Interview
老人看護専門看護師の活動
目線を合わせて話しかけ、
その人の反応を待って、
ちゃんと「聴く」
老人看護専門看護師※を目指した理由を教えてください。
高齢になればなるほど在宅療養に関わる意思決定は家族に委ねられることが多くなります。しかし、高齢の心不全患者さんとの関わりを通して、初めは自身で行えなかった疾患管理が継続的に支援することでできるようになるという経験をしました。また、一般に心不全は予後予測が難しいと言われていますが、「自分の心臓はあとどのくらいもつの?終活を考えないとね」と予後について自ら考えていることを知り、高齢者の持つ力に気づかされました。これらの経験を通して高齢者のことをもっと学びたいと思いました。
※日本看護協会認定 老人看護専門看護師
専門看護師としての活動内容について教えてください。
病棟所属の専門看護師として、循環器病棟に入院する高齢者ケアの実践モデルとなり、看護スタッフや多職種と連携してケアを行い、循環器ACP(Advance Care Planning)カンファレンスを医師や多職種と協働して月1回開催し、意思決定支援に携わっています。組織横断的な活動としては、認知症ケアチームの一員として全病棟をラウンドし、認知症やせん妄ケアの相談を受けたり、他分野の専門看護師や認定看護師と協働して、せん妄予防の取り組みや、高齢者?認知症ケアリンクナース会を運営し、リンクナースと共に高齢者?認知症ケアの質の向上を図り、身体拘束の最小化に向けて院内基準の見直しなどを行っています。
専門看護師として大切にしていること、心がけていることを教えてください。
高齢者の言葉を「聴く」ことを大切にしています。せん妄で大声をあげたり、認知症の人が同じことを繰り返し尋ねる言動には、その人なりの理由があります。寝たきりの高齢者や認知症が重度になると、思いをうまく伝えることができなくなってきます。目線を合わせて話しかけ、その人の反応を待ってちゃんと「聴く」、言葉を発せなくても高齢者から発せられる微弱な変化を「サイン」として捉えて、表情やその言葉の裏にある感情や理由を推し量ります。そして、感じ取ったことを本人に伝えて意思を確認するようにしています。また、「聴く」ことは高齢者の語りを促すことに繋がり、人生の日々をより豊かにし、老年期の発達課題の達成に寄与する関わりになると考えています。
専門看護師としての活動について印象的なエピソードを教えてください。
80歳代のA氏は、重症肺炎で廃用症候群を併発し、寝たきり、嚥下困難、排痰困難となり、経鼻栄養をされていました。A氏は「家に帰りたい、口から食べたい」との思いがありましたが、医学的所見は誤嚥の危険性が高く、気管切開の条件下で楽しみ程度の経口摂取がゴールと考えられました。A氏は気管切開はしたくない、ご家族もA氏の意向に沿いたい、一方、命に関わることから決断できず、何度もA氏、ご家族、医療者で話し合いを重ねました。最終的にQOLを重視し気管切開は行わず、在宅調整を経て退院されました。4か月後、A氏を訪問する機会がありました。ご自身で端坐位になり、ゼリーを食べられるまでに回復され、今後の目標は、ご家族と好物のウナギを食べることだと話してくれました。医療者ができないと判断するのではなく、本人?家族の意思を尊重し、その最善を共に模索すること、高齢であっても時間をかけて回復できるということを改めて実感しました。
2020/12/10