栄養生理学研究室の落合優准教授の執筆した論文がFood Chemistry(IF: 9.231)に掲載されました

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掲載論文テーマ:Edible insect Locusta migratoria shows intestinal proteindigestibility and improves plasma and hepatic lipid metabolism in male rats

(食用昆虫トノサマバッタは消化管において消化され、雄ラットの血漿および肝臓脂質代謝を改善する)

掲載雑誌:Food Chemistry

学内研究者:栄養生理学研究室?落合優、学部卒業生?手塚航、吉田晴香

食品機能安全学研究室?小宮佑介、大学院生?足立優斗、学部卒業生?中田后紀

FSC八雲牧場?小笠原英毅

学外研究者:宮城大学?食産業群?赤澤隆志

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世界人口は2050年には97億人に達する見込みです。環境問題や世界人口の増加に伴う食糧問題が危惧される昨今、国内で生産や供給が持続可能な食糧資源の開発が求められます。環境負荷が小さく、収率の高い昆虫は有力な食糧資源となり得ることが国連の農業機関によって2013年に発表され、国外を中心に、栄養学、安全性、市場調査に関する論文数が増加しています。しかし、食糧資源としての食用昆虫のタンパク質の質について解決すべき課題は多々あります。当研究室では、食用昆虫に含まれる栄養素、安全性および機能性に関する研究を実施し、将来的に健康機能性を有するサプリメントなどの加工食品の開発を目指しています。

   食用昆虫は世界で約2100種類知られていますが、学術的に安全性が証明され、食糧として利用可能なものは数種類に限定されます。今回、Food Chemistry誌に掲載される論文の研究では、飼養加工処理されたトノサマバッタ粉末(TAKEO株式会社より提供)や本学獣医学部付属FSC八雲牧場内で採取した有機バッタの凍結乾燥物を用いて栄養生理学的な研究を実施し、学術的には初となる脂質代謝改善作用を明らかにしました。消化特性を評価する試験では、同様の飼料を2時間給餌した後のラット消化管内容物を部位ごとに回収し、内容物に含まれるタンパク質の質を電気泳動法によって評価しました。また、栄養生理学的特性を評価する試験では、健常の雄ラットに10%のトノサマバッタ粉末を含む飼料を5週間連続給餌し、血漿や肝臓を用いた生化学的な分析を実施いたしました。

 本研究成果のポイントは3つあります。1つ目に、トノサマバッタ?バッタ科のタンパク質は胃の消化酵素で消化されにくいですが、小腸の消化酵素で消化分解されるため、最終的には消化管で吸収される特性があることです。この消化遅延性の特性は血中アミノ酸濃度を高く維持することができ、筋肉や骨などの末梢組織にアミノ酸を供給することができる利点があると思われます。2つ目に、トノサマバッタ粉末の給餌は動脈硬化症の発症?進展を抑制する可能性を有することです。トノサマバッタ粉末の給餌にて、“悪玉”である低密度型リポタンパク質(LDL)の肝臓への取り込みが亢進し、血中に滞留するLDL脂質値が低下することを見出しました。特に、血中LDL脂質の中でも、動脈硬化症の発症?進展に深くかかわる小型のLDL脂質(sd-LDL)の値が低くなることについても明らかにしました。また、血中の脂肪酸分析より、動脈硬化症の発症?進展リスクマーカーであるn-6/n-3比などが総じて改善されることも明らかにしました。3つ目に、トノサマバッタ粉末の給餌は肝臓内の脂質合成系を司るタンパク質の発現を抑制することです。このことは、異所性脂肪蓄積臓器である肝臓における脂質の過剰蓄積を抑制することができると思われます。これらの研究成果より、トノサマバッタ粉末には脂質代謝を大きく改善し、脂質異常症の発症?進展を予防する作用があることが示唆されました。

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昆虫を用いた加工食品は流通しておりますが、現時点で「一般食品」として利用することは日本国内では未だ認められていません。当研究室では、近い将来に国内でも食用昆虫が食品として利用可能となる日に備えて食用昆虫の栄養価、安全性、機能性に関する研究データを引き続き蓄積していきます。また、上述した食用昆虫に関する一連の研究は「持続可能な開発目標(SDGs)」の17項目ある目標の中でも複数の項目の達成の可能性を秘めています。例えば、「1, 貧困をなくそう」、「2, 飢餓をゼロに」、「3, すべての人に健康と福祉を」、「12, つくる責任、つかう責任」に該当します。食用昆虫に関する研究を通して、SDGsへの貢献を目標としています。

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