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農医連携教育研究センター 研究ブランディング事業

9号

情報:農と環境と医療 9号

2006/1/1
新しい年を迎えて
新年あけましておめでとうございます。皆様の暖かいご支援のもとに、学長室通信も9号を迎えることができました。

われわれ日本人は、新しい年が始まると不思議と新たな気持ちになれるというありがたい特性を持ち備えています。稲作農民の遺伝子がそうさせるのか、四季の変化に敏感なのか、はたまた仏教の輪廻の教えがそうさせるのか解りませんが、はるかな上古から引き継がれたこの特性を大切にしたいものです。そのことが、環境を通して農と医療を連携させるという心にも適うと思うからです。 もちろん、天体の運行に基づいたニュートンの絶対時間には、新しい朝、新しい年などというものは存在しません。そこには「新しい」と思う人間の心があるだけです。青い空があっても、青い空があると思う心がなければ、青い空はないのと同じように。

さて「学長室通信」の創刊にあたって、柴学長は、われわれ日本人が育んできた特有の文化と独特のメンタリティに、一見相反する「言霊信仰」と「以心伝心」が融合したものがあることをあげています。一方では、それとは距離を置いた科学的な物の見方や考え方を積極的に広めていく、「以心発信」の姿勢を強調しています。そのためにも、わたしたちは学長室通信が「農と環境と医療」にかかわる知的発信の新たな媒体になり、情報共有の場になるよう努力しています。

このような背景のもとに、学長室通信創刊号の「はじめに」では、4つの「分離の病」を強調し、農医連携においてもこれらの分離の病を克服すべく努力したい旨を述べました。「分離の病」に、専門主義への没頭?埋没、専門用語の迷宮、生きていない言葉の使用などにみられる「知と知の分離」、理論を構築する人と実践を担う人との分離、バーチャルと現実の分離などにみられる「知と行の分離」、客観主義への徹底、知と現実との極端な分離などにみられる「知と情の分離」、文化の継承や歴史から学ぶ時間軸の分離、不易流行とか温故知新などの言葉でも表現できる「過去知と現在知の分離」があります。

また「情報 7号」では、学長の「以心発信」を心して「チーム医療教育」と「農医連携」に関する中間報告を発信しました。とくに、「農医連携」については「たたき台」としての報告に対して多くの貴重な意見を頂きました。新たな年を迎え、これらの意見を参考に新たな思考を進めていきます。そのためにも、この通信への皆様の積極的な参加をお願いいたします。是非、記事の投稿やご意見をお寄せください。その際、農医連携とは何だなどと早急に定義する必要はないと思います。農ひとつとっても、医ひとつとっても、解釈と定義は人さまざまなのですから。農は食であったり、医は健康であったり、環境は土や水であったり。と申しますのも、「農医連携」にかかわるこの「情報:農と環境と医療」の位置づけについて次のように考えているからです。

「道:Tao」の哲学者老子のものとされている古代中国の聖典「道徳経」 の第十一章に次の文章があります。

三十本の輻(や)が車輪の中心に集まる。
その何もない空間から車輪のはたらきが生まれる。
粘土をこねて容器ができる。
その何もない空間から容器のはたらきが生まれる。
ドアや窓は部屋をつくるために作られる。
その何もない空間から部屋のはたらきが生まれる。
これ故に、一つ一つのものとして、これらは有益な材料となる。
何もないものとして作られることによって、それらは有用になるもの
のもとになる。

これは、多様性を統一させるための根本的な原理を示していると考えられます。別の表現をすれば、農と環境と医療、あるいは食と土?水と健康を連携させていくための「学長室通信」の神髄を語っているともとることができます。粘土の固まりや窓やドアは特殊性あるいは個別性を示しています。そして、車輪、容器、部屋は多様性の統一を示しています。例えば、「学長室通信」のそれぞれの執筆項目である「農?環?医にかかわる国際情報?国内情報」、「本の紹介」、「農と医の連携を心したひとびと」、「研究室訪問」などは、粘土や窓に相当します。まだ、車輪や容器や部屋はできていません。突然、「農医連携」という部屋はできないのです。

多くの方々の関心や協力や援助や努力によって、長い時間を経て初めて「農医連携」の部屋ができていくと信じています。慎ましやかでも部屋ができれば、そこにカーテンが装われ、絵画が飾られ、机や椅子が並べられることでしょう。来客用の大きなソファーだって持ち込めるでしょう。

この号の次の項目、「第1回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウム-農?環境?医療の連携を求めて-の開催」は、将来できるであろう部屋のドアと思っています。多くの方々が、このドアから入って、自由に「農医連携」の部屋を創作していただくための材料が、この「学長室通信」なのです。博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@が、日本そして世界初の「農医連携」の発信地になれば、これに勝る喜びはありません。これも偏に皆様のご協力にかかっているのです。本年もよろしきご指導とご鞭撻をお願い申し上げます。
第1回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウム?農?環境?医療の連携を求めて?
開催日時:平成18年3月10日(金) 13:00~17:30

開催場所:博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@白金キャンパス 薬学部コンベンションホール

開催趣旨

大量生産と経済効率をめざした農業は、農地に化学肥料、農薬および化学資材を加え、集約的なシステムへと変わった。その結果、増加しつつある人口に多くの食料を提供することができた。一方、大量生産のために投与された膨大な資源とエネルギーは、重金属汚染にみられる点的な、あるいは窒素やリンによる富栄養化にみられる面的な、またメタンや亜酸化窒素による温暖化にみられる空間的な環境問題を起こした。さらに最近では、ダイオキシンのような世代という時間を超えた環境問題を生じせしめ、人間の健康と地球の環境に多くの問題点をもたらした。

医学においては、微生物学、免疫学、臨床医学、薬学などが進歩?発展するなかで、栄養学の進歩とともに多くのひとびとが病気を克服することができ、さらには健康の増進に励むことができた。一方、そのために発見されたさまざまな化学物質、例えばサリドマイドに代表される薬原病などの問題が浮上し、臨床医学をさらに進化させることへの反省が生まれた。さらには、生態知の一つとも考えられる「人の癒し」の問題なども十分には進展しなかった。

21世紀の予防医学が掲げる目標には、リスク評価?管理?コミュニケーション、疾病の発生予防、健康の質の増進などの課題がある。これらの医学分野における課題と、農学がどのように連携できるかという現代的な問題の解決に取り組むことは、社会の要請に応えるうえで極めて重要である。

