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農医連携教育研究センター 研究ブランディング事業

4号

情報:農と環境と医療 4号

2005/81
博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@におけるチーム医療教育および農医連携教育?研究
平成17年7月1日に開催された学部長会議で、学長提案の「博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@におけるチーム医療教育と農医連携教育?研究の推進について」が検討された。その結果、次のことが確認された。

  1. 医療系4学部は、チーム医療のための共通の教育カリキュラムの導入を推進し、これを本学の特色の一つに加えるようにする。
  2. 獣医畜産学部、水産学部は、食品機能開発、食の安全性、食の安全供給、環境との関わり、心身両面での健康維持との関わりなどを考え、医療系学部との教育?研究の連携を従来以上に推進する。

これらの考え方を基礎にして、どのような取り組みが可能かを検討する。関係学部の教員を中心に研究会などを開催し、実施可能なものから導入していく。また、学外団体などとの交流を深め、学内外の関係者によるフォーラムなども企画、開催していく。
研究室訪問 G:獣医畜産学部 獣医学科 獣医衛生学
「農と環境と医療」を連携できる研究の素材や人を求めて、さまざまな職場を探索している。第7回目は、獣医畜産学部獣医学科獣医衛生学研究室の高井伸二教授を訪問してお話を伺った。高井教授らは、このほど平成14~16年度科学研究費補助金基盤研究(B)の「動物の移動?定着に伴う病原体の伝播に関する分子免疫学調査:病原体生態史観から日本在来馬を韓国?中国?モンゴルへと遡る」という浪漫的な課題の報告書を認めている。研究成果の論文は、すべて英文である。

この研究室の担当員は次の通りである。〔教授〕高井伸二、〔講師〕角田 勤

この研究室では次のことを目的に研究が進められている。わが国の家畜生産現場においては、伝播力の強い感染症に対して、摘発淘汰あるいはワクチンなどの防疫対策が行き届き、現在、畜産経営に大きな影響を及ぼす疾患として肥育繁殖時期における慢性呼吸器?消化器感染症、新生子期の急性感染症、細菌?原虫性細胞内寄生病原体などによる感染症が依然として問題になっている。この研究室では、細胞内寄生性の細菌と原虫の診断ならびにその予防法の開発を目標に、それら感染症の発病機構を病原体の病原因子と宿主の免疫応答の両面から研究している。

この研究室の主な研究テーマは、次のように整理されている。

G-1.子馬のロドコッカス?エクイ感染症の発病機構の解明本症は毎年、晩春から初夏に発生する子馬の難治性肺炎である。子馬及びマウス実験感染モデルを用いて本症の宿主感染防御機構を明らかにし、診断?予防に資する。

G-2.ロドコッカス?エクイの病原性プラスミドの分子遺伝学的解析(文部科学省科学研究費)本症の発病機構を解明するために、細胞側の病原因子を分子遺伝学的に解析する。

G-3.家畜?家禽に由来するヒトの食中毒の起因菌の病原因子の解析と分子疫学動物性食品などが原因となる食中毒の病原因子を分子遺伝学的に解析し、診断?予防に資する。

G-4.ロドコッカス?エクイ強毒株の海外における分子疫学調査(モンゴル:獣医学研究所、中国:吉林大学獣医学院、韓国:済州大学、ドイツ:ハノーバー大学、ハンガリー:セントイストバン大学など)(文部科学省科学研究費)病原性プラスミドならびに染色体DNAの制限酵素切断パターン解析から、在来馬および世界各地の馬の棲息する地域の遺伝子型を解析し、強毒株の分布を分子疫学手法を用いて明らかにする。

G-5.ロドコッカス?エクイ中等度毒力株のヒトへの感染経路に関する研究(タイ?チェンマイ大学医学部?獣医学部、国立国際医療センター研究所)タイにおけるヒト本症感染症の分子疫学調査を行いヒトへ感染源と経路を特定する。

G-6.タイにおける人獣共通感染症の分子疫学調査(獣医公衆衛生学)畜産食品を介した食中毒を含む感染症の分子疫学調査に関する研究をチェンマイ大学医学部?獣医学部の協力の下に行う。

この他、高井教授は以下の課題についても思考中である。この研究課題は、「情報2号」に紹介したインベントリーの範疇に属するであろう。

馬の感染症研究の過程で、これまで8品種の日本在来馬に出会う。このうち、種として維持可能と思われる馬に、北海道和種(約2000頭)がある。他は、種の保存が難しいと思われる100頭未満の種である。いまのところ、それぞれが保存協会を作って維持管理をされている。育種繁殖の最新のテクノロジーを使って、精子、卵子などを永久保存し、この種を保存することが必要である。十和田市は馬の博物館などもあり、馬をキーワードにしたインベントリー研究も必要であろう。

「農と環境と医療」を連携するための研究課題には、「窒素」、「化学物質」、「重金属」、「安全食品」、「未然予防」、「リスク」、「教育?啓蒙」、「インベントリー」、「農業?健康実践フィールド」、「ウイルス」および「環境微生物」などがある。この研究室の内容は、土壌、植物、動物、環境修復および人に深く関係しており、農と環境と医療の研究を連携するにまことにふさわしいものである。そのうえ、空間と時間を超えて解決しなければならない課題である。この研究室の研究は、「未然予防」、「環境微生物」などに関連が深いと考えられる。諸氏のご意見を伺いたい。また、これらの研究課題の範疇についてのご意見も伺いたい。

参考:ロドコッカスの分子生態学(高井伸二)

はじめに

ロドコッカスは放線菌目ノカルジア科に属するグラム陽性の好気性細菌で、多形性で桿状、棍棒状ないし球状を呈し、本属菌の多くは土壌細菌として広く自然界に分布する。本属は現在、25菌種から構成されており、その中で病原性を保有するのは植物の病原菌Rhodococcus fasciansと動物の病原菌R. equiの2菌種のみである。近年、環境修復(バイオレメディエーション)での有用細菌属としても注目されている。

子馬のロドコッカス?エクイ感染症

ロドコッカス?エクイはスウェーデンのMagnusson (1923)により子馬の肺炎病変部から分離され、当初Corynebacterium equiと命名された。その後、世界各地で発生が確認され、我が国では、平戸?浜田が「仔馬病」と総称した幼駒感染症の一つとして、1949年に原川と盛田が青森県?七戸の症例から初めて本菌を分離した。本症は1ヶ月齢前後の子馬が土壌中の本菌を経気道感染することで罹病し、膿瘍形成を伴う化膿性肺炎を主徴とする難治性感染症である。毎年晩春から夏に散発的に認められ、時に地方病的にも発生する。馬と豚以外に感受性動物はないが、稀に愛玩動物や野生動物に日和見感染症を起こす。近年、ヒトHIV感染患者での本症例が急増し、我が国でも2005年に初発例が報告された。

病原性の分子基盤:強毒株の毒力マーカーの発見

本菌基準株ATCC6939(Magnussonの分離株)は子馬に本症を再現できないことから、本症は宿主側の易感染因子が問題となる日和見感染症と考えられた。しかし、1991年の毒力関連15-17kDa抗原と病原性プラスミドの発見によりロドコッカス?エクイの病原性(強毒株と無毒株の存在)の分子基盤が明確となった。これにより強毒株を指標とした疫学調査が展開可能となり地方病的に本症が発生する牧場の飼育環境が強毒株に高濃度に汚染されていること、更に、感染子馬は大量に糞便中に強毒株を排泄し飼育環境を汚染すること、健康な子馬においても生後3ヶ月までは腸管内で強毒株を含む本菌が増殖することなどが明らかとなった。また、ATCC6939株は実験室で代変わりした病原性プラスミド脱落による弱毒化が示唆された。

病原性プラスミドのPathogenicity island

強毒株が保有する病原性プラスミド全塩基配列の解析から、GC含量が異なり、15-17kDa毒力関連抗原(VapA)遺伝子とその関連抗原(Vap family) 遺伝子群を含みtransposonの転移に関与する酵素に類似する遺伝子2個がこの領域を挟むように存在するPathogenicity island (PAI)の存在が明らかとなった。PAI以外の領域に相同性の高い潜在プラスミドが見いだされ、PAIが他の菌からロドコッカスの潜在プラスミドに水平伝播した外来遺伝子であろうと推察された。VapA遺伝子の有無が細胞内寄生細菌としての能力に直結することが証明され、現在、その機能は検討中である。

強毒株の分子生態学:病原性プラスミドの多型性とその分布の地域特異性

世界各地の臨床?環境由来強毒株が保有する病原性プラスミドDNAの制限酵素切断像を我が国の分離株と比較したところ12種類の多型性が見いだされ、さらに、その分布に地域特異性が認められた。その内訳は欧米型6種と日本?韓国型6種で、欧米型は馬が本来生息していなかった南北アメリカとオーストラリア、南アフリカにも分布し、15世紀以降の初期ヨーロッパ探検隊やスペイン系移民?征服民などによって持ち込まれた馬と伴に侵入?伝播した可能性が示唆された。日本在来馬8種類を調査したところ、北海道和種馬、木曽馬、御崎馬から強毒株が分離され、そのプラスミド型の分布にも地域性が認められた。日本在来馬の祖先がモンゴル馬であり、中国、韓国を経て我が国に移動?定着したことは馬の遺伝学的研究からも明らかとなっているが、強毒株も動物と伴に移動?伝播したことを強く示唆する成果の一つとして韓国?済州馬から木曽馬で認められたプラスミド型と同じものが分離された。現在、中国とモンゴルにおける分子疫学調査が進行中である。

中等度毒力株の分子生態学:AIDS患者から分離されたロドコッカス?エクイ中等度毒力株

AIDS患者分離株の病原性を検討中に強毒株とは異なる病原性プラスミドがコードする20kDaの毒力関連抗原(VapB)を発現する菌株を見いだした。マウスLD50値が強毒株に比べて約10倍大きいことから中等度毒力株と名付けた。タイ?チェンマイではAIDS患者での本菌感染症が80症例を越え、その発生数が異常に多かったことから現地調査を行ったところ、患者の生活環境では豚が飼育され、タイ北部では生の豚肉を食する慣習も残っていた。日本で飼育されている豚からも中等度毒力株が分離され、本菌は豚に広く定着していることが明らかとなった。

