以下の通り、第534回獣医学科セミナー<外部研究者招聘セミナー> を開催します。
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第534回獣医学科セミナー<外部研究者招聘セミナー>
【開催日】 6月13日(金)
【会 場】 A棟3階 A31講義室
【時 間】 17:00~
【演 者】 青島 圭佑 先生(北海道大学 獣医学研究院 比較病理学教室)
【タイトル】血管肉腫研究の進め方―クラウドファンディング活用事例と代謝エピジェネティクス解析
【要 旨】
血管肉腫は犬の脾臓に好発する血管内皮細胞由来の悪性腫瘍です.現時点で有効な治療法は存在せず,外科手術と古典的抗がん剤による治療が第一選択となりますが,1年後の生存率は約 15 %と決して高くありません.新たな治療薬の開発が求められていますが,分子レベルでの病態理解は進んでおらず,治療標的となり得る分子も未だ同定されていません.我々は血管肉腫の病態解明と新規治療法開発を目的とし,これまで血管肉腫の基礎研究に取り組んできました.
まず研究基盤を固めるために,イヌ血管肉腫の患者由来組織移植モデル (Patient-derived xenograft model: PDX モデル) 6株と培養細胞株3株を樹立しました. 次に,血管肉腫細胞一つ一つの遺伝子発現プロファイルを明らかにするため,PDX を用いたシングルセル遺伝子発現解析と,臨床検体を用いた空間遺伝子発現解析も実施しました.本講演ではこれらの実験から得られた結果をご紹介するとともに,実験資金を得るために実施したクラウドファンディングの概要やメリット?デメリットについてお話をしたいと思います.
また,樹立した培養細胞を用いて,代謝エピジェネティクスの観点から血管肉腫の病態解明に取り組んでいます.近年,細胞内の乳酸が核タンパク質のヒストンを修飾し (ヒストンラクチル化) ,遺伝子発現を調節する機構が明らかとなりました.乳酸はグルコースを起点とする解糖系の副産物であり,これまではただの不要物と考えられてきた物質です.我々は,血管肉腫培養細胞株をグルコース欠乏条件下で培養し,CUT&Tag-seq によるヒストンラクチル化修飾パターンと RNA polymerase II のエンリッチメントパターンの全ゲノム網羅的な解析,そして メタボローム解析による代謝変動解析を実施しました.その結果,血管肉腫がグルコース欠乏に対し,どのように遺伝子発現プロファイルを変化させて代謝リプログラミングを完遂しているか,そのメカニズムを明らかにすることができました.また,デジタル病理解析を駆使して,臨床検体におけるヒストンラクチル化レベルと腫瘍免疫との関係を解析しました.本講演ではこれらの結果についてもご紹介します.皆様と活発な議論ができることを楽しみにしております.当日はどうぞよろしくお願い致します.