20世紀の技術知が生んだ結果は、われわれが生きていく21世紀の世界に、農医連携の科学や教育が必要不可欠であることを示唆している。病気の予防、健康の増進、安全で健康な食品、環境を保全する農業、癒しの農などのために、すなわち21世紀に生きるひとびとが幸せになるために、農医連携の科学や教育の必要性は強調されてもされすぎることはないであろう。医食同源と言う言葉があるにもかかわらず、これまで農医連携の科学や教育がそれほど強調されなかったように思われる。

このような視点から、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@では農医連携の教育および研究をめざし、「農?環境?医療の連携を求めて」と題して、第1回目の農医連携シンポジウムを開催する。

講演プログラム
  1. 開催にあたって:
    博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@学長 柴 忠義 13:00 - 13:10
  2. 農?環境?医療の連携の必要性:
    博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@教授 陽 捷行 13:10 - 13:30
  3. 千葉大学環境健康フィールド科学センターの理念と実践:
    千葉大学学長 古在豊樹 13:30 - 14:10
  4. 医学から農医連携を考える:
    博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@教授 相澤好治 14:10 - 14:50
  5. 食農と環境を考える:
    東京農業大学前学長 進士五十八 15:00 - 15:40
  6. 東洋医学と園芸療法の融合:
    千葉大学助教授環境健康フィールド科学センター助教授
    千葉大学柏の葉診療所所長 喜多敏明 15:40 - 16:20
  7. 人間の健康と機能性食品:
    日本大学教授?前食品総合研究所理事長 春見隆文 16:20 - 17:00
総合討論 座長:進士五十八?陽 捷行 17:00 - 17:30

連絡先:
〒228-8555 神奈川県相模原市北里1丁目15番1号 博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@学長室
古矢鉄矢(mailto:tetsu@kitasato-u.ac.jp)
?田中悦子(mailto:etsu@kitasato-u.ac.jp)
Tel:042-778-9765 Fax:042-778-9761
日本学術会議第20期が発足
日本学術会議第20期が昨年10月1日に発足した。会長に黒川 清氏、副会長に浅島 誠氏、大垣眞一郎氏と石倉洋子氏が選出された。日本学術会議とは、我が国の人文?社会科学、自然科学全分野の科学者の意見をまとめ、国内外に対して発信する日本の代表機関である。日本学術会議は、全国に約79万人いる科学者の代表として選出された210人の会員によって組織されている。

第20期は、従来の7部制(人文科学部門3部、自然科学部門4部)から、人文科学、生命科学、理学及び工学の3部制に移行したほか、所轄も総務大臣から内閣総理大臣に変わるなど新制度により運営されている。

黒川会長は、就任挨拶として次のように述べている。「科学者コミュニティーに内在する課題、政策提言を含めた科学者コミュニティーの社会への責務、そしてダイナミックに変動する国際社会での日本の科学者たちの責任等、科学者でなければ出来ない、そして果たさなければならない課題は数多くあります。今までの活動を踏まえ、将来への躍動する、自律した、社会的責任を果たす科学者コミュニティーの核としての機能体となる会議体を構築していきたいと考えています。」

第20期日本学術会議会員の概要は以下のとおりである。(平成17年10月1日現在)

会員数:210名(第1部73名、第2部64名、第3部73名)。

性別:男性168名(80.0%)、女性42名(20.0%)。女性会員は第19期の13名と比べ3倍強の伸びとなった。

年齢:平均年齢58.8歳(第19期は63.5歳) 。第19期ではいなかった40歳台は14名(うち最年少は44歳)。

勤務機関の別:大学関係176名、試験研究機関?病院など21名、法人?団体?民間会社関係など13名。国立大学関係が第19期の85名から129名へと大幅に増えた。

「日本学術会議は、(中略)科学的知識を創り出し、科学を社会に提供する責任を担っている集団です。個々の科学者の努力に加えて、新しい学術会議に求められている責務の一つは、科学者集団の中の議論あるいは科学者集団のための議論ではなく、科学者集団の外の世界への責務をより力づよく果たすことでしょう」。大垣副会長のこの言葉に期待したい。

参考資料

学術の動向 2005.11、(財)日本学術協力財団(2005)
日本学術会議のホームページ: http://www.scj.go.jp/index.html
代替医療とeCAM
はじめに

生命を対象にする医療と農業には、いずれも接頭語に代替(alternative)がつく代替医療と代替農業がある。医療に関わる人には、代替農業という言葉になじみが薄いと同じように、農業関係者には代替医療なる言葉は目新しいかも知れない。英語では、いずれもalternative medicine とalternative agriculture である。

わが国における代替医療については、1998年に設立された「日本補完代替医療学会」がある。また、渥美和彦?廣瀬輝男の「代替医療のすすめ」やキャシレス著?浅田仁子?長谷川淳史訳の「代替医療ガイドブック」などの著書がある。アメリカでは、「The National Center for Complementary and Alternative Medicine (NCCAM)」や「Complementary Alternative Medical Association (CAMA)」がある。また、浅田仁子らが訳したCassileth, Barrie R.著の「The Alternative medicine handbook: The Complete Reference Guide to Alternative and Complementary Therapies」、エドウィン?クーパー、山口宣夫編による「Complementary and Alternative Approaches to Biomedicine」などがある。

もともとComplementary and Alternative Medicine(CAM)は、西洋医学を中心とした近代医療に対して、それを補完する医療をさした。また、国によりCAMは伝統医学と同義に用いられている。しかし、欧米でCAMに分類される漢方?和漢薬?鍼灸などは、日本や中国、韓国などで脈々として既に存在するもので、日本では「代替」ではなく現代医療の中で正式な医療として位置付けられている伝統医療である。先進国では慢性疾患や生活習慣病の増加に対し、治療だけでなく予防対策の重要性も認識され、CAMへの要請も高まっている。米国ではその具体的対応策として、1994年に栄養補助食品健康教育法(Dietary Supplement and Education Net:DSEHA)を制定し、ハーブの有効性を食品領域でも積極的に活用する道を開いている。

しかしCAMの領域は、近代西洋医学に比べると未だ科学的検証が十分に伴わない混沌とした状況にある。そこで最近では、この混沌とした領域にevidence-basedな秩序を導入することを目指したeCAM:Evidence-based Complementary and Alternative Medicineの考え方が登場している。これに関して、Oxford Journalsから国際雑誌が出版されている。そこには、次の注が記載されている。Evidence-based Complementary and Alternative Medicine (eCAM) is an international, peer-reviewed journal that seeks to understand the sources and to encourage rigorous research in this new, yet ancient world of complementary and alternative medicine.