おわりに

植物病原菌R. fasciansの病原性発現(fasciation)には線状プラスミドが不可欠であり、動物の病原細菌R. equiでは馬の強毒株と豚の中等度毒力株が保有する病原性プラスミドが宿主細胞内での生き残り戦略の鍵を握っている。ロドコッカスの病原性プラスミドが生存と適応のための選択圧のなかで、どこでどの様にして生まれ、家畜や植物の病原体となっていったのか興味は尽きない。
研究室訪問 H:獣医畜産学部 生物生産環境学科 植物生態環境学
「農と環境と医療」を連携できる研究の素材や人を求めて、さまざまな職場を探索している。第8回目は、獣医畜産学部生物生産環境学科植物生態環境学研究室の杉浦俊弘助教授を訪問してお話を伺った。このグループは仏沼でオオセッカの研究を精力的に進めている。現在この研究室は、杉浦俊弘助教授が一人でがんばっておられる。

植物生態環境学研究室は、「緑地保全学研究室」とともに「緑地環境学系」を構成している。ここでは、湿地に繁茂する湿生植物から乾燥地に生育する草原性植物まで、草本植物を対象に、主に水分ストレス下における植物の形態適応や光合成能力の変化について研究を行っている。また、湿性草原を繁殖地としている絶滅危惧種の生息環境の保全についての研究も行っている。最近では、地域で産出されるさまざまな産業廃棄物の草地への還元や緑化資材としての有効活用についての研究も始めている。

この研究室の主な研究テーマは、次のように整理されている。

H-1.絶滅危惧野鳥の生息環境の保全と草地畜産との共生に関する研究(日本学術振興会)絶滅危惧種であるオオセッカの国内最大の繁殖地を対象に、この野鳥の生育に適した植生環境を明らかにするとともに、その維持に有効な家畜による草地の管理技術を明らかにすることで、放牧地とビオトープが隣接する「環境教育牧場」の創出をめざす。

H-2.産業廃棄物の緑化資材としての評価と活用に関する研究地域で産出される産業廃棄物を堆肥化することで、のり面や校庭の緑化資材として有効に活用するための技術を開発している。

H-3.緑地の保健休養機能の解明とそれを活かした緑地創出技術に関する研究保健休養機能の具体的な人への作用を解明するとともに、この機能を有効に活用できる緑地の創出技術の提言を目指している。

H-4.環境保全型圃場管理法の創出(日本学術振興会)有機畜産を実践している牧場を対象に、土壌-植物-周辺環境への物質の移動をさまざまなスケールでモニタリングしながら、環境保全に有効な圃場管理法の創出をめざす。

H-5.有機草地での放牧牛の生態と肉の機能性成分の評価(FSC)水産未利用資源を有機肥料として投入した草地で放牧飼養されている肉牛の草地生態学上の特徴を明らかにするとともに、そこで生産された牛肉の機能性成分を評価している。

「農と環境と医療」を連携するための研究課題には、「窒素」、「化学物質」、「重金属」、「安全食品」、「未然予防」、「リスク」、「教育?啓蒙」、「インベントリー」、「農業?健康実践フィールド」、「ウイルス」および「環境微生物」などがある。この研究室の内容は、土壌、植物、動物、環境保全に深く関係しており、新たに「環境保全」と「環境教育」という項を設ける必要があると考える。これは、空間と時間を超えて解決しなければならない課題でもある。この研究室の研究は、「環境保全」、「教育?啓蒙」などに関連が深いと考えられる。諸氏のご意見を伺いたい。また、これらの研究課題の範疇についてのご意見も伺いたい。
研究室訪問 I:獣医畜産学部 動物資源科学科 食品機能?安全学
「農と環境と医療」を連携できる研究の素材や人を求めて、さまざまな職場を探索している。第9回目は、獣医畜産学部動物資源科学科食品機能?安全学研究室の有原圭三助教授を訪問した。現在この研究室は、有原圭三助教授が一人でがんばっておられる。

研究分野の概要

食品機能学は、食品の有する疾病予防作用などの保健的な機能性を探求する学問領域である。一方、食品安全学は、食品の高度な安全性を確保するための手段の開発に関わる領域である。これらの2つの重要な食品学領域をカバーするのが、食品機能?安全学である。現在、食品機能?安全学研究室では、乳?肉?卵といった動物性食品を素材とする保健的機能性の高い食品の開発にかかわる研究と、動物性食品の安全性向上技術の確立を目指した研究を行っている。

この研究室の主な研究テーマは、次のように整理されている。

I-1.畜産食品の有する潜在的な保健的機能の解明 乳?肉?卵といった畜産食品が有する潜在的な保健的機能の解明と、それに関与する物質の探索を行っている。現在、特にタンパク質の分解により生成するペプチドに注目している。

I-2.微生物を利用した畜産食品の安全性向上技術の開発 乳酸菌やビフィズス菌といったいわゆる有用細菌を活用し、畜産食品の安全性(貯蔵性等)向上に寄与する基礎的技術の確立を目指している。

I-3.微生物を用いた新しい機能性食肉製品の開発(プリマハム基礎研究所との共同研究)微生物の利用により、整腸作用、血圧降下作用、ストレス性疾患予防作用等を備えた保健的な付加価値の高い食肉製品の開発を進めている。

I-4.食品由来のβ-アミロイド毒性緩和ペプチド(伊藤ハム中央研究所との共同研究)アルツハイマー病の原因となるβ-アミロイドの毒性を緩和する作用を有するペプチドを食品タンパク質分解物中から検索している。

I-5.熟成過程および消化管内において食品タンパク質より生成する生理活性ペプチド(文部科学省科学研究費)食品の熟成過程、あるいは摂取後の消化管内において、タンパク質はプロテアーゼの作用を受け分解される。このときに生成するペプチドの保健的な機能性を明らかにしている。

I-6.ストレス?疲労マーカーの開発に関わるプロテオーム解析(静岡県立大学栄養科学部との共同研究、農林水産省地域食料産業等再生?研究開発等支援事業)

I-7.発酵食品の製造過程に生成する生理活性ペプチド(スペイン教育科学省食糧科学研究所との共同研究)

I-8.中国伝統的食品の保健的機能性評価とそれに基づく新しい機能性食品の開発(長春農牧大学との共同研究)

I-9.動物性食品の保健的機能性の解明(獣医畜産学部食品科学研究室との共同研究)

I-10.自給飼料主体で生産した乳?肉の共役リノール酸など機能性成分の評価と利用技術の開発(フィールドサイエンスセンターとの共同研究、文部科学省科学研究費)

「農と環境と医療」を連携するための研究課題には、「窒素」、「化学物質」、「重金属」、「安全食品」、「未然予防」、「リスク」、「教育?啓蒙」、「インベントリー」、「農業?健康実践フィールド」、「ウイルス」、「環境微生物」、「環境保全」などがある。この研究室の内容は、以下に示す「参考:食品機能?安全学研究室で展開している研究および関連情報について」や有原圭三助教授自身の提案から、「未然予防」と、新たに「食と健康」という項を設ける必要があると考える。諸氏のご意見を伺いたい。また、これらの研究課題の範疇についてのご意見も伺いたい。

参考:食品機能?安全学研究室で展開している研究および関連情報について(有原圭三)

われわれの研究室では、「食と健康」の関係に注目し、食品のもつ潜在的な保健的機能性に関連したテーマを中心に研究を進めている。その中で、特に力を入れているのは動物性(主に食肉)タンパク質由来の生理活性ペプチドに関するものである。ここでは、この研究の背景を説明した後に、現在、産学連携により推進している「食肉タンパク質由来の抗ストレス?抗疲労ペプチド」に関する研究の状況等を解説する。

【背景説明】

食品タンパク質の分解により生成するペプチドには、様々な生理活性があることが知られている。1979年に牛乳タンパク質の分解物(ペプチド)にオピオイド活性が見出されてから、食品タンパク質由来の血圧降下、コレステロール吸収阻害、抗微生物増殖、免疫調節、抗血栓、抗酸化などの生理活性を示すペプチドが報告されている。これらのペプチドの多くは、牛乳、大豆、魚類由来のタンパク質のプロテアーゼ分解物中に見出されている。

われわれの研究室では、これまで食肉の摂取と健康との関係について注目してきた。食肉の摂取については、「コレステロールが多いから控えるべき」とか、「動物性脂肪の摂取は大腸ガンの原因」といった断片的な情報から、広く生活習慣病全般の予防?改善のために避けるべきであるという誤解が未だにまかり通っている。その一方で、「沖縄は、豚肉をたくさん食べることにより世界一の長寿地域になった」といった極端な話もマスコミでは取り上げられている。このような情報が錯綜する中で、食肉の価値を正しく消費者に伝えるためには、その客観的な評価が必要である。

食肉の大きな価値として、良質なタンパク質を豊富に含むことがあげられる。タンパク質の価値は、加工あるいは消化過程で生成するペプチドによっても左右される。しかし、これまで食肉タンパク質由来のペプチドの生理機能についての検討は乏しく、食肉タンパク質の潜在的な保健的機能の多くは不明なままであった。

また、われわれの進めている研究は、動物性食品の保健的価値を解明すると共に、新たな機能性食品や機能性食品素材の開発にもつながるものである。すなわち、食肉タンパク質に適当なプロテアーゼを作用させることにより、目的とする生理活性を有するペプチドを生成させれば、安全で保健的付加価値の高い食品素材が提供できる。また、活性ペプチドの構造解析により得られた情報から調製した合成ペプチドをサプリメントなどにより利用する途も開ける。

いわゆる機能性食品(厚生労働省認可の特定保健用食品など)は、「病気の治療は『薬』で、健康の維持増進と病気の予防は『食』で」という考えに基づくものであり、医薬品とは一線を画するものである。膨大化する医療費を抑制するという観点からも、食による健康維持や疾病予防はきわめて重要である。このような背景をも重視し、われわれは研究を進めていきたいと考えている。

【食肉タンパク質由来の抗ストレス?抗疲労ペプチド】

食品あるいは食品成分の保健的な機能として、これまで非常に多様なものが検討されてきた。そのような状況の中で、われわれは食肉という食品の特徴やイメージに相応しい保健的機能として、抗ストレス作用や抗疲労作用に注目した。

