動物行動学研究室では日本各地の動物園にご協力いただき、動物園動物を対象とした研究に取り組んでいます。動物園では多様な動物種が飼育されており、その動物種ごとに適切な飼育環境は異なります。それは動物たちが本来暮らしている野生環境がさまざまに異なることに起因しています。こうした背景をもとに、動物福祉に配慮した飼育環境を実現するために有効な工夫やその効果を調べる方法についての研究をおこなっています。
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多くの動物園でいろいろな動物種を対象に研究しているのですが、その一例を紹介します。昨年度は当キャンパスの位置する青森県のお隣、岩手県にある盛岡市動物公園でニホンリスを対象とした研究をおこないました。野生のリスにとってマツ球果(いわゆる松ぼっくり)は重要な採食品目なのですが、動物園での通常の給餌には含まれていませんでした。そこで通常の給餌品目に加えて松ぼっくりを給餌しました。するとやはりリスは松ぼっくりを食べたとともに、食物を埋めるというリスに特徴的な行動(貯食と言います)が見られるようになりました。飼育下でもリスの行動を野生に近づけ、また通常の給餌品目に加えて新たな選択肢を増やしたことから、松ぼっくりの給餌は動物福祉の改善につながると期待できます。
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このように給餌品目を一つ増やすという我々ヒトにとっては些細に見える変化でも、動物にとっては大きな影響を与えることがあります。そのような「工夫」を明らかにする研究に動物行動学研究室では取り組んでいます。
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多くのネコ科野生動物は絶滅が危惧されており、飼育下の動物を保護?増殖することが求められています。しかし、遺伝的多様性を保ったまま飼育個体数を増やすためには、自然繁殖では限界があります。雄個体から安全に精液を採取し、凍結保存した精子を使った人工授精ができるようになれば、自然繁殖で問題となる個体同士の相性や動物自身の移動を行うことなく、遺伝的な多様性を確保できると考えられます。トラにおいても30年以上前から人工授精法の検討がなされてきましたが、いまだにその技術は確立されていません。
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動物生殖学研究室は2019年から八木山動物公園と共同研究協定を結び、様々な動物種について人工繁殖に関する研究を実施しています。今回は、われわれと同様に八木山動物公園と協定を結んでいる北海道大学獣医学部と共同で雄トラから精液を採取しました。
採取した精液には活発な運動を示す精子がたくさん含まれており、凍結保存することができました。凍結保存方法もまだまだ改善する必要がありますので、今後も研究を継続し、より良い人工授精法を確立したいと考えています。