一方、わが国における代替農業と環境保全型農業については、すでに「情報:農と環境と医療 8号」で紹介した。代替農業については、久馬一剛?嘉田良平?西村和雄監訳の「代替農業-永続可能な農業をもとめて-」を、環境保全型農業については、「環境保全型農業の課題と展望-我が国農業の新たな展開に向けて-、大日本農会叢書4、大日本農会(2003)」と「持続可能な農業への道、大日本農会叢書3、大日本農会(2001)」を紹介した。また、アメリカでは、「American Society of Alternative Agriculture」や「American Journal of Alternative Agriculture」、全米研究協議会リポート「Alternative Agriculture」などがあることも紹介した。

なお「代替医療」という語は、「代替医療のすすめ」の著者の一人である廣瀬輝夫が論文執筆の際に「Alternative Medicine」を訳したものであること、「代替農業」という語は、全米研究協議会リポート「Alternative Agriculture」を訳した久馬一剛らが始めて使った言葉であることも、すでに「情報:農と環境と医療 8号」で紹介した。

ここでは、「代替医療とeCAM」についてまとめた。代替医療については、上述の「補完代替医療入門」、「代替医療のすすめ」および「代替医療ガイドブック」を中心に、eCAMについては、北里生命科学研究所長の山田陽城教授のご指導を仰いだ。

1.代替医療とは

代替医療(だいたいいりょう、英語:Alternative Medicine)とは、一般的には、科学的に効果の証明された西洋医学または医師による科学的根拠に基づいた医療ではない治療をまとめた総称である。 補完医療または相補医療(Complementary Medicine)とも呼ぶ。 また、最近では医療に代替医療をとりこんだ統合医療なる言葉も現れている。日本における実際医療的な行為のうち、医療保険適用でない治療方法、日本の医科大学で教えていない治療方法が、代替医療と呼ばれている。一方、日本では漢方薬は1976年に医療保険に適用されており、医学部及び薬学部においてはその教育がコアカリキュラムに加えられている点で代替医療とは明確に区別されているが、欧米ではこれらは代替医療に分類されている。

代替医療についての定義や考え方はさまざまである。例えば、金沢大学医学部の鈴木信幸氏は、代替医学?医療を次のように解説している。

代替医学?医療とは、我が国において未だなじみの少ない用語であるが、アメリカでは、近年急速に脚光をあびている医学分野であり、alternative medicine(代替医学)またはcomplementary and alternative medicine (CAM)(補完?代替医学)、integrative medicine(統合医学)という用語が一般的に使われ始めている。

また、最近では専門のジャーナルもいくつか刊行されている。日本代替医療学会では、代替医学?医療を[現代西洋医学領域において、科学的未検証および臨床未応用の医学?医療体系の総称]と定義している。いずれにせよ、代替医学?医療とは「通常の医学校では講義されていない医学分野で、通常の病院では実践していない医学?医療のこと」である。

世界には中国医学、アーユルヴェーダ、ユナニ医学、シッダ医学をはじめいろいろな伝統医学があり、人口比率からみると我が国のように現代西洋医学の恩恵に預かっている人達は意外に少なく、国連世界保健機関(WHO)は世界の健康管理業務の65から80%を"伝統的医療"と分類している。つまり、これら伝統的医療が西洋社会において用いられた場合はすべて代替医療の範疇に含まれるわけである。

心臓外科手術で先端医療の最前線で活躍してきた「代替医療のすすめ」の著者の一人である廣瀬輝夫氏は、渥美和彦氏との対談でわかりやすく代替医療を次のように説明している。

代替医療というのは、わかりやすく言えば、「西洋の医学を補完し、またそれに替わる医療」といったような意味です。ですから、私たちが「医療」と言った時に思い浮かべる、いわゆる「西洋医学」とはまったく異なる医療だといえます。民間医療なども含めて、広い範囲のものがそこに含まれるのです。

日本補完代替医療学会では、代替医学?医療を次のように定義している。

代替医学?医療とは一般の方には、なじみの少ない言葉です。また、その定義についてもいろいろ議論されていますが、日本補完代替医療学会では、[現代西洋医学領域において、科学的未検証および臨床未応用の医学?医療体系の総称]と定義しています。アメリカでは、alternative medicine(代替医学)またはalternative and complementary medicine(代替?補完医学)という言葉が使われています。また、ヨーロッパでは、complementary medicine(補完医学)という言葉が好んで使われることが多い様です。しかし、なかには現代西洋医学と同等かあるいはそれを凌駕する医療が存在する以上、当学会はalternative medicine(代替医学)という用語を用いることとしました。いずれにせよ、通常の医学校では講義されていない医学分野で、通常の病院では実践していない医学?医療のことです。

アメリカのハーバード大学の疫学教授であるアイゼンバーグは、1993年に代替医療を、
  • アメリカの伝統的な医学校で教えられていない療法、
  • 病院によって供給されている基準の医学的治療の一部ではない医療、
  • アメリカの多くの生命保険会社によって償還されていない療法、と定義している。

米国国立衛生研究所(National Institute of Health: NIH)の代替医学調査室(Office of Alternative Medicine: OAM)の定義は次の通りである。
  • 代替、相補あるいは非通常的な治療法は、幅広い治療の哲学やアプローチを包含している。
  • あるアプローチは西洋医学の生理学的な理論とは一致しないで、全く独立した治療システムをつくりあげている。
  • ある治療は、医学の理論や実践の分野から、はるか離れたものである。

その他、さまざまな研究者や研究機関が代替医療の定義をしているが、一言で言えば、従来の西洋医学の枠を超えたところで行われる医療といえるだろう。

日本代替?相補?伝統医療連合会議(JACT: Japanese Association for Alternative Complementary and Traditional Medicine)を創立した初代理事長の談話は興味深くわかりやすい。

代替医療がなぜ興味深いかというと、今までの西洋医学の発想とはまるで違う発想であるため、玉石混淆といいますか、科学的でないものもたくさんある点です。そのため、新しい科学を作り出すという意識で取り組まなければならないことがわかります。最先端医療に携わってきたからこそ、この代替医療が見えてきたともいえ、これこそ必要な分野だと判断しました。私は、この代替医療にこそ未来の新しい医学があると思っています。

2.なぜ代替医療か?