現代人で、ストレスや疲労に無関係で過ごしている人はいないであろう。ストレスや疲労は、その蓄積が不快感や仕事の効率低下をもたらすだけでなく、多くの重篤な疾病を誘発したり、病状の悪化につながるものである。一方、食肉は古くから滋養強壮食という認識がもたれており、代表的な「元気がでる食品」とも言えよう。食肉を主原料とした食品あるいは食肉由来の成分の機能として、抗ストレスや抗疲労は、消費者の多くに受け入れやすいものと思われる。

われわれの研究室では、抗ストレス作用は、ラットに水浸拘束ストレスを負荷させ、ストレス性胃潰瘍を発症させる実験系により検討してきた。また、抗疲労作用は、マウスをトレッドミルで強制走行させ、疲労程度を判定する実験系により検討してきた。

その結果、食肉あるいは食肉成分の経口投与により、ストレス性胃潰瘍予防や運動疲労予防?回復が期待できることが判明した。このような作用に関与する食肉成分には、多くのものがあると推定されたが、われわれは特に食肉タンパク質の分解により生成する抗酸化ペプチドに注目し、検討を進めた。これまでに数種の新規な抗酸化ペプチドを見出し、これらの配列に基づき合成したペプチドも経口投与により、効果を示すことを明らかにした。一連の成果は、既に3件の特許出願につながっている(特許取得:1件、出願中:1件、出願準備中:1件)。今後、ヒトでの作用の確認や産業レベルでの検討(製品化)を進めていきたいと考えている。農医連携プロジェクトとして発展させることができれば、疾病予防食や治療食としての評価や製品開発も視野に入ってくる。

これまでにわれわれの研究室で得られた「食と健康」に関する成果を生かし、すでに実際の製品開発に至った例もある。「腸管由来乳酸菌を利用した発酵ミートスプレッド」は、プリマハム株式会社より、1988年に製品化(製品名:ブレットン)され、厚生労働省から「高齢者食品(咀嚼?嚥下困難者用食品)」の表示許可を得ることもできた。ちなみに、この製品は、咀嚼?嚥下困難者用食品として認められた第1号の食品となった。なお、2000年以降、われわれは「食と健康」に関わる領域の特許を5件取得している(出願:8件)。今後も、「食と健康」に関する研究成果を社会的あるいは産業的に活用する途を見出していきたいと考えている。
研究室訪問 J:獣医畜産学部 獣医学科 獣医公衆衛生学
「農と環境と医療」を連携できる研究の素材や人を求めて、さまざまな職場を探索している。第10回目は、獣医畜産学部獣医学科獣医公衆衛生学研究室の諏佐信行教授を訪問してお話を伺った。諏佐教授らは、「公衆衛生の正しい知識を普及?指導するのは獣医師の大切な役割」をモットーに、人獣共通感染症、食品由来感染症、環境由来発がん性化学物質など人と動物の関わりの教育?研究を行っている。

この研究室の担当員は次の通りである。〔教授〕諏佐信行、[助教授]上野俊治、[講師]柏本孝茂

この研究室では次のことを目的に研究が進められている。6価クロムなど多くの発がん性化学物質の毒性発現には、活性酸素の関与が指摘されている。これらの化合物に曝露された実験動物あるいは培養細胞における活性酸素の発生と組織?細胞障害、脂質過酸化、DNA損傷との関連性について研究を行っている。また、食品媒介感染症の原因菌の病原性に関する研究にも取り組んでいる。さらには、いわゆる環境ホルモンとしての有機スズ化合物の各種動物における蓄積?代謝と毒性発現との関連性、電離放射線曝露動物におけるDNA損傷の発現機構に関する研究も他機関との協同で行っている。

この研究室の主な研究テーマは、次のように整理されている。

J-1.6価クロム化合物の細胞毒性に対する各種抗酸化物質の防御効果に関する研究
6価クロムによって生ずるDNA損傷、過酸化脂質、細胞損傷に対する各種抗酸化物質の防御効果とその作用機序を解明する。

J-2.In vivoにおける6価クロムの代謝と毒性発現機序に関する研究
生体内に取り込まれた6価クロムの代謝に関連する活性酸素の発生とその毒性発現機序における役割を解析する。

J-3.Vibrio vulnificusの細胞障害性に関する研究
人に致死的感染を起こす本菌は強い細胞障害性を持っている。本研究では、本菌の持つ細胞障害性の機序、およびその病原性に果す役割を解析する。

J-4.フェニルスズ化合物の生体における代謝と毒性発現に関する研究
フェニルスズ化合物は農薬などとして使用され環境中に放出されているが、近年その毒性が指摘されている。本研究では各種実験動物におけるフェニルスズ化合物の代謝を分析し、その毒性発現との関係を明らかにする。

J-5.マウスへのキトサン給餌による放射線抵抗性上昇機序に関する研究(放射線医学総合研究所との協同研究)
キトサンは健康食品として注目を集めている物質であるが、本物質をマウスに給餌すると放射線抵抗性が増大することが観察されている。本研究ではこの機序を解明する目的で、個体レベルでの電離放射線照射によって各臓器に誘起されるDNA損傷を評価し、その動態を検討する。

「農と環境と医療」を連携するための研究課題には、「窒素」、「化学物質」、「重金属」、「安全食品」、「未然予防」、「リスク」、「教育?啓蒙」、「インベントリー」、「農業?健康実践フィールド」、「ウイルス」、「環境微生物」、「環境保全」、「食と健康」などがある。この研究室の内容は、人、動物、環境に深く関係しており、農と環境と医療の研究を連携するにまことにふさわしく、「重金属」、「未然予防」、「食と健康」、「化学物質」に関連が深いと考える。諸氏のご意見を伺いたい。また、これらの研究課題の範疇についてのご意見も伺いたい。
研究室訪問 K:医学部 微生物?寄生虫学 
「農と環境と医療」を連携できる研究の素材や人を求めて、さまざまな職場を探索している。第11回目は、副学長?理事の役職以外にも学外のさまざまな委員を引き受けておられる超多忙な医学部微生物?寄生虫学の井上松久教授を訪問してお話を伺った。また、笹原武志講師からも有益なお話を伺うことができた。この項の終わりで紹介するが、ここでも「農と環境と医療」の連携に適する新たな言葉、「院内感染」または「環境感染」が浮き上がってきた。

この研究室の担当員は次の通りである。〔教授〕井上松久、〔助教授〕久保田孝一、[講師〕笹原武志、岡本了一、牧 純、中村健、小山浩一、〔助手〕玉内秀一

この研究室では次のことを目的に研究が進められている。

微生物学:感染症の発症は、起因微生物側の遺伝子産物が宿主側の感染防御に関わる諸因子の破綻および異常反応を亢進させることによって起こるといえる。この過程は複雑であり、原因微生物の種類や宿主側の感染部位などによってもその反応様式は異なる。そこで、感染症の起因となる微生物それ自身の病原因子に加えて、治療薬に曝された環境下で微生物によって発現される遺伝子産物の解析、微生物によって惹起される宿主細胞の防御反応に関わる物質の機能を解明し、感染症発症に関わる因子について総合的に解明する。

寄生虫学:寄生虫症の、感染防御、診断、治療、疫学を中心とした寄生虫の病害作用と宿主の反応を、多岐な分野にわたり解明する

この研究室の主な研究テーマは、次のように整理されている。

K-1.感染症に関わる微生物および宿主側の諸因子についての研究
感染症に関わる微生物や宿主側の感染防御反応に関わる諸因子の役割をそれぞれ分子レベルで解明し、感染症発症の機序を総合的に捉え、感染防御の有効な方策を構築する。

K-2.Amp C産生におけるペプチドグリカンのシグナル調節機構の解析(文部科学省)

K-3.新型薬剤耐性菌の耐性機構の解析及び迅速?簡便検出法に関する研究(厚生労働省)
グラム陰性桿菌に広く分布しているAmp C型酵素の産生について細胞壁構成成分による巧妙な調製機構と迅速診断法を解明し、その創薬を目指す。

K-4.感染マクロファージの異常を認識するT細胞亜集団の解析
細菌感染マクロファージの異常を認識し、IFN-αを産生するCD-4CD8-TCRαβ+T細胞集団の存在を見出したので、その認識機構の解明をする。

K-5.水系汚染細菌に対する感染防止対策法の確立
新規に開発した殺菌性セラミックによる循環水浄化殺菌システム構築への応用に関する試験?研究。

K-6.GATA-3遺伝子導入マウスを用いた接触皮膚炎モデルの樹立(医学部)

K-7.TNCB誘発接触皮膚炎モデルの樹立と免疫反応からアトピー性皮膚炎の病態解明する。

K-8.細菌の産生する各種β-ラクタマーゼの迅速診断法

K-9.NK細胞の認識レセプターに対する単クローン抗体の作成

K-10.環境水中細菌の殺菌剤及び殺菌方法(特許出願中)

K-11.宿主寄生虫相互関係の生理?生化?薬理及び免疫学的研究

K-12.熱帯地域で使用される伝統薬の抗糸状虫作用
アフリカ諸国の薬用植物由来薬の糸状虫(Brugios pahangi)に対する効果を研究。

K-13.腸管寄生蠕虫の定着?排除現象に関与する宿主消化管ムチンの生理?生化学変動の解析
消化管寄生虫と宿主ラット間での、生体防御バリアとしての消化管粘膜表面でおこる宿主-寄生体相互作用を粘液物質の変動の観点から解明する

これまで、連携のためのプラットホームに「薬用植物園」と「環境科学センター」を挙げたが、すでに笹原講師は、河川水系のクリプトスポリジウム汚染実態に関する研究について「環境科学センター」と研究を協力して推進している。

「農と環境と医療」を連携するための研究課題には、「窒素」、「化学物質」、「重金属」、「安全食品」、「未然予防」、「リスク」、「教育?啓蒙」、「インベントリー」、「農業?健康実践フィールド」、「ウイルス」、「環境微生物」、「環境保全」、「食と健康」などがある。この研究室の内容は、人、動物、環境に深く関係しており、農と環境と医療の研究を連携するにまことにふさわしく、「重金属」および「環境生物」に関連が深いと考える。さらに、緑膿菌や腸球菌など感染症に関わる「環境微生物」や、これを殺菌しようとする「重金属」の活用とも関わる「院内感染」も新しい範疇として考えられる。諸氏のご意見を伺いたい。また、これらの研究課題の範疇についてのご意見も伺いたい。
研究室訪問 L:獣医畜産学部 附属フィールドサイエンスセンター(FSC)
「農と環境と医療」を連携できる研究の素材や人を求めて、さまざまな職場を探索している。第12回目は、獣医畜産学部附属フィールドサイエンスセンターを訪問し、センター長の萬田富治教授をはじめ職員のみなさまにお会いし、お話を伺う機会に恵まれた。夜には、粗飼料だけで育成した「北里八雲牛」をごちそうになった。美味であった。

