証しカバーする免疫システムを維持すること。
  • 徳義と倫理とは誠実?貪らぬこと?足るを知ることである。

(2)第2の基本的な考え方:良き健康は良き社会または幸福な社会の結果
これは公正な社会、相互扶助があり叩き合い潰し合いのない社会、平等な人間としての尊重、自分や他人を抑圧することなく、自然を抑圧することのない状態である。

2.タイの健康システムのビジョン?関連活動?開発目標
上述した考え方からタイの健康システムのビジョン?関連活動?開発目標を以下に定める。

(1)ビジョン
上述した考え方からタイの健康システムのビジョン?関連活動?開発目標を以下に定める。

 (2)関連活動
充足健康システムを形成するためのタイの健康システムを実現するための開発は、各方面が協力すれば可能である。この場合、開発における重要な関連活動として以下のものがなければならない。?考え方の連合の構築?新たな健康観念の構築?透明な運営システムの構築?開発に参加させるメカニズムの構築

(3)開発目標
充足健康システムの実現を目指すタイの健康システムを開発する基本目標として以下の10項目を定める
  1. 均衡のある安定した健康システムの運営における連合とルール。
  2. 良き健康を生み出す基礎になる要素を形成させる実際的な健康増進業務。
  3. 健康文化および十分に幸福な生活を構成要素とする。
  4. コミュニティー健康システムと初期医療サービス?ネットワークを堅固にする。
  5. 正しく適切な学術的基礎を持つ技術の使用による効率的な健康と医療のサービスシテムにより、サービス受益者に暖かくサービス提供者を幸福にする。
  6. 公正?普遍的?品質のある健康保険。
  7. 病気の衝撃に対応可能な免疫システムと準備態勢、現実に即応可能な健康の免疫。
  8. タイ伝統医学と他国の伝統医学の両方を知り、その混合による多様かつ自律できる健康の選択肢。
  9. 知識の管理による知識ベースの健康システム。
  10. 苦労の多い貧民を捨てない社会、貧民?困難な人?チャンスに恵まれない人を人間としての価値?神秘性において尊重し面倒を見る社会。

3.タイの健康システム開発の戦略
 相互に幸福感を共有する社会における充足健康システムを構築する方向として、以下の6つの基本的な開発戦略をあげる。

(1)健康システムの運営における連合とルールの構築
業務システム?運営管理構造?健康政策面のメカニズムとプロセスを改革し、連合とルール化を進め、公正さ調査可能な透明さを増進させる。すなわち短期的には不正や汚職を制圧するとともに良き組織文化を形成して長期的なルール化を確立させる。

(2)幸福な社会における健康文化と幸福感のある生活の構築
日々の生活における十分な安全の保証を形成するため、食品?薬品?健康用品?専門職の営業?環境面の実際的な健康行政の業務を急ぐこと。あわせて健康文化の構築と良き健康の維持ないしは各層において幸福感のある社会を創造するために家族?コミュニティー?社会の役割を増進させる。

(3)サービス受益者に暖かくサービス提供者を幸福にする健康サービスシステムの構築
サービス受益者?サービス提供者ともに困難に遭遇している人を思いやる健康サービスシステム開発を重視する。すなわち公正な管理システムを構築して相互に思いやり、当面の健康保険を構築する政策のもとに協力するサービスの品質と効率に誇りと満足を抱くこと。

(4)健康を脅かす病気と災害からの衝撃を減らす免疫システムの構築
病気の予防とリスク要因ならびに各種の変化がもたらす健康への衝撃を管理する堅固なシステムを構築する。同時にまた災害や病気の一般への激しい伝染に対処する準備を怠らない。

(5)タイ伝統医学と他国の伝統医学の混合による多様な健康の選択肢の構築
薬草?タイ伝統医学?土着の地方医療?代替医療により、健康面における自律の可能性の開発を重視する。とともに安全な医療面の科学技術の開発を進める。