なぜ代替医療か?という質問には、「代替医療ガイドブック」の著者キャシレスの解説が分かりやすい。まとめると次のように表現できる。
  • いつの世でも広く行われていたセルフケア(どんな地域のどんな人も、軽い病気はたいてい自分で何とかしてきた)が高く評価されるようになり、以前より広範囲にわたる軽い病気の治療法として望まれているから。
  • 健康維持機構(HMO)の思惑や医療費の個人負担が大きい事情によって、適切なセルフケアが奨励され必要とされるようになってきた。
  • 伝統に従うこと、有史以来盛んに行われてきた慣習に従うことに人間は安らぎを覚える。同じ慣習を受け入れ、同じ儀式に参加することによって、束の間、栄誉ある伝統に自らを連ねることができるからだ。
  • 代替医療は実は代替宗教であり、そういう治療法を受けたいと思うのは、ある種の精神的飢餓を満たそうとすることだという者もいる。
  • 現代人は、健康と幸福の維持管理についてこれまでになく関心を抱くようになり、病気の予防と治療テクニックを広く捉えることの利点に気づきつつある段階だ。非主流医学の施術者の立場に惹かれている。

3.代替医療の分類

「代替医療ガイドブック」の著者キャシレスは、代替医療を7つに分類している。この本では、分類がそのまま目次を構成している。第一部は古くから伝わる伝統的な治療法、特にスピリチュアリティ(霊性)やライフスタイルという観点からアプローチする治療法を紹介している。第二部は食餌療法と薬草療法、第三部は心に積極的に働きかけることで体を癒そうとする治療法、第四部は生物学的治療法で、薬理学などを使った、立証に至っていない薬物療法だ。第五部はボディワークであり、筋肉や骨格に施す手技療法。第六部は五感に働きかけて幸福を高める治療法、第七部は外在エネルギーによって健康回復を目指す治療法である。

代替医療の分類は、視点によって様々である。次に廣瀬輝夫氏の考え方と分類を紹介する。氏は、代替医療を伝統医学と民俗医学と新興医学の3つに大別する。

伝統医学には、5000年前からの食養生や薬草を活用するインド密教に由来するアーユルヴェーダや、3000年前から温浴や薬草を活用するアラブのユナニ医学や、気功や鍼灸や薬草による中国伝統医学などが含まれている。

民俗によってそれぞれの医学がある。世界の人口のうち、実際に近代医療といわれる西洋医学の恩恵にあずかっている人口は5-6億人にすぎない。結局はその土地独特の民俗医学を行っている。民俗医学には、500年前から続いている指圧や砂浴などを行うタラソ療法(海洋)、2500年前からある湿布を活用したアロマ療法(香料)、250年前からある光や色彩を活用したオーラソーマ(色覚)などがある。

新興医学には、ホメオパシー(homeopathy:同種療法)、カイロプラクティック(chiropractic:脊椎療法)、ナチュロパシー(naturopathy:自然療法)、オステオパシー(osteopathy:整骨)、バイオフィードバック(biofeedback:暗示療法)などがある。これらはいずれも、「新興」と呼ばれるように、どんなに古いものでも100年程度の歴史しかない。

アメリカでは、代替医学または代替?補完医学という言葉が使われ、ヨーロッパでは、補完医学という言葉が使われていることはすでに述べた。西洋医学は病気の原因を取り除くための薬剤や手術を中心としたもので、急性の感染症や早期の癌などの治療に優れている。これに対して、代替医学?代替医療は、健康保持やストレスに対して、心身医学や中国医学などが優れている。また、保健?予防を目的として、自然治癒力の向上や人間のライフスタイルの改善を図ったりする。代替医学?代替医療の中には、癌、エイズ、各種難病に効果があるといわれているものもある。

代替医療は、通常の病院で行わない医学、医療のことを指すこともすでに述べた。わが国では具体的には、健康食品、アロマテラピーなどが含まれる。最近、癌の治療において一部の健康食品が取り上げられることがあるが、これらを科学的に調査、評価することが求められている。

近年、新聞、雑誌、テレビ、インターネット等をはじめとする高度情報化時代の情勢もあって、これら代替医療を求める患者がわが国でも急増している。一方、他の先進国においてもほぼ同様な状況が見られ、代替医療が世界的に新しい医学の潮流となりつつある。

代替医学?代替医療の分類が国により異なることは、すでに述べた。次に、「病気のはなし?病気辞典?病気」http://homepage3.nifty.com/mickeym/simin/66daigae.htmlからの分類を一部改編して具体的に紹介する。
  1. 古くからある伝統的療法や民間療法  (一部は日本では正式な医療に分類される)
  2. カイロプラクティック療法
  3. 心理療法(サイコセラピー)
  4. 食餌療法
  5. 健康食品療法
  6. 薬用?香料植物(ハーブ)療法
  7. 徒手療法 指圧療法?マッサージ療法?リフレクソロジーなど
  8. 電気療法 電気ばり?遠赤外線療法など


これらの具体的な内容は、すべてのものが無秩序に包含されている。非科学的であり西洋医学を実践する医師にとっては受け入れ難い内容のものもある。しかし、なかには作用機構や有効性が科学的に証明されているものもある。

4.代替医療への対応

近年、代替医学?代替医療を求める患者が各国で増加している。米国では、1992年に米国国立衛生研究所(NIH)に、代替医療事務局が設立され代替医療を科学的に研究するための代替医療事務局が設立された。また、ハーバード大学を始め医学部に「代替医療研究センター」を持つ大学が20校以上もあり、診療や教育?研究が行われている。

事務局の目的は、次の通りである。
  • 代替薬物医学治療の評価を促進する。
  • 代替療法の効果を調査し、評価する。
  • 代替医療に関して一般市民と情報を交換する情報集散センターを創設する。
  • 代替医療の治療におけるリサーチトレーニングを支援する。

CAMが関連する研究の大部分は、西洋の科学者にすでに広く受け入れられている分野、すなわち抗酸化剤や食餌療法または行動療法に向けられている。鬱病の治療にオトギリソウの全抽出液を試す無作為化臨床試験などがよい例である。

米国内13力所の大学などの代替医療研究センターでは、CAM関係の研究に大きな予算をつけサポートをしている。内訳は、スタンフォード大学(老化関係)、ハーバード大学(内科関係)、カリフォルニア大学(喘息、アレルギー)、テキサス大学(癌関係)、コロンビア大学(女性の健康一般)、バスチール大学(HIV,AIDS)、ミネソタ大学(薬物中毒)、メリーランド大学(疼痛関係)、アリゾナ大学(小児科関係)、ミシガン大学(心血管系疾患)などである。