これまで、「農と環境と医療」の連携のためのプラットホームとして、「薬用植物園」と「環境科学センター」を挙げてきた。今回の訪問で、フィールドサイエンスセンターの「八雲牧場」も博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@の重要なプラットホームの一つであることを確認した。これによって、本学の「農と環境と医療」の連携のためのプラットホームを三つ確認したことになる。

獣医畜産学部附属フィールドサイエンスセンター(FSC)の担当教職員は次の通りである。

〔教授〕センター長:萬田富治、教育?研究支援部門長:今井敏行、環境保全型畜産研究部門長:伊藤 良、〔助教授〕東 善行、〔講師〕畔柳 正、〔助手〕中井淳二、[担当職員]教育?研究支援部門(十和田農場):米沢利美、杉山春雄、泉 正雄、久保田昭二、南部 剛寛、環境保全型畜産研究部門(八雲牧場):松本英典、久保田博昭、庄司勝義、山田拓司、小野 泰、矢野紗織

研究分野の概要

自然?食?人の健康を保全する循環型地域社会の構築を目指し、土地、植物、動物およびそれらを取り巻く環境を生命系としたフィールド科学研究のうち、とくに大規模な実験牧場で自然循環機能を利用した自給飼料100%の牛肉生産技術の開発と、牛肉や鶏卵などの畜産物の機能性成分の評価、高機能性食品の開発研究を行っている。また、これらの生産システムを普及させるためのマーケッティング手法の開発にも取り組んでいる。

このFSCの主な研究テーマは、次のように整理されている。

L-1.飼料自給型エコロジカル家畜生産システム
自給飼料100%による肉牛生産システムの開発及び安全?安心な牛肉の販売ルートの構築

L-2.エコロジカル畜産物の生産技術?機能性?安全性評価?流通技術
高機能性牛肉の生産技術、安全性評価及び流通技術の開発

L-3.農畜水産系未利用資源の資源化利用技術
地域に賦存する化石原料、繊維質資源や水産資源の飼?肥料化利用技術の開発

L-4.地域に適した新型肉牛の造成に関する研究
牛の品種の遺伝的能力の組み合わせにより、地域の風土に適した自給飼料利用性の高い新型肉牛の開発

L-5.生物資源由来のカロテノイド化合物の集積技術及び高機能性食品?医薬品基材の開発((独)研究機構、(独)家畜改良センター)
ホタテガイ生殖巣や海産藻類由来のカロテノイドの飼料化技術、動物の体内代謝を利用した畜産物への集積技術、畜産物からのカロテノイド化合物の抽出?精製法の開発により、機能性食品や医薬品基材を開発する。

L-6.放牧牛肉の機能性成分評価とマーケッティング手法の開発(北海道大学)

L-7.水田放牧を利用した自給飼料100%による「オーガニックビーフ」の生産技術((独)研究機構)
農水省プロジェクト:ブランド?日本再委託課題

L-8.地域資源利用による家畜生産に関する研究(北欧)
エコロジカル畜産先進国との情報交換及び相互交流の推進

L-9.十和田農場における教育?研究支援研究の高度化に関する研究(獣医畜産学部)
農場の研究資源の精密管理及び信頼性の高いデータを収集するための教育?研究支援研究

L-10.循環型畜産確立のための家畜の飼育評価法の検討(循環型畜産研究プロジェクト)
獣医学科、動物資源科学科、生物生産環境学科、フィールドサイエンスセンター、動物病院の3学科2施設による共同研究。動物、草地、土、水における物質循環を考慮し、持続可能農業、すなわち環境保全型畜産を探る。特に、「粗飼料多給型牛肉の安全性?機能性成分の評価」、「牧草と増体」などの調査?研究を行う。

次の「北里八雲牛の物語」の項で詳しく紹介するが、八雲牧場では自給飼料100%の安全で安心な牛肉の生産にチャレンジし、これを実践している。この牛肉を「北里八雲牛」の名称で商標登録を取得し、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@病院の患者用給食材料として利用している。この例は、同一大学の中で安全と安心をベースにした、土壌-草地-牛肉生産-流通-病院食供給のシステムを確立した貴重な例であろう。

「農と環境と医療」を連携するための研究課題には、「窒素」、「化学物質」、「重金属」、「安全食品」、「未然予防」、「リスク」、「教育?啓蒙」、「インベントリー」、「農業?健康実践フィールド」、「ウイルス」、「環境微生物」、「環境保全」、「食と健康」などがある。このFSCの内容は、農業生産、環境保全および医療に深く関係しており、「農と環境と医療」の研究や教育を連携するにまことにふさわしいプラットホームになりうる。また、研究?教育についても、「窒素」、「化学物質」、「重金属」、「安全食品」、「未然予防」、「リスク」、「教育?啓蒙」、「環境微生物」、「環境保全」、「食と健康」など多岐にわたる項目がある。諸氏のご意見を伺いたい。
北里八雲牛の物語
八雲牧場と鼻曲がりサケ

博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@獣医畜産学部附属フィールドサイエンスセンター(Field Science Center)のパンフレットの表紙を眺めてみよう。八雲牧場の紹介にもかかわらず、表紙は「ユーラップ川を遡上する鼻曲がりサケ」の写真で飾られている。それも、その写真の提供者は八雲町在住の写真家、稗田一俊氏のものだ。

北海道渡島半島のつけ根の八雲町には、噴火湾(注1)に注ぐユーラップ(遊楽部)川が東西に流れている。この川の源流に近いところに、八雲牧場は位置している。長旅を終えた鼻曲がりサケが、秋になるとこの川に帰ってくる。

さて、このサケの写真を説明するために、「森と海」の壮大な物質循環へと話を横道にそらさなければならない。このことから、表紙の写真がサケであることの理解が容易になるだろう。

森が川や海へ養分を供給することは、よく知られた事実だ。「森は海の恋人」運動がある。平成元年、養殖業の畠山重篤氏が始めた。漁師が森に木を植える運動だ。畠山氏は、気仙沼湾の入り江の一つの舞根湾で生食用のカキ養殖を営んでいる。南下する寒流の親潮と、北上する暖流の黒潮がぶつかり合う三陸沖。太平洋へ北西から南東方向に突き出た唐桑半島(宮城県)の西岸の奥に舞根湾がある。この湾は山に囲まれ、湾の奥の水際まで樹木が茂っている。水深は湾口で25メートル、湾奥でも5メートルはある。ここでの養殖の経験が、冒頭の言葉、「森は海の恋人」を生むきっかけになった。

カキの養殖には、森林がきわめて重要だ。森林では、地面に積もった落ち葉や枯れ枝が土壌の微生物によって分解され、腐植が多量にある土層ができる。この土層では、水に溶ける腐植物質のフルボ酸という有機物が生成される。このフルボ酸は土層で鉄を含む三、二酸化物や高分子有機物に吸着されて存在する。これらの成分は、雨とともに川から海へ運ばれ、植物プランクトンや海藻に吸収される。

もともと海水には鉄分が少ない。しかし、カキの餌になる植物プランクトンや海草は鉄分を必要とする。プランクトンや海藻が成長するためには、養分となる窒素(硝酸塩)、リン(リン酸塩)、ケイ素(ケイ酸塩)を吸収する必要がある。そのためには、鉄分を体内に充分取り込む必要がある。海にとって森林が重要であることの理由が、ここにある。

この事例は、「循環する海と森」の一部を示したに過ぎない。さまざまな分野の泰斗が、この考えをまとめた本がある。「日本海学の提唱について[富山県 国際?日本海政策課]<2002年度日本海学シンポジウム>-環日本海文明~森の文明パラダイム」である。哲学者の山折哲雄、文化人類学者の安田喜憲、森の専門家の稲本 正、日本の美しい森を守ることに熱心なC.W. ニコル、国立公園協会理事長の瀬田信哉など、さまざまな分野のひとびとが「循環する海と森」についての想いと現実を語っている。

そこでは、生態系を生き物とみた考え方や嘉言が、林のごとく人に躍々として迫る。さらに、日本海学シンポジウム-環日本海文明~森の文明パラダイム~-の様子が掲載されている。参加者は、宇宙飛行士の毛利 衛、NHK解説委員の小出五郎、作家の木崎さと子、日本ペンクラブ会員の平野秀樹、文化人類学者の安田喜憲、気象学者の安成哲三など多士済々。

「循環」の科学は、文明と、文化と、自然科学と、その他の何かとを、すべて統合することによって成立するものであると痛切に感じる。「農と環境と医療」の連携もまさにこれと同じことであろう。知そのものが重要ではあることは当然としても、新たな知の創造があらゆる分野で必要なことをこの本は教えてくれる。

横道がすぎた。

森から流れた海の栄養を体に蓄えて帰ったサケは、清流の湧き水で産卵し、肉体はオジロワシ、オオタカ、クマなどの餌となる。海の栄養は再び森や草原に還っていく。海、川、森、草原、畑、水、大気を介した壮大な自然循環の中で、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@八雲牧場は「陸と海」を結ぶ資源循環型畜産研究に取り組んでいる。

ユーラップ川の川縁には、冬になるとオジロワシやオオタカが鮭をねらって群舞する。その景観は、手つかずの自然が残されていると言われる道東の知床よりも、いっそう北方的である。博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@八雲牧場は、中山間地の活用、粗飼料の活用、日本古来の牛と外来種の結合などを研究する最適の地と思われる。北海道酪農の発祥地でもある八雲は、古きを訪ね新しきを知る「温故知新」の地ではなく、古きを訪ね新しきを創る「温故革新」の地なのである。

この八雲牧場は、函館から北方約80kmの地点にある。渡島半島の東側にある八雲町の中心部から西北へ入ったユーラップ岳の麓の丘陵地に位置する。平坦地は少ない。総面積が350ha。その3分の2が牧草地だ。典型的な「やませ気候」で、夏でも涼しい。6~7月は毎日のように霧雨が降り、気象条件の厳しい積雪寒冷地だ。昭和51年(1976年)に開牧された。

