グラム陰性病原細菌の多くはニードル複合体と呼ばれるIII型分泌装置を有しています。この装置のニードル部分は菌体外膜から突出しており、ニードル先端部が宿主の細胞膜に作用することで、細菌由来のタンパク質を宿主内に注入します。細胞内に移行して宿主の生理機能に影響を与える細菌由来のタンパク質は、一般にエフェクターと総称されており、感染成立に重要な役割を果たしています。これまでの研究で、百日咳菌を含むボルデテラ属細菌の長期定着は、III型分泌装置に依存することが解っておりましたが、その機構は不明でした。我々の研究室では、III型分泌装置を介して宿主に移行するBopNが抗炎症性サイトカインであるIL-10の産生を誘導すること、BopCが細胞死をもたらすエフェクターであることを明らかにしました。このようにエフェクターを利用して、宿主の免疫応答を回避するしくみが徐々に明らかになってきました。我々の研究室では、ボルデテラ属細菌の感染戦略を分子レベルで解明し、それらの知見をワクチン創製に役立てています。