(6)知識管理による知識ベースの健康システムの構築
薬健康面の各レベルにおける知識の管理と研究により文化を形成させ、知識が判断のベースとなるような管理システムを構築する。
 以上の各戦略には、それぞれ適合する目的?目標?方法?対策が定められ、充足健康システムの開発におけるビジョンと基本目標の達成に導入される。

4.戦略計画の社会的実践への変換
戦略を実施する指針を定め、各レベルにおける各側の開発における役割を提案し、協力して戦略を実施に移す。ないしは既定の充足健康システムのビジョンと開発目標を達成するために監督?追跡?査定をする指針を定める。

*印の資料は、MOA自然農法文化事業団の水野昌司氏から提供いただいた。謝意を表する。


農学アカデミー:農医連携の学術とホット?イシュー
日本農学アカデミーは、平成22年7月10日に「農医連携の学術とホット?イシュー」と題してシンポジウムを東京大学で開催した。農学アカデミーで農医連携の話題が取り上げられたのは、今回が初めてである。農学と医学を連携する必要性が社会的に認められる時代がきたのかも知れない。そのプログラムを以下に紹介する。なお、農学アカデミーに関しては以下のホームページをご参照ください。

http://www.academy.nougaku.jp/index.htm

  1. 農医連携の今日的意義  博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@副学長 陽 捷行
  2. 森林セラピー  千葉大学環境健康フィールド科学センター 宮崎 良文
  3. アニマルセラピー  東京農業大学バイオセラピー学科 林 良博
  4. 特別報告 2010年口蹄疫の問題点  帝京科学大学生命環境学部 井上 洋介
総合司会:日本農学アカデミー会長 三輪睿太郎

本の紹介 45:葬られた「第二のマクガバン報告」、上巻「動物タンパク神話」とチャイナ?プロジェクトT?コリン?キャンベル+トーマス?M?キャンベル著、松田麻美子訳、グスコー出版(2009)
ヒポクラテスの言葉

  • 基本的に二つのことがある。すなわち知ることと、自分が知っていることを信じることの二つだ。知ることは科学である。一方、自分が知っていることを信じることは無知である。
  • 食べ物(=土壌:筆者挿入)について知らない人が、どうして人の病気について理解できようか。

「マクガバン報告」とは、米国人の「食習慣と心臓病」に関する1977年の政府報告書である。この報告書は、「食習慣と病気」に関しての公開討論を引き起こしたが、脂肪摂取量の討論に弾みをつけたのは、1982年の全米アカデミーの報告書(NASレポート)の「食物?栄養とガン」である。これは「食事脂肪とガンとの関係」について審議した最初の専門委員会報告である。キャンベル博士もこの専門委員会の一員であった。

実は、キャンベル博士らが米国政府の依頼を受けて1982年に作成した「食習慣と健康に関する研究レポート」(NASレポート「食物?栄養とガン」)は、動物性食品の過剰摂取がガンの強力な要因となっていることをすでに明らかにしている。

このレポートは「マクガバン報告」の第二弾といえるもので、「食習慣とガン」に関する研究レポートであった。しかし、この研究レポートで明確になった結論は、政府の国民に対する食事摂取指針には全く活かされず、そのまま闇に葬られてしまった。ここに、本書のタイトルの意味合いが潜んでいる。葬られたのである。

それはなぜか。長期にわたり政府の栄養政策組織の委員を務め、内部事情に精通しているキャンベル博士は、これが政府と食品?製薬?医学業界の間にある暗くドロドロした関係のためであることを、本書で明らかにする。

「第二のマクガバン報告」は、上巻?中巻?下巻の3巻からなる。中巻は「あらゆる生活習慣病を改善する『人間と食の原則』」という副題がついている。下巻は7月30日現在、まだ刊行されていない。ここでは、上巻「『動物タンパク神話』の崩壊とチャイナ?プロジェクト」についてのみ紹介する。少しでも早く、読者にこの情報を提供したいためである。中巻および下巻については、追って紹介する予定でいる。