OAMの設立をきっかけに、全米の医科大学、医学研究センターなどの代替医療研究に国費の補助が行われつつある。一方、医学校の学生の強い要望に応え、現在全米の医学校125校のうち少なくとも75校で、代替医療に関する講義も始まっている。

米国医師会の機関誌であるThe Journal of the American Medical Association(JAMA)は、1998年に代替医療の特集(Vo1279-280)を組んだ。1998年度に米国医師会が最も力を入れて取り上げたいトピックの一つに代替医療が入ったことになる。丁度、キャシレスの「代替医療ガイドブック」の原著が出版された年である。JAMAの特集で最も関心を引いたのはJAMA Patient Pageである。これはJAMAとAMAの公共サービスのためのぺ一ジで、医師が自分の患者にコピーして配るために作成されているものである。題名は「alternative choices : what it means to use nonconventional medical therapy」で、代替医療の安全性?効果?質?費用などについての注意事項とともに、医者に必ず相談するよう勧めている。またその中には、医師は通常の医学はもちろん、患者が利用しているいかなる代替医療についても熟知しておく必要があると記載されている。このぺ一ジに記載されている代替医療としては、ハーブ療法、鍼、アロマセラピー、カイロプラクティック、家庭医学などが挙げられている。

米国の癌学会でも代替医療が大きく取り上げられた。ASCO(American Society of Clinical Oncology)の第35回年次総会のサテライト?シンポジウムで「Alternative and Complementary Therapies and Oncologic Care」と題したASCOとACS(American Cancer Society)の連携シンポジウムが、1999年にアトランタで開催された。

わが国では、日本補完代替医療学会(旧:日本代替医療学会)が1996年に設立され、活動を続けている。また、日本代替?相補?伝統医療連合会議があり、統合医療の流れがさまざまなところでみられる。

5.問題点

欧米の視点からの代替医療の中には、経験的に医療効果が見込め、一部に科学的なエビデンスが与えられている療法もある。しかし、代替医療には近代の西洋医学が根拠の無いものとして受け入れず、しばしば科学的根拠のない迷信ものと見なされるものも多い。

しかし、一部の伝統医療にも証拠(evidence)を必要とする考え方が生じてきている。1996年、WHOが鍼灸における適応疾患を起草したり、1997年、NIHの鍼治療の合意形成声明書が発表されるなど、西洋医学の補完代替医療への接近が進んでいる。

一方、補完代替医学の看板を掲げていても、始めから患者を騙し金銭を巻きあげようとする悪徳な行為を行っているものも少なからずあるといわれる。

代替医療は正しく行わないと、様々な問題が起こる。中国で伝統的に用いられている麻黄という薬草は、肺うっ血の患者に短期間使用されてきた。一方、米国ではこの薬草がダイエットの補助剤として市販された。しかし、これは伝統薬として用いられてきた使い方とは異なる誤った目的で長期間使用されたために、心臓発作や脳卒中による死亡者がでて、このため麻黄を配合した漢方薬は、米国での使用が禁止される結果を招いている。

6.eCAMの創刊

このような問題点を背景に、新たに補完?代替医学を再構成する流れが出てきた。CAMを把握するための代表的視点は、免疫?神経?内分泌の3つであるといわれる。基礎研究を積み重ねてきた免疫学の研究者から端を発し、再構築を目指した雑誌の発刊が5年がかりで実現した。オックスフォード?ジャーナル、オックスフォード大学出版局から発刊されている「eCAM」の創刊である。

西洋医学を中心とした近代医療に対して、それ補完する医療をさすのがCAMであることは、すでに述べた。一方、漢方?和漢薬?鍼灸として脈々と続いてきた伝統医学は既に現代医療で用いられているもので、「代替」ではなく「伝統」といった方がふさわしいであろう。

この雑誌の創刊号は、カリフォルニア大学統合医療センター(CCIM)が全面的に支援している。Hononary Founder Emeritus に免疫学者で東京大学名誉教授の多田富雄氏を迎え、Founding Managing Editor and President にEdwin L. Cooper氏(UCLA医学部教授:免疫学)と石川自然医学研究センター長の山口宣夫氏をおいている。また、欧米の研究者に加え、伝統医学に関しては長年の伝統と実践を有するアジア諸国の研究者をEditorial Boardに迎え、東西医学の架橋となることをめざしている。その証として、本誌の表紙のデザインは"橋"について画かれた浮世絵で飾られている。また、日本からは、前出の多田富雄氏のほか、山口宣夫(金沢医科大学教授:免疫学)、山田陽城(北里生命科学研究所長:和漢薬物学)を始め11人の編集委員が名を連ねている。詳細は次のホームページを参照されたい。http://www.oxfordjournals.org/ecam/about.html

おわりに

「代替医療ガイドブック」の著者キャシレスは、「この本は、空約束を繰り返す治療法と信頼できる治療法とを見分ける道しるべである。」と、「はじめに」で書いている。さらに、人は健康と幸福を維持するため、代替療法や補完療法を用いる。本当に具合が悪くなると、主流医学の治療も同時に受ける、と続く。

さらに、なぜ主流以外の治療法が使われるのかを解説する。それは、軽い病気が治療できること、医療費の個人負担の大きいこと、安らぎを覚えること、精神的飢餓を満たそうとすること、病気の予防と治療テクニックを広く捉える利点に気づいたことなどを挙げている。

このような背景のもとで、米国医師会では、代替医療をきちんと科学的に調査するべきであるという考え方に変わりつつある。また、受け持ちの医師は自分の患者がどんな代替医療を行っているかという情報を得、医師が代替医療についての教育を受け、科学的裏付けのある評価をしながら患者治療に当たらなければならなくなっている。さらに、実際の治療を行う施設や、安全性と治療の効能についての情報をいつでも入手できる準備も始まっているという。

一方、わが国には代替医療に取り組む政府機関がない。欧米に比べて遅れていると見る向きもあるが、実は伝統医学を現代医療に最もよく活用している国は日本だとも考えられる。日本では古来より、中国伝統薬用植物療法を取り入れ、日本的にアレンジされた「漢方薬」を使用してきた歴史がある。また、世界に先駆けて漢方薬を保険薬と認めている数少ない国の一つである。さらに、鍼灸、柔道整復などの東洋医学も保険が適用され、漢方とともに多くの患者が日常的に利用しており、代替医療とは明確に区別されている。わが国の代替医療は、いわゆる健康食品が主流となっており、これらの中には科学的な裏付けが十分でないものも多くありしばしば問題が生じている。

