ICTを用いた漢方未病制御システムの確立と普及

本研究は、漢方医学から派生した概念である「未病」を漢方医学的アプローチで制御できる社会を目指しています。未病検知を目的とした漢方ドックや家庭向け漢方ヘルスアドバイザー(漢方未病制御システム)を確立?普及させるためには、漢方プラットフォームとして漢方診療の標準化が必要となります。

解決すべき課題

漢方未病制御システムを構築するためには、暗黙知に頼ってきた漢方診断のプロセスを可視化する必要があり、経験豊かな漢方医のノウハウを整理するとともに、診療データを集積し、科学的根拠に基づいた漢方診断ロジックの形式知化が求められます。

漢方診断

研究の概要

日本の中核的な漢方診療?研究?教育機関である富山大学、自治医科大学、福島県立医科大学、東海大学、千葉大学の漢方部門と研究協力関係を結び、漢方診療標準化プロジェクトを結成。本プロジェクトで下記の課題に取り組みました。

1.漢方診断ロジックの形式知化

経験豊かな漢方医のノウハウである伝統医学的知恵と、診療データを融合し、従来の統計的手法に加え、機械学習といったAIの分野に応用されている手法も取り入れ、適切な漢方医学的所見と漢方方剤の組み合わせを決定するための漢方診断ロジックの構築を試みました。診療データは、漢方外来の初診患者を対象とし、初診時の漢方医学的所見(問診?舌診?脈診?腹診)、処方された漢方方剤、有効性?安全性を収集することとして、多施設共同臨床研究を実施しました。

漢方診断

その際、計画段階で研究を実施する上で、以下の取り決めを行いました。

(1)標準化対象33処方の選定

すべての漢方方剤の診断ロジックを形式知化するには膨大な量のデータが必要となります。現実的に不可能であるため、対象とする漢方方剤を選定することにしました。
博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@の事前調査では、初診患者の約80%は約30の漢方方剤で治療されており、患者の8割をカバーする漢方方剤の診断ロジックを構築することを目的とし、以下の観点から標準化の対象とする漢方処方を選定しました。

[選定根拠]

  1. 各施設における使用頻度
  2. 寒熱、虚実、六病位、気血水、一部五臓論の観点
  3. 病名処方的な観点(例:認知症→抑肝散)は考慮しない

(1)標準化対象33処方の選定

(2)自他覚所見項目の選定

各施設の自覚的所見(問診所見)や他覚的所見(舌診?脈診?腹診所見)の内容とグレーディングを調査したところ、施設間差が明らかになりました。そのため、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@で使用している自他覚所見項目をもとに、漢方医学的な見地から、標準化対象33処方の鑑別に必要な自他覚所見項目を選定しました。

(2)自他覚所見項目の選定

(3)所見判断基準の確定

採取すべき他覚的所見項目(舌診?脈診?腹診)を選定しましたが、他覚的所見採取時の判断基準が施設毎にそれぞれ異なることが判明しました。そのため、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@の判断基準をもとに、舌診?脈診?腹診のすべての所見項目について議論し、他覚的所見を採取する際の判断基準を明文化しました。

(3)所見判断基準の確定

(4)処方同一性のルール

漢方方剤の剤型には、湯剤?丸剤?エキス剤などがあり、患者や施設によって、様々な剤型が使用されます。また、同一名で同一剤型の漢方方剤でも、含まれる生薬の分量に施設間差があるほか、煎じ薬では特定の生薬を加味?加減をして処方することもあります。そのため、本プロジェクト施設の院内採用処方を対象とし、『新 一般用漢方処方の手引き』の成分?分量範囲を基準に、標準化対象33処方の各施設での構成生薬量の比較表を作成し、本研究を実施するに当たり、同一漢方方剤として認められる生薬量と加味?加減の範囲を定めました。

(4)処方同一性のルール

2.漢方診察法の標準化

医師は視覚?聴覚?嗅覚?触覚をフル活用して、漢方医学的所見を採取し、診断を行います。漢方医学的所見の舌診?脈診?腹診所見の他覚的所見は、問診所見とともに漢方診断の要となり、本プロジェクトでは、他覚的所見の判断基準を明文化(1.(3)参照)しましたが、所見採取には五感(主観)や経験などに依存する面が多く、施設間差や個人差があるのが現状です。

2.漢方診察法の標準化

そこで、本プロジェクトでは漢方診察法の標準化を目指し、所見採取を行う者(主として漢方専門医)の手技や判断をコントロールする試み、多施設合同診察研修会を開催しました。診察研修会とは、明文化した他覚的所見の判断基準を基に、実際に医師が同一の患者モデルの他覚的所見を採取し、診察結果を検証するという実地検証です。また、学会やシンポジウム等でも、漢方診察法の標準化における問題提起と解決に向けた議論なども行いました。

他にも、所見採取する順番に限らず、いつでも誰でも同じ状態を触診できる典型的な腹診所見を搭載した腹診シミュレーターといった教育?研修ツールも作製しました。

診察研修会を開催

現在、漢方診断ロジックの形式知化に取り組み、一定の漢方未病制御システムを確立しました。引き続き診療データを集積し、漢方診断ロジックの精度を上げるために研究は現在進行中です。

最後に

本研究は、漢方ドックや家庭向け漢方ヘルスケアアドバイザーによる健康チェックが普及し、「病気になってから病院へ行く」のではなく、「病気を防ぐ」ことの大切さが共有される社会を目指しています。自然との共生に根ざす漢方医学は「食」と深い関係にあり、漢方の知恵を上手に普段の暮らしに取り入れることで、体質改善などの効果も期待できます。
漢方ドック体験や市民向け?専門職向けの漢方セミナーを定期的に開催し、漢方医学的未病に対する認識を高めるとともに、ICT企業や健康産業企業?健康経営都市と連携し、未病の評価?対応までを一貫した漢方未病制御システムの産業化についても、今後さらに取り組んでいきます。

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