多くの人が本書に関心を示した。様々な立場の数多くの人びとが、本書を讃えている。Eat of Lifeの著者、環境保護活動家、OrganicAthlete.com創設者、リビング?ニュートリション誌発行者兼編集者、元コーネル大学学長、予防医学研究所創立者?所長、中国疾病対策センター教授、元世界銀行環境特別顧問、元全米科学アカデミー食品栄養委員会事務局長、My Trainer.com and Nutrient Rich.com創設者、ノーベル物理学賞受賞者、米国ガン研究協会会長などが、キャンベル博士の誠実さと栄養教育に対する献身的な姿勢を讃え、世界中の医療従事者?研究者にとって必読の書だと主張している。ある医学博士は語る。本書を読むことはあなたの命を救うことになるだろうと。

本書は、以下の内容で展開され、中巻「あらゆる生活習慣病を改善する『人間と食の原則』」に引き継がれる。

○「命を救う本」を刊行できる喜び:松田麻美子(訳者からのメッセージ)
○「強い意志と高潔さ」を持った科学者の最大の業績:ハワード?ライマン
○時代の闇を照らす偉大な光:ジョン?ロビンス
○はじめに:新たな発見がもたらす、すばらしき人生

第1部:「動物タンパク神話」の崩壊
  1. 第1章 私たちの体は、病気にならないように作られているわけではない
  2. 第2章 「タンパク質神話」の真実
  3. 第3章 ガンの進行は止められる
  4. 第4章 史上最大の疫学調査「チャイナ?プロジェクト」の全貌

○ はじめに:新たな発見がもたらす、すばらしき人生
著者は、真実は有害情報の山の中に隠されていることを強調し、本書の中で「栄養と健康についての新しい考え方」を提供する。身を守るために最も強力な武器は、正しく食べることにあるという。よりよい食習慣が様々な病気から身を守る最も強力な武器であることがこれまでの研究から立証されると語る。

絶えずガンの発生?増殖を強力に促進させるものが、カゼインであることを著者は突き止める。カゼインは、牛乳タンパク質の87%を構成しているもので、ガン形成?増殖のどの過程でも作用していた。また、大量に摂取しても、ガンの形成?増進を促進させないタイプのタンパク質も発見した。この安全なタンパク質とは、小麦や大豆など植物性のものだった。動物性の栄養を摂取するか、それとも植物性の栄養を摂取するかによって、健康にもたらされる影響は著しく違っていたのである。

ここで思い出されるのが、情報55号の「本の紹介 43:乳がんと牛乳‐がん細胞はなぜ消えたのか‐、ジェイン?プラント著、佐藤章夫訳、径(こみち)書房(2008)」である。この本の第3章に次のことが書かれている。「私はなにが原因で乳がんになったのか」では、乳がん発生に関係する要因(遺伝素因?被曝エストロジェンの総量?動物性脂肪の摂取量?性格とストレス)について、著者自らが自分の体についてチェックするが、どの要因も著者に当てはまらない。その後、西洋人と中国人のタンパク質源の牛乳と大豆の比較などから、乳がんの原因がミルクであることに気づく。

話しを戻す。上述した植物性の栄養の視点から、著者はコーネル大学に「ベジタリアン栄養学」という新しい講座を設け教鞭を執るようになった。学期の終わりには多くの学生が、「人生が良い方向に変わった」と報告してくれているという。以下の各章で、上述した内容が具体的に解説される。

第1章 私たちの体は、病気にならないように作られているわけではない
健康を手に入れるために知っておくことは、食べ方と生き方を変えれば、驚くほどの健康が生まれる、という考え方である。よりよい健康を手にする処方箋は、植物性食品中心の食事摂取による、トータルな面での健康効果と、動物性食品(あらゆる種類の肉?魚介類?乳製品?卵など)の摂取による、知られざる健康上の危険性の2点を知ることである。

「栄養とガン」に関する研究を通して明らかになったのは、植物性食品の食事によりもたらされる効果は、医療行為で用いられている薬や手術よりもはるかに多様性があり、優れていることである。重症の心臓病、ある種のやや重いガン、糖尿病、そのほかいくつかの変性疾患は、食事によって回復可能である。