畜産と環境問題

北里八雲牛を語る前に、少し日本の畜産業と環境問題を振り返ってみよう。1961年に公布された「農業基本法」には、輸入飼料に依存した畜産の振興がうたわれている。畜産は、生産性を上げるために耕種農業と切り離されて専作的に拡大したため、家畜のふん尿が畜産農家に滞留するようになった。このことが環境問題を深刻化させた。

FAO事務局が作成した調査報告書によると、畜産によって養分過剰が深刻なホットスポットは、オランダ?ベルギーを中心とする地域、アメリカ東海岸の一部、東?東南アジア(日本、韓国、中国、タイ、マレーシア、インドネシアのそれぞれ一部)だ。これらのうち、オランダ、ベルギー、デンマーク、日本、韓国は、いずれも狭い農地面積で飼料栽培面積が少なく、輸入飼料に依存して集約的な畜産を行っている。これらの五カ国は、農地における平均余剰窒素量が100kg N(窒素)/ha を超える。

日本における飼養密度を次に示す。豚についてはヘクタール当たり0.39頭/1961年が、1.87頭/2000年に増加した。牛はヘクタール当たり0.46頭/1961年が、0.88頭/2000年に増加した。

高度経済成長が始まった1960年に、日本人1人1日当たりに供給されたタンパク質の量はわずか69.8gに過ぎなかった。そのうち畜産物由来は8%であった。2000年には総量が86.8gになり、そのうちの畜産物の占める割合は33%に増加した。こうした畜産物の増加は、輸入飼料による国内での畜産物生産の増加によるものだ。

しかし、1985年ごろから豚肉と牛肉の輸入量が急速に増加し始めた。1994年のガット協定で関税が引き下げられ、輸入量の増加がさらに加速され、2000年の国内消費量に占める輸入量の割合は、肉類全体で48%、豚肉で43%、牛肉では68%、鶏肉で37%に達した。

このような畜産物の生産に対応して、1970年代になると家畜から排出されるふん尿量が飛躍的に増加し、その処理?利用が問題になってきた。対策は、耕地土壌への多量還元である。ところが、ふん尿を3年以上の長期にわたって土壌に還元し続けると、作物の窒素量は過剰になり、生育障害が起きる。そのうえ、余剰になった硝酸が圃場以外の環境に流れ出し、硝酸汚染を起こす。河川や湖沼への富栄養化現象と地下水への硝酸汚染である。一方では、大量のふん尿は大気汚染の原因にもなった。ふん尿から発生する亜酸化窒素は、オゾン層破壊と温暖化の元凶でもあった。加えて、反すう動物のルーメンやふん尿から発生するメタンは、温暖化を促進するガスの一つでもあるのだ。

西尾道徳の計算(2005)によれば、家畜からの窒素の排泄量は、1960年に26.8万トンであったが、1989年には80.6万トンまでほぼ直線的に増加し、1993年の80.3万までほぼ最高レベルを維持した後、1994年から減少し、2001年には71.7万トンとなり、現在では1982年当時のレベルまで減少した。

この排泄量がすべての農地に均一に還元されたとすれば、1961年には農地面積当たり窒素50kg、リン酸17kg/haになる。2001年では、窒素150kg、リン酸55kg/haになる。このレベルは、世界的にみても非常に高いレベルである。この値を超えている国は、オランダ、ベルギー、韓国などわずかな国にとどまる。

反すう動物から発生するメタンは、温暖化に影響を及ぼしていることは先に述べた。しかし、一方では、草地は大気メタンの重要な吸収源でもある。大気のメタンは草原に吸収されるのだ。また、耕種と畜産の複合農業システムは、堆肥など有機質肥料の供給を介して土壌の物理性や肥沃性を改善する効果があることは、古くから知られている。

家畜を飼育することの最大の貢献は、複合農業システムにおける持続的な生産と土地生産力の向上にある。これまで、こうした家畜による資源利用および資源節約効果の評価は見過ごしがちだった。今後、このような自然環境保全効果を発揮させる草食家畜の生産システムを、どのようなプロセスでわが国の風土に構築し、発展させていくかは重要な課題になってくる。

とくにわが国の草地面積のほぼ5割を占める北海道では、省力?低コスト技術としての放牧への期待が大きい。一方、西南日本の中山間地域では、旺盛に繁茂する野草資源や短草型草地を活用した周年放牧システムと、水田や林業などとの結合による有畜複合農林業システムなどの新たな農法の取り組みが始まっている。このような事例は国土保全、水源保全、生物多様性など自然資源の基盤を保全する面からも重要だ。今後は、小規模農業や家族経営の複合農業でも、養分とエネルギーの地域内のフローをさらに検討し、持続的生産を推進することが期待される。

とくに地形が複雑で高齢化がすすむ中山間地域では、こういった有畜複合農林業システムの構築が、国土保全をはじめ、安全な食料を供給する視点からも大切だ。また、飼料生産を拡大するための土地集積方策をはじめ、飼料生産コントラクターなどの支援組織や資材供給?流通?販売など関連部門を適正に配置することにより雇用を創出することが求められる。

環境保全型農業と循環型社会

東南アジア諸国連合(ASEAN:現在10か国が参加)の国々では、穀物輸入量が増加している。2001年の中国では、大豆の輸入量が世界の3割を占めた。中国は世界最大の輸入国になり、世界市場の穀物需給に影響を及ぼしている。わが国では、輸入飼料依存型の畜産が食料自給率低下の主因になっている。そのうえ、輸入飼料による国際感染症の発生やふん尿による環境汚染?衛生問題が顕在化している。加えて、BSEの発生や食品の不正表示問題が多発している。これらを契機に、食べものの安全?安心に対する関心が著しく高まっている。

またわが国では、消費者と食品産業と農業者との間に「地産地消」(注2)や「スローフード」(注3)の取り組みなど新たな提携が始まっている。さらに、国においても食品安全行政の枠組みの構築などが進められている。平成15年12月からは、牛肉のトレーサービリティー法(生産?流通履歴を追跡する仕組み)が施行され、消費者?生活者の視点に立った施策が強化されている。畜産物の生産サイドに関していえば、国の政策目標として飼料自給率向上が掲げられている。耕種農業と畜産の連携を強化することによって、環境保全型農業の進展が望まれる。

しかし、飼料畑面積110万ヘクタールとされた目標も、14年度には94万ヘクタールに減少した。また、耕作放棄地は増加し、飼料畑面積や農家戸数も減少している。したがって、持続的生産および飼料自給率向上という目標を達成するのは厳しい現状にある。

さらに近い将来、世界市場における飼料穀物需給の不足が予測されている。このような状況の中で、わが国が乳牛や肉牛などの草食家畜を中心とした自然循環的畜産の取り組みを選択することが必要になってくるであろう。「情報:農と環境と医療 4号」の「本の紹介 5:成長の限界、人類の選択」でも紹介するように、21世紀の半ばには、環境はさらに悪化し、人口はますます増加し、食料の供給は停滞し、化石エネルギーは枯渇すると予測されていることからみても、良質動物タンパク質の安定供給のため、化石エネルギーの節減、自然循環型畜産の構築は必至の情勢だろう。

FSCの発足と姿

博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@獣医畜産学部は、21世紀に向けた家畜生産システムとして自然循環型畜産の教育?研究を強化することを目指した。そのため平成13年(2001年)4月、学部附属の共同利用施設としてフィールドサイエンスセンター(FSC)が発足した。FSCは「土地、植物、動物およびそれらを取り巻く環境を生命系として教育?研究を行うとともに、これらの研究成果を通して、広く地域社会の発展に寄与すること」をモットーに、教育?研究支援部門(十和田農場:青森県十和田市)と環境保全型畜産研究部門(八雲牧場:北海道山越郡八雲町)の2部門から構成された。

農学分野の教育?研究の大きな目標の一つは、食料生産を通して地域の生活?文化に役立つことだ。生産者にとっては、ゆとりある生活を保証する所得の獲得が、重要な経営目標になる。一方、クライアントである地域や地域の消費者にとっては、安全で安心な食料を獲得することが重要だ。この両者の仲立ちとして、流通販売?農産物加工業が参入する。また農業研究は、このような生産-流通-消費といったフードチェーンシステムの構築が対象なので、農業研究は自然科学と社会科学の連携のもとに取り組まれる。

そこでFSCにかかわる研究の対象は、自然循環型畜産を目指した作物と家畜の生産、これらを取り巻く環境、さらには健康な生活を楽しむ人びとにまでむける。またFSCは、これらの目標を広く包含したテーマとして「自然?食?ヒトの健康を保全する資源循環型畜産の構築」を掲げた。

この自然循環型畜産の構築が、教育?研究の最大の目的だ。FSCにおかれた二つの部門は、役割が異なる。十和田農場は教育?研究支援部門として、文字どおり、研究室の実験や学生実習の場としての業務を担当する。ここでは、八雲牧場の業務である資源循環型畜産確立のために利用できる素材研究も行い、ふたつの農牧場の機能を統合することによりFSCの理念を具体化する。

すなわち八雲牧場は、土→草→家畜(肉牛)→排泄物の流れにおいて、物質を循環させることを軸に生産技術を研究する。このことを実証する牧場としての役割がある。さらに、そこから生産される農産物について、販売?流通方法を検証する。また、食べ物としての安全性や人の健康との関係を究明するため、医学?薬学など医療領域の参画による研究も推進する。

そのうえ、この様な資源循環型畜産を再生産可能な経営として成立させ、消費者の安全?安心への要請に応える。そのために、生産者?消費者との交流による生産物の流通?販売方法に関して社会科学分野の研究者の参画による共同研究も進める。このような目標を持ち、八雲牧場は徐々に進展していった。

八雲牧場の取り組み

これまで述べてきたことを背景に、八雲牧場は1994年から輸入飼料穀物の使用を中止した。究極のトレーサービリティーである100%自給飼料(牧草、トウモロコシホールクロップサイレージ)で、牛肉を生産することにした。すでに10年が経過した。センターの発想がいい。牧場には輸入飼料穀物の使用を中止した遺物(モニュメント)として、輸入飼料穀物タンクが往年の姿のまま残されている。

