学内広報誌
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Welcome Back KITASATO - 母校に戻って思うこと

1964年に誕生した薬学部は60年超の歴史の中で社会で活躍する研究者を多く輩出してきました。今回はそうした企業や研究所などに勤務された後、本学部の教員となった方にお集まりいただき座談会形式で本学部の魅力を語っていただきました。さらに実学をベースにした研究体制の充実や、教員としての今後の目標なども伺いました。

集合写真

(左から1番目)
医薬品化学教室 講師
山本 大介

2001年3月薬学科(4年制)卒業
2006年3月薬学研究科博士課程修了
2019年4月から現職

(左から2番目)
微生物学教室 教授
金 倫基

2000年3月薬学科(4年制)卒業
2005年3月薬学研究科博士課程修了
2024年4月から現職

(左から3番目)
薬学部化学系共有機器室 助教
関 怜子

2015年3月生命創薬科学科卒業
2017年3月薬学研究科修士課程修了
2021年4月から現職

(左から4番目)
微生物薬品製造学教室 助教
茂野 聡

2016年3月生命創薬科学科卒業
2018年3月薬学研究科修士課程修了
2022年4月から現職

企業や他大学で得た幅広い経験を母校での教育に生かすのが目標

本日は座談会に参加いただきありがとうございます。まず卒業後のご経験や入職の経緯など、自己紹介から始めたいと思います。私は博士課程まで本学部の微生物学教室に所属していましたが、体に良い影響を与える菌をテーマにしたいと当時の指導教員の檀原宏文先生(現 博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@名誉教授)に相談して、博士課程から企業の研究所で乳酸桿菌による自然免疫賦活作用に関する研究をさせていただきました。その中で微生物とヒトの免疫系との相互作用に興味を持ち、学位取得後はミシガン大学に留学。帰国後は筑波大学での研究、再度渡米した後にバイオベンチャーに参加、帰国して慶應義塾大学薬学部で研究を続け、次第に腸内細菌を研究テーマとするようになりました。本学部の微生物学教室の教授には2024年4月に就任したばかりです。
山本 私は針谷義弘先生(現 博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@名誉教授)の薬品製造化学教室を経て、修士課程?博士課程は外研で北里研究所(現 大村智記念研究所)で研究し、修了後はスタンフォード大学の博士研究員を2年間務めました。外研は大村智先生(現 博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@特別栄誉教授)、砂塚敏明先生(現 博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@学長)に大変お世話になり、学内では梶 英輔先生の医薬品化学教室に配属されるなど、多くの方の支えで研究を続けられたことを感謝しています。留学中に化学合成の原子効率を高める触媒化学に興味を持ち、帰国後は医薬品化学教室で研究を続けています。
私は生命創薬科学科から修士課程に進学し、自分が採取した土から微生物を見つけて分析する実習の面白さから供田洋先生(現 博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@名誉教授)の微生物薬品製造学教室に入りました。修了後は化粧品会社で製品作りや製品検査などの仕事に就きました。充実していましたが、製品ありきで行う研究よりもさらに踏み込んだ研究をしたいと感じ始め、縁があって2021年に本学部の化学系共有機器室に入職しました。学生や先生方からの依頼で行う分析業務と並行して、在学中と同じように微生物由来の化合物の研究も進めています。
茂野 私も生命創薬科学科、修士課程で微生物薬品製造学教室に在籍した、関先生の1年後輩です。各研究室の先生から研究内容を聞くリレー講義で、供田先生の熱意に圧倒されて研究室を選びました。修了後は香料会社で食品の香りの開発やガスクロマトグラフィーによる香りの分析を担当しましたが、学部で研究を続けたい気持ちも強く、退職された供田先生から研究室を継がれた大城太一先生からのお声がけを機に微生物薬品製造学教室に戻ってきました。在学中のテーマだった感染症の研究に加え、現在は炎症の研究にも着手しています。

北里柴三郎先生から受け継ぐ独自性と充実した教育?研究環境が本学部の強み

ありがとうございます。では、卒業した皆さんが社会に出て感じた北里の特長や強みを聞かせてください。私は北里柴三郎先生、ノーベル生理学?医学賞を受賞された大村先生に代表される天然の微生物を活用した実践的な研究が大きな強みだと感じています。私自身は病原菌ではなく腸内細菌がテーマですが、自分を育ててくれた北里にはとても愛着があり、本学部の細菌学分野の盛り上げに貢献したいと考えています。
山本 天然物の有効利用には化学合成が重要で、本学部には有機合成の研究室が3つもあることは強みの一つでしょう。また、私は先生方から「人まねでは先人を超えられない」と独自性のある研究を目指すよう指導を受けました。ここには北里先生の研究マインドが生きているのではないでしょうか。
一般的には博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@薬学部は臨床薬学のイメージが強いですから、北里先生から高度な基礎研究もしっかり受け継いでいることはもっとアピールする必要があるでしょうね。
茂野 実学を志向する「叡智と実践」、パイオニアを目指す「開拓」といった北里先生の精神も受け継がれていて、それを体現された大村先生の存在も非常に大きいと思います。
私は教育面の強みとして教員の数が多く、それにより学べる分野が幅広い点を挙げたいと思います。就職先の化粧品会社で在学中のテーマとは違う研究、異なる細胞を扱うときも、「授業でこういうことをやったな」と自然と手が動きましたし、それも本学部で学んだおかげだと感じています。
茂野
山本
茂野 教員数の多さに加え、先生方との心理的な距離がとても近く、先生方が進める研究が身近に感じられることも本学部の特長でしょう。しかも研究活動を通して機器の操作に習熟するなど実践教育としても機能しています。薬学科で薬剤師国家資格のストレート合格率(*1)が高いのも、そうした実践教育の積み重ねが影響しているのではないでしょうか。
設備も非常に整っていて、それを学生が自分の研究や実験に使えるという環境も素晴らしいと思いますね。
山本 研究環境という点では、研究室同士の結びつきが強く、例えば私たちの研究室が作った化合物を茂野先生がいる微生物薬品製造学教室で活性を評価してもらい、関先生の化学系共有機器室にデータ解析をお願いするなど、研究に必要な連携がスムーズなところも強みの一つになっています。