膨大な研究成果が示す病気予防の結論は次のことである。「正しく食べること」は、病気を予防するばかりか、肉体的にも精神的にも健康と幸福感をもたらしてくれる。「正しく食べる」という最もシンプルな健康法を実践すれば、薬の使用にかかる膨大な出費は大幅に抑えられ、副作用もまた未然に防ぐことができる。

第2章 「タンパク質神話」の真実
タンパク質に関する情報は、一部は科学であり、また一部は文化でもあるが、それ以外の大部分は「神話」である。「低脂質の植物タンパク」こそ最もヘルシーなタンパク質である、という革新的な考え方が栄養学会に起こっている。肝臓ガンになる子どもは、食事がきちんと与えられている家庭の子どもであるという。彼らは米国のだれよりも多くのタンパク質(良質の動物性タンパク質)をとっていた。また「ネズミの肝臓とタンパク質摂取」に関するインドの研究は、アフラトキシン添加後のタンパク質量の異なる(20%と5%)食事が、肝臓ガンと前駆物質の発生に大きな違い(100対0)を起こしたことを報じた。

著者は、上述した体験などから「タンパク質を多く摂取すればするほどガンを招く」という理由を明らかにし、「どのようにしてそうなるのか」を突き止めるための基本的な研究を始めた。

第3章 ガンの進行は止められる
ガンはイニシエーション(形成開始期)、プロモーション(促進期)およびプログレッション(進行期)の三つの段階を経て進行する。形成開始期は芝生の種まきに似ている。植え付けの仕組みの推進役が発ガン物質である。アフラトキシンや細胞変形がこれに当たる。形成開始期の成立は、不可逆的であるとみなされている。

促進期は発芽の準備ができているところである。初期のガンが成長に最適な条件を与えられるかどうかによって、停止させることができる。食事が重要となるのは、このときである。食事因子に促進物質と抗促進物質があり、ここでガンの増殖を遅らせることができる。それが、動物性タンパク質と植物性タンパク質の違いである。きわめて重要な時期である。

進行期は、伸びきってしまった芝が歩道などを覆う状況に似ている。近隣や遙か遠くの組織に侵略する。そのガンが致命的な力を持つようになると、それは悪性とみなされる。転移している状態である。死に至る結果になる。

著者は、このような過程で腫瘍の形成を減少させる事実を発見したのである。低タンパクの食事は、種が植え付けられる段階で、ガン体質の芝生の種を減らすことを発見したのである。低タンパクの食事は、強力な発ガン物質(アフラトキシン)のガン誘発効果を抑えることができる。ガンの促進物質はカゼイン(牛乳タンパク)だったのである。

第4章 史上最大の疫学調査「チャイナ?プロジェクト」の全貌
周恩来首相は、ガンの情報を収集するため中国全土に及ぶ調査を開始した。2400余りの郡とその住民8億8000万人(人工の96%)を対象にした「12種にわたるガン死亡率」に関する途方もない調査だった。アメリカと中国では何が違うのか、ガン分布図の入手、中国農村部の食習慣、乳ガンと動物性食品の関係、植物繊維はなぜ必要なのか、コレステロールの減少法、アトキンス?ダイエットの致命的欠陥、炭水化物の健康価値、コレステロールはどのようにして病気を招くのか、脂肪に関する多くの疑問、サプリメントより丸ごとの果実?野菜、動物タンパクでなければおおきくなれないという嘘、などなどがこのプロジェクトで明らかにされる。

この本には、項目?人物?署名などきわめて便利な索引がある。さらに詳しく事実を知りたい読者のために、各章に多くの文献が紹介されている。極めつきは、アメリカと中国のデータの他に訳者が日本のデータを追加していることである。訳者の心意気が伝わる本である。

*本情報誌の無断転用はお断りします。
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情報:農と環境と医療57号
編集?発行 博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@学長室
発行日 2010年9月1日