医療制度に様々な問題点が顕在する今日においても、わが国が最新?最鋭の現代西洋医学を実践している国であることに変わりはない。しかし、代替医療は概して毒性が少ない治療法であり、これまで諦められていた難病の患者にも朗報をもたらすものがある。また、薬品による副作用や環境汚染が少ない。今後、代替医療は21世紀に果たさなければならない様々な医学の問題点の一部を解決し、かつ医療の質の向上に大いに貢献するものと期待される。わが国において漢方医学は伝統医学として発展し、欧米と異なり代替医療としてでなく、現代医療の中で正式な医療として重要な役割を果たしている。漢方薬や健康食品として用いられる薬用植物を保全?栽培?育成するための農と、これを患者に活用する医療との連携はますます重要になってくるであろう。すでに学長室通信8号で紹介した、「北里サテライトガーデン」にみられるように、農と医療の連携はすでに始まっている。

なお、この項については、山田陽城 北里科学生命研究所長にご校閲?ご意見をいただいた。記して感謝の意を表する。

参考資料
  1. 補完代替医療入門:上野圭一著、岩波アクティブ新書64、岩波書店(2003)
  2. 代替医療のすすめ:渥美和彦?廣瀬輝夫著、日本医療企画(2001)
  3. 代替農業:久馬一剛?嘉田良平?西村和雄監訳、全米研究協議会リポート、自然農法国際研究開発センター?農山漁村文化協会
  4. 代替医療のすすめ-患者中心の医療をつくる-:渥美和彦?廣瀬輝男著、日本医療企画(2001)
  5. 代替医療ガイドブック:バリー?R?キャシレス著、浅田仁子?長谷川淳史訳、春秋社、(2001)
  6. 代替医療:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%A3%E6%9B%BF%E5%8C%BB%E7%99%82
  7. 代替医療:http://www.nsknet.or.jp/~nagasato/daitai.html
  8. 病気のはなし?病気辞典?病気:http://homepage3.nifty.com/mickeym/simin/66daigae.html
  9. 日本補完代替医療学会:http://www.jcam-net.jp/
  10. NCCAM(National Center for Complementary and Alternative Medicine):http://nccam.nih.gov/
  11. National Cancer Institute:http://www.cancer.gov/
  12. オックスフォード大学出版局:http://www.oxfordjournals.org/ecam/about.html
  13. カムネット/代替医療利用者ネットワーク:http://camunet.at.webry.info/
研究室訪問 V:北里生命科学研究所 生物機能研究室
「農と環境と医療」を連携できる研究の素材や人を求めての探索が続いている。22回目の今回は、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@北里生命科学研究所の生物機能研究室を訪問した。ここは創薬科学分野の泰斗、大村 智教授のもとで研究を続ける伝統ある研究室である。

生物機能研究室は、高橋洋子教授、塩見和朗教授で構成されている。研究分野の概要および研究課題は次の通りである。

微生物資源からの創薬を研究の柱としている。微生物は現在まで数多くの医薬品や有用な化合物を提供してきており、創薬の宝庫といえる。本研究室ではこの微生物資源から寄生虫、細菌、真菌,ウイルスなどによる感染症、あるいはガンや生活習慣病に有効な医薬品素材の探索を行っている。一方、人類がこれまでに分離してきた微生物は地球上に存在する微生物の10% にも満たないといわれており、未だ数多くの未知微生物が自然界に棲息している。これら未知微生物の分離、培養法を開発して創薬のための新しい微生物資源に加えることを目指している。そしてその微生物資源を利用してさまざまな評価系によりスクリーニングを行い、微生物代謝産物の化学構造の解析と生合成、代謝産物の細胞内での標的分子の特定などの研究を進めることで、創薬につなげることを目標としている。

生物機能研究室の主な研究テーマは、次のように整理されている。

V-1.微生物由来の抗感染症薬の開拓(21世紀COE拠点テーマ研究、一部薬学部、一部企業との共同研究)
病原微生物、結核、MRSA、エイズやマラリアなどに有効な微生物由来化合物を探索し、その化学構造の決定、生化学的および生物学的解析を行う。

V-2.微生物由来の抗寄生虫薬の開拓(企業との共同研究)
微生物の代謝産物から線虫等の寄生虫や衛生害虫に対して有効な新しい活性物質を探索する。

V-3.創薬のための新しい微生物資源の開拓(21世紀COE拠点テーマ研究)
微生物の生育増強因子を応用した未知微生物の分離や特殊環境からの微生物資源の開拓を行う。さらに、その二次代謝産物の化学構造と生物活性を網羅的に解析する。

V-4.遺伝子情報を基盤とした微生物の系統分類と潜在機能発現のための培養技術の開発(21世紀COE拠点テーマ研究)
微生物の遺伝子情報を用いた系統分類や物質生産に関する潜在機能発現のための方法を開発する。

V-5.土壌中の難培養性微生物の検出法の開発と保全(文部科学省からの研究助成)
培養が困難な微生物の培養の検討と新規遺伝子源としての長期保存法の検討

V-6.微生物由来生物活性物質の探索(企業との共同研究)
抗ガン剤、細胞周期制御剤や情報伝達調節剤等を微生物資源より探索する。

V-7.微生物代謝経路特異的阻害剤の探索研究(東京大学との共同研究)
微生物代謝産物からの抗生物質の探索

V-8.東南アジア由来微生物代謝産物からの生物活性物質探索(大阪大学およびタイ?マヒドン大学およびカセサート大学との共同研究)
マヒドン大学およびカセサート大学で分離された菌株由来の代謝産物からの生物活性物質の探索

「農と環境と医療」を連携するための研究課題キーワードには、「窒素」、「有害物質」、「重金属」、「安全食品」、「未然予防」、「リスク」、「教育?啓蒙」、「インベントリー」、「農業?健康実践フィールド」、「病原微生物」、「環境微生物」、「環境保全」、「環境評価」、「食と健康」、「感染」、「ホルモン」、「光の波長」、「環境応答」、「放射線(アイソトープ)」、「免疫」、「神経」、「内分泌」、「生体機能」などがあった。今回の生物機能研究室の内容は、「感染」、「環境保全」、「食と健康」および「環境微生物」に関連が深いと考える。

