研究コラム 速筋と遅筋の違い

担当:大石 正道 (生物物理学講座 生体分子ユニット 講師)

速筋と遅筋の違い

私達が運動するには、さまざまな筋肉が関わっています。短距離走を得意とする選手には素早く収縮する速筋が多く、長距離走を得意とする選手にはゆっくり収縮するが持久力のある遅筋が多いことが知られています。速筋と遅筋の違いは、それぞれの筋肉を構成する筋肉蛋白質の違いによるもので、それが筋肉収縮の特性の違いにあらわれています。

無脊椎動物の筋肉の特殊化

無脊椎動物(背骨を持たない動物)では、筋肉はその動物の生活形態によって特殊化していて、私達人間の筋肉のもつ能力をはるかに超えるものがあります。たとえば、体長の150倍もジャンプできるノミや、力の強いカブトムシの仲間、疲れを知らずに鳴き続けるセミ、そしてエネルギーをほとんど使わず長時間閉じたままでいられる二枚貝など、これらの動物のもつ能力は計り知れません。

二次元電気泳動法による筋肉蛋白質の比較解析

それでは、これらの筋肉のもつ特殊能力は、どの蛋白質成分に由来するのでしょうか? 等電点(すなわちpHの違い)と分子量の違いで蛋白質を分離する二次元電気泳動法を使えば、筋肉に含まれる数百種類の蛋白質を同時に分析できます。この方法を用いて、さまざまな動物の筋肉蛋白質成分を比較することにより、筋肉の特殊性に関係する蛋白質を分子レベルで調べることができるのです。

1)ニワトリ速筋

2)ニワトリ遅筋

横軸が等電点(pH)の違い、縦軸が分子量の違いをあらわしています。
赤矢印で示したのが、2種類の筋肉の間で量的に大きく異なる蛋白質です。