臨床統計学

臨床統計学

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 近年のコンピュータ性能の飛躍的進歩に伴って、今まで理論的枠組みの中で検討されてきた計算アルゴリズムや数値計算方法が実行可能となってきた。統計学においても、これらコンピュータ性能と計算アルゴリズムの発展の恩恵を受け、新たな統計学的手法として医療や経済など様々な分野で応用されてきている。特に、遺伝子発現情報を利用した個別化医療のように、近年の医療の治療法はますます高度化?複合化の方向へ向かい、それに伴って大量のデータが蓄積されるようになり、高性能コンピュータと高速計算アルゴリズムに裏打ちされた統計学を活用する機会が増えてきている。このような大量データ時代の到来において、遺伝子情報をはじめ医療データを分析し、医学?薬学的意義に還元できる統計専門家やデータサイエンティストに対する時代の要請は近年益々増大し、人材の育成が急務となっている。 臨床統計学教室では、こうした社会的要請に応えて、既存の統計学的手法の適用だけでなく、生物統計学、計算機統計学、ベイズ統計学において新たな手法を積極的に提案し、遺伝子発現データや医療データへの応用や適用を目的とした研究を実施している。

研究内容

臨床統計学教室で実施している研究テーマを紹介する。

1.競合リスクを伴う左側切断?右打ち切りデータのベイズ流解析

 生存時間解析において, 打ち切り?切断?競合リスクといった事象の取り扱いは、古典的ではあるが重要なトピックである。これら事象は解析で適切に取り扱う必要があり、不適切な取り扱いをすると解析結果にバイアスが入ることが指摘されている。本研究テーマでは、特に依存性の競合リスクを伴う左側切断?右打ち切りのある生存時間データについて、ベイズ流のモデルで取り組んでいる。

2.コピュラで構成した同時事前分布に基づく回帰係数のベイズ推定

 回帰モデルでは交互作用の効果を検討することがあるが、この交互作用は説明変数の積として回帰モデルに導入されるため、他の説明変数と相関を示すことがある。これは多重共線性と呼ばれる状況で、この状況下では回帰係数の推定は不安定となり、構築された回帰モデルの信頼性が担保できない。そこで、回帰係数の推定を安定化させるリッジ推定量が提案された。一方、ベイズ推定の立場では、リッジ推定量はパラメータである回帰係数の事前分布に(多変量)正規分布を与えたときのベイズ推定量である。本研究テーマでは、従来の多変量正規分布ではなく、ヴァイン?コピュラで構成したベイズ推定量の考案に取り組んでいる。

3.臨床試験データの解析

 臨床医がもつ様々なリサーチクエスチョンについて、統計家は適切な統計学的手法を提示し解析することが求められている。本研究テーマでは臨床医との共同研究または我々自身の興味として、臨床試験データの解析に取り組んでいる。

4.栄養疫学に関する統計手法の研究

 栄養疫学とは、疫学的な手法を用いて栄養と疾病との関係を明らかにする学問です。栄養疫学研究に関連する統計手法の研究や栄養データの解析に取り組んでいます。