しかし100%自給飼料給与で生産した牛肉はサシ(脂肪交雑)が入らず、主体が赤肉であるため、これまでの枝肉評価基準からは大きくはずれる。そこで、独自の販売戦略を構築することにした。100%自給飼料牛肉の出荷が始まったのは、1996年である。八雲牧場の趣旨に賛同する首都圏の消費者組織が、「ナチュラルビーフ」の商品名で組合員に供給することになり、現在もこれが続いている。なお、2004年より、ナチュラルビーフの商品名は「北里八雲牛」に変更された。

2003年からは地元の学校給食に活用し、地産地消や食育教育(食育基本法は2005年6月に成立した)にも力を入れている。八雲牧場は、21世紀の畜産を構築するという理念のもとに教育?研究を推進するとともに、経営収支の均衡を図った牧場運営を目指している。センター教職員はこの目標に向かって大いなる努力をしてきた。

さらに特筆されることがある。博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@病院では、八雲牧場の牛肉を患者さんの病院食として活用していることだ。2004年の11月から、月2回から3回患者さんに提供している。ビーフカレーやシチュウなどの選択メニューまである。そのうえ患者さんには、北里八雲牛が安全で安心な「ナチュラルビーフ」であることを理解してもらっている。

このことは、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@の組織が一つの生き物として稼働している一つの証でもある。有機物肥料が施用された博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@の牧場の土壌から、農薬を投与しない健全な牧草が生育する。これを牛が食む。この牛の肉は、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@病院の患者さんの食事に活用される。別の表現をすれば、「農と環境と医療」の連携をここにみることができる。そのうえ、次に紹介する博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@の公開講座の一つである「八雲牧場視察研修」は、大学の顧客としての市民にこのシステムを理解してもらおうとする意志の現れでもある。

八雲牧場では、生産者と消費者の連携を強化することに重点をおいている。平成14年7月には、初めて首都圏の消費者、八雲町の生産者と役場職員およびJA新函館の関係者が、ともに牧場を視察し、交流会を開催した。好評を博した交流会をさらに発展させ、15年9月には博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@公開講座のシステムを活かし、八雲町、十和田市、相模原市から受講生を募り、八雲牧場の生産過程を公開した。ここで得られた消費者からの意見や注文は、将来の八雲牧場の発展に役立てられる。この取り組みは16年度にも行われた。

平成17年の計画を紹介する。「健康に過ごすための日常生活と疾病予防」をテーマ学習の一環として、9月25日(日)から27日(火)にかけて博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@八雲総合実習所で視察研修が開催される。ちなみに、定員は45名だ。

北里八雲牛:商標登録

多くの人々の努力とさまざまな経過を経て、北里八雲牛が誕生する。その歴史は参考資料の萬田富治の文献に詳しい。品種の選定と交雑種を利用するための苦労、感染症を防止し抗病性を強化するための努力、寒冷?豪雪地帯で完熟堆肥を作り、これを貯蔵する施設の開発、農?畜?水の物質循環を考慮した海産物資材の利用、共役リノール酸など機能性物質の濃度を高める技術の開発などの結果、北里八雲牛が商標登録される。

「北里八雲牛」は、わが国の伝統的な食文化として賞味されている霜降り高級肉とは品質が大きく異なる。北里八雲牛の生産方法と品質は、いわゆる霜降り牛肉とは対極的だ。「北里八雲牛」と命名したのは、100%の自給飼料で生産した牛肉と原産地の表示を明確にするためだ。「北里」は、牧場で生産された飼料を100%使い生産することを意味する。「八雲」は原産地を示す。

平成16年2月20日に特許庁から「北里八雲牧場」(登録第4747488号)および「北里八雲」(登録第4747489号)が商標登録された。商標登録を取得してから、北里八雲牛は「自然?食?ヒトの健康を保全する自然循環的畜産」により産出される「自然からの贈り物」とも呼ぶべき新しいタイプの牛肉として、消費者に提供されている。

八雲牧場のこれから

北里八雲牛の生産を持続し、これをさらに普及させるには健全な価格と安全な供給が求められる。供給については、貯蔵?調理法?加工法?流通方法をはじめ、周年出荷を可能とする牛肉生産技術の新たな取り組みが必要だ。赤肉の美味しさの追求、安全?安心な牛肉としての科学的裏付けなども同様だ。

また、自然循環型畜産の技術評価や経営?流通システムにかかわる社会科学と自然科学による共同研究も望まれる。この様な研究成果を消費者へわかりやすく広報することも必要だ。トレーサービリティー法の定着に伴い、消費者の関心は生産現場に注がれる。そのための定期的な視察交流会もさらに活発化させねばならない。

最後に、FSCが取り組んでいる教育研究の課題を紹介してこの項を終わる。
  1. 有機肥料の開発 生産物である家畜はもとより、降雨や浸食などによるN、P、Ca、K、微量要素などの牧場からの持ち出しをどのように牧場へ還元するかを研究することが目的。
    テーマ:「農畜水産系未利用資源の飼肥料利用による地域内資源循環系の確立」
    内 容:八雲町内山岳地帯から産出される貝化石の肥料利用、水産加工場から排出されるホタテ付着生物(Hg、Cd、有機スズ化合物などのモニタリングによる安全性の確認)、魚加工残渣によるフィッシュサイレージの肥料利用
  2. 完熟堆肥の施肥技術の開発
  3. 越冬用肉用牛飼料を生産するための生態保全的栽培技術(麦類?根菜類の導入)の確立
  4. 放牧適合牛「北里八雲牛」の増殖技術(ホルモン無処理による優良胚の連続採取技術など)の開発
  5. 家畜治療薬投与低減のための家畜衛生管理技術の開発
  6. 家畜の免疫力?抗病性を高める飼養管理技術の開発
  7. 北里八雲牛の機能性成分に注目したマーケッティング手法の開発
  8. 北里八雲牛の貯蔵?加工?調理法の開発
  9. 生産?消費の距離を縮小する流通?販売ルートの確立
  10. 農?畜?水?林産系未利用資源の有効利用技術の開発

注1:噴火湾

イギリスの探検船プロビデンス号の船長、ウイリアム?ロバート?ブロートン海軍中佐の『北太平洋探検の航海』にでてくる。北海道に「エンデルモ(エトモ)?ハーバー」という天然の良港あり。室蘭港の良さを広めるとともに、有珠山や駒ケ岳などの火山群を見て、この湾を「ボルケイノ?ベイ」(噴火湾)と名付けた。

注2:地産地消

「地元生産-地元消費」を簡略にした言葉。「地元で生産されたものを地元で消費する」という意味。とくに農林水産業の分野で使われる。「地産地消」は、消費者の食に対する安全?安心の志向の高まりを背景に、消費者と生産者の相互理解を深める取組みとして期待されている。

注3:スローフード

イタリアのローマにマクドナルドの1号店が誕生し、マスコミで騒がれていたころにさかのぼる。今から18年前だ。後にスローフード協会の会長となるカルロ?ぺトリーニ氏が仲間たちと食卓を囲んでいたとき、ファーストフードの脅威という問題が話題にのぼり、だれからともなく口にしたのが「スローフード」という言葉だったといわれる。ファーストフードに対峙する言葉だ。冗談のように口をついたこの言葉は、1986年に北イタリア、ピエモンテ州のブラという小さな村に「スローフード協会」を発足させた。スローフードの言葉の中には、食の伝統(traditions)、材料(ingredients)、調理技術(techniques)および風味(flavors)が含まれる。また、次の概念が含まれる。

1)消えつつある郷土料理や質の高い食品を守る。
2)質の高い素材を提供してくれる小生産者を守っていく。
3)子供たちを含めた消費者全体に、味の教育を進めていく。


参考資料
  1. パンフレット:博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@獣医畜産学部フィールドサイエンスセンター
  2. FSCだより:第1号~15号、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@獣医畜産学部フィールドサイエンスセンター
  3. 萬田富治:自然?食?ヒトの健康を保全する地域資源循環型畜産の構築―博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@八雲牧場における理論と実践―
  4. 萬田富治:博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@八雲牧場の環境保全型畜産研究の取り組み、100%牧場産飼料による安全な牛肉生産を目指して、畜産コンサルタント、No.453、39-43(2002)
  5. 日本海学の新世紀3、-循環する海と森-、小泉 格編、角川書店(2003)
  6. 農業環境技術研究所ホームぺージ、情報:農業と環境 No.39 http://www.niaes.affrc.go.jp/
  7. 農業と環境汚染:西尾道徳著、農文協 (2005)
  8. Minami、K., J. Goodriun, E.A. Lantinga, and T. Kimura: Proc. of the 17th Int.
    Grassland Cong., II, 1231-1237 (1993)
本の紹介 5:成長の限界 人類の選択、ドネラ?H?メドウズら、枝廣淳子訳、ダイヤモンド社 (2005)
この本を一読して、吉田松陰の次の言葉が頭から離れない。「冊子を披繙すれば嘉言林の如く躍々として人に迫る。顧(おも)うに人読まず。即し読むとも行わず。苟(まこと)に読みて之を行わば即ち千万世(せんばんせい)と雖も得て尽くすべからず」。

1972年と1992年に出版された「成長の限界」および「限界を超えて」につづいて、同じ著者による第3弾が、「成長の限界 人類の選択」である。著者らは、約30年前に実業家、政治家、科学者などからなるローマ?クラブを立ち上げ、システム?ダイナミクス理論とコンピュータによるモデリングを用いて、世界の人口と物質経済の成長の長期的な原因と結果を分析した。それが「成長の限界」である。

「成長の限界」は、当時「未来予測」とか「予言」とか評された。「成長の限界」は、人類が環境や生態系に与える影響度や破壊度である「エコロジカル?フットプリント」が地球の扶養力を超えて増大しないよう、技術や文化、制度などの根本的な革新を先手を打って行うべきだと訴えている。この論調は基本的には楽観的なものであり、「早く行動すれば、地球の生態学の限界に近づくことによるダメージをこれだけ減らせる」ということが繰り返し述べられている。

したがって、「成長の限界」では、「成長が終焉を迎えるのは、本書が刊行されてから50年ほど先のことだ」としていた。たとえ地球規模であっても、議論し、選択し、修正のための行動をとることができると思われた。1972年の時点では、人口も経済も、問題なく地球の扶養力の範囲内にあるようだった。長期的な選択肢を考えつつ、安全に成長する余地がまだあると考えられた。これは1972年の時点では真実だったかもしれない。しかし20年後の1992年には、もはや真実ではなくなっていた。

