公衆衛生学教室
公衆衛生学教室
English身の回りの有害物質から私たちの健康をまもる
公衆衛生学教室では,メチル水銀を中心とした有害金属による毒性の分子メカニズムの解明,そして有害金属毒性から私たちの健康をまもるための応用指向の研究をおこなっています。
マウス,培養細胞(哺乳類),シロイヌナズナ(モデル植物),大腸菌と様々な生物材料をモデルに,毒物に対する生体応答を解析します。分子生物学?細胞生物学的手法に加えて,ICP発光分析や水銀分析計などの機器分析の手法を用いた研究が特徴です。
研究内容
よりよい健康のために
公衆衛生学教室では,メチル水銀やヒ素,カドミウムを中心とした有害金属による毒性の分子メカニズムの解明,そして有害金属毒性から私たちの健康をまもるための応用指向の研究をおこなっています。様々な生物材料をモデルに,4つのテーマで研究を進めています。
?哺乳類の培養細胞(高根沢グループ)
?マウス(中村グループ)
?モデル植物(浦口グループ)
?大腸菌(大城グループ)
ヒト培養細胞におけるメチル水銀応答機構の解明 (高根沢グループ)
高根沢グループのキーワード:培養細胞,オートファジー,ユビキチン化,細胞死
細胞内の主要なタンパク質分解装置であるオートファジー及びプロテアソームによるメチル水銀毒性防御機構の解明をメインテーマとし、細胞生物学、分子生物学、生化学などの手法を用いて研究を行っています。
メチル水銀は水俣病に代表されるような神経毒性を示す環境汚染物質であります。メチル水銀はチオール基に結合する性質を有し、細胞内のタンパク質変性を引き起こすことが、毒性の一要因と考えられますが、具体的な分子機構はほとんど明らかにされておりません。
通常、細胞内で産生された変性タンパク質や古くなったタンパク質はオートファジー(自食作用)及びプロテアソームにより分解され、細胞の恒常性が保たれています。オートファジーは、栄養飢餓時に起こる自身のタンパク質を分解するシステムとして見出されたものでありますが、最近の研究により、様々な環境ストレスに応答して発動されること、またオートファジーと神経変性疾患、がん、生活習慣病などの種々の疾患との因果関係が明らかになりつつあります。
一方、プロテアソームはユビキチン化されたタンパク質を分解するマシナリーとして古くから知られており、細胞生存に必須な働きを担っています。近年、プロテアソームの活性の増加あるいは低下が様々な疾患と関連していること、またオートファジーとの密接に関わっていることが次第に明らかになりつつあります。
当グループでは、以下に示しますように、メチル水銀に対する防御機構としてオートファジー、プロテアソームの役割、および分子機構の解明を行っております。また、これらマシナリーの活性化あるいは不活性化させる化合物による、神経変性疾患、がん、生活習慣病の治療薬の開発につながる研究を目指します。
研究テーマ1
タンパク質分解系(オートファジー?プロテアソーム)によるメチル水銀毒性防御機構の解明
研究テーマ2
水銀化合物による細胞内シグナル伝達と防御メカニズムの解析
研究テーマ3
オートファジー制御化合物の探索と抗がん薬への応用
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メチル水銀毒性に効く生薬成分を探す (中村グループ)
中村グループのキーワード:低濃度メチル水銀, 抗メチル水銀薬, サポニン化合物
我が国は過去に、水俣病という環境中に排出されたメチル水銀による深刻な健康被害を経験しました。現在は、我が国はそのような高濃度のメチル水銀にばく露される状況にはありませんが、メチル水銀は大型の魚などに含有されているため、それを食事によって摂取することで、我々は微量ながらも継続的にメチル水銀にばく露されています。
近年、低濃度のメチル水銀ばく露により心疾患の潜在的リスクが高くなる可能性や、胎児の運動機能に影響を与える可能性があることが報告されており、低濃度メチル水銀の反復ばく露が健康に影響を与えることが懸念されています。しかし、低濃度メチル水銀ばく露の生体影響についてはまだわからないことが多く、また、その影響を予防?治療する”抗メチル水銀薬”についてはほとんど検討されていません。
そこで、我々は低濃度メチル水銀の生体への影響について検討するとともに、その作用を抑制する効果を持つ化合物の探索を行っています。これまでに本学生薬学教室との共同研究により、サポニンやステロイド配糖体など様々な生薬由来の化合物について抗メチル水銀効果について検討をすすめ、オレアノール酸のC3位にグルコースが結合したオレアノール酸-3-グルコシドが、培養細胞においてメチル水銀による細胞死を抑制すること、さらにマウスにおいてメチル水銀による神経障害を軽減させることを見出しました。
このことから、オレアノール酸を骨格としたサポニン化合物に抗メチル水銀化合物としての潜在性があると考え、現在は、オレアノール酸-3-グルコシドの抗メチル水銀効果の作用機序の解明や、オレアノール酸サポニン誘導体の構造による抗メチル水銀作用の違いについて検討を進めています。
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植物の有害元素の輸送や耐性を理解し,制御を目指す(浦口グループ)