*1…ストレート合格率:入学者数を母数とし、その中で薬学部を6年間で卒業して国家試験に合格した学生の割合

AIをうまく使うことが求められる時代 課題の発見?解決能力の向上が重要に

それでは、私たち卒業生が母校に戻って教育を支える立場になり、実社会で感じたことをもとに、これからどんな教育を目指そうと思われますか?私は北里の学生は真面目で与えられた仕事をしっかりこなす能力が高いイメージで、何か特定の分野に突き抜けた学生は多くないように感じます。しかし、AIが人類を超えるシンギュラリティーが2045年と予測され、薬剤師や研究者は自ら課題を見つけて解決する能力が一層必要とされますから、本学部ではそうした時代を先導する教育を目指したいと考えています。一つの方策として、研究を掘り下げ、課題を発見して解決する経験を積める博士課程への進学者を増やすことも必要ではないでしょうか。
山本 学生の真面目で信頼される部分は大事にしながら、それだけで終わらないよう一人ひとりの個性を伸ばす教育も大事になるのでしょう。加えて、今の日本の産業構造では製薬業界や各メーカーでは化学分野が非常に強いので、在学中に化学の知識や実験手技をしっかり習得しておくと将来役立ってくれます。特に私がやっている環境負荷を軽減する化学合成といったテーマは時代にもマッチしていますから、そうした実践的な面でも教育の強みを生かすことは大事だと思いますよ。
茂野 定型的な作業はAIが代替し、薬剤師が自らやる仕事が絞り込まれていくときも、プロトコールに従うだけでなく、何か違いを生み出せる学生を輩出できたらと考えています。
研究面でもビッグデータの解析などはAIに任せる時代になって、研究者の価値は「何を見つけるためにどこにフォーカスするか」の部分になってくるはずです。繰り返しになりますが、そこで問われるのが課題の発見と解決能力なんです。
茂野
山本

多様な将来像を早くから学生に提示して一人ひとりの可能性をさらに広げたい

薬剤師や研究者の将来像の話が出ましたが、学生の就活や進路選択についてはどう取り組まれていますか?
就活で悩む学生から「行きたい業界に必要な技術を持っていないが大丈夫か」といった相談も受けるのですが、私はまずチャレンジしてほしいと答えています。仕事で化学が専門の人が生物の実験を任されたりしても、学び直すチャンスはいくらでも作れますから。それに本学部の学習内容が幅広いので、多様な分野に対応できる基礎ができている強みもあります。
私は臨床分野はもちろん、製薬会社以外の企業の研究者やバイオベンチャーなど、卒業生に多様な分野で活躍をしてほしいんですね。そのためには、卒業後の選択肢の広がりを早期から知ってもらい、学生の視野を広げるのも大切だと思います。東京パラリンピック、パリパラリンピックで連続して金メダルを獲られた杉浦佳子さんも本学部の卒業生ですが、そのほかにも本学部を出てさまざまな仕事に就かれた卒業生を招いて、学生と話していただく機会などがあるといいですね。
茂野 早い段階で多様な選択肢を提示するのはとてもいいですね。特に生命創薬科学科には製薬に絞って進路を考える学生も多いのですが、どうしても採用人数は限られます。それ以外に食品会社や化粧品会社、化学メーカーなど広い分野で活躍できる可能性に気づくチャンスになると思います。
山本 すでに病院の薬剤部長などには本学部の卒業生が多くいますから、同じように企業でも活躍の場を広げてほしいですね。そうやって多方面で経験を積んだ卒業生がここに戻ってきて後輩の教育に携わるといった好循環が生まれると、本学部での教育?研究が一層充実していくと思います。
ぜひそうした卒業生が増えてほしいと思います。社会に出て本学部出身の研究者と会うと愛校心の強さや研究の独自性へのこだわりを感じるのですが、これは学生時代に檀原先生をはじめ個性的な先生方から印象に残る教育を受けられたからではないでしょうか。自分が教える立場になって、そうした教育への熱意を何とか受け継ぎたいと試行錯誤しています。
山本 北里先生は伝染病研究所に対する政府の方針変更に納得できず、自ら北里研究所を創設して新たな発見を次々にされたのですから、独自性は当時からの伝統なのですね。それに本学部はまさに北里研究所の創設の地にありますから。
微生物由来の化合物の研究と有機化学による合成も伝統で、他大学では天然化合物の研究が減っている中で、今でも研究の柱としている点も本学部の独自性だと思います。
茂野 一方で、これからはAIを教育や研究にどう取り込むかも考えていく必要があるでしょう。AIを用いることで研究が大きく進展する可能性があると同時に、シンギュラリティも間近なほど発達したAIの回答に対し、人間は真偽を判断できるのかなど課題も多く、学生や教員がAIをどう使うのかというルール作りも急がなくてはと思っています。
その通りですね。既存の枠組みにとらわれず、次世代に向けた教育?研究を学部全体で考えないといけません。幸いなことに、本学部の研究室は教授を中心に複数の教員が学生の教育と自らの研究に取り組む体制が整い、化学系共有機器室や生物系共有機器室のような設備も充実しています。こうした環境のもと、新たな薬剤師、研究者のロールモデルとなる学生を育てていきましょう。本日はどうもありがとうございました。