20年が経過して出版された1992年の「限界を超えて」では、新たな重大な発見が展開されている。そこでは、「人類はすでに、地球の能力の限界を超えてしまった」と表現されている。熱帯雨林が持続可能ではない勢いで伐採されている。穀物生産量は、もはや人口増加についていけない。気候が温暖化している。オゾンホールが現れ始めた。また、「世界は行き過ぎの段階に入っている」とも述べている。世界の人口一人当たりの穀物生産量は、1980年代半ばにピークに達した。水や化石燃料を求めて緊張が高まり、衝突さえ生じている。人間活動が地球の気候を変動させつつある。一方、温暖化が経済に影響し、経済が温暖化にも影響を与えることも明らかになってきた。さらに、温暖化が軍事衝突にとっても重要な要因になることが論じられている。

「限界を超えて」が出版されて10年以上経過して、この本「成長の限界 人間の選択」が書かれた。著者は次のように述べている。「21世紀に実際に何が起こるかという予測をするために本書を書いたのではない。21世紀がどのように展開しうるか、10通りの絵を示しているのだ。そうすることで、読者が学び、振り返り、自分自身の選択をしてほしい、と願っている」。

この本は、昔の「成長の限界」が出版され30年たった今、最新のデータを基に「この30年間、人間と地球との関係はどうなってきたのか」、「いまの地球はどういう状態か」を分析し、「どうすれば崩壊せずに、持続可能な社会に移行できるのか」を熱く訴えている。地球と人間の来し方行く末を語る貴重な冊子である。

訳者は、起承転結をもってこの本を紹介している。どこから読んでもかまわないという。いちばん気になるところから読んでくれという。その起承転結とは次の通りである。

起:第1~2章;地球環境の危機を招くさまざまな「行き過ぎ」の構造的な原因と、行き過ぎをもたらしている人口と経済の幾何級数的な成長を考える。

承:第3~4章;人口と経済にとっての限界-地球が資源を供給し、排出物を吸収する「供給源」と「吸収源」の現状を把握し、「何もしなかった場合」にどうなるかシミュレーションを見る。

心の箸休め:第5章;私たちに希望を抱かせるオゾン層の物語-人間はいかに行き過ぎから引き返したか。

転:第6章;「何もしなかった場合」に「市場」と「技術」という人間のすばらしい対応能力が発揮された場合のシミュレーションを見る。市場と技術だけでは「有効だがそれだけでは十分ではない」ことがわかる。

結:第7~8章;市場と技術に加えて、世界が子供の数と物質消費量に「足るを知る」ようになったとき、どうなるかを見る。人間は、崩壊を避けて行き過ぎから戻り、持続可能な社会が実現する!さらに、農業革命と産業革命につづく「持続可能革命」が求められている歴史的な必然性と、私たち一人ひとりに必要な「ビジョンを描くこと」「ネットワークをつくること」「真実を語ること」「学ぶこと」「慈しむこと」について語る。

起:第1~2章に関しては、すでにこれまでレスター?ブラウンが多くの著をなし、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が数多くの学者を動員し、膨大な詳細な資料を世に問うた。このことは、衆目の一致するところである。

承:第3~4章に関しては、ジェームス?ラブロックが万事の源ともとれる「ガイアの科学-地球生命圏-」を著し、生きている地球の概念を広く披繙した。

心の箸休め:第5章に関しては、シーア?コルボーンがフロンによるオゾン層破壊の研究の歴史と、これに関係した人々の人間模様を示した名著「オゾン?クライシス」に詳しい。

転:第6章に関しては、最近レスター?ブラウンがまとめた「エコ?エコノミー」、「エコ?エコノミー時代の地球を語る」や「プランB-エコ?エコノミーをめざして」が詳しい。

結:第7~8章に関しては、古くは孔子の論語や仏教の教えにもある。また環境倫理の思考は、すでにわが国では古神道に見られるが、近代の思想としては、土地倫理を唱えたアルド?レオポルドの「野生のうたが聞こえる」が圧巻であろう。

このように、本書を含め多くの書に多くの嘉言があふれている。冒頭に吉田松陰の言葉を記した所以である。

この書で注目されることの一つは、第8章の「農業革命と産業革命の歴史に学ぶ」であろう。農業が始まり、その後農民は定住した。定住は人間の考え方や社会の形を変えた。土地を所有することに意味が生まれた。蓄積の習慣ができ貧富の差が生じた。農業革命が起き、人類は大きな前進をみた。

その結果人口が増加した。そのため新たな不足が生まれた。土地とエネルギーである。こうして産業革命が始まった。この過程で技術と商業は、人間社会においての地位が高まった。宗教や倫理をも凌駕した。こんな社会構造のなかでわれらは生きている。この枠組みを越えた考え方ができにくい。

信じられないほど生産性が高まった。先進国においては、満足できる品物が溢れている。極地から熱帯、山頂から海底にいたるまで環境資源は摂取された。産業革命は成功した。農業革命の成功の後に不足が生じたように、産業革命の成功の後にも不足が生じた。環境資源の不足である。

農業革命は、地球環境が生産する利子で賄われてきた。産業革命の成功は、地球環境の元金とこの元金の使いつぶしで賄われてきたといえば、言い過ぎであろうか。著者は、これを「エコロジカル?フットプリントは、再び、持続可能な線を越えてしまった」と表現する。

当然のことながら次の革命が必要になってきた。著者はこれを「持続可能性革命」と呼ぶ。徳川時代に長州の田舎侍が、美女(浜 美枝)を救うボンドの紫外線拳銃を創造できなかったように、いまの時点で、持続可能性革命がどんな世界を生み出すかは誰にも語れない。地球規模でのパラダイム?シフトを起こす方法をも誰も知らない。

著者は、この大きな革命に密接につながる二つの特性と、五つのツールを説明する。革命の鍵を握っているのは、情報とツールである。訳者も紹介しているが、「役に立つ」五つのツールは、「ビジョンを描くこと」、「ネットワークをつくること」、「真実を語ること」、「学ぶこと」そして「慈しむこと」。

宮沢賢治は「農民芸術概論」のなかで語った。「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はありえない」と。このことは「成長の限界」でも言えることであろう。世界(地球)?大陸?国?地域?組織?家庭?個人は、世界がどのように変動しようとも常にその時代のある種のシステムで繋がっている。個人が、家庭が、組織が「成長の限界」を認識し、行動をとらなければ、この問題は解決をみないのである。とくに組織が「成長の限界」をどのように認識し、克服のための行動をとるか。今後すべての組織にとって避けて通れない課題であろう。もはやバブルはない。

かつて、成長の限界は遠い将来の話だった。現在では、成長の限界があちこちで明らかになりつつある。かつて、崩壊という概念は考えられなかった。現在では、仮説的な学術的概念ではあるが、人々の会話や文章に現れている。行き過ぎの結果が誰の目にも明らかになるには、もう10年かかるという。行き過ぎたという事実が一般的に認められるには20年かかるという。どうやら、われわれに残された時間は短いようだ。目次は以下の通り。

訳者まえがき

序文

地球の物理的な限界を示唆した『成長の限界』
成長、行き過ぎ、そして崩壊
人類が持続可能でない領域に進み始めた証拠
増大する人類のエコロジカル?フットプリント
楽観できない地球の未来
『成長の限界』は正しかったのか?
人類は行き過ぎてしまった
現実を見つめるためのシナリオ
持続可能な社会への移行
「行き過ぎて崩壊する」シナリオの現実性
未来に向けて人類ができること

第1章 地球を破滅に導く人類の「行き過ぎ」

「行き過ぎ」を招く3つの要因
地球をシステムとしてとらえる
「可能な未来」への進路

第2章 経済に埋め込まれた幾何級数的成長の原動力

倍増を続ける幾何級数的成長の行方
幾何級数的成長の原動力になる人口と資本
350年前、世界の人口は5億人だった
急拡大した世界の工業経済
人口が増え、貧困が増し、人口がさらに増える

第3章 地球の再生が不可能になる 供給源と吸収源の危機

食糧?土壌?水?森林の限界
再生不可能な供給源は何か
汚染と廃棄物の吸収源は何か
限界を超えて
人類に突きつけられた恐ろしい現実

第4章 成長のダイナミクスを知る ワールド3の特徴

「現実の世界」をモデル化する
地球の行動パターンを理解する
ワールド3の構造
成長するシステムの「限界」と「限界なし」
「現実の世界」で起こるさまざまな遅れ
行き過ぎて振り子が振れる
行き過ぎて崩壊する
2つの可能なシナリオ
なぜ、行き過ぎて崩壊するのか?

第5章 オゾン層の物語に学ぶ 限界を超えてから引き返す知恵

成長-世界で最も役に立つ化合物
限界-オゾン層の破壊
オゾン層破壊の最初のシグナル
遅れ-抵抗する産業界
限界を超えた地球-オゾンホールの発見
国際政治に突きつけられた「動かぬ証拠」
オゾン層を守れ
オゾン層の物語から得られる教訓

第6章 技術と市場は行き過ぎに対応できるのか

「現実の世界」における技術と市場
技術の力で限界を引き延ばすことはできるか
「現実の世界」のシナリオの限界
なぜ、技術や市場だけでは行き過ぎを回避できないのか
市場の不完全性の一例-石油市場の変動
そして漁場の崩壊の歴史

第7章 持続可能なシステムへ 思考と行動をどう変えるか

人口増加のシミュレーションで考える
環境への負荷を減らす成長の抑制と技術の改善
20年という時間がもたらす違い
持続可能な物質消費のレベル
持続可能な社会をどうつくるか

第8章 いま、私たちができること 持続可能性への5つのツール

農業革命と産業革命の歴史に学ぶ
次なる革命-持続可能性革命の必然性
ビジョンを描くこと
ネットワークをつくること
真実を語ること
学ぶこと 慈しむこと

付章1 ワールド3からワールド3-03への変換
付章2 生活の豊かさ指数と人類のエコロジカル?フットプリント
本の紹介 6:農業本論、新渡戸稲造著、東京裳華房、明治31年(1989)
北里柴三郎をはじめ、現代のわれわれ日本人が明治の人に学ぶことは極めて多い。このような明治の人の名前を頭に浮かべただけで、なにか凛とするさまが感じられる。あの「武士道」で名高い新渡戸稲造は、農学に関しても見識が極めて深かった。新渡戸稲造は「武士道」を世に出す一年前に、「農業本論」を書いている。「武士道」があまりにも有名になり、「農業本論」は世間に忘れられた感が強いが、この本はいつの世にも読まれるべき農学の古典といっても言い過ぎではない。