浦口グループのキーワード:モデル植物,輸送体の発現制御,分子育種,有害元素の毒性メカニズム
植物は,自らの生育?発達に必要な必須栄養元素(無機物)を土壌から吸収?輸送し,利用して生きています。我々人間は植物が土壌からこれら必須無機元素を吸収し,有機物に同化?代謝する能力の恩恵に預かり,様々な栄養素の摂取を直接的?間接的に植物に依存しています。
ところが,土壌中には植物や人間の健康にとって有害な元素が含まれていることがあります。そのような土壌に生育する植物は,必須栄養元素とともに必要のない有害な元素も吸収して蓄積してしまいます。その植物が作物であれば,それを口にする人にとっては有害元素の摂取源となってしまいます(イタイイタイ病が典型的な例)。そのような土壌は,何らかの技術によって浄化する必要があります。植物がどのように有害元素を体内で輸送しているか理解することで,環境浄化の能力の高い植物の分子育種や,逆に,有害元素を蓄積しにくい植物の作出に応用できると考えています。
また,土壌中の有害元素によって,植物もダメージを受けてしまう可能性があります。植物は動くことができないので,土壌中の有害元素に対して様々な応答を示し,対処することができます。しかし,植物がどのような分子メカニズムをもって有害元素に対して応答そして耐性を獲得しているかは不明な点がたくさんあります。とくに,毒性の高い有機水銀に関してはほとんど知られていません。
このような背景のもと,当研究チームでは,モデル植物であるシロイヌナズナを用いて,
1)有害元素をマルチに浄化できるような植物の分子育種を,微生物の重金属輸送体の発現制御によって実現できないか?
2)有機水銀や他の有害元素が植物の根端細胞にどのような影響を及ぼしているのか?
3)植物はどのような分子機構を介してこれら有害元素に対処しているのか?
といったテーマについて研究を進めています。
実験手法としては,シロイヌナズナ(アブラナ科)の遺伝子組換え植物を作出したり,特定の遺伝子が破壊された変異体を 用いて,有害元素に対する感受性や,遺伝子発現やタンパク発現応答を解析したり,共焦点レーザー顕微鏡によって細胞レベルでの応答の解析,また誘導結合プラズマ発光分析(ICP-AES)による体内の元素濃度の網羅的一斉解析などを行なっています。
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微生物の重金属輸送能を理解し,植物で発揮させる (大城グループ)
大城グループのキーワード:微生物トランスポーター,Mer,ファイトレメディエーション
近年、水銀やヒ素などの有害金属による環境汚染とそれにより引き起こされる健康リスクが世界的に問題となっており、有効な除去法の開発が求められています。その中で注目されているのが、植物の生理活性を利用した浄化方法であるファイトレメディエーション(植物浄化)です。ファイトレメディエーションは経済的で環境への影響が少ないという利点を持つ一方、浄化効率が悪く時間がかかるという欠点を抱えるため、金属を効率的に取り込む輸送体(トランスポーター)の利用が有効であると考えられています。
一方、自然界には、毒性の強い水銀化合物に対して耐性を示す細菌が存在します。その細菌が示す水銀耐性は、plasmid あるいは transposon 上に存在する機能の異なる複数の水銀耐性遺伝子により構成される水銀耐性オペロン (mer operon) により支配されます (Fig.1)。菌体外の無機水銀 (Hg2+) は、細胞間隙に存在する水銀結合因子 MerP に結合した後、水銀トランスポーターである MerT や MerC に受け渡され、菌体内に取り込まれます。菌体内に取り込まれた Hg2+ をレダクターゼである MerA により還元し、金属水銀 (Hg0) として菌体外に放出することで細菌は水銀耐性を獲得していると考えられています。
これまでに当研究室では、MerC を用いたファイトレメディエーション研究を行ってきました。微生物由来の水銀トランスポーターである MerCをモデル植物であるシロイヌナズナに組換えた結果、MerC組換え植物は無機水銀 (Hg2+) を高蓄積することが明らかになりました。
また、近年当研究室において、水銀トランスポーターがカドミウム取り込み活性を有することを新たに明らかにしています。このことから、水銀トランスポーターが水銀以外の有害金属の取り込みにも関与する可能性が示されました。すなわち、前述の水銀トランスポーターは水銀、カドミウム、ヒ素、クロム等の有害金属複合汚染の浄化に有効であることが期待され、現在、当研究室ではMer輸送体のさらなる有害金属輸送活性について解析すると共に、複合汚染の浄化活性について検討を行っています。
この様に、微生物を用いた基礎研究と植物を用いた応用研究を並行して行っていることが我々のチームの特色です。これらの研究により、有害金属複合汚染の浄化効率の上昇と浄化期間の短縮を達成できると期待されます。有害金属による環境汚染を低減させることは、身をまもるための科学として、人々の生活と福祉に貢献できると考えています。
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