薬理学研究室

研究室について

研究テーマ

炎症(inflammation)は、歴史的にも古くから研究されてきた課題のひとつであり、感染症はもちろん、がんや動脈硬化、免疫異常を伴う自己免疫疾患、アルツハイマー病などの神経変性性疾患、糖尿病などの代謝性疾患などほとんどあらゆる病態の基礎にある生体反応です。この生体反応を理解することは、これらの病態の克服につながります。薬理学研究室では、炎症性疾患の病態形成機序や修復および慢性化に至る過程の解析などを通して、炎症反応の理解および治療法の開発を目指しています。

プロスタノイド産生系/受容体シグナル系の制御とその病態生理的役割の解明

プロスタノイドはプロスタグランジンとトロンボキサンからなる生理活性脂質であり、個々の受容体に作用することで様々な生理的?病態生理的な作用を発揮します。プロスタノイドの産生系は複数の連続した酵素反応によって制御されていますが、個々の酵素の役割分担の詳細については十分に解明されていないのが現状です。炎症を抑える薬として、アスピリンなどの非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)が用いられていますが、NSAIDsはプロスタノイドの合成に関わるシクロオキシゲナーゼ(COX)の産生を抑制することで抗炎症作用を示します。薬理学研究室では、プロスタノイドの中でも古くから炎症の4徴候とされる痛み(pain)、熱感(heat)、発赤(redness)、腫脹(swelling)の全てに関わるとされるプロスタグランジンE2の生合成系ならびに受容体シグナル系に焦点をあてて、これらの炎症制御機構を明らかにすることで、様々な炎症性疾患における新たな治療法の開発につなげることを目標に研究を行っています。
プロスタノイド産生系と受容体

メンバー

プロジェクト?研究業績

プロジェクト

プロスタノイド生合成系に着目した炎症性腸疾患の病態形成機序の解明

潰瘍性大腸炎とクローン病に代表される炎症性腸疾患(IBD: inflammatory bowel disease)は免疫異常を伴う慢性炎症性疾患であるが、その病因や遷延化機構は未だ解明されておらず、病態形成機構を基盤とした特異的な根治治療法は確立されていません。そのため、本疾患の病態形成機構の解明や有効な新しい治療法の開発は急務といえます。薬理学研究室では、予備的検討によって見いだされたプロスタグランジン(PG)E2の生合成系に特異的に働く膜型PGE合成酵素-1(mPGES-1: microsomal PGE synthase-1)の腸管炎症病態に対する新たな防御的役割に着目して、IBDの病態形成過程における腸管炎症?腸管免疫系の制御機構の詳細を明らかにすることを目的に研究を行っています。

多発性硬化症の脱髄?再髄鞘化におけるプロスタノイドの役割解明

多発性硬化症(MS:multiple sclerosis)は、中枢神経系において髄鞘の脱落(脱髄)と再生(再髄鞘化)を繰り返す難治性の慢性炎症性脱髄疾患ですが、その病因は未だ解明されておらず、脱髄?再髄鞘化の機序を解明してその機序をベースとしてMS病態を制御する新たな治療法を開発することは急務です。薬理学研究室では、脱髄における膜型プロスタグランジン(PG)E合成酵素(mPGES-1: microsomal PGE2 synthase-1)の作用に着目して、MSの病態形成機構の詳細を明らかにすることを目的に研究を行っています。

膜型プロスタグランジンE合成酵素-1の乾癬病態形成における役割解明

乾癬(かんせん)は、全身に厚い鱗屑(りんせつ)と血管拡張を伴う紅斑を特徴とする難治性の慢性皮膚疾患であり難病に指定されています。本疾患は免疫の異常を伴うことが示されているがその病因の詳細は未だ解明されておらず、病態形成機構を基盤とした根治治療法は確立されていません。薬理学研究室では、膜型プロスタグランジン(PG)E合成酵素-1(mPGES-1: microsomal PGE synthase-1)の乾癬病態における役割に着目して、乾癬の病態形成機構を明らかにすることを目的として研究を行っています。本研究は、乾癬の病態形成機構の解明とそれを基盤にした新規治療法の開発に資する成果が期待できると考えています。

研究業績

著書?論文

  1. Kojima F, Sekiya H, Hioki Y, Kashiwagi H, Kubo M, Nakamura M, Maehana S, Imamichi Y, Yuhki KI, Ushikubi F, Kitasato H, Ichikawa T. Facilitation of colonic T cell immune responses is associated with an exacerbation of dextran sodium sulfate-induced colitis in mice lacking microsomal prostaglandin E synthase-1. Inflamm Regen 42: 1, 2022. doi: 10.1186/s41232-021-00188-1.
  2. Hada Y, Uchida HA, Mukai T, Kojima F, Yoshida M, Takeuchi H, Kakio Y, Otaka N, Morita Y, Wada J. Inhibition of interleukin-6 signaling attenuates aortitis, left ventricular hypertrophy and arthritis in interleukin-1 receptor antagonist deficient mice Clin Sci (Lond). 134: 2771-2787, 2020. doi: 10.1042/CS20201036.
  3. Kashiwagi H, Yuhki KI, Imamichi Y, Kojima F, Kumei S, Tasaki Y, Narumiya S, Ushikubi F. Prostaglandin F2α Facilitates Platelet Activation by Acting on Prostaglandin E2 Receptor Subtype EP3 and Thromboxane A2 Receptor TP in Mice. Thromb Haemost. 119: 1311-1320, 2019. doi: 10.1055/s-0039-1688906.
  4. Maseda D, Johnson EM, Nyhoff LE, Baron B, Kojima F, Wilhelm AJ, Ward MR, Woodward JG, Brand DD, Crofford LJ. mPGES1-Dependent Prostaglandin E 2 (PGE 2) Controls Antigen-Specific Th17 and Th1 Responses by Regulating T Autocrine and Paracrine PGE 2 Production. J Immunol. 200: 725-736, 2018. doi: 10.4049/jimmunol.1601808.
  5. Kumei S, Yuhki KI, Kojima F, Kashiwagi H, Imamichi Y, Okumura T, Narumiya S, Ushikubi F. Prostaglandin I2 suppresses the development of diet-induced nonalcoholic steatohepatitis in mice. FASEB J. 32: 2354-2365, 2018. doi: 10. 1096/fj.201700590R.
  6. Kashiwagi H, Yuhki KI, Imamichi Y, Kojima F, Kumei S, Higashi T, Horinouchi T, Miwa S, Narumiya S, Ushikubi F. Cigarette Smoke Extract Inhibits Platelet Aggregation by Suppressing Cyclooxygenase Activity. TH Open. 1: e122-e129, 2017. doi: 10.1055/s-0037-1607979.

学会発表

特許