この本の第五章は「農業と国民の衛生」と題して、農業は健康を養う説、農業は長命なる事、医薬の効能田舎に著しきこと、など「農と環境と医療」の原点とも思われる節をたて、このことを具体的な数値で解説している。

この本は十章からなる。現代に通用することがらや、古典から学べるところがいくらもある。すでに、農業の多面的機能や環境倫理の萌芽がこの本の内容に認められる。まさに、温故知新である。以下の目次を見るだけでも斬新な本であることがわかる。

目次

第壹章 農の定義

○農の定義を定むるの必要

◎第一項 農なる文字の解釋

○日本語 ○支那語 ○希臘語 ○羅甸語 ○獨逸語 ○英語 ○歐州南方諸國の通語 ○第一項結論

◎第二項 農業の定義

○食料供給を以て農の主眼とする學説 ○生産作用を農と同視する説 ○農を營利的職業とする説 ○第二項結論

第貳章 農學の範圍 附諸國農學校教育課目

○農學の位置 ○農學の主眼 ○農と醫の比較 ○農學の定義の博約 ○農學の本領 ○農學の範圍愈大ならんとす ○結論

◎附録 諸國農學校敎育課目

第参章 農事に於ける學理の應用

◎第一項 實業と學問

○學問の要は概括にある事 ○學問は本を重んずる事 ○學問は先見力を有する事 ○學問の結果は遅延なる事 ○學問は進歩的なる事 ○學問は可能性を示す事 ○學問は原則の應用を問はざる事

◎第二項 農學の實地應用如何

○農民は因循なる故に新法を施さず ○農家貧なる爲め學理を應用する能はず ○農業の組織は容易に改革を許さず ○農業に分業なき爲め學理を應用し難し ○農民の腦髓に餘裕なき事 ○農業に秘密なき事 ○農業は自然の作用多き故、人工的改良を施し難し ○農學の範圍廣き事 ○農學の專攻尚ほ進まざる事 ○農業は粗笨なる故、精微の學理を應用し難き事 ○學理應用の實益耕作者に及ばざる事 ○未熟の學理は實地應用を誤る事 ○學者と實業者とに懸隔ある事 ○結論

第四章 農業の分類

○農業の分類法 ○生産物に由る類別法 ○資本勞働投入に由る類別法 ○耕地の土性或は地形の性質に由る類別 ○農業規摸の大中小に由る區別 ○耕作者の土地に對する所有權に由る類別法 ○地方增減に由る類別法 ○農業の沿革によりて類別する法 ○農業は美術なりや ○結論

第五章 農業と國民の衞生

○農業は健康を養ふ説 ○農民は長命なる事 ○醫術は成功田舎に著しき事 ○都鄙に於ける死亡の割合 ○都鄙に於ける嬰児の夭死 ○都鄙に於ける男女の健康 ○田舎生活は女子に適せざる理由 ○都鄙に於ける女子の生殖力 ○田舎は強兵供給の源泉なる事 ○過度の勞働は農民を隕ふ事 ○結論

第六章 農業と人口

○民勢學的觀察 ○食料の供給と人口の增加 ○村落の沿革 ○疎居的村落と密居的村落 ○疎居の不利なる事 ○都會の起源 ○都會增進の趣勢 ○都會增進の理由 ○本邦人口の集落 ○田舎の衰頽 ○人口增加と家畜の漸減 ○結論

第七章 農業と風俗人情

○分業の性情に及ぼす影響 ○宗教は農を重んず ○古賢農を讃するの辭 ○歐米の學者農の??を頌す ○農の唱讃其度を失するの虞あり ○耕作物の人氣に及ぼす

影響 ○田舎に姦淫夥き事 ○田舎間の奢侈 ○家族の情誼 ○自殺は田舎に少なき事 ○野暴らしの悪習 ○大小農の道??影響 ○田舎の犯罪は粗醜なる事 ○結論

第八章 農民と政治思想

○從屬の念 ○自由思想 ○政治思想は田舎に伸暢せざる事 ○細民と農業の関係 ○固守の性質 ○農業の愛國心 ○地力自治制 ○耕作物の政治思想に及ぼす影響 ○結論

◎附録 華族の長壽策

第九章 農業と地文

○本章解題 ○農業の地文に及ぼす影響 ○伐木の地文に及ぼす影響 ○排水と地文 ○灌漑と地文 ○植物の傳播 ○植物の變性 ○農業と動物 ○動物の變性 ○農業と土性 ○結論

第十章 農の貴重なる所以

○農業を貴重する理由 ○人種に隨て農に輕重を措く ○農事を貴重するは習慣より來ると多し ○農事を貴重するは時勢の反動として起る事あり ○穀物の貴き論 ○農業には自然の作用多き事 ○土地報酬遞減法 ○農産の物價を説て農の貴重なる所以に及ぶ ○農は廢物を利用する事 ○農は商工業の基 ○農は國富の基 ○農は諸職業中、最大多數の人を要す ○結論
学長室通信の「農業と環境と医療」を「農と環境と医療」へ名称変更
本来、農は生業(なりわい)であった。ほとんどの人びとが農業に従事していた古代において、作物を育てること、すなわち農作業を営むことが、仕事をし生活を営むのと同義語であった。このことから、後生、生活をたてるための仕事一般にもこの言葉が転用されるようになったのだろう、と渡部忠世は彼の著書「農業を考える時代」で語る。

生業とは別に産業という言葉がある。広辞苑によれば、「1)生活してゆくための仕事。なりわい。生業。2)ア.生産を営む仕事、すなわち自然物に人力を加えて、その使用価値を創造し、また、これを増大するため、その形態を変更し、もしくはこれを移転する経済的行為。農業?牧畜業?林業?水産業?鉱業?工業?商業および貿易など。イ.工業に同じ」と説明される。先の生業と同じ意味の他に、各種の経済的行為を総称する言葉として用いられる。

以上の「生業」と「産業」という二つの言葉の意味から、次のことが言える。どちらも、人間の生活を維持するための仕事を意味するが、生業は個人あるいは家族の生計を維持する家業などと言う言葉のニュアンスに近い。農民自身に必要なための自給自足的な農業の営みとも言えるであろう。一方、産業(農業)は土地と技術と資本を駆使して利潤を追求するひとつの経営体として営まれ、個人の所属する社会や国家、さらには世界全体のシステムの中で営まれる生産活動をさす言葉として用いられる傾向が強い。

世界的な農業形態からみれば、各地の自給的な農業、例えば焼畑農業などは生業であろう。これに対して、プランテーション農業に代表されるきわめて資本主義的な性格が強い農業は、その対局にあるだろう。世界には、こうした極端な生業的農業と極端な産業的農業とが共存して分布する。歴史的にみれば、生業から次第に産業(農業)としての側面が強まったが、今なお共存した農業が営まれているのが一般的であろう。

渡部忠世によれば、「生き方としての」農業の存在がある。ひとつの「思想」としての自給自足の農業を営むケースが国の内外に古くから存在する。さらに近年、生きる空間として農業を選択する若者たちが全国的に増加している。これも、「生き方としての」農業に属するであろう。

しかし、時代はこれ以外の新しい農業の形態を作りつつある。一つは、限られた地球資源を次世代の人びとの権利も考え、持続的に維持していこうとする農業である。ここには、環境保全の考え方が入り、例えば、持続的な環境保全型農業などと呼ばれたりする。それは、有機農業であったり、代替農業であったり、LISA(Low Input Sustainable Agriculture)であったりさまざまな形態が存在する。「情報:農業と環境と医療4号(本号)」の「北里八雲牛の物語」で表現したFSCの農業は、これらの概念に属する。

ここでは必ずしも、土地と技術と資本と利益があるわけでなく、むしろ環境倫理(Environmental Ethics)の概念まで導入される。環境倫理を一口で言えば、次のようなことであろう。人が人に倫理をもつように、われわれは土や水や大気や生物にも生存権があることを意識し、倫理の観念を持たない限り、自然はわれわれに反逆する。

もう一つは、食の安全?安心、さらには人の健康からみた農にかかわる活動である。自然には存在しない人類が作った化学物質が、現在世界に約12万種存在すると言われる。これらが環境を通して作物に吸収され人間の食にどのように影響するのか。さらには、人間の健康にどのような影響を及ぼすのか。安全の面から解らないことが、数知れずある。ダイオキシンの汚染問題がこの農業を理解するのによい例であろう。「情報:農業と環境と医療 3号」の「北里環境科学センター」での研究の紹介は、この農業を理解する材料になるであろう。

さらに、ここには積極的に人の健康を維持するための農にかかわる活動が加えられる。薬草の栽培や健康のためのサプリメント(栄養補助食品)がある。前者は「情報:農業と環境と医療 2号」の「研究室訪問 C:薬学部附属薬用植物園」、後者は「情報:農業と環境と医療 4号(本号)」の「研究室訪問 I:獣医畜産学部 動物資源科学科 食品機能?安全学」がこれらの農にかかわる活動を理解するうえで適切な材料になるであろう。

農業の定義は国の内外でさまざまである。一般的には、農業とは有機的生命体の経済的な獲得にある。このような農業の営みに欠かせないものは、土地と技術であろう。今回農業のタイプを5種類に整理したが、前3者は上述の内容を含む。しかし、後2者は必ずしも経済的な獲得は含まれない。

ここに発信している学長室通信は、後2者の情報も含まれることから、これまで「情報:農業と環境と医療」としていたものを、「情報:農と環境と医療」に名称変更する。

参考資料

1) 農業を考える-生活と生産の文化を探る-:渡部忠世著、農文協、人間選書189 (1995)
2) 広辞苑:新村 出編、岩波書店 (1983)
3) 字訓:白川 静、平凡社 (1995)
*本情報誌の無断転用はお断りします。
博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@学長通信
情報:農と環境と医療 4号
編集?発行 博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@学長室
発行日 2005年8月1日