研究の概要
私たちウイルス感染制御学研究室では、ワクチン、抗ウイルス薬、消毒剤の研究開発など、ウイルス感染症を制御するための基礎研究を行っています。研究対象は、ウイルス性胃腸炎を引き起こすノロウイルス、サポウイルス、ロタウイルス、アストロウイルス、呼吸器感染症の一因となるRSウイルスなどです。
冬型の急性胃腸炎、食中毒の原因ウイルスとして知られているノロウイルス(HuNoV)は、株化培養細胞で増殖させることができず、感染モデルとなる小動物も存在しないことが研究の障壁となり、ワクチン、抗ウイルス薬、消毒剤の開発が進みませんでした。私たちは、HuNoVと、ネズミに感染するノロウイルス(MNV)のリバースジェネティックスシステム(RGS)の開発に成功し、株化培養細胞でHuNoV, MNVの複製、感染性粒子作出を実現しました。RGSは、ノロウイルスの遺伝子を操作し、ウイルスの細胞内動態の研究、病原性発現機構の研究を行うことを可能としました。さらに、GFPやルシフェラーゼなどのレポーター遺伝子をウイルス遺伝子内部に組み込むことにより、NoV複製阻害剤の探索や、感受性細胞の探索をも可能としたのです(PNAS2014 Sep 23;111(38):E4043-52, 2014)。
また、私たちは、CRISPER/Cas9 genome wide gene knock out systemを利用し、MNVのタンパク質性レセプター分子CD300lf, CD300ldの発見に成功し、ノロウイルスがレセプターによって宿主特異性を決めていることを示しました(PNAS 2016 Oct 11;113(41):E6248-55, 2016) 。
近年、腸管オルガノイドシステムを用いたHuNoV増殖培養法が開発され、ついにHuNoVの試験管内での増殖培養ができるようになりました。腸管オルガノイドの成功により、ノロウイルスだけでなく、他の胃腸炎ウイルスの研究にも新しい時代が訪れました。現在、私たちは、分子生物学的手法(シングルセルトランスクリプトーム解析)、構造生物学的解析手法(クライオ電子顕微鏡;生理学研究所との共同研究、X線結晶構造解析;横浜市立大学との共同研究)などを駆使し、ワクチン開発、抗ウイルス薬開発、消毒剤開発を目指して研究を続けています。
取り組んでいる研究課題
-
画期的新規ワクチンの開発研究(東京工業大学?国立感染症研究所との共同研究)(経口接種、舌下滴下などのニードルレスワクチン)
-
ノロウイルスワクチンの研究開発(東京工業大学?国立感染症研究所との共同研究)
-
ノロウイルスなどの胃腸炎ウイルスの複製増殖機構の研究と抗ウイルス薬研究
-
腸管オルガノイド(慶応大学、ベイラー医科大学との共同研究)を用いた胃腸炎ウイルスの研究(レセプター検索、増殖培養系構築)
-
胃腸炎ウイルスの流行予測、流行機序解明を目指した分子疫学研究(名古屋市立大学?国立感染症研究所との共同研究)
-
麻疹ウイルスとRSウイルスのキメラウイルスを用いた新規ワクチン開発にかかる基礎研究