これらの研究課題キーワードについては、これまで各方面からご意見を頂いた。今回の訪問を最後に、新しくキーワードの整理を始める予定でいる。しばらく時間を頂きたい。
本の紹介 11:農学原論、祖田 修著、岩波書店(2000)
「情報:農と環境と医療 6号」で「本の紹介 9:医学概論とは、澤瀉久敬(おもだかひさゆき)著、誠信書房(1987)」を掲載した。そこでは、「薬学?医学?看護学?医療衛生学関係の方々はすでに読まれ、いまや古典ともいえる本であろうが、農と環境の研究?教育に携わっておられる方々には、農?環境?医の連携を考えるうえで貴重かつ豊富な哲学が包含されているので、この本を敢えて紹介する」と、書いた。同じような考えで、今回は「農学原論」を紹介する。

農学原論を日本で初めて体系化した柏 祐賢によると、農学原論とは「農学はいかなる学問であるかという問に答えようとする学問」、あるいは「農学という科学の存在を事実として予想し、その拠って立つところの根拠を探って、その認識の意義を知り、それが果たしている客観的認識たる権利を獲得することができるかどうかを明らかにしようとする学問」であり、したがって「農学の哲学」であると規定している。その内容は、1)農学史、2)農業の実態と本質の解明、3)農学の科学的本質、方法、体系であり、3)を最終的に明らかにするために1)と2)の解明を行うとしている。

この本の著者は農学原論を、1)農学史、2)農学の価値目標、3)農業?農村の本質と問題の解明、4)問題解決に向けた農学の方法と体系、に関する学であると考え、次の4点の問題を明らかにしようとする。

第1は、現代農業?農村の実態について、それが直面する問題群および役割群の両面から明らかにされる。(第2、3章)

第2は、戦後日本における価値目標の変化を考察し、現代農学が目指すべき理念ないしは価値目標が明確にされる。農学の目的、方法、体系は、それぞれの時代背景を背負い、それぞれの時代が直面する問題の解決に向かって編成される。農学の方法や体系は、農学に固有の本質的普遍的側面があると同時に、歴史的展開を遂げていく現実の変化に即応した方法や体系でなければならない。最も重要な農学の根拠ないし存在理由は、当面する農業?農村問題の解決と、それを通しての農民の幸福、広く人類の福祉向上にある。本書では、経済、生態環境、生活の3つの観点から、これらのことが考察される。(第4、5、6章)

第3は、上記諸価値の調和的実現の場として、生活世界としての地域を重視し、その場所の持続性、動的発展の道筋が明らかにされる。(第7、8、9章)

第4は、そうした新たな問題解決に至るための、農学の方法と体系が提示され、農学と農業の現実の関係が明らかにされる。(第10章)

各章の構成は次のようである。第1章:農学原論とは何か、第2章:農業における人間と自然、第3章:現代農学の展開と価値目的、第4章:農林水産業と経済、第5章:農林業と生態環境、第6章:農業?農村と生活、第7章:持続的農村地域の形成、第8章:都市と農村の結合、第9章:農業技術の革新と普及、第10章:農学の特質と研究方法および体系、終章:要約と展望。

ここでは、第1、2および10章について紹介する。

第1章は、「農学原論の系譜と課題」、「哲学としての農学原論」および「本書の視点-場の農学」の3節からなる。「哲学としての農学原論」では、先に述べた著者の農学原論の考え方が、過去の農学原論の流れの中で紹介される。「哲学としての農学原論」では、西田幾多郎、田辺 元、柏 祐賢、さらには澤瀉久敬(おもだかひさゆき:情報6号の21pで紹介)などの考え方を引用し、哲学が自己自身を見つめる反省と自覚、自己批判の学であると説く。

「本書の視点-場の農学」では、著者が志向する「場の農学」の解説が展開される。すなわち、現代の農業?農村においては、経済価値、生態環境価値および生活価値の調和的実現が求められているが、それらは今のところ相互に矛盾し、トレードオフの関係として存在している。このような「矛盾の場」は、問題解決への「問いの場」となる。次には問題解決に向けた「構想の場」となる。やがて好意的な「創造の場」「形成の場」となり、最終的には「問題の解決された場」として完成される。こうして場とは、人がそこで矛盾に満ちた生を処しつつ生きる、実践的な創造と形成の場所である。この場は具体的には地域である。この地域は、広く世界に向かって開かれた場である。著者はこの観点をグローバル?リージョナリズムと呼び、この視点から以下の各章の農業、農村、農学を論じる。

第2章は、「農業の成立」、「農業における人間と自然の関係」、「近代農業?農学における人間と自然」、「ディープ?エコロジー」および「"形成均衡"の世界と農学の再構築」の5節からなる。このなかで、「近代農業?農学における人間と自然」と「"形成均衡"の世界と農学の再構築」の一部を紹介する。

著者は、「近代農業?農学における人間と自然」の節で次のような主張をする。近代農業は増加し続ける人口を養うため、大量かつ効率的な生産を目指した。そのため、専門化、大規模化、多頭羽飼育化、単作化、連作化、機械化、施設化などが推進された。その結果、生産は増大したが、一方で多くの負の遺産が残った。動植物の生命力の弱体、病害虫の大量発生、食品への薬剤混入などがその例である。こうした近代農業の負の遺産は、さまざまな環境に負荷を与え、野生生物を減少させ、食の安全性を脅かす結果を招いた。

これらの農業における現象のいくつかは、「情報6号」の「本の紹介8:医学の歴史(15-21p)」の「第十二章:戦争の世紀、平和の世紀」で紹介した事項と符合する点がある。

近代農業は、人間と家畜?作物の良好な関係をも切断した。生産に携わるもののみに与えられた特権である、可愛がり、育て、屠殺し、食すという動物との感情交流が失われた。収益性と経済効率の優先性は、大自然の中で植物を育む魅力を喪失させ、農業そのものへの魅力までも減退させた。

このような現象を著者は次のように内省する。現代社会は矛盾するものを別々の場所に置いて、ある種の限定された整合性?合理性を獲得している。矛盾するものを1つの場所に置いてみることを放置あるいは回避すれば、新たにより大きな矛盾が現れることになる。人間と自然の関係性の再構築こそ現代社会の大きな課題といえよう。

