研究コラム 基礎研究と応用研究

担当:川崎 健夫 (量子物理学講座 素粒子?宇宙物理学実験ユニット 教授)

理学部は基礎研究?

受験情報を調べると「理学部は基礎研究をやっていて、応用は工学部」というコメントをときどき見かけます。本当にそうでしょうか?ずいぶん昔には「理学部の勉強は社会では役にはたたない。企業に行くなら工学部」という誤った風評もありました。さすがに現在ではこういうイメージで理学部を見る人は少ないでしょう。理学部で学んだことは様々な分野において新しい知識?能力を身につけるための基礎となります。4年間で学んだことが、社会に出て4年で品切れになるようでは大学教育としての意味がありません。

基礎研究と応用研究

ところで、ある高名な研究者が次のようなコメントを述べています。「基礎の反対は応用ではない。基礎の反対は末梢(まっしょう)であり、応用の反対は純正である」。この意味では将来の発展につながるのが基礎研究で、目先の成果を求めるのが末梢研究(商品化?)です。そして、社会での具体的な応用(用途)が定まっていないものが純正研究ということになります。つまり「基礎応用研究」というのもアリです。例えば「自動車の自動運転アルゴリズムの研究」というようなテーマが対応するでしょうか。

ウェブシステムは、1990年、ヨーロッパの加速器研究所(CERN)で開発されました
http://www.kitasato-u.ac.jp/

国際共同による素粒子物理学実験

我々の研究グループでは素粒子物理学実験に携っています。上の定義で言えば「基礎?純正研究」でしょうか。研究テーマは「ニュートリノ」「素粒子の対称性」等々です。巨大な粒子加速器等を用いた国際共同実験として多数の研究者がチームで研究を進めます。その成果として2008年に複数の日本人がノーベル物理学賞を受賞したことは皆さんの記憶にも新しいでしょう。このとき研究目的は「純正」なのですが、素粒子実験で開発された数多くの技術は、例えば情報?医療分野において「応用」されています。

粒子加速器の技術は、がん治療へ利用されています(国立がんセンター東病院の治療施設)
http://www.ncc.go.jp/jp/ncce/consultation/pbt.html

受験生へのメッセージ

あらためて「基礎と応用」という言葉を定義しなおしてみると「理学部は基礎研究」というのは、あながち間違いではないかもしれません。ですが、その言葉のイメージは以前とはずいぶん違いませんか?私が子供の頃(それほど前ではありません)、21世紀には月面都市に人が住んでいて、火星基地もあると想像していました(いつ頃できるでしょう?)。「末梢」の繰り返しでは、利用できる知識?技術はすぐに枯渇します。長い年月の「純正」が積み重なって「基礎」となって大きな進歩が望めるのです。皆さんにもそういった人生で長期的に取り組めるテーマを見つけてもらいたいと思います。