以下の通り、第530回獣医学科セミナー<ベスト論文2024>を開催します。
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第530回獣医学科セミナー<ベスト論文2024>
【開催日】 5月14日(水)
【会 場】 A棟3階 A31講義室
【時 間】 17:00~
【演 者】 武田 一貴 先生 (毒性学研究室)
【タイトル】
環境に悪いリサイクル? 古紙再生工場排水からの新規毒性物質:ベンジル2ナフチルエーテルの発見
【要 旨】
日本は世界有数のリサイクル大国であり、特に古紙リサイクルは回収率80%という報告もあるほど盛んに実施されています。小学生の頃に牛乳パックを洗って開いて乾かした事のない人はいないのではないでしょうか。しかしながらリサイクルも適切に実施しないとむしろ環境に負荷を与える事があります。
古紙再生工場では古紙を融解して洗浄?漂白し再生紙にしていますが、洗浄後の排水には古紙由来のインク成分が含まれており、工場で除染しきれなかったものは排水を通し環境へ放出されます。本研究では、日本の古紙再生工場排水から検出されたインク由来化学物質群に対し、分子ドッキングシミュレーションという手法を用いin silico(コンピューター上)で毒性の有無を初期スクリーニングしました。そして毒性が疑われた候補物質数個で実際にゼブラフィッシュ胚への曝露試験を行うという動物実験削減的アプローチを取りました。その結果、ゼブラフィッシュ胚に対し催奇形性とAhR(ダイオキシン受容体)アゴニスト活性を示す新規毒性物質としてベンジル2ナフチルエーテルの発見に至りました。
本研究成果は2022年度卒業生の更田さんの卒業論文が基になっており、2022年の環境化学物質3学会合同大会で更田さんの発表はSETAC賞を受賞しています。また、本研究の続編として成魚への毒性評価を実施した2024年度卒業生の孫さんも2024年の日本毒性学会学術年会で学生ポスター賞を受賞しました。こちらの論文以降の最新の研究成果も紹介して研究の更なる発展につながるディスカッションができればと思います。 獣医学科セミナーは毎回、学部生の方の聴講も歓迎しています。
?毒性学研究室の研究内容が気になる方
?学部生で学会発表するってどんな感じ?
?卒業論文が国際科学雑誌に掲載されるって?
などなど
少しでも興味が沸いた方は聞きに来てくださると嬉しいです。
毒性学研究室ウェブサイト https://kitasatoxlab.jp/
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【選出理由】
2024年1月?12月までの間において獣医学科の教員がFirstまたはCorresponding authorとして発表した論文の中で、セミナー委員会における選考の結果、武田先生らによる論文を以下の理由によりベスト論文2024に選出いたしました。
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Takeda K. et al., Environ Toxicol Chem., 2024 Oct;43(10):2176-2188. Assessment of the Aryl Hydrocarbon Receptor-Mediated Effects of Aromatic Sensitizers in Paper Recycling Effluent Employing Zebrafish Embryos and in Silico Docking.
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/etc.5969
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武田先生の論文はAlphaFoldを活用した構造予測とゼブラフィッシュを用いたin vivo評価を統合したメソッドとしての完成度は非常に高く、毒性スクリーニング手法としての可能性も感じさせる。ただ、現時点では最終的な社会的インパクトにやや乏しく、受賞講演でも示されていたような他化合物群への応用展開に今後さらに期待したい。
武田先生の論文も古紙のリサイクル時に作られる化合物にダイオキシンの様な毒性があることを発見されたインパクトが高い論文でした。しかし、被検化合物の濃度設定が一様だったことや分子ドッキングでは高親和性のわりにin vivoではダイオキシンと比較して影響が少ないことなど、解明すべき点が残っているように感じたので、次点にいたしました。
武田先生リサイクル紙の工業排水による環境負荷について調べた論文で、最新の研究手法を用いて現在の環境保全に関するパラドックスをアピールするスピード感に優位性を感じます。内容もドッキングシミュレーションの結果から想定される催奇形性誘発機序のターゲットについて、部分的ではありますが最終的にin vivoにおける阻害実験で関与を証明しており、ストーリーも申し分ないです。個人的にはもっと深く掘り下げてほしいと感じる部分もありますが、スピード感を重視し、いち早く成果を挙げるため適切に落としどころを設定するのはさすがだと思います。
環境毒性的に大変有用な論文と思われました。
環境ホルモンをシミュレーションにより同定し、in vitro 、in vivoにいおて、その作用点を解明しており、非常に興味深かった。
インフォマティクスで得られた知見を実験に落とし込んで、毒性の原因物質とそのターゲットを絞り込んでいく過程が合理的で素晴らしいと感じました。また、サンプル数が十分かつ矛盾のない実験データとなっており、既報により予測されていたものではありますが、最終的にはin vivoでの阻害薬実験によりAHRがターゲットであることを証明している点も良いです。以上より上記論文を推薦します。
芳香族増感剤およびその関連物質(SRC)の水生生物への影響を、分子ドッキングシミュレーションとゼブラフィッシュを用いたin vivo実験によって解明した。本研究は構造がシンプルで分かりやすく、分子ドッキングシミュレーションを用いる研究手法は本学部の研究発展に大きく貢献することが期待される。
再生紙工場排水からの環境汚染物質の流出に注目している点、 in Silicoからin vivoまでの流れが明確で理解しやすい点から本論文を選出しました。
研究目的とそれに対するアプローチが的確であり、結果の新規性やインパクトも大きいものに感じました。
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