自然と農から得られる知恵、畏敬、感動、思いやり、祈り、感謝、心の叱責を自ら放棄した近代農業とは一体何であったのか。環境を通して、農(食)と医療(健康)が連携できるシステムを構築することは、これらの問題を解消するための一助になるであろう。

著者は「"形成均衡"の世界と農学の再構築」を目指す。人間と自然の関係は、次の3つの関係を同じ場に置き、それらを包摂しうる視点に立ってはじめて、十全のものとなると主張する。1)相互依存的共生関係:農業生産に有益な家畜?作物(共生原理)、2)相互排除的競争関係:農業生産に有益な害獣?雑草(競争原理)および3)棲み分け的共存関係:農業生産に有益でも有害でもない一般動植物(共存原理)。その時々における最大可能な望ましい均衡点を模索形成することが必要と説く。

このような視点に立って、著者は続けて説く。農業?農学における人間と自然の関係は再構築されなければならない。また農学は単なる生物生産学から、生命系の総合科学へと形成されなければならない。科学は、人間と社会を知るための人間科学、自然を知るための自然科学の深まりと、その深まりを基礎として人間と自然の関係を創造的に形成するための実際科学の展開という、3つの科学技術領域の新しい相互関係性を構築していく必要がある、と。

第10章は、「自然についての科学と研究方法」、「人間についての科学と研究方法」、「科学方法論の分化と統合」、「自然と人間についての科学と研究方法」、「農学の特質」、「農学の研究方法の多元性?総合性」、「動態的過程としての農学の研究方法」、「現代農学の大系」および「結び」の9節からなる。このなかで、「農学の本質」と「農学の研究方法の多元性?総合性」の一部を紹介する。

「農学の特質」の節では、まず、実際科学としての農学の特質と研究方法が論じられる。現代農学の価値目標は、経済価値、生態環境価値、生活価値および地域における総合的価値におかれる。続いて、作物、家畜、木材、魚などの栽培?育成あるいは微生物の利用という生物生産を課題とした、生命系の科学を最も強くもつ学問領域であることが解説される。生命現象の解明のためヒトの全ゲノムを解読した医学と、イネの全ゲノムを解読した農学とは、共通の部分がある。続いて、地域の学としての農学が語られる。農業は気候条件、地理的位置、中心作物の差異、土地条件、歴史的条件などが複雑に絡み合い、各地域の農業の携帯と内容を個性的で複雑なものにしていることが解説される。最後に、「総合の学」としての農学が語られる。それは、基礎?応用?開発研究、創造?展開?統合研究、短期?中期?長期研究、自然科学分野の総知識、経験知と科学知の統合、など多岐にわたる科学だからである。

「農学の研究方法の多元性?総合性」は、次のように解説される。「農学は基礎科学としての自然科学および人間科学を踏まえ、生物生産をめぐる特定の価値目標の実現を目指す実験科学として成立するものである。実際科学は自然科学と人間科学を総合する位置にあるが、その総合に置いて両科学とは異なる。三木 清の技術の学すなわち実際科学の領域が成立する。いわば農学は、特定の価値目標を持つ技術の開発にその本領があるが、同時にその目的へと方向づけられた基礎的な自然科学、人間科学研究もそのうちに含んでいる。」
言葉の散策 5:「農」と「農のことわざ」
語源を訪ねる 語意の真実を知る 語義の変化を認める
そして 言葉の豊かさを感じ これを守る。

金文の字形は田+辰(しん)。辰は蜃器(しんき)。古くは蜃(はまぐり)など貝の切片を耕作の器に用いた。耨(じょく)は草切ることをいう。説文に「?(のう)は耕す人なり」とある。ト文の字形は林と辰とに従い、もと草莱(草はら)を辟(ひら)くことを示すものであろう。のち林の部分が艸になり、田になり、曲はさらにその形の誤ったものである。

訓義は、1)たがやす、たづくり、たはたをたがやす、2)のうふ、たはたをつくる人、たに、3)つとめる、はげむ、いそしむ、4)あつい、てあつい、こまやか。 古訓は、ナリハヒ。

● 農は国の元:農業は国家の政治?経済の基本であるということ。帝範-務農(中国:648年)「夫食為人天、農為政本(注)農為国政之本原」

● 農は工に如かず工は商に如かず:利益をあげるには、農業は工業に及ばないし、工業は商業に及ばない。刺繍をする者より市場で商う者のほうが利が多いように、財布をふやすには商業がもっともよいということ。出典は史記-貨殖伝。

● 農は人真似:農作業は同じ時季に同じ作業をするものなので、他人を見習ってすれば人並みのことはできるということ。

● 田作る道は農夫に問え:水稲を作る方法は農夫ににきくのがよい。その道の専門家に尋ねるのが最良の法であることのたとえ。

徳富健次郎(蘆花)は、昭和13年に岩波書店から「みみずのたはごと」を出版した。「ひとりごと」という節の項に「農」がある。この一部を原文のまま紹介する。

● 土の上に生まれ、土の生むものを食うて生き、而して死んで土になる。我等は畢竟土の化物である。土の化物に一番適當した仕事は、土に働くことであらねばならぬ。あらゆる生活の方法の中、尤もよきものを撰み得た者は農である。

● 農は神の直参である。自然の懐に、自然の支配の下に、自然をたすけて働く彼等は、人間化した自然である。神を地主とすれば、彼等は神の小作人である。主宰を神とすれば、彼等は神の直轄の下に住む天領の民である。?????

● 農は人生生活のアルファにしてオメガである。ナイル、ユウフラテの畔に、木片で土を掘って、野生の穀を蒔いて居た原始的農の代から、精巧な機器を用いて大仕掛にやる米国式大農の今日まで、世界は眼まぐるしい変遷を閲(けん)した。然しながら土は依然として土である。????農の命は土の命である。諸君は土を滅ぼすことは出来ない。????

● 大なる哉土の徳。如何なる不浄も容れざるなく、如何なる罪人も養はざるは無い。如何なる低能の人間も、爾の懐に生活を見出すことが出来る。如何なる数奇の将軍も、爾の懐に不平を葬ることが出来る。如何なる不遇の詩人も、爾の懐に憂を遣ることが出来る。あらゆる放蕩を為尽して行き処なき蕩児も、爾の懐に帰って安息を見出すことが出来る。??????

参考資料

日本国語大辞典:小学館(1979)
故事俗信 ことわざ大辞典(1983)
*本情報誌の無断転用はお断りします。
博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@学長通信
情報:農と環境と医療 9号
編集?発行 博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@学長室
発行日 2006年1月1日