薬剤学教室

薬剤学教室

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医薬品の体内動態を定量的に理解し、創薬の加速化と臨床での適正使用の実現を目指す。

 生物薬剤学とは、薬物を「薬剤」として患者さんに投与した後の体内の薬物の挙動を支配するメカニズムを理解する学問です。薬物の体内動態は、吸収(Absorption)、分布(Distribution)、代謝(Metabolism)、排泄(Excretion)のいわゆる"ADME"により制御されています。近年、薬物の"ADME"は、薬の物理化学的性質のみならず、様々な分子の機能により薬物選択的に支配されていることが解明されています。また、これら分子の機能は様々な要因により変動し、それらの総体として、薬物の体内動態の個人差が生まれます。
 我々は、薬物動態を支配する要因とその定量的な寄与を明らかにするとともに、in vitro実験の結果をもとにin vivo体内動態の予測に繋げるための様々な取り組みをしています。

研究内容

研究のミッション

薬物/内在性物質の吸収?分布?代謝?排泄(ADME)に影響する薬物トランスポーターを介した輸送機能を分子レベルの視点で明らかにすると共に、その輸送を変動させる要因を探索し、ヒト臨床薬物動態の個人間変動の定量的理解に繋げる。

消化管上皮幹細胞の安定培養系の確立?分化細胞による消化管吸収/消化器毒性発現の種差?部位差に関する研究(前田)

これまで、ヒト消化管吸収の予測は、大腸がん由来不死化細胞Caco-2細胞の透過性や動物実験による吸収率の評価で行われてきたが、代謝酵素?トランスポーターの発現プロファイルの違いや種差により、ヒトでの消化管吸収を精緻に予測できる細胞系は存在しなかった。そこで本研究では、消化管幹細胞の3D安定培養系を起点として、適切に分化させたヒト及び動物吸収上皮細胞を用いることで、ヒトにおける消化管吸収の予測に繋げる研究を展開している。さらにこの細胞系は、採取した元の細胞の位置の遺伝子プロファイルを維持しており、これまでにin vitroでは評価不能であった消化管部位差も検討可能である。また、動物からもほぼ同一のプロトコルで同様の細胞系を樹立できることから、種差のin vitro試験による検討も可能であり、将来的には動物実験代替法としての本細胞系の有用性を示していきたいと考えている。

葉酸トランスポーター(PCFT)の輸送に関する研究(奈良輪)

葉酸は非常に重要なビタミンの一つであるが、水溶性が極めて高いにも関わらず、細胞内には効率よく取り込まれており、そのメカニズムとしてトランスポーターの役割が重要であることが分かっている。特に、葉酸の消化管吸収においては、PCFT (proton-coupled folate transporter)が主な役割を担っている。PCFTの輸送の基本特性を明らかにし、臨床におけるPCFTの輸送の個体間変動の要因を明らかにするために、基質の立体選択性、薬物?食品由来成分による相互作用、遺伝子変異による輸送の変動等にかかわる研究を展開している。

有機アニオントランスポーターOATP2B1の輸送に関する研究(高野)

OATP(organic anion transporting polypeptide)2B1は、主にアニオン性の薬物を非常に広範に認識するトランスポーターであり、消化管にも発現が認められていることから、薬物の消化管吸収を促進する方向に寄与する可能性が示唆されている。そこで、OATP2B1を介した輸送の基本特性を明らかにするとともに、臨床におけるOATP2B1を介した輸送の個体間変動の要因を明らかにするために、薬物?食品由来成分による相互作用、遺伝子変異による輸送の変動等にかかわる研究を展開している。

中分子化合物の薬効を決定づける細胞内動態制御因子に関する研究(苫米地)

近年、細胞内のタンパク質—タンパク質相互作用を標的とした中分子環状ペプチドや、タンパク質分解経路を利用することで標的分子を分解へと誘導するproteolysis-targeting chimerasPROTACs)といったモダリティが大きな関心を集めている。しかし、これら中分子化合物は、その分子サイズや極性表面積を含む物理学的特性から生体膜透過性が低いと推察され、実際に創薬段階において課題となっている。そこで我々は、これら中分子化合物が薬効発現に至るまでの細胞内動態を理解し、さらに、それを制御する宿主側因子の同定?機能解明に関する研究を展開している。最終的には、得られた知見に基づいた中分子医薬品を効率的に細胞質内へ送達するための方法論の確立を目指している。
 

主な外部との共同プロジェクト?研究

★AMED「装薬等先端技術支援基盤プラットフォーム事業」(BINDS)

新規医薬品候補化合物の体内動態解析支援
(東京大学薬学部 楠原洋之教授の分担研究)

 

★AMED「再生医療?遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業」(AMED-MPS2)

ヒト/動物crypt由来消化管幹細胞及び分化細胞を用いた消化管吸収?毒性予測研究
(筑波大学 伊藤弓弦教授の分担研究)

★AMED「創薬基盤研究推進事業(送達技術/薬物動態評価技術; AMED-DDS)
新規DDSモダリティのPETを用いた体内動態解析手法の開発に関する研究
(長崎大学 向井英史教授の分担研究)


★ウシオ電機

新規MPSデバイスによる細胞機能の高度化に関する研究

★ファイザー

ヒトcrypt由来消化管幹細胞由来分化細胞を用いた消化管吸収予測に関する研究

★LINC(ライフインテリジェンスコンソーシアム)

創薬の様々な局面にAI、機械学習の技術を導入することで、予見性を飛躍的に高める技術開発(前田は、WG07「ADMET, translational research」のワーキンググループ長をつとめている)

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